午後の授業は、ISの装備に関するものだった。少なからず胸が踊る。アサルトライフルやらショットガンやら近接戦闘ブレードやら。しょうがないじゃないか。だって男の子だもの。
そんな感じで、特に特筆することもなく放課後になった。ある者は連れ立って部活の見学に行ったり、またある者は教室に残ってお喋りに興じていたりと、みんな思い思いに過ごしていた。かく言う俺は、というと、
「上がり〜!」
「あ、私も〜」
「私はウノ!」
「なん、だと……」
清香と静寐とのほほんさんと、ウノをやっていた。
しかし勝てない。何故だ。現在、まさかの三連敗。
「あ、上がりだ」
どうやら今、四連敗になったらしい。
「…ぐうぅ……」
もう唸り声しか出ない。バタン、と力無く机に倒れ込む。
「あ、ちょ、一夏くん!?」
慌てたような清香の声。なぜこうも引きが悪いのか、今日の俺は。
「で、一夏くんは誰か待ってるの?」
「ん、まあ。多分山田先生、もしかしたら千冬姉、もとい織斑先生を」
「そういえば一夏くん、織斑先生の前ではちゃんと「織斑先生」って呼ぶよね。やっぱり今は生徒と教師だから?」
「んー、むしろ織斑先生がそこら辺に厳しいというか。…仕事とプライベートを明確に分けてる、って言えばいいのかな? 多分学校いる時に目の前で“千冬姉”って呼んだら、出席簿が飛んでくる」
『…あ、あはは……』
その光景が容易に想像できたのか、三人とも苦笑を漏らす。
そこに、
「あ〜、織斑くん。まだ教室にいたんですね〜。良かったです〜」
山田先生がやってきた。
「ええ、恐らくそろそろいらっしゃる頃だろうと思いまして。……やっぱり、寮へ移動ですかね? 政府の方からは『暫くの間は自宅から登校しろ』って言われましたけど」
後半は山田先生だけに聞こえるように、彼女の耳元に口を寄せて小声で話す。
「ふわー、よく分かりましたね〜……。聞いてたんですか〜?」
「まさか。でも自分自身のおかれている状況を考えれば、自ずと解ります。因みにアリバイはそこの三人が証明してくれますよ、基本的に今日はずっと一緒にいましたから」
ね? と清香達に視線を向ける。なぁに? といった感じでこっちを見てくる三人。何でもないよ、と小さく手を振っておいた。可愛いなぁ、全く。
山田先生は成る程、と頷いてから、部屋番号の書かれた紙とルームキーを渡してきた。ここ、IS学園は基本的に全寮制だ。しかしその特性上、女子寮と職員寮しかない。そしてここで問題となるのが俺という存在である。
まあ恐らく、餓えた高校生男子(客観)を女子高校生の群れの中に放り込むような真似はしないと思うから、俺は職員寮に住むのだろうが。
「あ、因みに女子寮ですからね〜?」
……は?
「いやいやいや、何考えてるんですか! 普通、職員寮でしょう!?」
「ほえ? 何でですか〜?」
何を言っているかわからない、といった表情でこちらを見る山田先生。…この人も箱入りのお嬢さんだったのか?
「俺だって男です。その俺を大勢の女子の中に一人で放り込む。そんな状況で、万が一にも間違いが起こらないっていう保証は何処にもありません」
若干頬が熱くなってきた事を自覚しつつ、言った。それを聞き、山田先生は僅かに頬を朱に染めつつも
「大丈夫ですよ〜。本当にそういうことをする人は、多分そんな事言いませんから〜」
にっこりと微笑みつつ言った。それなりに信用、されているって事かね?
「あ、でも荷物が、着替えとかが無いですかね〜?」
山田先生が、ふと思い出したかのように言う。
「いえ、問題ありません。既にこうなることを予測してありましたから。多分織斑先生が……」
「ああ、私が手配しておいてやった。しかし、あの段ボール一箱だけでよかったのか?」
千冬姉、登場。タイミング良すぎる、教室の外でタイミング計ってたりしてないだろうな…。
「はい、後は自分で持ってきましたし」
「……何処に?」
不思議そうな顔をするので、
「ここに」
と左腕を、正確には左腕の手首に付けたブレスレットを見せると、千冬姉以外は更に不思議そうな顔をした。逆に千冬姉は、納得したような顔。
「え? どういう事ですか〜?」
見せた方が早いだろう、ということで、実際に見せることにした。
「こういう事ですよ。……それ」
右手に集中。イメージするのは、昨日の夜に量子化(インストール)した……。
「お〜、おりむーすご〜い!」
イメージを始めてすぐ、右手に光が集まり、旅行用の大きめのトランクが姿を現わした。それをみて、のほほんさんがはしゃいでいる。他の人も、大なり小なり驚いた顔をしている。
一番最初に気を取り直したのは、意外な事に山田先生だった。千冬姉? 頭抱えてるよ。大方、束(ウサギ)さんへの苦情でも考えてるんだろう。
「じゃ、じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね〜。夕食は六時から七時、一年生用食堂でとって下さい〜。因みに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります〜。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、織斑くんは今のところ使えません〜」
「まぁ、当然でしょうね」
そこは妥協すべきところだろう。
「あ、代わりに月に一度ぐらいでいいんで、銭湯とか行ってもいいですかね? 出来ればついでに外泊許可も欲しいところですが」
「ふむ、考えておこう」
「ありがとうございます、織斑先生。あ、山田先生もう一つ」
「はい? 何でしょうか〜?」
「……その、俺の部屋、個室ですよね?」
「いいえ、相部屋ですよ〜?」
「神は死んだ〜ッ!」
校舎に、俺の叫びが木霊した。
今日からアリューシャン及びミッドウェー攻略作戦開始。おはこんにちばんは、斎藤一樹です。
今回は部屋割りのお話。未だに始業式の日の話ですが、もう何話かは日付が変わりません。しばらくお付き合いください。
今回のタイトルは、「なん、だと……」がやりたかっただけ。確か元ネタは漫画「BLEACH」に登場する台詞が元だったような。
最後の方の「神は死んだ」発言については、ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの著作中の一文が元ネタです。そこからツァラトゥストラはかく語りきなどの数々の本に引用されるようになったと記憶しています。
さて、もう一回攻略してこようかな。