IS ―Another Trial―   作:斎藤 一樹

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 初めまして。斎藤一樹と申します。本作品は当初にじファンで連載していたもので、にじファン閉鎖に伴いFC2小説へと移行していたものを本サイトに転載する形となっています。優しい目で見守っていただけると幸いです。


追記:

2018/07/31 全面改稿
一先ず第一話のみ、改稿し終わったものに差し替えておきます。これ以降の話はもう暫くお待ちください。m(_ _)m


1.始まりはいつも突然

 懐かしい、夢を見た。

 

 

 

「……千冬、一夏。すまないな、お前達とはここでお別れだ。これからはお前達は〈賢木(さかき)〉ではなく〈織斑(おりむら)〉として生きるんだ」

 

 ……お父さん?

 

「……ごめんね、二人とも。でも、もう時間が無いの。なにかあったら、お隣りの篠ノ之さんに助けてもらいなさい」

 

 ……お母さん?

 

 隣を見ると、僕より八つ年上の千冬姉ちゃんは両の手をぎゅっと握りしめ、涙を必死に堪えるように俯いていた。

 

「……なんでお姉ちゃんも黙ってるの? ねぇ、何とか言ってよ…。お父さんもお母さんも居なくなっちゃうんだってさ……。どうして? ねぇ、誰か何か言ってよ…………ッ!」

 

 家の玄関で、叫び声が虚しく響いた。

 

 

 

 ───それが、俺が覚えている、父さんと母さんの最後の記憶。

 

 

 

 

 

 ピピピピピ、と。

 

 枕元に置いておいた目覚まし時計の音に、ゆっくりと意識が引き上げられていく。微妙にぼんやりとした頭で辺りを見回せば、寝る前と何一つ変わらない見慣れた自室だった。

 

 視界が滲んでいたので目元に手をやると、何故か濡れていた。不思議に思い少し考えた後に、先程まで見ていた夢を思い出した。どうやら無意識の内に涙を流していたらしい。

 

「……夢、か」

 

 それにしても懐かしい夢だった、と思いながら時計に目をやると時刻は午前6時。ごそごそとベッドから這い出して最低限外に出られる格好へと着替えてから、部屋の隅へと立て掛けてある木刀を手に取り、庭へ出て素振りを始める。いつも通り百回やったところで素振りをやめ、家の中へと戻る。

 

 今日は高校の入学式。間違っても初日から遅刻するわけには行かないので、日課の一つであるジョギングは諦める事にする。もしそれが原因で遅刻でもしたら目も当てられない。

 

 部屋の中へと戻った俺はそのまま風呂場へと向かい、途中の洗濯籠に着ていたシャツ等を放り込んでからシャワーを浴びるべく浴室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 シャワーで汗を流し終えて自室に戻り、昨晩寝る前にハンガーにかけて部屋の隅に吊して置いた制服に袖を通す。多分これから3年間お世話になる服だ、大事に扱わなきゃな。

 

 ……IS学園。

 

 それが、今日から俺が通う高校の名前だ。世界で唯一の、IS(インフィニット・ストラトス)について専門的に学ぶための学校、IS学園。中学までの友人たちと離れて俺はそこに通うことになったわけだが、とは言え幼馴染みもそこに通っているらしいので少しは気が楽ではある。

 

 相も変わらず漫然と思考しながらも、今までの生活で染み付いた習慣は身体を勝手に動かして料理を作っていく。暫くすると湯気を立てた朝食が机の上へと並んだ。適当に作った割りには美味そうだ。

 

 以前は姉である千冬姉と合わせて二人分の食事を作っていたが、その千冬姉も就職してからは長期休暇を除けば滅多に帰ってこなくなった。そんな一人暮らし生活が何年も続けば、一人きりでの朝食も今となっては慣れたもので。幼馴染みの一人から手解きを受けた料理の腕も上がり、それなりにはまともなものが作れるようになったと自負している。

 

 と言っても、自分一人のためにいつも手間のかかる料理を作るモチベーションは無いので、朝とかは結構簡単なものが多いが。前日の料理の残りがあったら豪勢な部類と言える。

 

 そんな俺の料理についてはさておくとして。

 

 IS学園である。

 

 そもそもISとはとある1人の天才が開発した、宇宙開発用の極めて高性能なパワードスーツだった(・・・)。それが1つの大きな事件とそれに伴うあれこれと面倒な事情の果てに、今では軍事転用が禁じられて競技(スポーツ)用という形に落ち着いたのだった。

 

 そんなISの操縦方法、或いは整備方法について学ぶのがIS学園という教育機関だ。一般的な高等学校と同じ3年間という期間で、普通の高校と同じ内容の教育とISについての知識を叩き込む都合上、IS学園は全寮制である。

 

 俺は特殊な立ち位置なので、例外として通学となるらしいが。

 

 それでもいつ寮に移る事になっても大丈夫なようにと、ここ数日は冷蔵庫の中身を使い切るようは献立を作っていた。その甲斐あってか、今食べている朝食で野菜や肉は無事に食べきる事が出来た。調味料とかは残っているが、まあそちらは暫く持つから良いだろう。

 

