IS ―Another Trial―   作:斎藤 一樹

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2.クラスメイトは全員女

 

 孤立無縁、という言葉がある。それは、周りに味方が誰もいないような状況の事。そう、例えばクラス中みんな女子なのに、自分だけ男……とか。

 

 何の事はない、つまるところ今の状態である。孤立無縁、四面楚歌。知り合いは……窓際に幼なじみの篠ノ乃箒という娘がいたけど、救いを求めてアイコンタクト送ったら目ェ逸らされた。薄情者め。

 

 そんなこんなで入学式が終わり、現在はLHR(ロングホームルーム)の時間。2時間目の授業を潰して行うとの事。黒板の前に立った副担任だという中〜高校生ぐらいの外見の山田真耶(やまだまや)先生が、

 

「全員揃ってますね〜?ではでは、ホームルームを始めますよ〜」

 

 何がそこまで嬉しいのかは分からないが、弾むようにそう宣言した。その拍子に、その顔に対して少し大きめの黒淵丸眼鏡がずりっとずり落ちる。

 

 しかし、残念な事にほとんどの生徒はその言葉を聞いていなかっただろう。原因? そりゃあ俺だろうさ。何と言っても現状、「世界で唯一、ISを動かした男」だ。注目の的になったとしても当然だろう。

 

 ……ごめんなさい、山田先生。悪気は無いんです。不可効力なんです。

 

 そんなアウェーな状況の中、山田先生は黒板の前でぱたぱたと腕を振りながら、健気にアピールする。

 

「こ、これから一年間頑張りましょうね〜?」

 

 しかし反応は無い。出来ることならばせめて俺ぐらいはリアクションを返してあげたいものだが、生憎と周囲からの視線というプレッシャーと戦うことに必死で、そこまでの余裕は無い。

 

「じ、じゃあ、自己紹介をお願いします〜。そうですね、出席番号順で」

 

 おお、山田先生がんばった。いや、こうでもして意識逸らさないとキツいんだって。マジで。しかも、俺の座っている席は真ん中の最前列。……何ともまあ目立つことこの上ない。

 

 女子達の自己紹介を聞くとも無しに聞いていると、順番が近づいてくる。……しまった、何をいえば良いんだ?こういう時って。悩んでいると、

 

「……くん。織斑一夏くん〜っ」

 

「は、はいっ!?」

 

 いきなり名を大声で呼ばれた。……どうやら思っていた以上に深く考え込んでしまっていたらしい。驚いた拍子に声が裏返る、という醜態を曝さなかった事がせめてもの救いか。

 

「ゴメンね〜、自己紹介、《あ》から始まって、今は《お》なんだ〜。自己紹介、してくれるかな〜?」

 

 是非もない。やあぁーってやるぜ!と内心で気合を入れれば、「オーケー、一夏!」という声が、どこからか聞こえた気がした。

 

 言うまでもないことだが、あくまでそんな気がしただけである。

 

 しかし、担任の先生遅いな……。会議、そんなに長引いてるのか……。まあそれは今はいいや。取り敢えず、直面している問題をどうにかしないと。自己紹介。失敗すると、これからの高校生活が悲惨な事に成り兼ねない。他のクラスメイトは全員女子なわけだし。溝を作るわけには行かないだろう。しかし、俺にこの場をどうにか出来るような軽妙なトークの才などあるはずもなく。

 

 ワクワクとした女子の視線を背に立ち上がり、口を開く。

 

「えっと、織斑一夏です」

 

 周りの女子から、「もっと他にも何かあるだろ」的な視線がビシバシ突き刺さるが、無いものはしょうがないだろう。こういうの、苦手なんだよ。

 

 溜めを作るように大きく息を吸い込み、堂々と宣言した。

 

「……以上です!」

 

 クラスメイトがずっこけた。リアルにずっこける人とか初めて見た。ノリがいいな、仲良く出来そうだ。

 

 そんな事を思っていると、左斜め後ろから殺気。……上からか。右手を握って拳を作り、力を込めて握ったそれを肩を軸に垂直に打ち出し、

 

 ───ズバァンッ!

 

 という音と共に固いナニカと衝突した。

 

「────ッ!」

 

 叫び出しそうになるほどの痛みを通り越し、声にならない程の痛みだった。無理矢理ポーカーフェイスを取り繕い、後ろを振り返る。そこにいたのは、

 

「……あなたがバーサーカーか」

 

「誰が湖の騎士だ、阿呆が」

 

 俺の姉である織斑千冬が立っていた。その手に持っているのは出席簿。……何で出席簿であんな威力が出るんだ……というかアレを拳で受けずに頭に食らっていたとしたら、果たして無事ですむのだろうか。

 

 そう思っていると、耳をつんざくような「キャアアアアアアッ!!」という嬌声が教室に響いた。み、耳がキーンって……。

 

「本物!本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!サインください!」

 

「お姉様に憧れて、北九州から来ました!」

 

 この学校に来る途中耳に挟んだ噂では外国から来た奴だっていたらしいので、北九州なんてまだ甘い。

 

 きゃっきゃきゃっきゃと騒ぐ女子達に、千冬姉は呆れ気味に

 

「……今年もこんなんばっかか…………」

 

 深い深いため息と共に、呟いた。

 

 ああ、例年こんな感じなのか……。

 

 そんな千冬姉に、山田先生は声をかけた。

 

「織斑先生、会議は終わったんですか?」

 

「ああ、申し訳ない山田先生。クラスへの挨拶等を押し付けてしまって」

 

「いえいえ、私もクラス副担任ですからね〜」

 

 おっとりと山田先生が微笑みながら言った。そして、自然な動作で教卓の前から横に動く。それを見て、千冬姉は教卓の前に立ち、朗々と響く声で話し始めた。

 

「諸君、知ってる者も多いようだが、私が織斑千冬だ。君達新人を、この一年間で使い物になる操縦者に育てることが仕事だ。私の言うことをよく聞き、よく理解しろ。出来ないものには出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。…いいな?」

 

 ……何という暴力発言。我が姉は相変わらずであるらしかった。口調と雰囲気で分かりにくいが、よく聞くと優しい言葉だ、という甘い部分までそのまま。薄々思っていたが千冬姉はツンデレだ。さっきの台詞だって、よく聞くと「分からなかったり出来ないようなら出来るようになるまで見捨てずに教えてやる」という意味と分かる。……いや、分かりにくいわ!

 

 まあ取り敢えず。

 

「こんな感じで自己紹介終わるから、なんか質問とかあったら個人的に聞きに来てくれ」

 

 そう言い残して、俺は席に座った。有耶無耶になってラッキー、というのが正直な感想であったりする。

 

 

 

 




   今回の小ネタ



クラスメイトは全員女……原作第一話のサブタイより

やあぁーってやるぜ!(オーケー、一夏!)……「超獣機神ダンクーガ」の主人公、藤原忍の決めゼリフ

バーサーカー、湖の騎士……Fate/Zeroより。改稿にあたり呂布からランスロットに。





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