IS学園、第三食堂。そこでは今、「織斑一夏クラス代表就任パーティー」なるものが開催されていた。
「と、いうわけで! 織斑君、クラス代表決定おめでとー!」
「「「「「おめでとー!!」」」」」
女子の声が一斉に食堂に響く。
「は、ははは……」
最早乾いた笑いしか出ない。こんな派手なパーティーになるとは完全に予想外だった。
というかまず人数がおかしい。うちのクラス以外の生徒もちらほらいる。……訂正しよう、ちらほらどころじゃなさそうだった。
「いや~、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよね~。同じクラスになれて」
「ほんとほんと」
おいそこの「ほんとほんと」って返し続けてる三つ編みの女子、お前も別のクラスの生徒だろうが。
まぁそもそもこのパーティーには入場制限は無いので、ここにいること自体に問題は無いのだろうが。きっとこういうものは楽しんだものが勝ちなのだろう。自分の中でそう結論付けると、俺はそれ以上気にしないことにした。
「さーて、今日は飲むぞーっ!」
という声も聞こえたが気にしない。流石に酒ではないだろう。
あ、刀奈姉までいた。こちらの視線に気がつくと、ウインクと共に「満員御礼」と書かれた扇子をぱんと開いた……いや、その言葉は違うのではなかろうか。ていうかクラスどころか学年まで違うじゃねぇか。
「はいはーい、新聞部で-す! 話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~!」
そうこうしている内に、パーティーの参加者がまた増えたらしい。周りの女子たちはきゃあきゃあと興奮した声をあげており、新聞部を名乗る彼女はさながらパーティーの余興に呼ばれた道化師の如くである。
その先輩がこちらにやってきた。左腕には『新聞部』と書かれた腕章をつけている。丸メガネに茶色がかった黒髪のショートカット、リボンの色から見るに学年は二年生。胸ポケットにはボイスレコーダー……既に稼働しているとみていいだろう。迂闊なことは言えないだろうと思うと同時に、何かしら面白いことを言ってみたいという悪戯心が首をもたげた。
「キミが織斑一夏くん?」
「はい。貴女は?」
「私は、黛(まゆずみ) 薫子(かおるこ)。新聞部の副部長をやらせてもらってるわ。よろしくね。ハイ、これ、名刺」
「これはご丁寧にどうも。本日はインタビューとのことですが?」
「うん、アポも取らずに来てごめんね?」
「いえ、構いません。むしろ、私の予想より遅かったぐらいです」
「あら、私が来ることを予想していたの?」
「ええ。生徒会長から、ここの新聞部は仕事が速い、と伺ってましたので」
「それは嬉しいわね。彼女と知り合いなの?」
「はい、幼なじみです」
「へぇー。私も出来る事なら、もっと早く君のところに来たかったんだけどねぇ。なかなか忙しくって」
「お疲れ様です」
「ありがとう。…っと、そろそろインタビューを始めていいかな?」
「ええ、構いません。どうぞ」
「じゃあ、まずはクラス代表としての意気込みをどうぞ!」
「……ちなみに、どんな発言をお望みで?」
「んー……。…『俺に触れると火傷するぜ』、みたいな面白いやつ?」
「面白さ優先って、捏造する気マンマンじゃないですか……」
知ってた。というか予想していた。
「……ソンナコトナイワヨー」
とは言え。
「声が裏返っているうえに片言になってますよ」
そうそう気の効いたセリフが思い浮かぶ訳もないのだった。
「……こほんっ!」
あ、誤魔化す気だ。
「さて、じゃあ改めて。クラス代表としての意気込みをどうぞ!」
「えー…。やるからには全力で勝ちに行きます。…俺はかーなーり、強いぜ?」
例えなりたくてなった立場ではないとはいえ。負けるのは悔しいし、わざわざ勝ちを譲ってやるのも癪だった。インタビューで言うことではないのでここでは口に出さないが。
「うん、ありがと。良い台詞が録れたんじゃないかな」
「いえいえ、どういたしまして。……捏造、ほどほどにしておいて下さいよ?」
「おっけー、おっけー! 充分いいネタがもらえたからね、そのぐらいはしてあげるよ~」
「ありがとうございます」
「じゃあ、次は写真。いいかな?」
「ええ、どうぞ」
「じゃあ……セシリア・オルコットちゃん、いるかな? ツーショットでいきたいんだけど」
「は、はい! ここにおりますわ!」
「じゃあ、そこに二人並んでもらえる? あ、もうちょっと近寄って、握手とかしてみてくれる?」
「こうですか?」
「――――――ッ!?」
ぼんっ、と音がしそうなほどに、セシリアの顔が赤くなった。どうしたんだ? 男と手をつないだ事が無い、とか? どうもかなりの箱入りお嬢様らしいから、あながちあり得ないとは言えないか。
「はい、いくよー。(4532+4859)×4は?」
「…え、ええと……」
「…37564(ミナゴロシ)、ですか?」
「はい、一夏くん正解~」
パシャリ、とシャッターが降りる。
「……君達、すごいね…………」
「な、何で全員入ってますの!?」
シャッターが切られるまでの僅かなタイミングを狙い一斉に移動したのか、そこにいたすべての女子が後ろに集まっていた。考えてみると、ものすごい団結力と行動力である。
今日の教訓。「女子のパワー、ナメちゃいけない」。
同日、中国某所。
「鈴音(リンイン)、ここにいたか。喜べ、手続きが終わったぞ」
「ありがとう、伯父さん! 大好き!」
「ははは。そんなに嬉しいか、彼と会えるのが?」
「うん! 大体一年ぶりだもん、いまから楽しみよ!」
「それは良かった。……さて、軍の方からの命令を伝えるぞ。与えられた主な任務は、IS学園へと赴いての〈中国製第三世代型IS《甲龍(シェンロン)》の稼働・戦闘データ及び関連装備の稼働・戦闘データの採集〉と〈日本に発現したレアケース=織斑一夏と接触・交戦し、その戦闘データの採集〉の二つだな」
「主な、っていうのは?」
「他には、我が国も第三世代機を投入してIS学園に代表候補生を送ることで、他国に対する牽制と示威行為が出来るんだが、お前は特に気にしなくていい」
「良いの?」
「ああ、これに関しては君がIS学園に行くだけで達成されるからな。気にする必要はないだろう」
「うん、分かった」
「ところで鈴音、荷物の準備は終わっているのか?」
「あのボストンバッグに全部詰めて用意してあるわよ」
「そうか。……取り合えず、話はこれで終わりだ」
「待ってなさいよ、一夏…………!」
中国代表候補生・鳳(ファン) 鈴音(リンイン)は、大体日本のある方角を向いて拳を握った。
「鈴音、そっちは方向的には日本ではなくロシアだ」
「あ、あっれぇー?」
前回から2か月ほどの間が空き肌寒い季節となりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか、斎藤一樹です。ISATの19話目をお届けします。
今回は前回の最後に準備していたクラス代表就任パーティーのお話です。ちょこちょこ書き改めてはいますが、特に新たに書き加えるような場所がなかったので短めとなっています。駄目だ、今回本編も短いからここで書くことがありゃしねぇ。
次回は恐らく10月中の投稿になると思われます。内容的には鈴ちゃんが転入してくるあたりのお話になる予定です。あー、修正箇所多そうだなぁ……(遠い目
それではまた次話でお会いしましょう、斎藤一樹でした!