これマジでいい覚え方です(確信)。
それではどうぞ。
試合再開早々に、財前さんがキープしていたボールを、不動さんがスライディングで奪う。そして、やはり佐久間さんへパスを出した。しかも、あまりの咄嗟の出来事に全員反応出来ず、ボールは佐久間さんに渡ってしまった。
「これで決める‼︎」
「やめろ佐久間‼︎」
再びシュートを打とうとする佐久間さんを止めようと、鬼道さんが走る。しかし、そこをまた不動さんに阻まれてしまった。
そして……佐久間さんは迷うことなく、3回目の皇帝ペンギン1号を放った。
「うあああああっ‼︎」
佐久間さんを、激痛が襲う。さらにシュートを阻止しようとした鬼道さんにペンギン達が襲いかかる。このままではいけない……鬼道さんが危ない!
「ッ‼︎ 鬼道さん‼︎」
鬼道さんを守らねば。その思いで駆け出したその時……。
「ぐ、うあぁぁぁああっ‼︎」
ボールが鬼道さんに当たる前に、染岡さんが飛び出してきて……蹴り返そうと足をボールに叩きつけた。が、それも虚しく、皇帝ペンギン1号は容赦なく、染岡さんをも吹き飛ばしていった。
「ッッ…………っ、染岡さぁあぁああんっっ‼︎」
私の叫び声が、フィールドに木霊する。私は染岡さんに駆け寄り、彼の背を揺さぶった。
「しっかりして下さいっ染岡さん‼︎」
「ぐっ…………な……青、木……残しといて、良かっただろ……」
脂汗を滲ませ、私の方を見てぎこちなさそうに染岡さんが笑う。そして次の瞬間、フッと気を失い、倒れてしまった。
何故。無茶してるクセに。体中が悲鳴を上げて、体を起こすことさえも苦しいクセに。何故、貴方は笑うの……?
傍で、鬼道さんが拳を震わせ、彼の名を叫んだ。
「ーーーー染岡ぁあぁあああぁああっ‼︎」
ーーしかし、こうしている間にも、試合は動いている。こぼれ球を不動さんが受け、一之瀬さんを押し退けるように突破し、佐久間さんにまたボールを出した。
「もう一度だ、佐久間ァ‼︎」
「⁈」
あんなになったのに……まだ打てるというの⁉︎ 私はハッと佐久間さんを見やる。しかし、当の佐久間さんは体を震わせ、空を仰ぎながら倒れていった。
ピッ、ピッ、ピィィイーーーッ‼︎
ホイッスルの無機質な音が耳に届く。耳障りだ。私は思わず耳を塞いだ。スコアがどーのこーのっていうことなんて、どうでもよかった。
ベンチでは瞳子監督が救急車を呼び、ピッチでは染岡さんの元に雷門イレブンが、佐久間さんの元に源田さんが駆け寄ってくる。源田さんは動けずにいる佐久間さんの体を起こし、彼の名を呼ぶ。
「佐久間、佐久間っ!」
ふつふつと、何らかの感情が高まる。何だこれは。私は心を沈めようと、胸元のユニフォームを握り締める。震える足を動かし、立ち上がる。そして、佐久間さんの方を見やった。
何で私がこんな風にあの人達の心配をするのか分からない。私は、あの人達に何の感情も持っていないはずなのに。持ってしまったの? あの人達に、情を? 何だか自分がわけ分からなくなる。分からなくて怖い。
上空で、バタバタと大きな音が響く。どうやら、ヘリコプターのようだ。そこから、声が聞こえてきた。
「見つけたぞ、影山! もう逃げられんぞ‼︎」
追われていたのか、と頭の隅で思いつつ、影山の居る場所を見上げる。鬼道さんが、影山の元へ走っていくのを見たが、次の瞬間どこからか爆発音が聞こえてきた。この船艦からの爆発のようだ。
私は染岡さんを肩に担ぎ上げ、源田さん達の元へ走る。源田さんは驚いたように私を見上げるのを見て、私は彼に手を差し伸べた。
「逃げましょう。ここから早く」
私は佐久間さんを抱き上げ、源田さんを頭の後ろに寄り掛からせて担ぎ、走り出した。船艦が崩れる前に逃げなくては。周りを見渡すと、みんなもそれぞれ逃げている。私は一旦足を止め、鬼道さんが消えた入り口を見た。鬼道さんは大丈夫なのだろうか。不安に思いながらも、私は気を失っている佐久間さん達のために、再び駆け出した。鬼道さん、どうかご無事で……。
やがて船艦は爆発し、沈没。鬼道さんはヘリコプターに乗っていた刑事さんが助けてくれたらしい。私は佐久間さんと源田さんを救急隊員の人に預け、円堂さん達の元へ戻る。私はコンテナに寄り掛かり、腕組みをする。少し遠くで、木野さんが泣いているのを見た。
「穂乃緒ちゃん」
耳元で、透き通った声が聞こえる。ハッと振り返るが、誰もいない。私はコンテナの陰に入り、声の主であろう人物の名を口にする。
「……基山さん?」
すると、円堂さん達がいる反対側のコンテナの陰から、基山さんが現れた。赤髪を揺らし、ニコッと笑う。
「正解。流石だね、穂乃緒ちゃん」
「何故、こんなところに? 貴方は本当に……」
「何者か、でしょ? まだ秘密。君にはまだ教えられない」
「隠す理由が分かりません。貴方は一体何者なんですか? 何故、私の元に現れるのですか?」
正直言って、疑うのはイヤだ。この人はそんなのじゃない、と勝手に決めつけている私がいる。しかし、彼の目的が分からないのも事実だ。何者なのかも分からない。
「穂乃緒ちゃん、悩んでるの?」
「え…………」
唐突に見透かされ、私は言葉を失う。それに構わず、基山さんは続ける。
「元々君は彼らと馴染むつもりは無かった。なのに、いつの間にか馴染んでしまい、あろうことか心配までするようになった……。それが何でなのか分からないんでしょ?」
「っ……お前に言う筋合いは無い」
「てことは、図星なんだね?」
何なんだこいつは。いつもの基山さんと違う? 私はふと思った。いつもなら、胸がキュンとなるのに、今日はしない。むしろ怖い。私は振り返って円堂さん達の元へ駆け出した。怖い。あのままいたら、基山さんにどこかへ連れ出されそうで。私はとにかく走った。基山さんを振り返らないように、走った。
「…………怖いんでしょ? 自分がお人好しになっていくのが。俺、君のこと待ってるからね。ーーーーいつでも俺達のところへおいで、歓迎するから」
やっと愛媛終わりました!
次はちょっと入りますね。そしてシャドウキタシャドウ‼︎
そして、揺れ動く青木さんは心情。これから彼女はどうなっていくのでしょうか。
次回も頑張ります。