赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.24 修正


第十九話 優しい魔法少女

Side:紫藤イリナ

 

 小父さまが呼び掛けたのが切っ掛けで、兵藤家・紫藤家・シトリー家・グレモリー家・フェニックス家合同の顔合わせがイッセーくんの家で開催された。イッセーくんを含めた父親同士で和やかに会話をしていると、パパがアウラちゃんから「トウジお爺ちゃん」と呼んでもらえた事に喜び勇んで暴走してしまい、悪魔の皆さんにとんでもないご迷惑を掛けてしまった。

 ……全く。パパったら、相変わらず暴走しちゃうんだから。しかも、よりにもよってイッセーくんの目の前でやっちゃったから、私はもう恥ずかしくてたまらなかった。でもだからといって、私がイッセーくんと一緒に「もう少し状況を考えて」とパパを窘めた時の口調がかなりキツイものになったのはけして私怨からではない。……ないって言ったら、ないのだ。

 その後、父親席ではイッセーくんの昔話で盛り上がっていた。どうも私達がこの家に来るまでの間、小父さまや小母さまから幼い頃のイッセーくんについて話を聞いていたらしい。その途中、アウラちゃんがイッセーくんと何やら話をした後、許可をもらったのか元の姿と大きさに戻ると、こちらの方に飛んできた。

 

「ママ~」

 

 私にそう呼び掛けるアウラちゃんを私は優しく抱き止めると、早速尋ねてみる。

 

「どうしたの、アウラちゃん?」

 

 すると、アウラちゃんはこんな事を言ってきた。

 

「あのね。あたし、昔のパパの事はアリスお姉ちゃん達からいっぱい聞いてるから、今のパパ達のお話しって知ってる事ばかりなの。それだったら、折角レヴィアたんやライザー小父ちゃんがお家に来てくれてるし、もっといっぱいお話ししたいなって思って、それでパパに言ってこっちに来たの」

 

 ……アウラちゃんが一か所にじっとしてられないのは仕方がないとしても、悪魔勢力のトップである魔王の事を呼び捨てというのはいくら何でも不味いんじゃないのかな?

 

 そう思った私はアウラちゃんを窘めようとしたんだけど、その前に呼び捨てにされたご本人から説明があった。

 

「いいのよ、アウラちゃんのお母さん☆ 魔法少女に憧れてるアウラちゃんには、魔法少女として「レヴィアたん」って名乗ってるから☆ 流石に公式の場ではちょっと不味いけど、その辺はお父さんがあぁいう人だから、ちゃんと躾けてると思うの。だから、アウラちゃんの事、怒らないであげてね☆」

 

 ……そういう事なら、こちらから特に何も言う事はなかったので、私は納得する事にした。すると、ソーナが少し驚いた表情で私に話し掛けてくる。

 

「イリナ。まさかお姉様から「アウラちゃんのお母さん」と呼ばれても、何ら動揺せずに受け入れてしまうとは思いませんでしたよ」

 

 ソーナからこう言われた事で、私は初めてその事実に気づいた。……けれど、その事実を理解しても不思議と「恥ずかしい」といった感情は少しも湧いて来なかった。

 

「……確かに、ソーナの言う通りね。でもそれって、私にとって「アウラちゃんのお母さん」である事が極々自然で当たり前の事になってるって事だから、私は凄く嬉しいわ」

 

 私がソーナに言われて改めて感じた事をそのまま伝えると、ソーナは納得すると共にイッセーくんに今の気持ちを教える事を勧めてくれた。

 

「そうですか。そういう事なら、今のイリナの気持ちを一誠君に伝えてあげて下さい。一誠君は、きっと喜んでくれると思いますよ。……ですがこうなってくると、今後の戦略を根本的に見直す必要がありますね……」

 

 ……ただ、そうした後でソーナが何やら良からぬ事を口にしているみたいだったけど、今は取りあえず無視する事にした。そんな会話をソーナと交わしていると、レイヴェルさんのお兄さんでイッセーくんの友達でもあるライザーさんが私とアウラちゃんを見比べて、その感想を私に伝えてきた。

 

「アウラちゃんのお母さん、か。先程グレモリー卿が「一誠に似ている」と仰っていたが、こうして並んでみると確かに君にも似ているな」

 

