2018/05/16 スペース等の修正
そんなこんなで昼。
「お兄、ご飯だって……って一夏さん!?」
ドアを開けて顔を覗かせたのは弾の妹、蘭だった。ラフな格好なので今日はオフなのだろう。
「よう、邪魔してるぜ」
左手でゲームのコントローラーを操作しながら、右手を上げてひらひらと手を振る。
俺が片手操作をしている隙に、ここぞとばかりに弾がコンボを決めてこようとする。セコい。だが馬鹿め、その動きは予想済みだ……あっ。
「ちょっとちょっと、あたしもいるわよ?」
読んでいた漫画から顔を上げて言う鈴。画面の中では、弾の操作するキャラクターが俺の操作する機体にソードを突き刺していた。
「……と鈴さんも」
格闘からブレイド投擲に派生してくる弾。
「へー、あたしをついでみたいに言うとはいい度胸じゃない、蘭」
弾のキャラクターが、きりもみ回転しながら俺のキャラクターを切り刻みつつ地面へと叩きつける。
「あはは、これぐらいはスキンシップってことで一つ……」
苦笑いを浮かべながら言う蘭。この二人は相変わらず仲が良いようだった。弾のコンボが終わるまでこちらは何も出来ないので、蘭達の方を見る余裕が出来てしまった。
バウンドした俺のキャラクターにきっちりと追撃で斬り抜け二段格闘を入れて打ち上げたところに、踏みつけでダウンを取ってくる弾。きれいに一連のコンボを決められてしまった。こいつ腕を上げたな。
起き上がりを狩ろうとしてくる弾の機体に、特殊移動技で距離を取りつつ両手に持ったハンドガンで弾をばら撒いて牽制する。
「じゃあこの試合終わったら飯な」
「だな」
等と二人で言いつつも、お互い負けで終わる気がないのは弾の攻め方を見ても明らかだった。隙を見せればその瞬間に相手の弾幕に当たり、そのまま体力を削られるであろう事は想像に難くない。
俺のキャラクターは距離をとって弾をばら撒くのが得意だが火力が今一つで、その分を手数で補うタイプと言うべきだろうか。一方の弾のキャラクターは射撃もこなせるが、その本領は距離を詰めてから様々な格闘攻撃でダメージを稼ぐことにある。
勝つのは、どっちだ。
「白い方が勝つわよ」
と鈴が言った。
……どっちだ。
弾の家は五反田食堂という食堂を経営している。鍋を振るっているのは弾と蘭の祖父の厳さんで、年齢に見合わぬ筋骨逞しい姿が特徴である。いつだったか両手に一つずつ中華鍋を持って、それぞれ微妙に具合を調整しながら振るっているのを見たときは、流石に自分の目を疑った。八十過ぎだと言うのにパワフル過ぎる。
そんな五反田食堂は味が良くてお値段もリーズナブル、と中々繁盛しているらしい。中でもイチオシは「業火野菜炒め」で、味付けや火加減が絶妙な逸品である。
そんな五反田食堂のテーブルの1つで、俺たちは昼ごはんをいただいていた。選択肢がカボチャ煮定食の一択しか無い代わりにタダでご馳走になっている。ありがたい話である。ご馳走さまです。
「私、IS学園を受験しようと思うんです!」
同じくかぼちゃ煮定食の付け合わせのたくあんを片手に、蘭が言った。そう言えば君は今年が高校受験か。
「あれ、でもあんたの学校って私立の中高一貫じゃなかったっけ?」
「それも大学進学率の高いお嬢様学校。勿体ねぇよなぁ……」
鈴の言葉に弾が返す。
「という事で、一夏さんと鈴さんにIS学園の生徒ならではの視点からの意見をいただきたいんですが」
どうでしょう、と蘭が言う。そりゃ構わないが。
「鈴、任せた」
構わないが、それはそれとして説明役は鈴に投げる。
「なんでよ、一夏から説明してあげたら?」
「俺は唯一の男子なんて言う特殊な存在だからな、同じ女子の目線から話した方が良いだろ……なんか気がついたことがあれば俺も補足するから」
