青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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66話 vsダイヤモンドダスト3・雷門の弱点

試合再開。鬼道さんがボールをキープして、ドリブルを仕掛ける。

 

「見せてやろう……。凍てつく闇の冷たさを!!」

「フローズンスティール!!」

 

ガゼルが呟いたのをきっかけに、ダイヤモンドダストが動き出す。突然のディフェンスに不意を突かれ、鬼道さんはボールを奪われてしまう。

 

「止めてみせるッス!! ザ・ウォール!!」

「ウォーターベール!!」

 

壁山さんのディフェンスも虚しく、突破されてしまう。しまった。このままでは……ボールはガゼルに渡ってしまう!!

案の定、ボールはガゼルに渡り、円堂さんと一対一になってしまった。

 

「凍てつくがいい……!」

「来いッ!!」

 

ガゼルがシュート体勢に入るのを警戒して、円堂さんが身構える。今まで普通のシュートしか打ってこなかったガゼルが、初めてシュート技を見せた。

 

「ノーザンインパクト!!」

「はぁあああっ!! 正義の鉄拳!!」

 

円堂さんも、自身の最強技で対抗する。しかし。

 

「ぐっ……うわっ!!」

「「「!!」」」

「円堂さん!!」

 

立向居さんが円堂さんを案じて叫んだ瞬間には、正義の鉄拳は完全に破られ、シュートはネットを揺らしていた。円堂さんはすぐに体を起こし、悔しげに転がるボールを見つめる。

 

「ぐっ……」

「この程度とは……がっかりだね」

 

冷たく笑ったガゼルは円堂さんに背を向け、歩き出す。その時、私の隣まで来ると立ち止まった。

 

「……君はこの試合で必ず私のものにしてみせる。決して、逃がしはしない」

「……一体、貴方の目的は何なのですか」

 

私の問いに、ガゼルは薄く笑う。その態度に腹が立ち、キッと睨む。

 

「君を私のものにする。ただそれだけだが?」

「それだけで私に執着する理由が分かりません。それに、貴方だけじゃない……。バーンも、グランも。貴方方の目的が分かりません」

「奴らの考えることは私も知らん。ただ、私は君が欲しいだけだ」

 

ガゼルはそれだけ言うと会話を断ち切り、スタジアムの出入り口に消えていった。やはり、彼の態度は嫌いだ。私は一つ舌打ちをした。

彼が出て行ったということは、ハーフタイムに入ったということだろう。雷門イレブンは皆、円堂さんの元に集まった。

 

「くっそー……ものすごいシュートだったぜ……」

「円堂さん……」

「心配すんな! 究極奥義に完成なしだ! 次は止める! そして勝つんだ!!」

 

円堂さんの明るい声に、私も静かに頷く。このチームなら、きっと、エイリア学園にいつか勝てる。こんなに強いんだもの。あの人が……円堂さんが、いるから。

私も……奴らに屈しない。決着をつける。……必ず。小さな誓いと共に、私は空を見上げた。そんな私に気付く者は、誰一人いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、後半戦が始まった。正に、一進一退の攻防が続く。立向居さんがフローズンスティールに襲われてボールを奪われる。そして、そこから再びガゼルにボールが渡った。またこのパターンだ。ガゼルと円堂さんがまた一対一となり、必殺技を放った。

 

「ノーザンインパクト!!」

「正義の鉄拳!! っ……うわっ!!」

 

円堂さんは再び吹っ飛ばされ、ゴールのネットをまた揺らす。追加点だ。

 

「勝つのは我々、ダイヤモンドダストだ!!」

 

強く言い切ったガゼルの表情には、翳りが差しているように見えた。先程の余裕とは打って変わって、何だか焦っているようだ。ハーフタイムの間に、一体、彼に何があったのか。あの焦りは、確かにおかしい。何故、あんなに焦る必要があるのか。

私は少し考え込んでいたが、目の前を飛んできたボールに即座に反応し、ボールを受ける。そうだ。今は、試合に集中しなければ。私は足に力を込めて走り出す。私を阻もうと突っ込んできた4人の選手を視界に捉えた。私は無理やり突破しようと、少し体勢を屈める。

 

「ソニックアクセル!!」

 

4人を一気に抜き去り、さらに駆け上がる。このまま持ち込んで、絶対に決めてやる!

私はさらに加速し、GKと一対一に持ち込んだ。そこに、ガゼルの声が飛ぶ。

 

「止めろ! そいつのシュートはまだ弱い!!」

 

イラッ。イライラ。

弱いだと?