 このライザーさんの感想に私は少々首を傾げてしまった。……アウラちゃんの顔つきの何処に私の要素があるのか、私には解らなかった。

 

「……そんなに私に似ていますか? イッセーくんにはよく似てると思いますけど」

 

 私がそう尋ねると、ライザーさんは少し苦笑を浮かべながら丁寧に答えてくれた。

 

「確かに基本的な顔立ちは一誠なんだが、目元や口元、それに笑った時の表情なんかは明らかに君に似ているよ。……それにしても、一誠め。こんなにいい女が既にいるんなら、せめて俺にくらいは教えてくれてもいいものを。何て友達甲斐のない奴なんだ、アイツは」

 

 こんな風に悪態を()いているライザーさんだけど、本気で言っている訳じゃないのは私でも解る。……だって、ライザーさんの顔は明らかに笑っているのだから。

 

 こんな感じで、私達もイッセーくんやパパ達と同じ様に会話が弾んでいたんだけど、パパ達が今日の公開授業で撮ってきた映像を皆で見ようという話になった所で、はやてちゃんにソーナ、レイヴェルさん、そしてリアスさんの顔色が一気に変わった。そして、テーブルに座っていたはやてちゃんにソーナ、リアスさんの三人は顔を俯かせて何やら祈り出し、レイヴェルさんもどこかそわそわしていて落ち着きがなかった。でも、私にとって実はこれが人生初の授業参観だったので、私以外から見た私の授業風景がどんなものなのかがちょっと気になるし、学年が違う四人がどんな感じで授業を受けているのかを知る事ができるので結構楽しみだったりする。ソーナの姉であるセラフォルーさんも私と同じ様な感じで、どうやらソーナの晴れ姿を他の皆にも見てもらいたいらしい。そして、そんな私達と他の四人の反応の落差を見て、ライザーさんはニヤニヤと少しいやらしい笑みを浮かべていた。

 

 ……何がそんなに面白いんだろう?

 

 私はそう思ったんだけど、それも観賞会が始まるまでだった。

 

 イッセーくんのリクエストで、最初ははやてちゃんだった。はやてちゃんのいるクラスの授業参観の対象となったのは家庭科で、カレーの調理実習を行っていた。映像の中では皆たどたどしい手つきで、でも楽しそうにカレーを作っていた。その中でも、はやてちゃんは料理部部長の名に恥じない活躍を所々で見せていて、パパ達はそんなはやてちゃんに感心しきりだった。一方、例の四人と言えば、ソーナ・レイヴェルさん・リアスさんの三人は安堵の表情を浮かべているけど、はやてちゃんは恥ずかしさの余りに顔が完全に真っ赤になっている。

 

 ……あぁ、これは確かに恥ずかしいわね。

 

 何故四人があんな反応をしていたのか、今になって私も理解できた。家族に見られるだけならともかく、こうして他の人達からも見られるのは確かに相当キツイものがある。

 

 ……これ、私の番になったら一体どうなるの?

 

 もう間もなく訪れる事態にけして小さくはない不安を抱いてしまった、その時だった。……自ら撮ったはやてちゃんの映像を見ていた小父さまが、突然泣き出したのは。当然、兵藤家以外の皆は驚いてしまったけど、つい最近になってはやてちゃん本人から話を聞いた私には解った。

 

 あれは、愛する娘が大きなハンデを乗り越えた事に対する歓喜の涙なのだと。

 

 そして、父親席の方ではイッセーくんが小父さまが男泣きしている事情を説明している。一方、こちらでは当の本人であるはやてちゃんが自ら説明した。

 ……今でこそこうして二本の足で立って歩いているけど、昔は車椅子の上で生活していたと。そして、はやてちゃんから衝撃の事実が語られた。

 

「実はわたし、小さい頃にホントの両親に死なれてからアンちゃんと出逢う三年前まで、ずっと独り暮らしやったんです」

 

