IS ―Another Trial―   作:斎藤 一樹

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15.「絶望がお前のゴールだ」

 最初に目に入ったのは、白だった。まるで夜明けの光のような、まばゆい白。左右対称になった、滑らかな曲線を主体として構成された流れるような装甲。

 

 騎士甲冑のように流麗で、背中には同じく純白の翼を背負ったその姿は、まるで天使のようにも見えた。

 

 空中投影ディスプレイのウィンドウが開き、機体名が表示される。

 

 ―――白式(びゃくしき)、か。悪くない名だ。

 

「まさか……一次移行(ファースト・シフト)!? あ、貴方まさか、今まで初期設定だけの機体で戦っていましたの!?」

 

 オルコットが、驚愕したように言った。

 

 ……これでようやっと、この機体は俺専用になったってな訳だ。

 

「……残念だったね、セシリア・オルコット。一次移行(ファースト・シフト)を終え、暁からこの白式へと移行した以上、」

 

 ウィンドウを開き、武装一覧を見る。武装は近接特化ブレード〈雪片弐型(ゆきひらにがた)〉しか無かった。

 

 ブレオンかよ。確かにロマンではあるけれど。

 

 取り敢えずその雪片弐型を左腰の位置に出し、刀を引き抜くような動作で抜刀、構える。

 

「これまでのようにはいかないぜ?」

 

 濁流のように白式から送られてくるデータを、オルコットを意識して警戒しながら、頭の中で選別して理解していく。

 

 まず、雪片弐型。かつて世界最強だった千冬姉が、現役時代に愛用していた剣〈雪片〉の、後継たる剣。普段は実体剣だが、刀身にビームを纏わせることが出来るらしい。ビーム兵装は高熱で対象物を溶断するため、物理攻撃と比べてシールドエネルギーを多く消費させる事が出来る。雪片弐型の高出力ビームの場合、シールドエネルギーによる防護を貫通して強制的に絶対防御を発動させる事も可能のようだ。リミッターを外した最大出力時には、絶対防御を含むシールドエネルギーごとの切断すら可能だとの事。相変わらず束さんはマッドなサイエンティストらしい。どう考えてもオーバーキルだよ、この威力。一歩間違えたら人を殺しかねない。

 

 ついでにこのビームは、自機のシールドエネルギーを消費して展開される……って、攻撃に特化しているにも程があるだろうに。使いどころが重要そうだな。

 

 次に、白式のスペック。最大の特徴は、曙牡丹と宵菫の二つのコアを同調させた事により、桁違いの出力を実現させた〈ツイン・コア・システム〉の搭載。その出力の高さと、背部の翼のような大型ウイングを使った超高機動性。

 

 最高速度を見て、少し唖然となった。なるほど、確かにこれなら、ブレオンでもなんとかなるかもしれない。

 

 つまり、雪片弐型を使った高速度の一撃離脱、ヒットアンドアウェイが、この機体の戦い方になるわけだ。

 

 そこまで思考を進めたところで(実際には数秒間)、オルコットが動きを見せた。誘導型のブルー・ティアーズ(以下:ビット)を操り、オールレンジ攻撃を繰り出してくる。

 

 しかし。

 

「遅いな」

 

 白式のハイパーセンサーを使い、見るのではなく、感じる。全てのビットの銃口、そこから弾道を予測し、躱す。数瞬前まで俺の身体があった場所を、六本のレーザーが貫く。

 

 更に、何度も避け続け、オルコットは焦れてくる。

 

「な、なぜ! 当たりませんのっ!?」

 

「無駄だぜ、オルコット。何せ君の動きは、」

 

 レーザーを躱し、そのまま全推力で以て一気に接近。

 

「全て見えている!」

 

 すれ違いざまに、雪片弐型を胴体に叩き込む。

 

「キャアアァァッ!?」

 

 さらにまた反転、切り抜けつつ、ついでとばかりに背部のウイングと手足を使ったAMBACでジグザグ機動を行い、空中のビットを全て切り捨てた。

 