今史上最高にムシャクシャした。めちゃくちゃ腹が立った。イラついた!!

決めた。絶対にそのゴールをこじ開けてやる!!

私は足を高く振り上げ、踵でボールを蹴り上げる。ボールを踵でキープしたまま、地面に強く叩きつけた。ボールに青い炎の力を宿し、フワッと浮かせたそれをローリングソバットで蹴っ飛ばした。

 

「デモンズファイア!!」

「何⁉︎ 新たな必殺技……!」

 

まさかここで新必殺技が出るとは思ってなかったのだろう。相手GKも必殺技を放つ間もなく、心の宣言通りにゴールをこじ開けた。私は嬉しくて、小さくガッツポーズをした。

 

「すっげえ‼︎ いいぞ、青木ー‼︎」

「ナイスシュート! 青木さん!」

 

円堂さんやアフロディさんが大きく声をかける。私は彼らに小さく笑いかけ、手を軽く上げた。

ガゼルを見ると、彼はワナワナと体を震わせ、小さく呟いた。

 

「こんな、ことが……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行けっ‼︎ 我々は勝利以外許されない‼︎」

 

余裕が最早見られなくなったガゼルの声に、私は勝利を確信した。しかし、FW陣が完全にマークされ、動けない。状況としては、こちらが1点さえ取れば勝てる。1点さえ取れば……!

その考えは円堂さんや鬼道さんと同じだったようで。一之瀬さんが動いたのを見て、円堂さんがゴールから駆け出した。綱海さんがゴールはどうすんだと叫んでいたが、それは完全にスルーされる。

円堂さんと一之瀬さん、土門さんが走り出し、このままシュートに持ち込める……と思ったその矢先。

 

「フローズンスティール‼︎」

「あっ……⁉︎」

 

ボールを奪われ、またボールをガゼルにパスされる。しまった! 今、円堂さんが前線に出ているから……雷門のゴールには、GKがいない‼︎ 私は急いでゴールへと駆け出したが、私も前線にいたため、ボールとの距離が離れ過ぎている。このままじゃ、間に合わない!

 

「くそっ……‼︎」

 

こうなったら、限界を超えた力を使うか。そうすれば、私の体は一歩も動けなくなるほど体力を消耗してしまうが……。それでも、構わない。雷門を守るためなら。覚悟を決めた私は、加速をかけようと体勢を少し低くしたが。

 

「うおおおおっ‼︎」

 

綱海さんが空高く跳躍し、ガゼルの前まで来ていたボールを蹴り飛ばした。

 

「綱海さん!」

「サンキュー、綱海!」

「へっ、礼なんか要らねえよ‼︎」

 

私の安堵の声に続き、円堂さんから感謝の声が飛ぶ。綱海さんは余裕げに手を振り返す。

取り敢えず、危機は脱した。しかし、ピンチの状態は未だ続いている。今のは完全に、雷門の最大の弱点を見せてしまったようなものだ。FWがマークされている時、代わりの強力なシュートを打つためには、円堂さんが前線に出ていくしかない。GKである円堂さんが、ゴールから離れるということは、ゴールを守る最後の砦がいなくなってしまうということになる。つまり……FWを封じ、円堂さんが出てきたところでボールを奪えば、雷門にはGKがいないも同然となる。

……やはり、このやり方は危険だわ。

 

「鬼道さん。まだこれを続けるのですか? 今までなら、まだなんとかなったかもしれませんが……もうそろそろ、このやり方も無茶になってきましたよ」

「……わかっている。しかし、時間がないんだ。時には、危険を背負わなければならない時もある……」

「……………………」

 

円堂さんが攻撃に転じることができるからこその、大きなデメリット。確かに、今すぐに打開策を立てることは難しい。一体、どうすれば……。

 

「……………?」

 

待てよ? 円堂さんがGKにいるから、円堂さんは前線に出られない……。なら……それなら……⁉︎

私の中で一つのありえない打開策が弾き出されようとした瞬間、試合が再開されていることに気付く。鬼道さんがボールをキープして上がっていくと、豪炎寺さんと円堂さんに呼びかけた。これは、イナズマブレイクの体勢だ。鬼道さんが必殺技を発動しようと、ボールを上げた瞬間……。

 

ガッ‼︎

 

ボールは相手選手にカットされてしまった。つまり、ゴールはガラ空きだ。

 

「くっ……! 円堂くん、戻れ! 早く!」

 

アフロディさんは時間を稼ごうと、ボールを持った選手と競り合う。しかし、ガゼルにパスを出されてしまった。

 