 これを聞いた時、ライザーさんは特に反応していなかったけど、他の皆は揃って唖然としている。リアスさんに至っては正に信じられないと言った表情で、はやてちゃんに「それ、本当なの?」と尋ねていた。何故なら、大人の保護下にない小学生あるいは未就学の女の子が独り暮らしをするなんて事、日本ではけしてあってはならない異常事態なのだから。実際はヘルパーさんが時折訪問していたので純粋な独り暮らしという訳ではなかったみたいだけど、それでも日頃の家事は基本的に自分で一通りこなしていたと、本人から聞いている。

 

 ……この頃には、既に原因不明の下半身不随に陥っていた身の上で。

 

 イッセーくんも、この話を初めて聞いた時には完全に言葉を失ってしまったらしい。でも他の皆とは異なり、ライザーさんの一見冷淡に見える反応もけしておかしなものではないと思う。

 ……これはイッセーくんから聞いたんだけど、冥界では都市から少し離れると、幼い時に親と死に別れても周りの大人に頼る事ができずに独り立ちして生きていかなければいけないケースが割と多いらしい。それを踏まえると、はやてちゃんが幼い頃から独り暮らしをしていた事も、私にとっては異常事態でも冥界で暮らしているライザーさんにとっては何処にでも転がっている様な極々有り触れた事だったんだと思う。一方、冥界出身である筈の他の皆の反応が私達とほぼ同じだった事については、日本の風習にある程度馴染んでいるのと、基本的に皆「優しい」人達だからだろう。

 

「あん時は、ホントにつらかった。夢も希望もなく、ただその日一日を一人ぼっちで過ごしていく。ただそれだけを重ねていく毎日。……当時のわたしはよう自殺せんかったなって、自分でも思います。お空のお星様になったお父さんやお母さんに会いに行きたい。そんな風に思うても、ちっともおかしゅうなかったんやから」

 

 ここではやてちゃんが当時の心境を告白すると、皆が痛ましげな表情を浮かべた。悪魔の中でも特に情愛が深いというグレモリー家の出であるリアスさんはそれが特に顕著で、きっと「もっと早く出逢っていれば」と思っているのだろう。一方、ライザーさんははやてちゃんの肩をポンと叩くと、「頑張ったんだな」とただ一言だけ声を掛けた。きっと、変な同情はしない方がいいと判断したのだろう。「優しさ」と「甘さ」は違うって事を良く解っている人だと思う。

 でも、もし当時のはやてちゃんと全く同じ状況に陥っていたら、私はそれに耐えられただろうか?私は自分にそう問いかけてしまったけど、答えはきっと「否」だと思う。当時のはやてちゃんと同じ年齢だった時の私は、はやてちゃんほど心が強くなかったから。

 ……はやてちゃんの話は続く。

 

 そんな一人ぼっちの毎日を一年、二年と重ねながら迎えた、三年前の母の日。当時住んでいた家の隣町で評判になっていた翠屋という喫茶店のシュークリームに惹かれて、電車を使って一人その店へと向かったものの、その途中で誤って歩道から車椅子の車輪が外れてしまい、そのまま車道へと投げ出されてしまったのだという。

 

「そんな時、一人の男の人がわたしの体を抱えて歩道に戻してくれたんです。その人はわたしを歩道に座らせてから倒れてた車椅子を起こして、特に不具合がないのを確かめたら、そのままわたしを座らせてくれました。そして、わたしの事情を聞いたら、その場で結婚前は児童福祉の仕事に就いとった経験のある自分のお母さんに連絡入れて、そしたらもっと詳しい話を聞きたいという事になって、同じ目的で向こうとった翠屋まで私の車椅子を押して一緒に連れて行ってくれたんです。……その人が、アンちゃんでした」

 

 その後、翠屋で合流した小父さま達にも話をした結果、小母さまが昔取った杵柄をフルに使って書類手続きの全てをあっという間に済ませて、はやてちゃんを養女として迎え入れたのだという。

 ……その日がちょうどはやてちゃんの誕生日の前日で、小父さまから「これがはやてちゃんへの初めてのプレゼントだ」と言われた時には嬉しさの余りに泣いてしまったと、はやてちゃんは少しだけ照れた様に話していた。でも、はやてちゃんの話はここからが本番だった。

