青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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51話 新しい好みを見つけた化け物

「さあ、練習再開だ!」

「すみません。私、少し離れます。たい焼き買ってきます」

「え⁉︎」

 

綱海さんを練習に引き込んだ時点で、私の仕事は終わったようなもんだ。ということで、たい焼きを買いに行く。最近たい焼きを補充してない。早く食べたいな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? 無い?」

「おー。この島にはたい焼きなんてねぇよ。残念だなぁ、嬢ちゃん」

 

何と。この島にはたい焼きが無かった。待て。おかしいでしょ。ふざけんな‼︎

内心憤慨していると、お店のおじさんが私に袋を渡した。

 

「悪いな、これやるから」

「?」

 

中身を見てみると、甘い匂いがした。

 

「サーターアンダギーっつってな、沖縄の名物なんだよ。美味いぞ〜!」

 

甘い匂いに負け、思わず口に入れる。

 

「……! 美味しい」

「だろ? もっといるか?」

「はい。頂きます」

 

新しい好物が出来た。せっかくだから、皆さんの分も買っていこう。私の顔は、自然と綻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーターアンダギーを摘みながら海岸を歩く。いつの間にか太陽は水平線に沈みかけ、夜の訪れを告げる。紫と赤のコントラストがとても美しかった。空を仰ぐと、星が輝き出している。

 

「……綺麗」

 

ボソッと小さく呟く。心が澄み渡っていくみたいで、気持ち良かった。一つ深呼吸してから、また歩き出そうと足を動かした次の瞬間。

 

「お前が……青木穂乃緒か?」

 

前方からした低い声に、足を止める。少し睨みながら、声の主を見た。

いつか見た、あのボウズサングラス。しかも3人。エイリア学園のエージェントだかなんだか、そんな感じの奴らだった気がする。

 

「何の用だ」

「我々と共に来てもらおう。言っておくが、拒否権はない」

「なら、作らせてもらおう」

 

私はサーターアンダギーの袋を抱え、戦闘体勢をとる。一歩踏み込んで、走り出した。

 

「悪いが急いでるのでね、通してもらう!」

 

腹が立って仕方なかった私は、このイライラを奴らにぶつけることしか頭に無かった。

 

「はあああああっ‼︎」

 

振り上げた拳は、一瞬でエージェントの1人の顔面に打ち付けられる。力を込めたから、かなり痛いと思う。が、相手が相手なので気にしない。力任せに打ち付けたから、少しはこっちも堪える。ぶっ飛ばして、次のターゲットに狙いを定める。

体を回転させ、足を振り上げる。足の甲でエージェントの顎を確実に仕留め、蹴り上げる。そして、倒れかけたエージェントの胸倉を掴み、乱暴に砂浜に叩きつけた。

そして、最後の1人。首を掴み、これまた砂浜に押し付けて押し倒す。そして、馬乗りになった。

感情なんて、あまり無かった。ああ、苦しそうだねって。ただそれだけ。

 

「一つ言っておく」

 

酷く、冷たい声。何処までも闇を捉える冷淡な赤い瞳に、エージェントの苦しそうな顔が映る。

 

「私に挑むのはいい。何度でも返り討ちにしてやるさ。だがな、私の大切な人たちに手は出すな。もし手を出せば……」

 

エージェントに顔を近付け、首を掴む手に力がこもる。

 

「私は、容赦はしない」

 

ゆっくりと手を離し、彼から降りた。ジャージの砂を少し払ってから、歩き出す。サーターアンダギーを取り出して、口に運んだ。

 

「けほっ……フン……。いつまでそうやっているつもりだ? 自分でも気が付いているだろうに……」

 

何か奴が言っている。

 

「お前は、人ではない。人の皮を被った化け物だと、自分で分かっているはずだ……」

 

しかし、それに私は耳を傾けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りました」

「あっ、おかえりなさい! 青木さん!」

 

木野さんが私を振り返る。木野さんから連絡を貰い、民宿の場所を聞いていたのだ。

 

「青木さん? それは……」

「たい焼きの代わりに買ってきました」

「え⁉︎ 青木ってたい焼き以外食べれたのかよ⁉︎」

 

意外! とでも言うように、財前さんが目を向く。失礼な。私だってたい焼き以外も好きになれます。

 

「ようっ!」

「「「「ひぃぃいいぃい⁉︎」」」」

「っだ⁉︎」

 

何だか硬い尖ったものが、私の後頭部に直撃した。手を後ろにやり、振り返ると、魚の顔が見えた。

 

「‼︎⁉︎⁇⁈」

「おっ。よぉ、お前か! さっきどっか行っちまったからな〜」

 

それから見つけたのは、綱海さんだった。ポカンとした私を見て、綱海さんは笑う。

 

「はっはっは! 何だよその顔! つーか、お前そんな顔するんだな〜」

「なっ……な、何をしに……⁉︎ 何故魚を抱えているのですか⁉︎」

「ああ、これ、食わせてやろうと思って、釣ってきたんだ」

「あ、ありがとう……」

 

先程の衝撃が抜けきらないのか、円堂さんは頬を引きつらせながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「何だよ、食わねえのか?」

「……食べたことがありません」

「まー食ってみろよ!」

 

赤い身を口に含んでみる。…………美味しい。何だか今日は、新しい好物に巡り会う日だなぁ……。


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