「どういうつもりだ、ヒロト!」
円堂さんは、大声で基山さんに問いかける。しかし、基山さんは何も答えない。
南雲さんも、塔の上に立つ基山さんを見上げ、眉は寄せながら言い放った。
「……あーあ‼︎ ったく……邪魔すんなよ、グラン‼︎」
「雷門イレブンに入り込んで……何をするつもりだったんだ?」
南雲さんは私の手首を掴み、胸倉から離させると、私の手首をグイッと引いた。
「俺はグランのお気に入りがどんな奴か、見に来ただけだよ」
「……騙されちゃダメだよ? 円堂くん。……穂乃緒ちゃんは騙されなかったみたいだけどね」
すると、南雲さんはニッと人の悪い笑みを浮かべ、私を引き寄せ、自身の前に立たせた後、私の首に手をまわした。それを見た基山さんが、眉を寄せる。
「っ……‼︎」
「なぁ、こいつだろ? お前がずっと言ってたのは。随分と可愛いじゃねーか。ん?」
「……彼女から離れろ」
耳元で囁かれ、体が凍りついたように動かない。こいつ、基山さんを煽ってるの……? でも、私を人質にするよりは円堂さんにした方が良いんじゃないかしら?
考え込んでいると、耳に何か熱いものが当たった。今までに無いほど、体が震えた。
「ひゃっ……!」
「っっ‼︎‼︎」
基山さんは、足元に置いていたらしいボールを、こちらに蹴りつけた。反射的に、南雲さんは私を後ろへやり、円堂さんたちの方へ突き飛ばす。
「っ!」
「青木!」
鬼道さんに抱きとめられ、南雲さんを見ようとした瞬間に、小さな竜巻が起こり、思わず目を伏せる。竜巻が収まり、視線を南雲さんに向けると、南雲さんは、エイリア学園のユニフォームを纏っていた。彼はボールを蹴り返すが、基山さんも右足で蹴り返し、もう一度南雲さんが片足で受け止めると、地面に叩きつけるようにして、着地した。
「南雲、お前っ……?」
「……俺か? こっちが本当の俺……バーンってんだ。覚えときな」
首をボキボキと捻って、土門さんの問いに答える。
聞き慣れない名前……やはり、新たな敵だったか。
円堂さんが、彼の名前を復唱する。
「バーン……?」
「エイリア学園、プロミネンスのキャプテンだ」
「プロミネンス⁉︎」
冷静な瞳子監督も、驚いたように眉をひそめる。
「グランよぉ! こいつらはジェミニストームを倒した。イプシロンとも引き分けた。……お前らとやった後、まだまだ強くなるかもしれねぇ。だから、どれだけ面白い奴らか、近くで見てやろうと思った……。俺は俺のやりたいようにやる。もし、俺らの邪魔になるようなら……潰すぜ」
そう言って、指を指したのは……円堂さんだった。
「お前より先になぁ!」
再び、バーンと基山さんの視線が交わる。困惑しながら、私は2人を見つめ返した。基山さんは塔から飛び降り、静かに地面に着地する。
「……潰すと言ったな?」
冷たい声が、バーンに向かって飛ばされる。
「それは得策じゃない。強い奴は、俺たちの仲間にしてもいい……違うか?」
「仲間? こんな奴らをか?」
2人はサッカーボールを中心に、お互いに間合いをとるように動く。一方が動けば、もう一方も動く。こうしているうちに、基山さんが私たちの前に立った。基山さん越しに、バーンが私たちを……いや、私だけを見ていた。その視線に思わず怯えてしまう。
何故……? 何故、貴方たちは、私に執着するの……?
突然鬼道さんが私の前に立ち、サッと私を隠した。ただそれだけなのに、ホッとする私がいた。
「……おい。まさか、まだ狙ってんのか?」
「何の話だ」
「とぼけんなよ。あいつの話だ」
「…………バーン」
「ハッ……」
言葉で返す代わりに、鼻で笑い捨てるバーン。円堂さんが、彼らの会話に入る。
「仲間って、どういうことだよ?」
「教えてやろうか? 例えば……そこの青髪の奴」
バーンは、私をはっきりと指さした。私が突然出てきたことに、みんなが私に注目する。
「お前、グランに最初からずっと目をつけられてたんだろ? あのエージェント共にもな。お前のその人並外れている腕力や脚力のせいで」
「!」
「えっ⁉︎」
みんなが目を見張る。その先は、もちろん私だ。私は黙れと言わんばかりにバーンを睨んだ。バーンは戯ける様子もなく、私を見てニヤニヤするだけ。こういう顔は実に殴りたくなる。
「あ、それと豪炎寺って野郎もな……」
「……お喋りが過ぎるぞ‼︎」
基山さんは、怒り混じりの声を放った。おそらく重大な秘密なのだろう。だが、何故豪炎寺さんが絡むのか。
「っ……お前に言われたかねぇな‼︎」
どうやら、基山さんの制止が癪に触ったらしい。基山さんは言い返すこともなく、ボールに向かって走り出した。バーンが身構える中、基山さんはボールを蹴り込んだ。と、同時に強い光が放たれ、視界が奪われた。
光が収まり、顔を上げた時には、基山さんもバーンもいなかった。
「っ……あいつら! ふざけやがって……」
「青木……」
彼らが消えた場所に駆け込んだ私は、強く地団駄を踏んだ。ゴシャゴシャと地面が割れる音がしたけど、気にしない。
「……決めた。今度奴に会ったらぶっ潰す‼︎」
「青木! ちょっと待ってくれって‼︎」
「ちょっとそこまで行くだけ! お気になさらず!」
イライラで仕方ない時は、どこかに行くのが私のやり方だ。
少し町の方まで行き、サーターアンダギーを買って食べていた。機嫌は最高に悪い。こんなにイライラするのは久しぶりだった。
「っあー……誰かぶっ飛ばしたいなぁ……まぁ、無理なんだけど」
いや……ぶっ飛ばさなくてもいいから、何か投げたいまたは蹴りたいまたは潰したい……。
ハァッと溜息をつき、コロ、と地面を転がってきたものを見た。
「サッカーボール……?」
「さっきはゴメンね、穂乃緒ちゃん」
「‼︎」
基山さんが、私の前に立っていた。ギッと鋭く基山さんを睨む。
「……ねぇ、穂乃緒ちゃん」
「近寄るな」
低く冷たい声で、基山さんを咎める。基山さんは、悲しげな表情で私を見つめる。
「……さっきは本当にゴメン。まさかバーンが雷門に……君に近付くなんて、思ってなかったんだ。君をちゃんと守れなくて……本当に」
「守れなくて、だと? お前に守ってほしいと頼んだ覚えは一度もない」
「………………ゴメンね……」
「謝るのならとっとと失せろ。私はお前が……大嫌いだ」
「っ‼︎‼︎」
基山さんはしばらく黙っていたが、いつの間にか静かにこの場を離れていた。
私が放った冷たい言葉が、どんなに彼を傷付けたかも知らずに。