翌日。うん、まあ色々あったよ。結局、俺専用のISが用意されることが正式に発表されたり、それに対して金髪ドリルが絡んで来たり、清香たち以外のクラスメイトと話してみたり。
そんなこんなで、放課後である。
「一夏、準備はいいですか?」
目の前には、剣道着に身を包んだ箒。今は面を外している。うん、剣道着の箒も凛々しくて可愛いな。
「おう、いつでもいいぜ?」
「その、防具はいいのですか?」
箒は篭手や胴当てを付けているのに対し、俺は飽くまで道着のみ。それに、両腰に一本ずつ竹刀を付けた、特殊な恰好。
真っ当な剣道ではない。それも当然、俺のは剣道ではなく剣術。篠ノ之流剣術に更識家の格闘技術を混ぜ合わせた、実践本位の戦闘術。
「ああ、いいんだよ。俺のスタイルはこういうやつだからな。このまま行かせてもらう」
「…では……」
箒が面を付け、竹刀を握る。構えは正眼。こちらも左腰から一本引き抜き、正眼に構えつつ言う。
「箒、最初に言っておく」
「何ですか?」
「容赦手加減、一切の必要はない。防具がないから、とか言って油断するな、気を抜くな。君の前に立っているのは、他ならぬ君自身の兄弟子だ。殺すつもりでかかって来い!」
「……はいっ!」
「……始めっ!」
審判を努めている先輩が言う。
俺達は互いに動かない。互いに隙を伺って、水面下で牽制合戦を繰り広げる。視線で、足の僅かな震えで、指先の細かな動きで、竹刀の切っ先の動きで。
そして。
「ハァーっ!」
掛け声を掛けつつ、箒が距離を詰めてくる。
眼前に振り下ろされる竹刀。でも、
「……まだ、遅いな」
「…………えっ?」
その動揺が命取り。
滑るような歩法で一息に後ろに回り込み、首筋に竹刀の切っ先を軽く当ててから素早く距離を取る。これで、箒は一回死んだ。
「…随分と速くなりましたね……」
「まあ、ね。かつて君の兄弟子だった男としては、そうそう不様は曝せないだろう? 妹弟子には、さ」
「ふふっ。そういうところは変わらないようですが……今日こそ、あなたに勝ってみせます!」
「存分に掛かって来い!」
「……ハアッ!!」
放たれたのは、胴薙ぎ。竹刀を下から振り上げ、上へと弾くことで対処する。
そこから放たれた上段からの一撃を、今度は竹刀を横に薙ぐ事で弾こうとするが、今度は鍔ぜり合いに持ち込まれる。こうなると、最初に勢いを付けて飛び掛かって来た箒の方が有利ではある。しかし、体重はこちらの方が重いため、拮抗した状態となる。
「……どうした? まさか、この程度じゃあないだろう?」
挑発しながら、ぐぐぐ、と力を込めて押し返す。
「……当然です。行きますよ?」
「応。いつでも来い」
答えた瞬間、箒が離れた。そして、パパパパパアァンッ! と連続して竹刀がぶつかり合う音が響く。
「……へぇ、やるようになったじゃないか」
「この日、この時のためだけに鍛えてきた、と言っても過言じゃないですからね……!」
面を狙うと見せかけての胴。
「随分と一途なこったな!」
右腰の竹刀を左の手で引き抜き、打ち合わせる事で受け止める。
「……恋する乙女ですから、…ねっ!」
一瞬だけ後退し、再び打ち合う。一刀の箒に対し、こちらは二刀。単純に考えて手数が倍も違うというのにも関わらず、箒は落ち着いて捌き続けている。箒も強くなったな、昔はすぐに焦れてボロが出やすかったのに。
「でも……負ける訳にはいかねぇのよ!」
言葉を交わしながら、互いの振るう剣の速さは加速してゆく。それなのに、箒の表情は喜びを隠しきれないと言った風に笑みを浮かべている。確認する術は無いが、恐らく俺の顔も同じようになっている事だろう。
「……いいねぇ、楽しいねぇ! やっぱりいいもんだなあ、こういう斬った張ったのやり取りはよぉ!」
「ええ、全くです! やはりあなたではなくてはこうは行きませんからね!」
「しかし、そろそろ時間が押してきてる! 名残惜しいが、次で決めさせてもらう!」
「……はい。望むところ、と言わせてもらいましょう!」
互いに打ち合いを止め、距離をとる。
「いい娘だ。……なら見せてやる。コレが俺のとっておきだ……行くぞ!」
互いが距離をとり、開いた距離は5メートル。それを、瞬間移動が如き疾さで距離を詰め、その勢いのまま竹刀を振るう。そして、
パアァンッ!
「………えっ?」
箒が気が付いたときには、もう終わっている。
「はい、これで2回死んだ」
箒の後ろ、5メートル。そこから声をかける。
「……何をしたんですか?」
「分からないか?」
「いえ、分かるといえば分かるのですが……」
「ああ。要は物凄く速い速さで近付き、胴を薙ぎ、通り抜けただけだな」
「……だから防具が無いのですね?」
「正解。速度で以て翻弄し、当たる前に避け、受け流し、そうして相手を倒す。それが俺のスタイルだからな。まあ、だからこそ剣道じゃなくて剣術なわけだが」
「……成る程」
防具なんて飾りだとは言わないが、俺に取っては邪魔なだけである。偉い人にはそれが分からんのですよ。……適当に思考しているだけなので、深く考えてはいけない。
「言ったろう? ……可愛い妹弟子に、無様はさらせん、とな。だから、それなりには鍛えていた」
「…貴方は、変わりませんね」
「君もな。そうそう、人の本質までは変わらんさ」
言葉で伝わる事がある。でも、それだけじゃない。剣から伝わる事だって、きっとあると思うんだ。
夏コミ一日目お疲れさまでした、暑い中一般参加して来た斎藤一樹です。
そんなこんなで、今回の小ネタ。
剣の舞…サブタイ。元ネタはハチャトゥリアンの組曲、「ガイーヌ」の中の一曲だったと記憶しています。間違ってたらごめんなさい。
「やっぱりいいもんだなあ、こういう斬った張ったのやり取りはよぉ!」…確かこんな感じの台詞を、機動戦士ガンダム00のアリー・アル・サーシェスというキャラが言っていたような。
「防具なんて飾りだとは言わないが」「偉い人にはそれが分からんのですよ」…機動戦士ガンダムより、某整備兵の言葉のパロディー。足なんて飾りです、偉い人にはそれが分からんのですよ。
今回、ガンダムネタ多いな……。それと、今回はFC2から移植するにあたって結構あちこちの表現に手を入れてます。本筋の方には特に手を入れてませんし、伏線に関しても増えたり減ったりはさせてないのでご安心を(?)
それでは、今晩はこの辺りで。
二日目は夏コミに参戦出来ない 斎藤一樹