 はやてちゃんが兵藤家に養子として迎え入れられた、その日の夜。イッセーくんははやてちゃんに下半身不随の原因について説明した。はやてちゃんの体を蝕んでいたのは、幼い時に気が付いたら側にあり、何度か捨てようとしてもいつの間にか戻って来ていたという正に曰くつきの本が身体機能に影響が出るレベルで魔力を奪っていたからで、その表紙にはドイツ語の様な言葉で「闇の書(Buch der Dunkelheit)」と書かれてあったらしい。そして、その時は「魔法使い」と称したイッセーくんがはやてちゃんを救う為に使用した魔法こそが。

 

「……フルムーンレクトなの?」

 

 その通りである。……ただ、その魔法の名を口にしたのは、はやてちゃんとは初対面で何も知らない筈のセラフォルーさんだったのには驚いた。

 

「お姉様! 何故フルムーンレクトをご存知なのですか!」

 

 どうやらソーナも同じだったみたいで、驚きの余りについ勢い込んでセラフォルーさんに問い質してしまったけど、セラフォルーさんの答えは特に変なものでもなかった。

 

「だって、以前イッセー君がシトリーのお邸に来た時に使っている所を実際に見たし、詳しい話を聞いた後で術式も教えてもらったから☆ ……でも本当に凄いのよ、あの魔法☆ 上級でもそれなりの力を持った悪魔の魔力で操られていた魔獣の群れを、み~んなまとめて助けちゃうんだもん☆」

 

 こうしてフルムーンレクトを知っていた理由をソーナに話し終えたセラフォルーさんは、はやてちゃんに話の続きを促してくる。

 

「それで、それからどうなったの?」

 

 セラフォルーさんに促される形で、はやてちゃんは話を再開した。

 フルムーンレクトの「荒らぶる心を鎮め、邪な力を祓う」月の光を浴びた闇の書は長年溜め込んできた怨念を全て浄化され、更に万全の状態に回帰するという特性によって本来の姿である「夜天の書(Buch der Nachthimmel)」に戻ったのだという。そして、その後すぐに二人の前に現れたのが。

 

「リヒト殿とその奥方なのですね?」

 

 レイヴェルさんがそう確認すると、はやてちゃんは頷いた。

 

「そうです。ただ、当時のリインは管制プログラム、リヒトは防衛プログラムといった自分の担当する機能の名称だけやったから、わたしとアンちゃんで今の名前を付けたんです」

 

 ……この事実をレイヴェルトに宿っていた一誠君の記憶を見て知った時、私は愕然とした。余りに高度な科学は魔法と同じとはよく聞くけど、まさか実際にそれを目の当たりにするとは思わなかった。そして、レイヴェルさんは半ば呆然とした様子ではやてちゃんに確認を取る。

 

「プ、プログラム? あれ程までに剣に秀で、またお人柄も尊敬に値するリヒト殿が、本当にプログラムなんですの?」

 

 そのレイヴェルさんの問い掛けに、はやてちゃんは少し逡巡していたけど、やがて意を決した様に答えを返した。

 

「……そうです。二人は、魔法の術式をプログラムとして専用の演算装置を通して発動したり、次元間移動を個人で行ったりする様な高度な魔導科学文明によって生み出された、魔力で形成した実体を持つ自律思考型の魔導プログラム。……だったんです」

 

 はやてちゃんがそう言うと、レイヴェルさんは言葉尻を捕まえて改めて尋ねる。

 

「魔導プログラム、だった?」

 

 レイヴェルさんにそう尋ねられたはやてちゃんは、一体どういう事なのかを説明し始めた。

 

「わたしが闇の書の呪いから解放されてからしばらくして、アンちゃんがこんな事を言い出したんです。「いくら自律思考型とはいえ、命令実行が至上命題であるプログラムにしては、自我がはっきりと確立されているのは流石におかしい」と。それで、アンちゃんがロシウ先生や計都(けいと)さんと一緒に調べてみたら、二人が魂を持っとる事が解ったんです。そやから、今の二人はいわば魔導生命体と言うべき存在だって、アンちゃんは言ってました」

 

 ……物に、魂が宿る。

 

 日本生まれでよく昔話に聞かされていた私にとっては割と馴染みのあるこの事実に対して、リアスさんは以前聞いた事を思い出してそれを言葉にした。

 

