サーファーが海でサーフィンをしている砂浜で、私たちは練習に励んでいた。何でも、財前さんと浦部さんが2人でバタフライドリームをするらしい。
何度目かのバタフライドリーム。今度は同時に蹴りを入れることが出来、成功かと思われたか、ボールはまたしても飛んで行ってしまった。そして、はたまた運命か、その落下地点予測地にはサーファーの彼が。
「あ、危ない……」
「っ……! うぉおおおおおおおっ‼︎」
彼はサーフィンに乗ったまま、飛んで来たボールを蹴り返した。私たちが驚いて目を見開く中、海を裂くように真っ直ぐ飛んだボールは立向居さんが受け止めようとした。
「ぐっ……何てパワーだ……うわっ‼︎」
立向居さんは受け止め切れず、ボールはゴールへ刺さった。私たち全員が呆然とする中、当の本人は飄々と歩いてきた。
「あー、びっくりしたぜ。急にボールが飛んで来やがってよ〜」
「君! サッカーやってるのか⁉︎」
真っ先に彼に話しかけたのは、もちろん円堂さんだ。相変わらずサッカーとなれば、この人はどこまでも真っ直ぐ走る。しかし、彼はあっさりと答えた。
「そんなもん、一回もねーよ?」
「一回も⁉︎」
一回もしたことがないのにあれほどのシュートを放てるとは……彼はサーフィンで培ったボディバランスと運動神経だけで蹴り返した、ということ?
円堂さんは笑顔になって、彼を誘う。
「なぁ、サッカーやってみないか?」
「あん?」
「あんな凄いキックが出来るんだ! やったらすっげえ楽しいぜ!」
今度は彼がキョトンとして円堂さんを見る。しかし、すぐに彼は大きな声で笑った。
「あっははは! 冗談はよせよ。俺はサーファーだぜ?」
「でもさ、ちょっとくらい……」
「悪りぃな、興味ねぇんだ」
「あ……そっか……」
そこまで言われたら無理に誘えないと判断した円堂さんは肩を落として頷く。
何だろうか……腑に落ちない。私は改めてこれまでのことを思い出す。確かに近くにいたから、彼は私たちと何回か接触した。しかし、流石にここまで来ると運命すら感じる。もしかしたら、また会うかもしれない。
……仕方ない。恩人にこんなことしたくなかったけど……円堂さんの為に。
「賢明な判断でしたね、円堂さん」
「え?」
私は微笑みを浮かべて円堂さんに言った。しかし、この微笑みには皮肉を込めている。
「貴方も賢明な判断をしましたね。やらなくて正解です。所詮、彼はド素人なのですから」
「……何?」
その言葉を待っていたわ。私はクスリと笑い、さらに続ける。
「いくら身体能力が優れていても、ド素人には簡単なものではないでしょう? サッカーとは」
「はっ! さっきの見ただろ⁉︎ ちゃんと蹴り返したじゃねーか!」
「たった一度だけ、ですがね。よくもまあ、たった一度の偶然でそんな余裕が出てくること」
「ぐっ……!」
私はクスクスと笑いながら、手を口元にやった。それがさらに癪に触るようで、彼はギッと私を睨む。
ん……やっぱり、人を虐めるとは楽しいわね(※青木さんはドSです)。
「……よし、決めた! ……おい、サッカーやってやるぜ!」
「本当か⁉︎」
隣でこの状況を見ていた円堂さんの表情が明るくなる。
「……その言葉、二言はありませんね?」
「ああ! この俺様に二言はねえ‼︎」
「よく言いました」
皮肉の笑顔から変わったからか、彼は今更
「もし逃げようとしたら、貴方のサーフボードをへし折ります」
「んなっ⁉︎ き、汚ねえぞ!」
「汚くて結構」
久しぶりだからだろうか。凄く楽しい。
「そうか! 歓迎するぜ! えーっと……名前は……」
ここで、円堂さんが名前を聞くのを忘れていたことを思い出し、言い淀んだ。彼はニカっと明るい笑顔で自ら名乗った。
「俺は