IS ―Another Trial―   作:斎藤 一樹

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25.楽器が弾ければモテると聞いて

 

 

 

 

 そんなこんなでゴールデンウィーク2日目。

 

 暇なので遊びに行くことにした。

 

「という事で遊びにいこうぜ」

 

「どういう事かさっぱり分からないわね」

 

 さもありなん。

 

 説明しなさいと目で言ってくる鈴を尻目に、鈴のルームメイトであるティナ・ハミルトン嬢を見遣る。

 

 いつもうちの友人がご迷惑をお掛けしてます。

 

 いえいえ、こちらこそ。

 

 そんな無言のやり取りを交わした後に、彼女は後はごゆっくり、とこちらにジェスチャーを送って部屋を出ていった。気を使わせてしまっただろうか。

 

 直後。

 

「鈴が織斑君とデート行くって~っ!!」

 

 ハミルトン嬢のものと思われる大きな声が、足音と共に遠ざかっていった。

 

「ってこら待ちなさいバカティナ!?」

 

 そして鈴が慌てて立ち上がり、彼女を追って部屋を飛び出していった。

 

 ……鈴のルームメイトはなかなか愉快な性格の持ち主らしかった。

 

 

 

 

 

 5分後。

 

「待たせたわ…ねっ!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

 自分より体格が大きいハミルトン嬢の首根っこをつかんで帰って来た鈴は、部屋に入ってくるなり彼女を放り投げた。猫か。

 

 投げられた方も投げられた方で猫の悲鳴のような声だった。猫だわ。

 

 鈴も鈴で彼女をベッドに放り投げていたあたり、彼女達なりのじゃれあいだったのかもしれない。

 

 それよりも、体格差をものともせずハミルトン嬢を片手で投げ飛ばした鈴がヤバい。改めて説明すると鈴の体型は小柄で、筋肉が多いようには見えない。流行りの細マッチョというやつなのか。それにしてもあの細腕で、頭一つ分くらい身長差がある相手を片腕でって、ギャグか。何あれ、ギャグ補正?

 

 鈴がこちらを振り向いて言う。

 

「で。ちゃんと説明、してくれるんでしょうね?」

 

「勿論」

 

 

 

 

 

 とは言え。

 

「そう複雑な話でもないんだけどな。暇だったし、一緒に弾のところにでも遊びに行かないかって誘いに来ただけさ。こっちに戻ってきてからまだ会ってないんだろ?」

 

「まあそうだけど……」

 

 やっぱりか。

 

「じゃあ行こうぜ、もちろん鈴が暇だったらで良いんだけどさ」

 

 その場合は俺一人で遊びに行くだけの事である。

 

「そうね、せっかくだしあたしも行くわ。あのバカたちの顔も久しぶりに見たいしね」

 

「よし、決まりだな。そんじゃあハミルトンさん、こいつ借りてくぜ」

 

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

 ひらひらと手を振るハミルトン嬢。

 

「じゃあ鈴、30分後に校門で良いか?」

 

「いいわよ、じゃあまた後で」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 五反田弾。中学校時代からの俺の友人であり、鈴とも仲が良い。高校に入ってからはロン毛を目指して髪を伸ばし始めているらしい。そんな彼の周囲からの……少なくとも俺たちからの評価は「残念なイケメン」だった。

 

「で、そのベースはどうした?」

 

 弾の部屋に入ると、今まで無かったはずのベースが壁に立てかけられているのに気付く。

 

「ああこれか?」

 

「そうそう」

 

「え、弾あんたバンドでも始めたの?」

 

 興味津々、といった感じに鈴が聞く。

 

「惜しいな、俺は高校である同好会に入ったんだ」

 

 得意げに弾が言う。

 

「……そうか」

 

 なんだろう、嫌な予感というかこう、ロクでもないことの予感がする。

 

 それは隣に立っている鈴も同様だったようで、無言で「どうにかしなさいよ、アレ」と言わんばかりの視線を送ってきている。俺だって嫌だよ。

 

 そんなこちらの様子に気が付かず、弾は楽しげに言葉を続ける。

 

「その名も『私設・楽器を弾けるようになりたい同好会』!」

 

 多分アニメだったら集中線が入ってそうな勢いで弾が言った。

 

「私設、」

 

「楽器を弾けるようになりたい」

 

「「同好会?」」

 

 突っ込みどころが多すぎる。

 

 つまりどういうことだってばよ。

 

「『楽器を弾けるようになりたい』ってことはまだ弾けるわけじゃないのね?」

 

「ああ、練習中だ」

 

 謎のドヤ顔で言い放つ弾。

 

「私設の同好会ってことは学校公認の部活でもないって事?」

 

「ああ、俺たちにそんなものは必要ないからな!」

 

 よく分からない自信に満ちた顔つきで弾が言う。

 

 その 自信は どこから 来るんだ。

 

「ちなみにその同好会の現在の人数は?」

 

「2人だ!」

 

「2人って……」

 

 ツーピースバンドっていう構成はあるが、初心者2人じゃそもそも活動するのが大変なのではないだろうか。

 

 というかそれはただの人数不足では。あ、部活じゃなくて同好会なのってそういう……。

 

「で、もう一人は?」

 

「数馬だ」

 

