赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.16 修正


第四話 コスモスの魔法と魔王少女の変革

 僕はソーナ会長の伝令として、ソーナ会長の姉で四大魔王の一人であるセラフォルー・レヴィアタン様に駒王学園で公開授業が行われる事を伝える為、冥界のシトリー邸に向かった。シトリー邸では、シトリー卿としばらく歓談した後にセラフォルー様と面会、公開授業の件を伝えたのだが、シトリー家領内の原生林に生息する魔獣達が大挙して邸に向かっているとの急報が舞い込んできたのだ。そこで、僕はセラフォルー様の代わりに魔獣達に対処する事を伝え、セラフォルー様の許可を得た。その代償として、彼女の機嫌をかなり損ねてしまったが。

 

 僕は邸の外に出て魔獣達を待ち構えていると、やがてシトリー邸に真っ直ぐ向かってくる魔獣達の群れが見えてきた。……その魔獣の群れを一目見て、一瞬怒りで我を忘れそうになった。

 

『一誠! 気持ちは痛いほど解るけど、今は落ち着いて!』

 

 リディアの声に、僕は我に返る。……そうだ。今は、魔獣達の方を対処しないといけない。彼等は、第三者の強力な魔力によって凶暴化されていた。しかも無茶な魔力の注ぎ方をしているのか、肉体のリミッターが外れており、その反動で明らかに体が傷つき始めている。この状態が長く続けば、命を落とす事にもなりかねない。最早、一刻の猶予も許されなかった。

 

『一誠。お主の先見の明には、もはや溜息しか出てこんわ。これで、遂にこの魔法が世に広く知れ渡る事になるのう』

 

 ロシウが自身の下した評価を悔やむ様な発言をしているが、それを言えば僕も同じだ。……作っても無駄だと判断した上で、唯の拘りだけで作ったのだから。僕はそれをロシウに伝えると共に、改めて彼等を救う事を決意する。

 

「僕自身、使う場面は多分ないだろうと覚悟していたから、それはお互い様だよ。でも、これでこの魔法を使う人が少しでも現れてくれると嬉しいかな? ……さぁ、いつもの様に彼等を助けに行こうか」

 

 前世において、幼き頃に見た憧れから大学生の頃に放映された新シリーズを見た事で密かに感銘を受けた光の巨人の様に。

 暴れ回る怪獣をやっつけるだけでなく、操られたり不本意な形で暴れてしまったりした怪獣を助け続け、ついにはその元凶にして宿敵さえも救ってみせた、正に優しさを強さに変えた偉大な勇者。

 その優しさを象徴する力をモチーフにし、ロシウにさえ無駄の極みだと言われながらも作り上げたのは、幼き日にこの目で見た桃太郎さん達の愛を以て懲らしめる戦い方を継承する意図も確かにあったが、感銘を受けた光の巨人への想いによるものもまた大きかった。本当なら役立つ場面などなかった筈のこの魔法は、今まで何度も僕と共に救われるべき命を救い続けてきた。

 デジタルワールドで進化に取り残されて滅んでしまったデジモン達の怨霊に、はやてとはやてを蝕んでしまっていた夜天の書、悪魔によって石化されたネギ君の生まれ故郷の村人達も該当する。そして、今度はシトリー領に住まう温厚な魔獣達だ。

 ……他人が聞けば、きっと「作りモノの英雄に感銘を覚えるなんて」と言うのだろう。それでも、僕は思う。

 

 桃太郎さん。そしてコスモス。僕はこれからも貴方達に続いていくよ。力や強さで勝つだけでは、きっと何かが足りないと思うから。

 

 

 

Side:セラフォルー・レヴィアタン

 

 魔獣達を一目見た瞬間、ヒーロー君から凄まじい怒気を感じた。私も直接見た事で、ヒーロー君の指摘通りに何者かによって魔獣達が操られているのが解った。ヒーロー君が怒るのは、とても正しい。私もこんな事した人は絶対に許せない。……でも、そういう方向に魔力を扱うのが余り得意とは言えない私じゃ手加減した魔力で気絶させてからでないと魔獣達を解放できなかったと思う。そして、その過程で魔獣達を少なからず傷付けちゃっていたと思う。その意味では、確かに私じゃ魔獣達を傷付けずに救う事は無理だった。

 

 なら、ヒーロー君は一体どうやって?