 そしてさらに反転、再びオルコットに近付き、オルコットの放った苦し紛れのミサイルビットを切り捨てつつ、爆発を背後にオルコットを袈裟切りにして、

 

『試合終了。勝者――――織斑一夏』

 

 ……終わったな。

 

「絶望がお前のゴールだ、ってね」

 

 そう呟き、雪片弐型を量子化して格納した。

 

 オルコットはというと、完全にエネルギーを使い果たしたのか、ISが解除されはじめていた。ISが無ければ人間は宙に浮いていられない訳で、つまり。

 

「……ったく、世話が焼ける」

 

 落下を始めたセシリア・オルコット目がけて、その速度を活かして白式で接近、相対速度を殆どゼロにし、彼女になるべく衝撃を与えないようにして抱き留める。

 

 オルコットを見ると、どうやら気を失っているらしい。ISの操縦者保護機能が働いたようだ。

 

「こうして、大人しくしてりゃあ可愛いのにな」

 

 勿体ない。まあいい、興が乗った。

 

「じゃあ、ちょっとの間だけ――お姫様にしてあげよう」

 

 そして、俺はオルコットを俗に言う「お姫さま抱っこ」の状態で抱えたまま、ピットへと戻った。

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、一夏。お怪我は?」

 

 全く心配していない、と言った口調で箒が言った。

 

「俺は特に無いよ。大して被弾しなかったしな。……っと、山田先生。オルコットのこと、頼んでいいですか? 白式でスキャンしたところ、気を失ってるだけみたいですが」

 

「分かりました〜。保健室に運んでおきますね〜?」

 

「お願いします」

 

 オルコットを抱えて、山田先生は出ていった。あの細腕の、どこにそんな力があったのだろう。

 

「取り敢えず、よくやったな、織斑」

 

「……千冬姉。この場には俺と箒しか居ないんだし、口調を元に戻してもいいんじゃねぇか?」

 

「……それもそうだな。わかった、一夏。…………おっと、私ってこんな感じの喋り方だったか? 久しぶりだから忘れてしまった」

 

「……確かそんな感じだったと思う」

 

「そうか。箒も、改めて久しぶりだな」

 

「はい、千冬姉さま」

 

「はは、相変わらず敬語なのだな」

 

 微笑みながら、千冬姉が言った。

 

「しかしまあ、わざわざ口調を変えることも無いだろうに」

 

「教師には威厳とかが必要なんだよ。あまりフランクな感じでは、生徒が着いてこないからな」

 

「大変そうだな?」

 

「全く、他人事みたいに言ってくれちゃって」

 

「まあ他人事だしな」

 

 頑張れ千冬姉。超頑張れ。心の中で応援しておいた。

 

「あぁ、あと一夏」

 

「何だ?」

 

「ISに関する規則があるから、読んでおいてくれ。その左腕のブレスレットが待機状態だ、呼び出せばすぐ展開できる」

 

「了解」

 

 どさっ、という音とともに置かれた、「IS起動のルールブック」というタイトルの冊子。むしろ、電話帳。紙は辞書のようにぺらぺら、文字サイズはかなり小さい。

 

 これは、少々面倒そうだ。

 

「じゃ、俺はそろそろオルコットのとこ行ってくる」

 

「分かった、行ってこい」

 

「お気をつけて」

 

 言葉に手を振り返して、俺はピットを後にした。

 

 

 




 8月ももう終わりですね。どうも、斎藤一樹です。VSセシリア戦、これで終了です。雪片弐型の解釈とかは色々アレンジかけてます。この作品ではこういう扱いなんだ、と考えてください。

 次回は、セシリアとのお話の回。また内容を修正するかも?



 今回の小ネタ

絶望がお前のゴールだ……仮面ライダーWに登場する某赤い刑事さんの決め台詞。

じゃあ、ちょっとの間だけ――お姫様にしてあげよう……緋弾のアリアより、主人公“遠山キンジ”の台詞から。

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