 御手洗数馬、弾と同様に俺と鈴の中学時代からの友人である。残念ながら今日は来れなかったらしいが。

 

「パートは?」

 

「アンプ」

 

「アンプ!?」

 

 ベース担当とアンプ担当の二人組の音楽グループって何だよ……。

 

「ちなみに設立した理由は楽器弾けたらモテそうだからだ!」

 

「よしこの話題はもう止めよう!」

 

 不毛だ。

 

 頭を抱え始めた鈴を尻目に、俺はこの話題からの勇気ある撤退を選択した。

 

 

 

 

 

「で?」

 

 ゲームをやりながら唐突に弾が言った。

 

「で、とは?」

 

「とはも何もあるか、IS学園だよIS学園。女の園なんだろ?」

 

「女の園ってーかまぁ女子校みたいなもんだしな、それがどうかしたか?」

 

「いい思いしてるんじゃねーのと思ってな、そこんところどーなのよ?」

 

「いい思い、ねぇ……」

 

 いい思い、か。

 

 ……そうだな。

 

「まあ良いことも悪いこともどっちもあるわなってとこかねぇ」

 

「いい方の話だけ詳しく」

 

 見事な食いつきっぷりだった。

 

「遠慮すんなって、悪い方も聞いてけよ」

 

「バッカお前、こういうのは良い部分だけ聞いて夢見てる方が幸せなんだよ!」

 

 身も蓋もない話である。

 

 だが、案外真理かもしれなかった。

 

「じゃあまず1つ。全寮制だからな、夜とかに女子に会うと結構みんな無防備に薄着なんだよな」

 

「おぉぉぉ!」

 

 正面のアホから深い感動が伝わってきた。

 

 同時に横から背筋が凍るような視線も飛んできたが。確認するのがすごい怖いんだけど。

 

「ねえ一夏?」

 

 鈴が猫なで声なのが一層の恐怖を煽る。

 

「はい、何でしょうか」

 

 こちらも思わず敬語である。

 

「あんた、普段そんな風に見てたの?」

 

「そ、それはまぁ私も男なので多少はその、はい」

 

 うっすらと浮かんだその笑みが怖い。

 

「へぇ……そう!」

 

 どすり、と脇腹に重いパンチが入る。

 

「良い、パンチだ……」

 

 どさり、とやや大袈裟に倒れこむと、

 

「い、一夏ぁぁぁっ!?」

 

 とこれまた大袈裟に弾も叫んだ。

 

 茶番である。

 

 鈴はというと呆れた顔でこっちを見ている。上手いこと誤魔化せただろうか。

 

「……はぁ、もう良いわよ」

 

 ため息と共に鈴が言った。許された。

 

「男子ってみんなバカばっかりね……」

 

 呆れ気味に言う鈴に、

 

「男なんて皆そんなもんだぜ」

 

 したり顔でバカ筆頭が言った。否定は出来ない。

 

 そうなの? と目で訊いてくる鈴に、

 

「いやぁ、ぶっちゃけIS学園じゃなくて弾たちと同じ高校行ってたら俺も入ってたかもしれないもん。『私設・楽器を弾けるようになりたい同好会』」

 

 いえーい、とバカとハイタッチを交わす2人目のバカがそこにはいた。言うまでもなく俺だった。

 

 モテたいと思うのは男として当然の感情だからね、しょうがないよね。いや、単純に楽器が弾きたいというのもあるのだが。

 

「え、本気?」

 

「割と」

 

「えー……」

 

 理解に苦しむ、と言った表情で鈴が言う。心なしかちょっと引かれているような。

 

 とは言え。

 

「男子高校生なんてこんなもんだって」

 

「知りたくなかったわね」

 

 疲れた顔で鈴が言った。

 

 

 

 




 まだギリギリ1月だから……っ!

 そんなわけでこんばんは、2018年初となる投稿です。あけましておめでとうございます(今更)。

 今回はゴールデンウィーク2日目、突撃お宅の昼ご飯みたいな感じの話でした。違うか。原作でも残念なイケメンみたいな扱いの弾君、この作品ではどうなるのでしょうか。乞うご期待です(何も考えていない)。そういえば何故か弾の髪形はドレッドヘア、という謎の記憶がありましたが確認してみたらストレートのロン毛でした。どこをどう勘違いしていたんだ……?

 鈴ちゃんとのコミュ回的な予定でしたが、出来上がったのは何か違うシロモノでした。なんでや。蘭ちゃんが出るところまで行きつかなかったので次回に続きます。今月は試験とかいろいろ忙しかったので短くなってしまいましたが、その分2月分は長めに書こうと思います……。

 そう言えば始まりましたね、アーキタイプブレイカー(以下アキブレ)。みなさんやっていますか?私は事前登録したのにこれから始めるという有様ですが、設定的に行けそうならこの作品にもアキブレのキャラをねじ込んでみようかと思います。

 ソシャゲといえばあれですね、アリス・ギア・アイギスやってます。シタラちゃん推しですがうちにいる☆4が夜露ちゃんだけなので、夜露ちゃんずっと使ってたら夜露ちゃんがめっちゃ可愛くなってきます。あとバージニアちゃんも好きです、良いキャラしてます。

 それではまた次回にお会いしましょう。斎藤一樹でした。

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