「そういえば、長年使われ続けた道具には魂が宿って、妖怪化する事があるって、朱乃から聞いた事があるわ。確か、九十九神だったかしら?」

 

 ……リアスさんの女王(クィーン)である朱乃さんの姓を何処かで聞いた事がある気がしたけど、今思い出した。確か、日本で古代から続く退魔師一族の一つが朱乃さんの姓と同じ姫島家だった筈だ。だから、朱乃さんは日本固有の神秘に関して特に造詣が深いのだろう。十字教関係者だから本来なら関わりなんて私にはなかったけど、聖剣使いに選ばれた時にパパから真実を知らされた事でイッセーくんの力になる事を決意して、一から色々と勉強し直した結果だった。そして、はやてちゃんもリアスさんの発言を肯定した上で話を続ける。

 

「アンちゃんもそんな事を言ってましたし、それ以外にも闇の書に殺された所持者達の怨念が何百年も蓄積されていった事で、闇の書そのものが霊穴っちゅう霊的なパワースポットに近い状態になっていたのも理由の一つだって、そっち方面の専門家である計都さんは言ってました。ただ、そんな怨念塗れの状況で二人が「魔」に堕ちんかったのは、絶望の中でもなお心が折れんかったリヒトの存在が大きかったそうです。……そやから、わたしはそんな二人の主である夜天の王の名に誇りを持ってますし、たとえ神様や魔王さんであっても二人を絶対に否定させん様にする事が、夜天の王であるわたしの務めやと思うとるんです」

 

 こんな風に他人の為に一生懸命になれる所を見る限り、例え血が繋がってなくても、はやてちゃんはやっぱりイッセーくんの妹だった。そして、はやてちゃんは自分の夢について語り出す。

 

「でも、わたしがそこまでリインやリヒトの事を強う思える様になれたんは、アンちゃんがわたしの絶望を希望に変えてくれたからなんです。それは、きっと凄く幸運な事なんやって思います。そやから、わたしは今、二つの夢を持っとるんです。一つは、体の不自由な人を支えられる介護の仕事に就く事。そしてもう一つは、「優しい魔法使い」になる事。絶望を希望に変える、誰かにとっての最後の希望。そんな、アンちゃんみたいな「優しい魔法使い」に。……まぁ、今はまだ見習いもえぇところですけどね」

 

 ……優しい魔法使い。

 

 確かに、フルムーンレクトやトータルヒーリングの様な誰かを助ける魔法を自ら編み出したイッセーくんは、正に「優しい魔法使い」そのものだ。尤も、イッセーくんには悪を懲らしめられる強さもあるから、きっと「強くて優しい魔法使い」になっちゃうんだろうけど。私がはやてちゃんの夢を聞いて、そう思っていた時だった。

 

「それじゃあ、はやてお姉ちゃんはパパみたいな「優しい魔法使い」を夢見て頑張る魔法少女なんだね!」

 

 私に抱き上げられていたアウラちゃんが、目を輝かせながらはやてちゃんに向かってそう言ったのは。

 

「……へっ?」

 

 余りに予想外な所から予想外な事を言われたのか、はやてちゃんは一瞬言葉を失っていた。……でも、それがいけなかった。

 

「……ウン、そうよ。アウラちゃんの言う通りだわ」

 

 アウラちゃんの言葉に感銘を受けて、アウラちゃんに負けないくらいに目を輝かせてはやてちゃんを見始めたのは。

 

「これって、絶対に運命なのよ。……だから」

 

 やがて、運命的な何かを確信して何かを決断する様に強く頷いたのは。

 

「ねぇ、はやてちゃん! これからは私と一緒に本当の魔法少女を、「優しい魔法少女」を目指しましょうよ! 大丈夫! 私達、きっと上手くやっていけるから!」

 

 燃え上がらんばかりの情熱と共にはやてちゃんを魔法少女の仲間に勧誘するのは、自らを「魔法少女レヴィアたん」と名乗る程に魔法少女に憧れているという四大魔王の一人。……セラフォルー・レヴィアタンさんだった。

 でも、感性は常識人であるはやてちゃんにしてみれば、魔法少女などたまったものじゃない。だから、はやてちゃんは当然の如く狼狽した。

 