「思い知れ! 凍てつく闇の、恐怖を‼︎」

「くそっ‼︎」

 

私は彼のシュートを阻止しようと彼の前に立ちはだかる。ガゼルはそんな私など気にも留めず、必殺技を放った。

 

「ノーザンインパクト‼︎」

「デッド……‼︎」

 

まだブレーキをかけている途中だった私は、必殺技を発動するには無理な体勢から防ごうとした。私は必殺技を発動する間もなく、ボールを腹で受けた。

 

ズキィッ……‼︎

 

「ぐ、がぁあぁあ⁉︎」

「青木‼︎」

「くくくっ……いい顔だ」

 

ボールの勢いに吹っ飛ばされ、私の体は宙を舞い、フィールドに容赦なく叩きつけられた。痛む腹を抑えながら、ゴールを見る。円堂さんはペナルティエリア外で、必殺技を使おうとしていたが、鬼道さんの制止に戸惑う。痛みに耐え、私は円堂さんに叫んだ。

 

「止まってはいけません‼︎ 貴方ももうちょとは頭を使って下さい‼︎」

「頭っ……⁉︎」

 

円堂さんにそう叫んだものの、私自身も円堂さんの立ち位置からあのシュートをどう止めればいいかなんて、思い浮かばなかった。だから、円堂さんの判断に任せる他なかった。

 

「っ、だぁあああああ‼︎」

 

もうどうにでもなれとばかりに、円堂さんは文字通り頭を使ってシュートを止めようとした。

……頭を使って下さいって、そういう意味じゃなかったんですけど⁉︎ 大体頭なんかで止めるなんておかしいでしょ! 貴方石頭ですか!

しかし、本当に頭で止めようとしたのが功を記したのかどうかは知らないが。円堂さんの額から、拳の気が発現し、なんとシュートを弾き飛ばしたのだ。

そこで、試合終了のホイッスルが鳴り響く。結果、私たちはダイヤモンドダストと引き分けたのだった。

私も痛む腹を抱えて立ち上がり、ゴール前でシュートを止めてみせた円堂さんを遠くから見つめていた。と、不意に腕を誰かに引っ張られる。振り返ると、ガゼルが私の腕を掴んでいた。

 

「今回は引き分けだが……君は連れて行く」

「断る。大量得点で私たちを潰したならまだしも、ダイヤモンドダストの実力がこの程度と分かったからには、私はお前に攫われる理由もない」

「……ここだったな。君があの悲鳴を上げた場所は」

 

そう小さく呟き笑った後、ガゼルは何の躊躇もなく、私の腹に拳を入れた。

 

「⁉︎ ぁぁっ、ぐっ……」

「いい顔だ……もっとその顔を見せろ。苦しみ、喘ぎ、私の元に跪け!」

「くっ……! 貴様っ……!」

 

足に力が入らなくなり、思わず膝をついた私の顔を、無理やり上げさせて笑うガゼル。この性悪野郎がっ……! ガゼルの手を払い、殴り返してやろうと思った次の瞬間。

 

「そこまでだよ、ガゼル」

 

聞き覚えのある声が、耳に届く。その声に振り返ると、基山さんがこちらへ歩み寄ってきた。私はまた立ち上がり、基山さんを睨みつける。基山さんはそんな私を見て、まるで可愛がられるしかできない哀れな愛玩動物を嗤うような笑顔を見せた。その笑顔が癪に触り、目付きを鋭くする。

 

「見せてもらったよ、円堂くん。短い間によくここまで強くなったね」

「エイリア学園を倒すためなら、俺たちはどこまでだって強くなってみせる‼︎」

「いいね。俺も見てみたいなぁ……地上最強のチームを」

 

まるで他人ごとのように言う彼に、私は眉を寄せて基山さんに詰め寄った。

 

「本当にそう思っているのですか?」

「……!」

 

図星だったのだろうか。基山さんは一瞬表情を厳しくしたが、すぐにあの笑顔に戻り、いつの間にかそこにいたバーンや、ダイヤモンドダストと共にボールの元に集まった。基山さんは目を閉じながら、小さく呟く。

 

「……じゃあ、またね」

 

ガゼルは鋭い目で私たちを睨み、私に言い切った。

 

「青木穂乃緒……! 次こそは必ず、君を連れて行く……‼︎」

 

そして、また光を放ちながら、ダイヤモンドダストたちは消えていった。

次。それは、一体いつになるのだろう。

それでも。

 

「私は……このチームを離れない」

 

ポソリと呟いた私は、空を見上げた。空は少し雲がかかり、これから起こる何かの予兆のように見えた。


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