現在、17時45分。箒は一時間半ほど寝ていたことになる。結局、掴まれた裾を振りほどけなかった俺は、未だに箒の隣に座っている。することがないので、箒の頭を優しく撫でながら。
しかし、そろそろ起こさないと夕食に間に合わない。可哀相だが起きてもらうとしよう。
「箒~? そろそろ起きれるか~?」
肩を揺さぶりながら声を掛けるが、反応はない。
「……箒~? 起きないとキスするぞ〜? 胸揉むぞ〜?」
「…………」
駄目だ、照れ屋さんで初心な箒がここまで言っても無反応だということは、完全に熟睡してる。どうしようか。
「…………それ」
くすぐってみた。セクハラにならない程度に、腹を。
「――――――ッ!」
箒の身体が、びくん、と震えた。そして、ぱちり、と目を開けた。
「や、おはよう」
爽やかに微笑みかけながら、何事もなかったかのように言った。
「な、なな、何してるんですか~っ!?」
返事は拳だった。甘んじて受けた。
「ところで箒さん」
「……………………何ですか」
「……もしかして怒ってらっしゃる?」
「…………もしかしなくても、怒ってます」
「…………どうしたら許してくれるかな?」
「…………許してなんか、あげませんから」
つん、とそっぽを向いて言う箒。しかしその手が未だに俺の制服の裾を握っていることに、果たして彼女は気付いているのだろうか。
その後、箒のことを何とか宥めて、どうにか許してもらった。箒の方から提示された条件は、今度一緒に買い物に行くこと。デート? と聞いたら、顔を真っ赤にして「違います!」と叫んでいた。ムキになっちゃって、まあ。
「ところで、どうしたんですか? あんな起こし方をするぐらいなのだから、さぞ重要な用件なのでしょうね?」
ジト目で箒が言う。これは、大分根に持っていそうだ。
「ああ。そろそろ晩ご飯の時間だからな。起こした方が良いかと思って。食いっぱぐれたくはないだろう?」
「ま、まあそうですが…………」
「んじゃ、飯食いに行こうぜ」
「う、うん…………?」
……箒さん、ごまかされてますよ? 幼なじみの将来が激しく不安になってきた、今日この頃。
食堂にて。
「そういえば箒、部活とかどうする?」
「私は……そうですね、やっぱり剣道部です。一夏は?」
「俺は……」
物凄く多くの人がこっちに注目し、耳を傾けている気がした。
「入らない、と言うか入れない、と言うか……。まあ、そんな感じだ。ここ、基本的に女子部しかないからさ」
まあつまるところ、そういうことである。入ろうにも入れない。例外は料理部や茶道部、コンピューター部などだが、そういった部活には入る予定はない。
そういえば。
「剣道部で思い出した。なあ箒、」
「何ですか?」
もっきゅもっきゅとご飯を食べつつ、箒が首を傾げて答える。ああ、癒される……。って、そうじゃなくて。
「……やらないか?」
太い声を出して、どこぞの青いツナギの人の声真似をしつつ言う。
「何をですか?」
駄目だ、ネタが通じてない。諦めて普通に言う。
「久々に、剣での試合を」
「ああ、そういうことですか。いいですね、いつやります?」
「……明日の放課後とかどうだい?」
「大丈夫です、空いてます。場所は……後で部長に相談して、剣道場を借りられるかどうか聞いてみます」
「ん、十全。じゃあ、任せるよ?」
「はいっ! 楽しみです!」
弾んだ声で箒は言った。弾けるような微笑みを、その顔に浮かべながら。
……そんなに楽しみなのか…………。
まあ、何はともあれ。
「「ご馳走様でした」」
晩御飯? とっくに食べ終わってるよ、俺は。
自室にて。
「そうだ、この部屋のルールとか決め手おいた方がいいかな?」
「そ、そうですね。えっと、シャワーはどうします?」
「部活の後使いたいだろ? 先に使っていいぞ。原則的に箒が7時から8時。俺が8時から9時で、場合によってはいろいろと変えることにしよう。
それでいいかな?」
「はい、問題ないと思います」
「で、ベッドは箒が窓側、俺が廊下側。要は今のままってことだけど、それで良いね?」
「はい。それと…………」
夜は、更けて行く。
どうもこんばんは。リアルの方の都合で数日ぶりの更新となりました斎藤一樹です。
サブタイにも使われている「やらないか?」のネタは、どこぞの青いツナギを着たいい男のアレで合ってます。阿部さんネタとか大好きですが私はノンケです。
一夏君の部活の話。IS学園で唯一の男である訳で、だからこそ部活選びにも悩みが。身体能力が男女間でどうしても差がつく事は致し方ない事と言えるでしょうし、その他にも女子の群れに男子が一人だけ入るとなると色々な問題点が出てきそうですよね。いや、基本的に女子しかいないIS学園にいる時点で今更な気もしますけど。
まあそんなこんなで、一夏君は部活には入らないと決めているようです。部活やらずに鍛えたい、というのもあるかもしれません。メタ的な話をするならば、一夏君が生徒会に入れるようにするための布石という意味も含んでいますけれど。
それでは今回はこのあたりで。