「セ、セラフォルーさん! 何を突然、そないなこっ恥ずかしい事を言い出すんですか!」

 

 はやてちゃんがそう言うと、セラフォルーさんは「はやてちゃん=魔法少女」という発想に思い至った経緯を説明し始める。

 

「だって、はやてちゃんってイッセー君から「自分より魔法が上手だ」って、サーゼクスちゃんに紹介されたんでしょ? それに、イッセー君にフルムーンレクトなんて素敵な魔法で助けてもらってるし、イッセー君みたいな「優しい魔法使い」になるって素敵な夢も持ってる。そんな魔法少女の要素をいっぱい持ってるはやてちゃんは、最近やっと本当の魔法少女を始められた私にとって、尊敬に値する魔法少女の先輩なんだもん☆」

 

 すると、話を聞かされたはやてちゃんの顔色がみるみる青褪めていった。

 

「た、確かにそう言われてみると、わたしって今まで積み重ねてきたモンを踏まえたら、下手な漫画やアニメよりもよっぽど魔法少女しとるなぁ。そやけど、セラフォルーさん。さっきも言うたけど、わたしはミルキーみたいに派手で可愛らしい魔法少女やのうて、アンちゃんみたいに人知れず皆をそっと手助けする「優しい魔法使い」になろう思うとるんですよ。そやから、流石にそれはやめてほしいんですけど……」

 

 はやてちゃんは拒否する意向をセラフォルーさんにはっきりと伝える。

 

「……凄い。本当の魔法少女は、「優しい魔法少女」は既にここにいたのね。だから、どうか私の事はぜひ「レヴィアたん」って呼んで下さい! その代わり、私の方は「はーたん先輩」って呼ばせてもらいます!」

 

 ……でも、セラフォルーさんはそんなはやてちゃんの言葉にむしろ感激してしまい、完全に魔法少女の先輩という何とも言い難い立場にはやてちゃんを当てはめてしまった。

 

「そこの魔王少女! いつまでも暴走しとらんで、ちっとは人の話を聞かんかい!」

 

 それを聞いたはやてちゃんは、反射的にかなり激しい口調でツッコミを入れてしまった。

 

「どうしたんですか、はーたん先輩?」

 

 でも、首を傾げてそう尋ねてくるセラフォルーさんには全く効果がない。どうやら、セラフォルーさんは自分の理想そのものであるはやてちゃんをすっかりお気に召した上に、魔法少女としては自分より格上であると認定してしまったみたいだ。……それこそ、どう考えても年下であるはやてちゃんに対して、平然と敬語を使ってくるくらいに。

 

「……アカン、あっちはこっちの話を聞こうともしてへん。このままやとわたし、ホントに魔法少女にされてまうで……」

 

 完全に自分の世界に入り込んでしまったセラフォルーさんを見て、はやてちゃんは相当に不味い事になったと頭を抱え込んでしまった。……しかも。

 

「ねぇ、はやてお姉ちゃん。魔法少女になるの、そんなに嫌なの?」

 

 魔法少女に憧れているアウラちゃんが少し目を潤ませながら追い打ちを掛けてくるのだから、尚更だ。

 

「ア、アウラ。そ、そういう訳やないんよ。そういう訳やないんやけど……。ハハハ。これでますます逃げ道がなくなってしもうた。わたし、もしかしてその内に「魔法少女はーたん」とか「魔法少女リベラルはやて」とかそんなこっ恥ずかしい名前を名乗らなあかん様になってしまうんかなぁ……?」

 

 セラフォルーさんとアウラちゃんに追い詰められてしまったはやてちゃんは、少しうつろな目で何処か遠くを見ながら現実逃避を始めてしまった。……尤も、魔法少女としての名前の候補として、「はーたん」はともかく「リベラルはやて」なんて自分で言っている辺り、まだまだ余裕がありそうだけど。

 それに、はやてちゃんは関西人らしく結構ノリがいいから、同じくノリがいいセラフォルーさんとは案外上手くやっていけるかもしれない。

 

 ……魔法少女の仲間として。

 

Side end

 

 

 