 

 その疑問に対する答えは、目の前にあった。凶暴化して真っ直ぐにこちらに向かってくる魔獣達を前にして何ら怖じること無く宙に浮いて対峙していたヒーロー君は、両手を下から掬い上げる様に胸の前まで持って行くと、そこに光の粒子が集まってきた。そして集めた光の粒子を両掌ですり合わせる様にしてから、そのまま右掌を前へと伸ばす。

 

 その右掌から放たれたのは、とても優しく温かな光。

 

 ヒーロー君の掌から放たれる光を浴びた魔獣達は次々と暴れる事を止めて、どんどん大人しくなっていって、凶暴だった表情も次第に穏やかな物へと変わっていった。……信じられなかった。魔力で操られて凶暴化した状態から精神を落ち着かせちゃうし、操っていた元凶の魔力だって浄化しちゃったのだから。

 ヒーロー君の活躍ですっかり落ち着いた魔獣達は、空中に浮いたヒーロー君に気が付くとゆっくりと近付いて親愛の情を示す様に頬をすり寄せてきた。そうしたら、ヒーロー君は優しく微笑みながら、そのすり寄せて来る頬をそっと撫で始める。

 

 ……満月の力を持つ光を放つ事で、荒れ果てた心に安らぎと優しさを与え、更に対象を蝕むあらゆる力を祓って万全の状態へと回帰させる鎮静浄化魔法、フルムーンレクト。

 

 諸悪の根源であった存在をも救ったという光の巨人の力をモチーフにしたと、後でヒーロー君から聞いたこの魔法こそが、凶暴化させられた魔獣の心を穏やかな物へと優しく戻した奇跡の魔法。

 

 そして、その魔法を使ったヒーロー君の名前は、兵藤一誠。

 

 私の中に今まであった「魔法使い」のイメージをものの見事に木っ端微塵にしちゃった、正に「優しい魔法使い」だった。

 私がそんなヒーロー君やヒーロー君に懐いてた魔獣達をを見ていると、彼等を狙って魔力弾が幾つも飛んできた。でも、ヒーロー君は広範囲に展開した防御障壁で簡単に防いじゃった。

 

「おのれぇ! もう少しの所で、偽りの魔王の血統を根絶できたものを! 役立たずな魔獣共め! ならば、俺自らの手で邪魔者共々殺してくれるわ!」

 

 魔力弾の発射元から現れたのは、一人の悪魔だった。その言動から判断して、戦争が自然消滅した時、カテレアちゃんみたいな先代の魔王様の血を引いてる人達と一緒に最後まで徹底抗戦を唱えていたから冥界の辺境に追放する事になった、いわば旧魔王派の一人だと思う。ヒーロー君はその旧魔王派の悪魔に対して、静かに問い掛ける。

 

「悪魔の諍いなど全く関係のない魔獣達を、自分の都合だけで巻き添えにしたのはお前か?」

 

 ヒーロー君の問い掛けに、反体制派の悪魔が答えようとした。

 

「フン! 魔獣など、所詮は我等崇高なる悪魔に使われる道具に過ぎんわ! その様なものに……」

 

 ……でも、その続きを言う事はできなかった。

 

「お前はもう黙れ」

 

 無表情な彼が魔力弾を顔面に放ち、言葉を遮ったから。……正直に言うと、この時のヒーロー君の顔、凄く怖かった。本当に怒ってる時って、あんな風に無表情になるんだって、この時初めて知った。そしてヒーロー君が左手を上げるとその掌に光が集まってきて、その上げた左手を降ろすと同時に光がゆっくりと体を下っていく。すると、今まで纏っていなかった白銀の鎧甲冑と右手の赤い籠手。そして、左手には神滅具(ロンギヌス)たる自身の神器(セイクリッド・ギア)が装着されていた。

 

「ブ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だと! 貴様、まさか……!」

 

 明らかに怖気づいた悪魔に対して、ヒーロー君は悪を打ち倒す意志を高らかに謳い上げる。

 

「己の妄執の赴くままに、罪なき魔獣達を弄んだ「悪」たる「魔」よ! 命と心への侮辱を受けた魔獣達に成り代わり、その悪行に鉄槌を下す! 天を背負う……」

 

 そこで一旦言葉を止めてから、自分が新しく背負った名前と一緒に必勝を宣言してた。

 

「天を背負う、赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)の名に懸けて!」

 

 ……大切な事だから、もう一度言うよ。ヒーロー君の名前は、兵藤一誠。私が初めて出逢った「本物の」ヒーローだった。

 

 この後の事なんだけど、結局戦いなんてものにはならなかった。何故って? ヒーロー君がボディブロー一発であっさりKOしちゃったから。尤も、放った本人も余りの呆気無さに少々驚いていたけど。

 

『一誠、ほんの僅かだが俺のオーラが漏れていたぞ。あの程度の雑魚には、それでも重過ぎた様だがな』

 

 この時に神器の中にいる赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)の意思がヒーロー君に語りかけて来た内容から考えて、たぶん無意識の内に少しだけ本気を出しちゃったらしい。

 ヒーロー君はその後、やっつけた悪魔を魔力の鎖で拘束した後、お父様の執事に引き渡して後の処理をお願いしていた。

 ……何故って? それは、マーシーレインという癒しの慈雨を降らせて広い範囲にいる怪我人をまとめて治しちゃう精霊魔法を掛けてもらった魔獣達がヒーロー君に完全に懐いちゃって、それでヒーロー君が完全に身動きを取れなくなっちゃったから。魔獣達は困った様に微笑むヒーロー君に頭を撫でてもらうと、それはもう凄く嬉しそうに身を揺すってた。

 それは、傷付けること無く救った事で初めて創り出す事ができた、とても優しくて温かな光景。……私では、けして創り出す事ができなかった光景だった。そして、私にとって遥かに遠い、この理想の光景を見ている内に、いつしか私は思い出してた。とても、とても大切な思い出を。

 

― おねえさま~ ―

 

― どうしたの、ソーたん? ―

 

― わたしね、おおきくなったら、まほうしょうじょになるの! ―

 

― 魔法少女に? ―

 

― うん! そしたらね…… ―

 

「困っている人達をそっと魔法で助けてあげるの、か……」

 

 ……どうして、今まで勘違いしちゃってたのかな?

