IS ―Another Trial―   作:斎藤 一樹

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6.箒が出て来てこんにちは

 

 

 授業が始まって数分後。

 

「…おい、織斑。教科書はどうした?」

 

 唐突に千冬姉が言った。

 

「あー、大体覚えたし、他の荷物も多かったんで持ってきてないです。多分トランクの中に……」

 

 ズバンッ!

 

 目にも留まらぬ速さで振り下ろされた出席簿を、ペンケースの一番面積が小さい面で受け止めた。相変わらず衝撃が尋常じゃない。

 

どうせ受けるなら広い面で受けた方が、衝撃分散してまだマシだったような気がする。

 

「ほう……いい反応速度だ。ときに織斑、教科書6ページを言ってみろ」

 

「えー、面倒くさ「いいからやれ」はいはい……」

 

 記憶を探る。……あった、確かこれだ。深呼吸をして息を整えてから、口を開く。

 

「『現在、幅広く国家及び企業に技術提供が行われているISだが、その中心たるコアを作る技術は一切の公開が為されていない。現在世界中にあるIS…467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にある。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っている。

 

 また、コアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触、いかなる状況下にあっても禁止されている』

 

 ……でしたっけね?」

 

 正直、現段階で467基のコア全てが無事に稼動してるという保証はないし、もしコアの開発に成功したとしてもそれを素直に他国に公開するとは思えないけどさ。ハイリスク、ハイリターン。この場合はリスクもリターンも大きいが、どちらかというとリスクの方がより大きいだろう。

 

「……まあ、大体合っているな。座っていいぞ」

 

 隣に座る清香の、「すごい!」といった感じのキラキラした視線が少しくすぐったい。

 

 すると、一人の女子がおずおずと千冬姉に質問する。

 

「あの、先生。篠ノ之さんってもしかして、篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

 

 ……まあ、そりゃ気が付くか。

 

 篠ノ之束。ISをたった一人で作成・完成させた、稀代の天才。千冬姉の親友にして同級生、そして箒の実姉である。俺から見た束さんは「テンションがおかしい、頭のネジが数本飛んだ美人のねーちゃん」だったが。何度か会ったが、未だに行動が読めない。しかもなまじあちこちのスペックが高いから性質(たち)が悪い。

 

「ああ、そうだ。篠ノ之はあのバカの妹だ」

 

 おいおい、教師がそんなにあっさりと個人情報をバラしちゃっていいのか? ていうか、さりげなく束さん(ウサギ)のことをバカ呼ばわりしてるし。

 

 まぁあの人、また行方不明なんだけどな。あの人だし大丈夫だろ。

 

「ええええぇーっ! す、すごい! このクラス、有名人の身内が二人もいる!」

 

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」

 

「篠ノ之さんもやっぱり天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよっ!」

 

 等と言いながら、授業中にも関わらずわらわらと女子達が箒の周りに集まる。あの娘達にも、多分悪気は無いんだろうけど……。箒の表情を見るに、恐らくその話題はタブーに近いものだ。

 

 取り敢えず、口を開きかけた千冬姉にアイコンタクトを送りながら、女子に声をかけようとして、

 

「あの人と一緒にしないで!」

 

 突然の大声、発生源は箒だった。…あちゃー、間に合わなかったか……。

 

「……大声を出してすみません。でも、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もありません」

 

 そう言い放ち、箒は窓の外に顔を向けてしまった。女子は、盛り上がったところに冷や水を浴びせられた気分のようで、大多数が困惑や不快を顔に出している。…面倒だけど、これはフォローしとかないとマズいな……。

 

「あー、と。すまないが、この件に関しては触れないでやってくれると助かる。……君達にも、触れられたくはない事の一つや二つあるだろ? つまり、そういう事だ」

 

 そういうと、みんな少し俯いて、黙り込む。何人かは「ごめんなさい」と呟いている。……みんな、基本的に根は素直ないい娘達なんだよな。

 

 千冬姉に、再度アイコンタクトを送る。それを受け、心得たとばかりに

 

「それでは授業を再開する。全員、席につけ」

 

 その一言に、全員が席に着いた。

 

 

 

 昼休みになった。どうしようか。もう少し箒のフォローをやっておくべきだろうか。そういう結論に達し、席を立つ。

 

「あ、そうだ一夏くん。あたし達と一緒にお昼食べない?」

 

 相川さんにお昼を誘われた。その後ろにいるのは、布仏さん(本名:布仏本音(のほとけほんね))と鷹月さん(本名:鷹月静寐(たかつきしずね))。良いタイミングだ、調度いい。

 

「おう。……なあ、箒も一緒に連れていきたいんだけどいいかな?」

 

「うん、私はオッケーだよ。本音達もそれでいいよね?」

 

「うん。わたしはいーよー?」

 

「私も」

 

 ん、本人達から了承が出たから良しとしよう。

 

「箒、俺達と飯食いに行こうぜ」

 

 手を差し延べつつ誘うと、

 

「……私は、いいです」

 

 にべもない。

 

「そうか、いいなら行くぞ?」

 

 多分違う意味で言ったんだろうけど、ここは敢えて都合良く解釈させてもらおう。

 

「……そういう意味ではなくて! 結構です!」

 

「成る程、そのお誘いは大変結構なものだと。つまり、行くってことだな?」

 

 多分違う意味で(ry

 

「ああもう、どうしてそんなに私に構うんですか! 放っておいて下さい!」

 

「ヤだね。だってお前、」

 

 ──そんなに寂しそうじゃないか。

 

 そう囁くように言うと、箒は言葉に詰まったらしい。多少なりとも図星だったんだろう。「し、しょうがないですね……!」とか言いながら、頬を染めつつ立ち上がった。

 

 差し出された俺の手を握りつつ、「一人で立てますっ」と何かに言い訳するように言いながら。

 




 今回のサブタイトルは、童謡「どんぐりころころ」のノリ。今となっては何を考えてこのサブタイトルを付けたのかは分からないが、多分何も考えてなかったと思われる。

 こんばんは、斎藤一樹です。FC2版から細部のみ変更してお送りいたしております。今回から本格的に登場した箒ちゃん。原作からあれこれ変えていった事で、箒の束に対する感情もまた少々異なるものとなっています。その辺りは、また追々。

 あ、本文中の一夏の行動は良い子の皆さんは真似しないでください。ちゃんと教科書は持っていきましょう。それではまた、明日の夜にでもお会いしましょう。

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