 顔合わせの宴会はその後も続き、色々な事が起こった。

 公開授業の観賞会については、リアス部長やソーナ会長の時にはサーゼクス様やセラフォルー様が妹の晴れ姿を嬉々として解説するなど暴走してしまい、それによってリアス部長やソーナ部長が顔を真っ赤にして俯いてしまったので、サーゼクス様の時はグレイフィアさんがハリセンで鎮圧してしまい、セラフォルー様の時はシトリー卿が首根っこを掴んで廊下に連れ出してしまった。……その後、硬い物同士がぶつかり合う様な轟音が家中に響き渡り、次いで泣きながら許しを請う少女の声が聞こえてきたのだが、それらについては誰もが聞かなかった事にした。

 レイヴェルの時はライザーもフェニックス卿もサーゼクス様やセラフォルー様の様な事をせずに落ち着いて観賞していたので、リアス部長やソーナ会長はレイヴェルの事を非常に羨ましそうに見ていた。

 そして、僕とイリナの時には少し不安だったトウジ小父さんも流石に懲りたのか、割と落ち付いて僕達の映像を見せていた。……単に、娘の成長を見て感動の余りに妄想の海へと潜り込んでいただけかもしれないが。因みに、僕達の授業で行ったディベートがかなり実践的な課題だったので、司会としてスムーズに討論を進行できていたとして、冥界の名家の現当主であるお三方からはお褒めの言葉を頂いた。

 また、ライザーに関しては大変面白い話を聞けた。あのレーティングゲームの後、ライザーには縁談が山の様に飛び込んできて、とりあえずは全員と顔を合わせたらしい。

 確かに、僕との一戦でライザーは最上級悪魔と同等レベルの力量を示した上、跡取り息子で長男のルヴァルさんがレーティングゲームのトップランカーで継承権第二位となる二男のロッシュさんも冥界メディアの幹部と、実力のある兄が二人もいるという事で三男坊のライザーが実家の後を継ぐ可能性は殆どない事から娘のみで跡取り息子のいない家にとってライザーは正に喉から手が出るほど欲しい逸材だろう。

 そうして、百件を超える縁談の中でライザーの新しい婚約者になったのが、何と大公の爵位を持つアガレス家の次期当主だった。……話を聞く限り、あれから更に腕を上げて完全に最上級悪魔と同等レベルとなったライザーの武力を以てアガレス家の「威」を高めるのが、アガレス家の狙いの様だ。フェニックス家もライザーも流石に格上の大公家からの、しかも相手が次期当主という破格ともいえる縁談の申し出を断りにくかった様でとりあえずは婚約という形で落ち着いたという事だ。なお、ライザーはリアス部長の時の反省から「今度は時間を掛けてしっかりと話をしていきたい」と語っていた。

 

 こうして宴も(たけなわ)となり、五家の合同顔合わせがお開きとなったのは、夜もだいぶ更けてからだった。どうやら一足先に人間界に来ていたサーゼクス様を含めたグレモリー家はもちろんシトリー家やフェニックス家も今晩の宿を確保していたらしく、兵藤家を出てそちらの方へと向かっていった。ただ、トウジ小父さんは宿に向かう前に僕とイリナに少し話があると言って僕達の耳元に顔を近づけると、驚くべき事を伝えてきた。

 

「一誠君、イリナ。二人に天界からの連絡事項がある。今週の土曜、つまり三大勢力の首脳会談の前日になるけど、その日に武藤神父の教会へ来てほしい。そこで、ミカエル様が二人と面談するとの事だよ。既に冥界の上層部にはその旨を伝えてあるし、これから一誠君の主になっている二人にも話が行く筈だから、どうか安心してほしい。……二人とも、確かに伝えたよ。それじゃ、お休み」

 

 トウジ小父さんは連絡事項を伝え終えると、この場を去っていった。

 

 ……以前、天界と神の子を見張る者(グリゴリ)のそれぞれのトップが僕との面談を望んでいると、サーゼクス様から伝えられていた。その内の一人についてはこうして面談の日取りを通知された以上、もう一人についても間もなく接触してくるだろう。天界の天使長や堕天使の総督という一大勢力のトップとの面談が、いよいよ現実のものとなりつつあった。

 




いかがだったでしょうか?

……どうやら、世界は混ぜてはいけない物を混ぜてしまった様です。

では、また次の話でお会いしましょう。

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