IS ―Another Trial―   作:斎藤 一樹

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9.簪さんといっしょ

 いつまでも嘆いていても仕方がないので、諦めて自分の部屋に行くことにした。トランクを再び量子変換して、ブレスレットに格納する。

 

「んじゃ、俺は行きます。清香たち、俺の部屋は後でメールするから」

 

 ウノやる前に、それぞれのメールアドレスは交換しておいた。

 

「うん、分かった」

 

「後でね〜」

 

「ばいば〜い」

 

 清香達に別れを告げ、手を振っているのほほんさんに手を振り返しつつ、廊下に集まっていた数えるのも面倒になるぐらいの女子の群れを見る。いやはや、さっきまでは無視していたから特に何も感じなかったが、気にし始めると視線が欝陶しい事この上ないな。

 

 教室のドアを開けると、さっと割れて道が出来た。モーゼの海割りの様だ。そして俺の後をぞろぞろと付いてくる。今度は大名行列か。このまま部屋まで着いて来られると面倒なので、俺はおもむろに廊下の窓に手をかける。そして自然な動作で窓を開け、

 

「とうっ!」

 

 窓枠に足を架け、勢いよく飛び降りた。ここは二階で下は石畳。着地はしやすそうだが、ドジを踏んだら痛い目を見ることになりそうだ。

 

 コケたりする事なく無事に着地し、そのまま寮へ向かう。

 

 

 

 歩きながら携帯電話を取り出し、懐かしい幼馴染の一人に電話を掛ける。確か彼女も、この学校に代表候補生として来ていた筈。

 

 数回のコールの後に、控えめというか内気そうなというか、そんな感じの声が返って来た。通話の相手は更識簪。昔世話になった相手の娘で、幼馴染みの少女だ。

 

それから色々あって、これからその部屋へ向かうことになった。

 

 

 

「…っと、ここか……」

 

 目的の部屋の前で部屋番号を確認し、ノック。

 

「簪、いるか?」

 

「…うん、入って……」

 

「んじゃ、失礼して」

 

 ドアを開けたらそこには着替え中の簪が……、なんていう事はなく、普通に簪がいた。

 

「よう、久しぶりだな、簪。大体一年ぶりくらいか?」

 

「…そうだね、そうなるかな……」

 

「そういえば代表候補生になったんだって? すごいじゃないか」

 

「…そう言う一夏だって、男なのにIS動かしたじゃない……」

 

「俺のは偶然だよ、少なくとも公にはそういう事になってる」

 

「…公には……?」

 

「そ。まあ、聞かなかった事にしといてくれ」

 

「…ん、わかった……」

 

 沈黙。でも、不思議と気まずさは無い。

 

「ところで、そっちの専用機はどんな機体?」

 

 実は俺にも専用機が送られてくる事になっているらしいのだが、まだそれは秘密ということになっているので口にはしない。理由についても何となくどころかほぼ確信に近い物が思い浮かんでいるけど。

 

「…私の機体は、打鉄弐式。打鉄の後継機よ。まだ完成してないけど……」

 

 成るほど、打鉄の後継機ってことは防御重視型か? ちなみに、打鉄というのは日本製の量産型ISだ。機動性よりも近接格闘能力と防御能力を重視して開発された機体で、見た目はさながら鎧武者のような機体である。

 

 

 

 それからあれこれと話していると、コンコンとドアをノックする音がした。

 

「……はい、今開けます」

 

 そう言って立ち上がる簪に、

 

「んじゃ、俺もそろそろ帰るとするよ」

 

 俺も鞄を手に立ち上がりながら言った。

 

「……そう。じゃあ、また」

 

「ああ。またいつか」

 

 先に簪がドアを開け、俺は玄関から靴をとってきた後に窓を開けてベランダから足を踏み出し

 

「……一夏、それじゃまるで間男よ」

 

「あれ?」

 

 ふむ、確かに客観的に見ると〈旦那が帰ってきて慌てて逃げる、妻の浮気相手〉に見えなくもない。

 

「まあいいや。じゃあなー」

 

 ベランダから飛び降りた。ここは二階。大した高さじゃない。というか、今日はよく飛び降りる日だな……。

 

 

 

「……っと、1025号室はここか」

 

 部屋番号を確認、ノックをして声を掛ける。

 

「やあ、同室になった者なんだが。在室かな?」

 

 返事はない。いないのだろうか。ドアノブに手をやり、鍵が開いていることに気が付く。ここから推察される答えは。

 

 ……部屋に既にいるが何らかの理由で返事が出来ないか、未だ誰もおらず最初から鍵が開いているのか。流石に後者は無用心が過ぎるだろうから、恐らくは前者。だとすると、考えられるのは音が聞こえない場所、例えばそう、シャワールームにいるか、はたまたヘッドフォンでもしているか。いつまでも待っていても埒が開かないので、後者であることを願いつつドアノブを捻る。

