青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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62話 炎の闇

円堂side

試合が終わり、結果は豪炎寺の爆熱ストームのおかげで、俺たちの逆転勝利に終わった。

俺にはまだ、デザームに伝えることがある。俺は膝をついて、拳をフィールドに打ち付けるデザームの元に歩み寄り、手を差し伸べた。

 

「地球では、試合が終われば敵も味方もない。お前たちのしてることは許せないけど……サッカーの楽しさをお前たちにもわかってほしいんだ!」

 

これは、デザームたちにも言いたかったことだけど……いつか青木にも言いたいことだった。

サッカーは、戦いのための道具じゃない。お互い全力でぶつかりあって、そこから生まれる何かを掴む。それが、サッカーだと俺は思うんだ。

デザームは、差し出した俺の手を呆然と見ていたが、ふと微笑みを浮かべ、ゆっくりと俺の手を握ろうと手を伸ばした。

 

「次は、必ず勝つ」

 

そうして、俺たちが握手を交わそうとしたその時。

 

カッ‼︎

 

突然、青い光がフィールドを支配した。あまりの眩さに、思わず目を伏せる。光が収まってきて、光の元に視線を投げると、そこには青いユニフォームを(まと)った少年が腕を組んで立っていた。デザームがその少年を見て、驚愕の表情を見せた。

 

「ガゼル様⁉︎」

 

ガゼル、と呼ばれた少年が、俺たちに目を向ける。

 

「……私はマスターランクチーム、ダイヤモンドダストを率いるガゼル」

 

ガゼル。また新しい敵だ。エイリア学園には、まだ他にもチームがあったのか……! ガゼルが俺たちに向けていたその視線が、ふと外れた。その視線の先には……ベンチに横たわり、眠っている青木がいた。

 

「‼︎」

「…………なるほど。彼女が青木穂乃緒か」

 

ガゼルが青木を見、ニヤリとほくそ笑む。……まただ。何であいつらは青木を狙うんだ? 青木に、何か秘密があるのか? エイリア学園のやつらと……何か、関わりがあるのか?

ガゼルが俺たちの方を向き、淡々とした表情で、口を開いた。

 

「……君が円堂か? ……新しい練習相手が見つかった。今回の負けで、イプシロンは完全に用済みだ」

 

ガゼルが右手を上げ、デザームに指先を向けていた。黒いボールが、俺たちから少し離れたデザームたちの元へ飛んでいき……。

 

「うわっ……!」

 

再び青い光が放たれ、そして次の瞬間、光と共にデザームたちは消えていた。

 

「そんな……! くっ!」

「……円堂守。君と戦える日を楽しみにしているよ。……そこの彼女にも伝えておいてくれ。君は、必ず私のモノにしてみせる、と……」

 

ガゼルがいるはずのそこには、既に奴は消えていた。後味の悪い中、俺は青木を振り返った。何も知らない青木は、静かに寝息を立てている。

……バーンも、青木を狙ってるみたいだった。ヒロトも。何で……あいつらは青木を狙うんだろう。確かに、青木はサッカー初心者にしてはかなり上手い方だと思うし、力は……普通の女の子とは桁違いに強いけど……。それだけで……青木が狙われる理由になるのだろうか? 一体、あいつらの目的は何なんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青木side

「……? ぁ……ん」

 

目が覚めた私は、少し怠い体をゆっくりと起こした。

 

「青木!」

「良かった、目が覚めたんですね!」

 

すぐに、鬼道さんと音無さんが私の元に駆け寄ってくる。私は今の自分の状況を確認した。どうやらベンチの上に横になっていたらしい。

 

「あの……試合は?」

「勝ちましたよ! でも、また新しいマスターランクチームが現れて……」

「……そうですか」

 

新しい……つまり、バーンやグランの他に、まだチームがあったということか。

 

「青木、もう大丈夫か?」

「はい。ご迷惑をおかけしました」

 