「はいはい、分かったわ。そうね、まずは……」
鈴が話し始めるが、弾は少し不満そうな顔だ。
「どうした、浮かない顔して」
「……いや、なんでも」
「あぁ、もしかして妹が全寮制の高校に行ったら寂しいのか?」
「バッカお前、そういうんじゃねぇよ。ただ……ちょっと心配なだけだ」
「……そう悪いとこじゃねぇぜ、あそこも」
普通に過ごす分には、多分。生徒会長になろうとしたりなったりすると、闇討ちしたりされたりとエキサイティングでスリリングな学生生活が送れるようになるらしいが。
「分かっちゃいるが、競技用だって言ってもISって兵器を扱うんだ。不安にもなるさ」
「……そうだな」
……兵器、か。確かに今のあれは兵器だ、白騎士事件と呼ばれる一件以来そう扱われるようになってしまった。むしろ安全なスポーツの道具としか思っていない輩よりも、弾はよほど今のISを理解してるだろう。
でも、そもそもISがどんな想いで作られたかを知っている身としてはちょっとヘコむ。
「どうした、今度はお前がため息をついて」
怪訝そうにする弾に、何でもないと返して。
俺は食事を続けることにした。
夜。
「あ、お帰りなさい一夏」
弾の家からIS学園の自室に帰ると、箒が本を読んでいた。どうやら俺よりも早く帰ってきていたらしい。
「ただいま、箒。おばさん達は元気だった?」
「はい。久しぶりに一夏にも会いたいから今度連れてこい、って言われちゃいましたけど」
少し困ったような笑顔で箒が言う。
「じゃあ今度は俺も一緒にお邪魔しようかな。また柳韻さんに稽古もつけてもらいたいし」
篠ノ之家の人にもさんざんお世話になったからなぁ……。実の息子のように面倒を見てもらったのだし、たまには顔ぐらい見せておくのも親孝行になるだろうか。
「ええ、是非。きっと二人も喜ぶでしょう」
世の中には土日は休みの高校もあるらしいが、IS学園は午前中だけとは言え土曜日も授業がある。行くなら夏休みのどこかになるだろうか。今から楽しみだ。
ゴールデンウィーク3日目の朝は、あいにくの雨だった。日課のランニングを早々に諦めた俺は、釣られて目を覚ました箒を伴っていつもよりも早めの朝食と洒落込むことにした。
「やっぱりこの時間だと人が少ないですね」
「そうだな、ゴールデンウィークで帰省したりしている人もいるかもだし」
いつも10代女子の声で溢れ返っている食堂は、今日は随分と静かだった。普段俺達が朝食を食べに来るのは7時過ぎだが、今は6時だ。それも相俟ってか、周りを見渡せば見慣れない顔が多い。
「今日はどうします?」
箒の声に、ちらりと食堂の窓を見る。相変わらず雨が降っていた。
「……外に行くのは明日にして、今日は部屋でのんびりするか」
「……そうですね」
遠い目で箒が言った。
ゴールデンウィーク用の宿題も出ていることだし、今日のうちに片付けておけば明日以降また遊べるだろう。
「ところで箒、宿題進んでる?」
「はい、実家に帰ったときにもやってたので4分の1ぐらいは終わってます」
「……俺もやるか」
そういう事になった。
お互いに分からないところを教えあったりしながら宿題をやっていると、あっという間に昼になった。このペースならば俺も箒も夜には終わるだろう。何と言うかこう、すごく高校生らしいことをしているなという妙な感慨深さを感じる。普段はISと言うパワードスーツを動かすためのあれこればかりをやっているからだろうか。
IS学園にも世間一般の高校と同じように通常科目があるとは言え、ここはISについてを学ぶための専門学校であるわけで。やはりと言うべきか、授業の比重が傾くのはIS関係の方なのだった。勉強が好きなのかと言われると決してそういう訳ではないのだが。
