IS ―Another Trial―   作:斎藤 一樹

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5.「決闘ですわ!」「だが断る」

 

 

 ……どうしてこうなった。セシリア・オルコットを追い詰めて、結果的に言われた言葉が、「決闘ですわ!」でしたとさ。

 

 ……ホントに、どうしてこうなった……。

 

「ち、ちょっと貴方、聞いてますの!?」

 

「…ん、ああ、もしかして聞き間違えたのかも知れないから、もう一回言ってくれないかな?」

 

 聞き間違いであってくれ、という想いを込めて尋ね返す。

 

「仕方がありませんわね、ではもう一度」

 

 そう言ってオルコットさんは言葉を区切り、一呼吸置いてから言った。

 

「決闘ですわ!」

 

「だが断る」

 

 ノータイムで即答。明らかに面倒事じゃねぇか。

 

「ッ!? ……な、何でですの!?」

 

 信じられない、といった表情でこちらを見るオルコットさん。よせよ、照れるだろ。

 

「面倒臭いからに決まってるだろうが」

 

「面倒臭いって、貴方……!」

 

「まさか、『決闘を辞退するなんてマナー違反だ』とか言わないよな? 『When in Rome do as the Romans do(郷に入っては郷に従え)』。ここは日本だ。騎士道なんざ知ったこっちゃねぇ」

 

 メリットも大してない。やる必要が見つからない。

 

というかどうしてその決闘を受けてもらえると思ったのだろうか、コイツは。

 

「……そう言って逃げるおつもりですの?」

 

「言いたいのなら好きに言え。この戦い、俺には何のメリットもない。大方、そっちは『決闘で勝ったら先程の言葉を取り消してもらおう』とでも考えてるんだろうが、」

 

 ぐ、と息を呑むオルコットさん。ビンゴか?

 

「こちらが勝ったとしても何も無いからな」

 

「あ、貴方は! これだけ言われても何も感じませんの!?」

 

「ああ、全くな。俺にとって至極どうでもいい有象無象に何を言われようと、気にするだけ面倒だ。それに、分の悪い賭けは嫌いじゃないが、意味も益も無い戦いはしない主義でね」

 

「────ッ!」

 

 怒りからか、オルコットさんは顔を真っ赤にさせる。

 

「あなた、それでも男ですの!? 男なら……」

 

 まだ何やらギャーギャー言っているが、一先ずそれは無視して千冬姉にアイコンタクトを送る。

 

「(どうする? 面倒臭くなってきたんだけど)」

 

「(お前が何とかしろ)」

 

 冷たいお返事で。流石千冬姉、そこに痺れない憧れない。

 

「──聞いてますの!?」

 

「ああすまない、君にクラス代表を渡してやるから引き下がってくれないか?」

 

「納得行きませんわ〜っ!」

 

 うるさいそりゃこっちのセリフだ。

 

「…ああもう仕方が無い、相手をしてやるよ! お望み通りな……」

 

 ため息を吐きながら、渋々と承諾した。

 

「本当ですの!?」

 

「…男に二言はねぇよ」

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたら、わたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」

 

「おいおい、イギリスじゃあ未だに奴隷制度が残ってるのか?」

 

「そんな筈がないでしょう!」

 

「ああ、真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいねぇから心配するな」

 

「そ、そう? 何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生の、このセシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 

「……で、何を使って競うんだ? まさか、代表候補生ともあろう者が、全くの素人を相手に得意分野であるISで戦おうだなんて、そんな事言わないだろうな?」

 

「うっ……それは…………」

 

「まさかな? それは幾らなんでもアンフェアが過ぎるというものだろう?」

 

「…………」

 

沈黙。どうやら図星のようだった。

 

 ま、ここら辺で許してやるか。

 

「じゃあ、どうせIS学園にいるんだし、ISでの勝負でカタを付けようか?」

 

「……え?」

 

 その俺の提案が余程驚きだったのか、オルコットさんは呆けた顔をする。

 

「そんな訳で、いいですよね織斑先生?」

 

