IS ―Another Trial―   作:斎藤 一樹

11 / 31
11.剣の舞(偽)

 翌日。うん、まあ色々あったよ。結局、俺専用のISが用意されることが正式に発表されたり、それに対して金髪ドリルが絡んで来たり、清香たち以外のクラスメイトと話してみたり。

 

 

 

 そんなこんなで、放課後である。

 

「一夏、準備はいいですか?」

 

 目の前には、剣道着に身を包んだ箒。今は面を外している。うん、剣道着の箒も凛々しくて可愛いな。

 

「おう、いつでもいいぜ?」

 

「その、防具はいいのですか?」

 

 箒は篭手や胴当てを付けているのに対し、俺は飽くまで道着のみ。それに、両腰に一本ずつ竹刀を付けた、特殊な恰好。

 

 真っ当な剣道ではない。それも当然、俺のは剣道ではなく剣術。篠ノ之流剣術に更識家の格闘技術を混ぜ合わせた、実践本位の戦闘術。

 

「ああ、いいんだよ。俺のスタイルはこういうやつだからな。このまま行かせてもらう」

 

「…では……」

 

 箒が面を付け、竹刀を握る。構えは正眼。こちらも左腰から一本引き抜き、正眼に構えつつ言う。

 

「箒、最初に言っておく」

 

「何ですか?」

 

「容赦手加減、一切の必要はない。防具がないから、とか言って油断するな、気を抜くな。君の前に立っているのは、他ならぬ君自身の兄弟子だ。殺すつもりでかかって来い!」

 

「……はいっ!」

 

「……始めっ!」

 

 審判を努めている先輩が言う。

 

 俺達は互いに動かない。互いに隙を伺って、水面下で牽制合戦を繰り広げる。視線で、足の僅かな震えで、指先の細かな動きで、竹刀の切っ先の動きで。

 

 そして。

 

「ハァーっ!」

 

 掛け声を掛けつつ、箒が距離を詰めてくる。

 

 眼前に振り下ろされる竹刀。でも、

 

「……まだ、遅いな」

 

「…………えっ?」

 

 その動揺が命取り。

 

 滑るような歩法で一息に後ろに回り込み、首筋に竹刀の切っ先を軽く当ててから素早く距離を取る。これで、箒は一回死んだ。

 

「…随分と速くなりましたね……」

 

「まあ、ね。かつて君の兄弟子だった男としては、そうそう不様は曝せないだろう? 妹弟子には、さ」

 

「ふふっ。そういうところは変わらないようですが……今日こそ、あなたに勝ってみせます!」

 

「存分に掛かって来い!」

 

「……ハアッ!!」

 

 放たれたのは、胴薙ぎ。竹刀を下から振り上げ、上へと弾くことで対処する。

 

 そこから放たれた上段からの一撃を、今度は竹刀を横に薙ぐ事で弾こうとするが、今度は鍔ぜり合いに持ち込まれる。こうなると、最初に勢いを付けて飛び掛かって来た箒の方が有利ではある。しかし、体重はこちらの方が重いため、拮抗した状態となる。

 

「……どうした? まさか、この程度じゃあないだろう?」

 

 挑発しながら、ぐぐぐ、と力を込めて押し返す。

 

「……当然です。行きますよ?」

 

「応。いつでも来い」

 

 答えた瞬間、箒が離れた。そして、パパパパパアァンッ! と連続して竹刀がぶつかり合う音が響く。

 

「……へぇ、やるようになったじゃないか」

 

「この日、この時のためだけに鍛えてきた、と言っても過言じゃないですからね……!」

 

 面を狙うと見せかけての胴。

 

「随分と一途なこったな!」

 

 右腰の竹刀を左の手で引き抜き、打ち合わせる事で受け止める。

 

「……恋する乙女ですから、…ねっ!」

 

 一瞬だけ後退し、再び打ち合う。一刀の箒に対し、こちらは二刀。単純に考えて手数が倍も違うというのにも関わらず、箒は落ち着いて捌き続けている。箒も強くなったな、昔はすぐに焦れてボロが出やすかったのに。

 

「でも……負ける訳にはいかねぇのよ!」

 

 言葉を交わしながら、互いの振るう剣の速さは加速してゆく。それなのに、箒の表情は喜びを隠しきれないと言った風に笑みを浮かべている。確認する術は無いが、恐らく俺の顔も同じようになっている事だろう。

 

「……いいねぇ、楽しいねぇ! やっぱりいいもんだなあ、こういう斬った張ったのやり取りはよぉ!」

 

「ええ、全くです! やはりあなたではなくてはこうは行きませんからね!」

 

「しかし、そろそろ時間が押してきてる! 名残惜しいが、次で決めさせてもらう!」

 

「……はい。望むところ、と言わせてもらいましょう!」

 

 互いに打ち合いを止め、距離をとる。

 

「いい娘だ。……なら見せてやる。コレが俺のとっておきだ……行くぞ!」

 

 互いが距離をとり、開いた距離は5メートル。それを、瞬間移動が如き疾さで距離を詰め、その勢いのまま竹刀を振るう。そして、

 

 パアァンッ!

 

「………えっ?」

 

 箒が気が付いたときには、もう終わっている。

 

「はい、これで2回死んだ」

 

 箒の後ろ、5メートル。そこから声をかける。

 

「……何をしたんですか?」

 

「分からないか?」

 

「いえ、分かるといえば分かるのですが……」

 

「ああ。要は物凄く速い速さで近付き、胴を薙ぎ、通り抜けただけだな」

 

「……だから防具が無いのですね?」

 

「正解。速度で以て翻弄し、当たる前に避け、受け流し、そうして相手を倒す。それが俺のスタイルだからな。まあ、だからこそ剣道じゃなくて剣術なわけだが」

 

「……成る程」

 

 防具なんて飾りだとは言わないが、俺に取っては邪魔なだけである。偉い人にはそれが分からんのですよ。……適当に思考しているだけなので、深く考えてはいけない。

 

「言ったろう? ……可愛い妹弟子に、無様はさらせん、とな。だから、それなりには鍛えていた」

 

「…貴方は、変わりませんね」

 

「君もな。そうそう、人の本質までは変わらんさ」

 

 言葉で伝わる事がある。でも、それだけじゃない。剣から伝わる事だって、きっとあると思うんだ。

 

 

 




 夏コミ一日目お疲れさまでした、暑い中一般参加して来た斎藤一樹です。

 そんなこんなで、今回の小ネタ。

 剣の舞…サブタイ。元ネタはハチャトゥリアンの組曲、「ガイーヌ」の中の一曲だったと記憶しています。間違ってたらごめんなさい。
 「やっぱりいいもんだなあ、こういう斬った張ったのやり取りはよぉ!」…確かこんな感じの台詞を、機動戦士ガンダム00のアリー・アル・サーシェスというキャラが言っていたような。
 「防具なんて飾りだとは言わないが」「偉い人にはそれが分からんのですよ」…機動戦士ガンダムより、某整備兵の言葉のパロディー。足なんて飾りです、偉い人にはそれが分からんのですよ。



 今回、ガンダムネタ多いな……。それと、今回はFC2から移植するにあたって結構あちこちの表現に手を入れてます。本筋の方には特に手を入れてませんし、伏線に関しても増えたり減ったりはさせてないのでご安心を(?)

 それでは、今晩はこの辺りで。

   二日目は夏コミに参戦出来ない 斎藤一樹

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。