「一夏って意外と英語出来ますよね」
「意外て」
「ほら、どっちかというと一夏は理数系じゃないですか」
そう言う箒は文系女子で、得意科目は歴史や地理らしい。
「ISの発表以降は日本語が世界的に広まったとは言え、文系だろうが理数系だろうが英語はついて回るだろ?」
「まあそうかも知れませんが」
何故日本語が世界的に広まったかと言うと、ISに関する論文が日本語で提出されたからである。束さんは英語を大の苦手としていた。俺はそれを知って「万能の天才という訳ではないんだな」と思った記憶があるが、他者とのコミュニケーションに消極的な束さんが英語に興味を抱かなかっただけという可能性は捨てきれない。
もし英語でISの基礎理論に関する論文を書いていれば。もしかしたらISはもっとスムーズに世界に認められたのかもしれない、なんて思わないでもないけれど。日本で理解を示してくれる人がいなくても、もしかしたら理解を示してくれるような海外の研究者の元へと論文が届いたのかもしれない、なんて事も考えないではないけれど。
でも現実はそうはならなかったし、白騎士事件を境にISは軍事兵器として見られるようになってしまった。その結果だけが、全てなのだろう。
そもそも、ISの関連技術は当時の技術水準から逸脱していた。現実味の無い夢物語と評されるのも無理はない……と言えなくもない。シールドエネルギーという人類にとって未知のエネルギーを使うことを前提としたISは、電気エネルギーを基準とする既存の技術とは体系も考え方も違うのだ。
閑話休題。
英語の話に戻ろう。束さんが書いたISの論文が日本語だったため、ISが知られるにつれて日本語は広まった。
しかしISに関わらない多くの人々は、そこまで日本語を重要視しないだろう事は想像に難くない。故にこそ、世界で最も多くの人が話せる英語を俺達も学ばなければいけないという訳らしい……まあ俺も平均程度に出来るというレベルでしか英語を使えないのだが。
「ていうか箒が英語苦手すぎるだけでは」
「うっ」
目を逸らすな。
英語が苦手なのは姉妹共通なのかも知れなかった。
4日目。箒ちゃんとデートをして。
そして、5日目の朝がやって来た。
某アニメを見ていて「ヘルシェイク弾」というネタを思い付きましたが、恐らく日の目を見ることはないだろうと思います。
お久し振りです、2月と3月合併号みたいな感じでお届けしますISATの26話です。サブタイトルのやっつけ感がすごい。近況としてはスマホが壊れ、やってたソシャゲの内の半分が復旧出来なくなりました。アリスギア……アキブレ……オルガル……即応戦線……うっ頭が。特に結構長く細々とやっていたオルガルとレベマ夜露ちゃん(水着もゲット済み)がいたアリスギア、何気に☆5がゴロゴロいたアキブレが痛い。
さて、今回は前話に引き続き五反田家に遊びに来てるところからスタートです。前回出そびれた蘭ちゃんが顔を見せたり、この世界についての設定をモノローグで補強したり。箒ちゃんのデート(2回目)はカットされました。少し前に似た話やったばっかりだからね、しょうがないね。
最初の方で弾が一夏に決めていたゲームのコンボは、某アクションゲームの実在のコンボがモデルです。多分分かる人には分かるんじゃないかという気がします、何とは言いませんが「前射特格BD格N前特格」です。この一連のコンボ、火力やカット耐性以上に動きが好きなんですよね。一夏君の使ってたキャラクターも同様にモデルがありますが、どの機体なのかという明言は避けておきます。でもアンカーによる特殊移動技を持った二挺拳銃使いです。
次回はいよいよ満を持して彼女の登場です。主役(メインヒロイン)は遅れてやってくる。お楽しみに。