 む、また話が料理の方へと流れてしまった。どうも食事中は思考がそちらに流れてしまっていけない。

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終わり一息つく頃には、そろそろ家を出なければ行けない時間となっていた。

 

 IS学園は本州からそう離れていない洋上に建造された人口島(メガフロート)の上に作られている。今日のところはまず家から最寄り駅まで歩いて向かい、そこから電車とモノレールを乗り継いで向かうことになる。

 

 洋上のメガフロートという立地により、本州からの移動手段は本州から延びるモノレールか船、またはヘリコプターに限定される。恐らく侵入者を防ぐためという防犯上の理由もあるのではないだろうか、等と想像してみるが、どうだろう。IS等が襲撃してきた場合等は立地が意味を為さないかも知れないが、多分外部のマスコミ等からの干渉をある程度シャットアウトするための作りなのだろうとも思う。

 

 襲撃者相手にはまた別の防衛機構があるのかも知れないのだし。

 

 IS学園は各国から最新鋭のISが装着者である生徒と共に送り込まれる、新型機の実験場としての側面もある……らしい。この辺りは実際にこの学校に通っている幼馴染みから聞いた話だが。

 

 つまり、IS学園とは機密情報が大量に存在する場所とも言える。それを守るための防犯対策もきっと万全だろう。

 

 

 

 

 

 モノレールを降り駅から出て歩き始めると、程なくして立派な校門が目に入る。言うまでもなく、IS学園のものである。その前で、一人の女性が立っていた。

 

「織斑一夏くんですね?」

 

「はい」

 

「私はこのIS学園の教員の山田真耶です。よろしくお願いしますね?」

 

 そう名乗った女性……山田先生は微笑みながらぺこりとお辞儀をして、そしてそれに合わせてゆさりと2つの山が震えた。正しく震える山である。

 

 こいつは、エースだ。

 

 その(バスト)は豊満であった。

 

「よろしくお願いします、山田先生。以前、テストの時にお会いしましたよね?」

 

「あら、覚えててくれたんですね」

 

 その時は山田先生も忙しかったのか、ちらりと顔を会わせた程度だったが。

 

 じゃあ行きましょうか、案内しますねと言って山田先生が歩き出す。山田先生曰く他の新入生は数日前から寮に入っているらしいので、今日からIS学園に来るのは俺だけということらしかった。

 

 山田先生の後に続いてIS学園へと歩いていくが、それはそれとして周りからの視線と場違い感がすごい。予想してはいたものの、いざこれだけの視線を向けられるとなると少なからずプレッシャーのようなものを感じざるを得ない。

 

 場違いの原因は明白である。

 

 周りが全員、女子だからだった。

 

 ……………。

 

 周りにいるのが全員、女子なのである。

 

 見渡せば、周りはどこも女子、女子、女子。そしてその中に混じるたった一人の男というのが、他でもないこの俺こと織斑一夏であるのだった。女子高の中に一人だけ男子高校生が紛れ込んだ状態、というのが比喩抜きで現在の状況を表したそのものズバリなフレーズである。

 

 ……さて。ISというものが極めて高性能なパワードスーツである、と言うのは先程述べた通りであるが。そんなISにはたった1つ、致命的な欠点があった。出来てしまった。

 

 ISは女性にしか動かせない。それがISの唯一にして最大の欠点であり、……宇宙開発用としては致命的な汎用性の低下を招いてしまったと開発者が悔やんでいた点でもある。

 

 兎も角。

 

「ISは女性にしか動かすことが出来ない」というのが条件というか一般的な認識であった。俺もこの間までそう思っていた。

 

 つまり、必然的にそのISに関して学ぶこのIS学園も、実質的には女子校だということである。名目上は共学となっているけれど。整備科とかは男子生徒が居ても良いんじゃないかと思わないでもないが、そういったケースは今のところ未だ無いらしい。

 

 まあ、その、なんだ。

 

 詰まるところ俺、織斑一夏は。

 

 世界で初めてにして現状では唯一の、ISを動かせる男という存在であるらしいのだった。

 

 貴重なモルモットとも言う。

 

 見知らぬ人々から遠巻きに眺められている現状を鑑みれば、パンダとも言えるかもしれない。

 

 願わくば実験用のモルモットじゃなくて女の子にちやほやされるパンダで居たいものだ、とか考えてみるが。より正確に言うなら楽に生きれそうなパンダでありたい、というのが偽らざる本音というやつなのだが。

 

 まあ無理なんだろうなぁ、と波乱が待ち受けているであろうこれからの高校生活を思い浮かべ。

 

 「この立場、誰か変わってくれないものだろうか」などと思いながら、俺は天を仰ぎつつ内心で深い溜め息をついた。

 

 空は青く遠く、遥か彼方まで広がっていた。

 

 




 今回の小ネタ

始まりはいつも突然……仮面ライダー電王のOP、AAAのCLIMAX JUMPのワンフレーズ。

 ご意見ご感想、質問など受け付けています。お気軽にどうぞ! 質問に関しては、あとがきで質問コーナーを設けてみようかと思っています。これからもよろしくお願いします。





 前書きの通り、全面的な改稿及び追記を行いました。今後順次差し替えを行っていく予定です。

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