青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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日本三大随筆の一つ、「徒然草」の漢字を、私は「とぜんぐさ」と覚えている。理由は中学の頃、先生が「とぜんぐさって読んじゃダメだからね」と言っていたから。先生、書き方を教えてくれて、ありがとう。

これマジでいい覚え方です(確信)。
それではどうぞ。


28話 vs真・帝国学園5・変わることへの恐怖

試合再開早々に、財前さんがキープしていたボールを、不動さんがスライディングで奪う。そして、やはり佐久間さんへパスを出した。しかも、あまりの咄嗟の出来事に全員反応出来ず、ボールは佐久間さんに渡ってしまった。

 

「これで決める‼︎」

「やめろ佐久間‼︎」

 

再びシュートを打とうとする佐久間さんを止めようと、鬼道さんが走る。しかし、そこをまた不動さんに阻まれてしまった。

そして……佐久間さんは迷うことなく、3回目の皇帝ペンギン1号を放った。

 

「うあああああっ‼︎」

 

佐久間さんを、激痛が襲う。さらにシュートを阻止しようとした鬼道さんにペンギン達が襲いかかる。このままではいけない……鬼道さんが危ない!

 

「ッ‼︎ 鬼道さん‼︎」

 

鬼道さんを守らねば。その思いで駆け出したその時……。

 

「ぐ、うあぁぁぁああっ‼︎」

 

ボールが鬼道さんに当たる前に、染岡さんが飛び出してきて……蹴り返そうと足をボールに叩きつけた。が、それも虚しく、皇帝ペンギン1号は容赦なく、染岡さんをも吹き飛ばしていった。

 

「ッッ…………っ、染岡さぁあぁああんっっ‼︎」

 

私の叫び声が、フィールドに木霊する。私は染岡さんに駆け寄り、彼の背を揺さぶった。

 

「しっかりして下さいっ染岡さん‼︎」

「ぐっ…………な……青、木……残しといて、良かっただろ……」

 

脂汗を滲ませ、私の方を見てぎこちなさそうに染岡さんが笑う。そして次の瞬間、フッと気を失い、倒れてしまった。

何故。無茶してるクセに。体中が悲鳴を上げて、体を起こすことさえも苦しいクセに。何故、貴方は笑うの……?

傍で、鬼道さんが拳を震わせ、彼の名を叫んだ。

 

「ーーーー染岡ぁあぁあああぁああっ‼︎」

 

ーーしかし、こうしている間にも、試合は動いている。こぼれ球を不動さんが受け、一之瀬さんを押し退けるように突破し、佐久間さんにまたボールを出した。

 

「もう一度だ、佐久間ァ‼︎」

「⁈」

 

あんなになったのに……まだ打てるというの⁉︎ 私はハッと佐久間さんを見やる。しかし、当の佐久間さんは体を震わせ、空を仰ぎながら倒れていった。

 

ピッ、ピッ、ピィィイーーーッ‼︎

 

ホイッスルの無機質な音が耳に届く。耳障りだ。私は思わず耳を塞いだ。スコアがどーのこーのっていうことなんて、どうでもよかった。

ベンチでは瞳子監督が救急車を呼び、ピッチでは染岡さんの元に雷門イレブンが、佐久間さんの元に源田さんが駆け寄ってくる。源田さんは動けずにいる佐久間さんの体を起こし、彼の名を呼ぶ。

 

「佐久間、佐久間っ!」

 

ふつふつと、何らかの感情が高まる。何だこれは。私は心を沈めようと、胸元のユニフォームを握り締める。震える足を動かし、立ち上がる。そして、佐久間さんの方を見やった。

何で私がこんな風にあの人達の心配をするのか分からない。私は、あの人達に何の感情も持っていないはずなのに。持ってしまったの? あの人達に、情を? 何だか自分がわけ分からなくなる。分からなくて怖い。

上空で、バタバタと大きな音が響く。どうやら、ヘリコプターのようだ。そこから、声が聞こえてきた。

 

「見つけたぞ、影山! もう逃げられんぞ‼︎」

 

追われていたのか、と頭の隅で思いつつ、影山の居る場所を見上げる。鬼道さんが、影山の元へ走っていくのを見たが、次の瞬間どこからか爆発音が聞こえてきた。この船艦からの爆発のようだ。

私は染岡さんを肩に担ぎ上げ、源田さん達の元へ走る。源田さんは驚いたように私を見上げるのを見て、私は彼に手を差し伸べた。

 

「逃げましょう。ここから早く」

 

私は佐久間さんを抱き上げ、源田さんを頭の後ろに寄り掛からせて担ぎ、走り出した。船艦が崩れる前に逃げなくては。周りを見渡すと、みんなもそれぞれ逃げている。私は一旦足を止め、鬼道さんが消えた入り口を見た。鬼道さんは大丈夫なのだろうか。不安に思いながらも、私は気を失っている佐久間さん達のために、再び駆け出した。鬼道さん、どうかご無事で……。

 

 

 

やがて船艦は爆発し、沈没。鬼道さんはヘリコプターに乗っていた刑事さんが助けてくれたらしい。私は佐久間さんと源田さんを救急隊員の人に預け、円堂さん達の元へ戻る。私はコンテナに寄り掛かり、腕組みをする。少し遠くで、木野さんが泣いているのを見た。

 

「穂乃緒ちゃん」

 

耳元で、透き通った声が聞こえる。ハッと振り返るが、誰もいない。私はコンテナの陰に入り、声の主であろう人物の名を口にする。

 

「……基山さん?」

 

すると、円堂さん達がいる反対側のコンテナの陰から、基山さんが現れた。赤髪を揺らし、ニコッと笑う。

 

「正解。流石だね、穂乃緒ちゃん」

「何故、こんなところに? 貴方は本当に……」

「何者か、でしょ? まだ秘密。君にはまだ教えられない」

「隠す理由が分かりません。貴方は一体何者なんですか? 何故、私の元に現れるのですか?」

 

正直言って、疑うのはイヤだ。この人はそんなのじゃない、と勝手に決めつけている私がいる。しかし、彼の目的が分からないのも事実だ。何者なのかも分からない。

 

「穂乃緒ちゃん、悩んでるの?」

「え…………」

 

唐突に見透かされ、私は言葉を失う。それに構わず、基山さんは続ける。

 

「元々君は彼らと馴染むつもりは無かった。なのに、いつの間にか馴染んでしまい、あろうことか心配までするようになった……。それが何でなのか分からないんでしょ?」

「っ……お前に言う筋合いは無い」

「てことは、図星なんだね?」

 

何なんだこいつは。いつもの基山さんと違う? 私はふと思った。いつもなら、胸がキュンとなるのに、今日はしない。むしろ怖い。私は振り返って円堂さん達の元へ駆け出した。怖い。あのままいたら、基山さんにどこかへ連れ出されそうで。私はとにかく走った。基山さんを振り返らないように、走った。

 

「…………怖いんでしょ? 自分がお人好しになっていくのが。俺、君のこと待ってるからね。ーーーーいつでも俺達のところへおいで、歓迎するから」




やっと愛媛終わりました!
次はちょっと入りますね。そしてシャドウキタシャドウ‼︎
そして、揺れ動く青木さんは心情。これから彼女はどうなっていくのでしょうか。
次回も頑張ります。

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