 アイコンタクトを送りつつ、千冬姉に確認を取る。その意図を正しく汲み取ってくれたようで、

 

「ああ、構わん。それでは、勝負は一週間後の月曜の放課後、第三アリーナで行う。それでいいか?」

 

「ああ。オルコットさん、ハンデはどのぐらい付ける?」

 

 ようやく戻って来たらしいオルコットさんに問う。

 

「…あ、あら、早速お願いかしら?」

 

 中々に自信満々だな。

 

「いやいや、俺がどのくらいハンデを付ければいいのかな、と」

 

 そこまで言うと、クラス中が爆笑の渦に包まれた。

 

「お、織斑くん、それ本気で言ってる?」

 

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

 

 クラス中の女子から声をかけられる。まあ確かに、今この瞬間に男女間で戦争が起こったら、三日と持たないどころか三時間で制圧されかねない、といわれているけど。

 

 でもな。

 

「それは『男はISを操縦出来ない』っていう条件下での話だろう? でも、何の因果か俺はISを動かせる。それだったら、男が女より弱いという道理にはならねぇよな?」

 

 という俺の言葉に、成る程、と頷く女子一同。

 

「まあいいや。そんじゃ、ハンデは無しっつーことで……全力全開、最初からクライマックスにやってやるさ」

 

 そう言い放つと、

 

「ええ、そうでしょう、そうでしょう。寧ろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うぐらいですものね?」

 

 オルコットさんは一瞬怯んだものの、それを取り繕うように顔に嘲笑を浮かべてそう言った。

 

「……ねぇ、織斑くん」

 

「ん? どうした、清香。あと、一夏でいいぞ」

 

「う、うん。その、い……一夏、くん?」

 

「んー、呼び捨てでいいんだけど……まあいいや。何だ?」

 

「今からでも遅くないよ? セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」

 

 心配そうに言う。

 

「ありがとな、心配してくれて。でも、多分大丈夫。言ったろ? 男に二言は無いって」

 

 そう言って薄く笑顔を見せると、

 

「う、うん……」

 

 清香は頬を薄く赤に染めた。男に対する免疫はとことん低いらしい。

 

「よし、話は決まったな? それでは授業を始める」

 

 取り敢えず、授業は真面目に聞いておこう。

 




 こんばんは、遅刻する事に定評のある斎藤一樹です。

 今回の小ネタ

・だが断る……有名な返し文句。でも、元ネタがジョジョだというのは意外と知られていない気がする。かくいう私も、そもそもジョジョを読む機会が無かったために知らなかったのだが。また付け加えるのならば、本来この台詞は自分が不利な立場にいる際に、明らかに魅力的であろう提案を断る時に用いる表現であるらしい。よって、本文中の用法は厳密に言うと誤用である。

 さて、第五話です。艦これの夏イベも近づいて参りました。……ISとなんの関係もねえな。ということで今回も質問とか特に来てないのでISに関する事でも。フォルダ漁ってたら、以前にISの待機形態に関して書いたブツが見つかったので、今回はそれをのっけときます。



   待機形態

 ISには、基本的に“待機形態”というものが存在する。待機形態時のISは大体がアクセサリーの形状をとる。もっとも、これらはISのパイロットである女性が、普段から身につけるためにアクセサリーとなっているだけであり、必ずしもアクセサリーでなければならない訳ではない。

 これらの設定はISの開発時に設定することが出来るが、一度フォーマットとフィッティングを済ませてしまうと変更は出来なくなる。どうしても変更したい場合は、それまでの蓄積データを一度消去してから再設定、という手順を踏むことになるのだが、それ以前の蓄積データのバックアップを取るには専用の機械が必要となるため、気軽に出来ることではない。

 IS学園の練習機(打鉄、ラファール・リヴァイブ)のように、フォーマット機能とフィッティング機能を敢えて解除している場合を除き、待機形態時を含めてISは常に装着者の生体バイタルデータを観測し、より適した状態となるように常に微調整を続けている。

 多くの場合、専属搭乗員のいないISは待機形態をとらない。

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