 

「……失礼する」

 

 意を決してドアを開けると、微かに水音が聞こえて来た。……前者だったか。

 

 素早くこの場合の執るべき最善策を練り、実行。

 

「失礼する、同室になった者なんだが。シャワーが終わって着替えが終わったら呼んでほしい。廊下で待っている」

 

 ごゆっくり、と最後に付け足し、部屋を出る。幸いな事に、そこには誰もいなかった。廊下の壁にもたれ掛かり、ポケットから携帯を取り出して、部屋番号を打ち込んでから清香達三人に一斉送信。これで良し。

 

 一分もせずに清香から返信。

 

「“今から部屋に行ってもいい!?”」

 

 成る程。でも残念ながら、まだ無理だろうな。

 

「“すまない、部屋に入ったら同居人がシャワーを浴びていたので、現在廊下で待機している。だから、まだ無理そうだ”」

 

 そう入力して送信したところで、部屋の中から「どうぞ」と声が聞こえた。聞き覚えのある声だな、箒か?

 

「では、失礼するよ?」

 

 そう言って、ドアを開ける。ベッドに座っていたのは、予想通り箒だった。

 

「い、一夏!?」

 

「おう。一夏さんですよ、箒さん」

 

 驚いた顔の箒に、そう言い、手前側のベッドに腰掛ける。……残念ながら窓側は取られたようだ。

 

「何で貴方がここにいるんですか!」

 

「だからさっき言っただろうが。『同室になった者だ』って。声で分からなかったか? IS学園に男は俺しかいないだろうに」

 

「うっ……。まあそうなんですが」

 

「ま、同室になったのが君で良かったよ。それがせめてもの救いだ」

 

「!? そ、それはどういう……」

 

「いやあ、初対面の見知らぬ女子と部屋を共にするよりは、ある程度気心の知れた君の方が余程良いだろうさ。おやおや、一体どんな意味だと思ったのかな? キミは?」

 

「あ、あなたという人はっ!」

 

「おやおや、お顔が真っ赤だぜ? まったく、何をそんなに興奮してるんだか」

 

「――――ッ!」

 

 口をぱくぱくとさせながら、真っ赤な顔で声にならない声を上げている。相変わらず弄り甲斐のある娘だ。可愛いねぇ。

 

「ほらほら、落ち着いて。な?」

 

 立ち上がって箒の隣に移動し、宥めるように頭を優しく撫でてやると、

 

「……………」

 

 見事に落ち着いた。というか、かなりリラックスしてる。俺の肩に頭を乗せ、もっと撫でて、と言わんばかりだ。

 

 言うなれば、たれ箒。個人的にはのほほんさんと同じぐらい癒される。

 

 昔、箒が隣に住んでいた頃は、よくこうやっていたものだ。さらさらとした、絹糸のような手触りは、未だに変わっていない。八年経った今でも、未だにこいつを落ち着かせられる効果があるとは思わなかったが。

 

 ……そういえばこれでのほほんさんも溶けてたな……。俺の手から何か出てるのか? マイナスイオン的なナニカが。

 

「なあ、箒さんや」

 

「………………」

 

 ……あれ?

 

「……箒さん?」

 

 

 隣に座っている箒の反応がない。聞こえるのは穏やかな息遣いだけ。

 

 …………え?

 

「……もしかして、寝てたりするかな?」

 

「………………」

 

 寝てるらしい。そういえば昔から人見知りな性格だったから、疲れたのかも知れないな。今も人見知りだったら、の話だが。

 

 離れようとしたら、制服の裾をきゅっと掴まれていることに気がついた。そう強い力ではない、寧ろ弱々しいと言って良いぐらいの力だ。振り払おうとすれば、簡単に出来るだろう。

 

 でも。

 

「…ったくまあ、安心しきったような、幸せそうな寝顔しやがって……」

 

 何故だか、出来なかった。いや、したくなかった、という方が正しいか。

 

 ともあれ。

 

「今は寝させておいてやるとするかな?」

 

 久方振りの再会だ。だからさ。……こんな時間も、悪くないだろう?

 

「お休み、お姫様」

 




 今回のタイトルは、某教育テレビの長寿番組のアレのノリ。

 こんばんは、斎藤一樹です。提督の皆さん、進捗どうですか? 私はE-1で未だにボスに行けてません。本命の艦隊はMIのために温存しておかなくてはならない都合上しょうがないとは思うのですが、どうして毎回誰かしらが一戦目か二戦目で大破するんだよ、と。ルート固定以前の問題です。どうしてくれようか。軽空母とか使ってこなかったからマトモなのがいないよ。困った。

 さてさて、今回のお話は箒と一夏君が相部屋になるというお話。この次の話で、入学初日の話は終わる事になります。やっとです。

 取り敢えず今回はこの辺りでお暇しましょう。ではまた。

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