私はベンチから降り、雷門イレブンのみんなに歓迎されていた豪炎寺さんの元へ向かった。

 

「……豪炎寺さん、お久しぶりです」

「青木…………ありがとう」

「え?」

 

豪炎寺さんは私に頭を下げていた。それに、みんなが驚く。そして、豪炎寺さんは次に瞳子監督に頭を下げた。

 

「監督、ありがとうございました。あの時、監督が行かせてくれなかったら……俺はあいつらの仲間に引き込まれていたかもしれません」

「さあ、何のことかしら」

「あいつらって……?」

 

一之瀬さんが、訳がわからないというように、みんなを見渡す。その疑問に答えたのは、第三者だった。

 

「そいつは俺が説明しよう!」

「刑事さん! ……と、誰だ?」

 

現れたのは、鬼瓦さんと滝野さん、土方さんだった。そうか。みんなは滝野さんのことを知らなかったか……。

 

「初めまして、雷門のみんな。俺は滝野真月。鬼瓦さんの部下だよ」

「刑事さんの……。あ、あの、さっきのって、一体どういう……?」

 

円堂さんが、話を元に戻す。それを、鬼瓦さんが説明した。

 

「豪炎寺が姿を消したのには、訳がある。……妹さんが、人質状態になっていたんだ」

「えっ……夕香ちゃんが⁉︎」

「エイリア学園に賛同する者と自称する奴らが、妹さんを利用して……仲間になるように脅してきたんだ」

「そうだったのか……でも、一言言ってくれれば……!」

「言えなかったんだよ。……口止めされてたんだ。もし話せば、妹さんがどうなるか……ってな」

 

そう付け加えた鬼瓦さん。そして、さらに続ける。

 

「だから我々は、チャンスを待つことにした。時が来るまで……豪炎寺をそいつに預けてな」

「……土方に……⁉︎」

「おやっさんってきたら酷いんだぜ? 人を隠すには人の中とか言ってさ! まあ、ウチは家族の1人や2人増えたってどうってことないけどな」

「我々はまず、妹さんの身辺を探った。敵の実態が分からんし、人質のことがあったんで、慎重にな。調査にはかなり時間がかかってしまったが、ようやく妹さんの安全が確保できた。……それに手を貸してもらったんだ。青木にな」

「え⁉︎」

 

円堂さんの視線が、私に向けられる。私は目を伏せ、溜息をついた。

 

「……私は、何もしてません。いや、できませんでした」

「違うよ、穂乃緒ちゃん。君が妹さんを保護してくれたから、俺たちも突入できたんだ」

 

君のおかげだよ。そう言って笑う滝野さんに、私は俯く他なかった。

円堂さんと豪炎寺さんは、鬼瓦さんや土方さんに感謝を述べていた。そして、練習を始めようとしている雷門イレブンの輪から少し離れ、滝野さんを見上げた。

 

「……滝野さん。約束、お忘れなく」

「ゔっ……わ、分かってるよ……」

「ハッハッハッ。まあ、取り敢えずは一件落着だな」

 

鬼瓦さんは豪快に笑いながら、走っていく円堂さんたちの背中を見た。そして、私を見下ろす。

 

「さて、今度は君の番だ。青木」

「…………」

「俺や滝野の独自捜査で、様々な疑惑が浮かび上がっているんだが……まだ、逮捕状を貰うにはあと1歩足りない。そこで、君の証言が欲しいんだ」

「私の?」

「ああ。実際の被害者の証言があれば、被害届として堂々と奴らを捜査できる。証拠は、奴らの家にあるはずなんだ」

「……そうですね。確か、私を刺すのに使っている包丁があります」

「それに残っている血痕か何かがあれば、鑑定で確定するはずなんだ」

「……分かりました。話しましょう」

 

……これで、彼らがいなくなってくれれば。私の心は、少しでも軽くなってくれるのだろうか。……それとも、この闇は、永遠に晴れることはないのだろうか……?


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