夕香さんを無事に救い出し、東京へ送り届けた私たちは、次に沖縄に身を隠している豪炎寺さんの元へ向かっていた。
「豪炎寺さん……本当に、沖縄にいらしたのですね」
「そうだよ。円堂くんたちと離れるためにね。妹さんが人質にとられて、雷門から離れた豪炎寺くんは、ずっと君たちの元に帰りたがっていたよ」
滝野さんが、微笑んで私を見下ろす。私は彼と、目が合わせられないでいた。
悔しい。私はあの時、何も出来なかった。結局、夕香さんを救ったのは滝野さん。私じゃない。
助けたかった。この手で、誰かを。壊すだけじゃない。誰かを守りたかった。
自然と、ジャージを握りしめてしまう。滝野さんに、この思いがバレてしまう。
「ねえ、穂乃緒ちゃん」
「っ……何ですか?」
「君、今までどんな戦い方をしてきたの?」
「え……?」
戦い方……? どう答えたらいいのか分からなかった私は、黙ってしまった。問うてきた滝野さんは、ジッと私を見つめながら続ける。
「君の戦い方は、ただ敵を殲滅し破壊するだけのものだ。誰かを守るためには、それではいけない。常に守るべき存在のことを考え、自分も相手も無事で逃げられるには、どうすればいいかを考えて動かなければならない」
「っ…………何が言いたい」
「……簡潔に言おう。今の君の戦い方では、誰も守れない‼︎」
「‼︎‼︎」
私の中で、何かが音を立てて崩れた。誰も守れない。私では誰も。
滝野さんは、私を哀れむような目で見つめる。その視線に腹が立って、睨んだ。
「……何だと」
「君が今まで、どんな気持ちで人生を送ってきたのか、俺には分からない。何故、そんなに悲しい目で睨むのかも」
「……‼︎」
何なんだ、こいつは。分かりきったように、口を動かす。お前に私の何が分かるというんだ。私の、この深い恐怖と絶望が、お前に分かるというのか⁉︎
滝野さんはさらに視線を鋭くする私に、ポツリと呟いた。
「……俺も、そうだったよ」
「え……⁉︎」
意外な言葉に、驚愕の表情を浮かべる私を見ないで、滝野さんは続ける。
「俺もね、とある大きなマフィアの一員だった。でも、鬼瓦さんが俺を逮捕してくれたおかげで、今の僕があるんだ」
「はっはっはっ。逮捕してくれる、なんて……相変わらず面白いことを言うな。お前は」
「それくらい、俺は鬼瓦さんに感謝してるんです! 貴方が俺を逮捕してくれなかったら、今頃俺はまだ、あんなことを続けていたでしょう」
滝野さんの発言に笑う鬼瓦さん。そして、感謝を述べる滝野さん。何があったのか私にはよくわからないが、きっと2人の間には強い絆があるのだろう。それは、感じられた。
私にも、誰かを守る力を持てるだろうか。円堂さんや、雷門の皆さん。彼らが大切に思う全てを、この手で守れるだろうか。
「あっ、そろそろ着くよ! 穂乃緒ちゃん!」
滝野さんが、前の景色を見て、私に声をかける。
今の私には、誰かを守れる力はない。
なら、これから身につけていく。大切なものを守れる力を。