 

 元々魔法少女には憧れていたけど、今の様に正式な魔法少女になったのって、これが切っ掛けだった。ソーナちゃん、ううん、「ソーたん」が憧れの魔法少女になれる様にって、それなら私が手本を見せようって、そう思って魔法少女になった。実際、「ソーたん」も最初は凄く喜んでくれた。でも、いつからだろう? 次第に受け入れてもらえなくなっちゃったのは。……それと一緒に寂しそうな瞳で私を見るようになっちゃったのは。

 今までは、大きくなったら恥ずかしくなっちゃったんだって思っていた。だから、そんなこと気にしなくても良いのにって思ってた。でも、違ってた。私は魔法少女になって、悪魔の敵をやっつけていた。つまりは「ヒーロー」になっていた。でも、「ソーたん」だったソーナちゃんが望んでたのは「魔法少女になって、困っている人達を助ける」事だった。だから、受け入れられてもらえなかったんだ。

 

 ……私が「困っている人達を助ける」事無く、「敵をやっつける」事だけやってたから。

 

 結局、私は出だしから間違えちゃっていた。だから、私はもう絶対に間違えない。「ヒーロー」から「魔法少女」に、私は絶対に変わってみせる。だって、ソーナちゃんが「ソーたん」だった頃になりたがっていた「魔法少女」の先生になってくれそうな「皆を助けてくれる強くて優しい魔法使い」が、その正しい在り方を実際に見せる事で教えてくれたんだから。

 

Side end

 

 

 

 魔獣達を操っていた悪魔を執事さんに預けて後始末を頼んだ際、魔獣達の住処である原生林の場所を聞き出してそこに送り届けた後、セラフォルー様からフルムーンレクトについて尋ねられた。良い機会だったので、僕は魔法の詳細を告げると共にモチーフとなった光の巨人について名前と要点だけ教えると、セラフォルー様にかなり喜ばれた。そうして一段落ついた所で、セラフォルー様に質問してもいいかを尋ねられた。

 

「ねぇ、ヒーロー君。一つ訊きたい事あるけど、良いかな?」

 

 それについては断る理由が特になかったので、僕は承知する旨を伝える。

 

「承知致しました、レヴィアタン陛下。それでお聞きしたい事とは?」

 

 すると、セラフォルー様は最初に挨拶した時の様な剥れた表情を見せた後、僕に魔法少女について尋ねてきた。

 

「むう。もっと気さくな言葉使いでいいのに。……ねぇ、魔法少女ってどう思う?」

 

 ……それを男の僕に聞きますか?

 

 そう思ったが、この際なので自分の思う所を伝える事にする。

 

「秘密のお手伝いさん、といった所ではないでしょうか?」

 

 僕の答えが完全に想像の斜め上だったのだろう。セラフォルー様は呆気にとられた様な声を上げた。

 

「へっ?」

 

 僕はその様なセラフォルー様の様子に触れる事無く、魔法少女について僕が思う所を詳しく伝えていく。

 

「普段は極々普通の女の子。しかし、魔法でなければ解決できない様な困った事があれば、魔法でこっそりお手伝い。だから皆は魔法少女に感謝しますが、その正体を誰も知りません。地上で取り上げられている魔法少女の話の内、私が覚えている限りで取り上げると、大体その様な点で共通しているのではないかと」

 

 そして、おそらくはセラフォルー様が最初になろうと思っていた魔法少女の筈だ。あえてミルキーシリーズを外したのは、絶対に明かせない秘密であるが。

 

「ソーナちゃんが「レヴィアたん」を受け入れられなかった訳だね。私がしてたの、人助けが一緒なだけで後はその真反対のヒーローだもの。薄々分かってはいたけど、お姉ちゃんとして深く反省しないと……」

 

 どうやら、セラフォルー様もそれを思い出していた様で、かなりヘコんでしまった。ただ、ソーナ会長が受け入れられないのは、魔法少女の衣装を普段着とする事を始めとしたカルい言動の数々であって「レヴィアたん」ではないのだが、きっと言わぬが花だろう。

 ……その甲斐があったのか、後に伝え聞いた所、セラフォルー様はこの日を境にして普段の装いを改める事にしたらしい。

 

「これからは本当の魔法少女らしく、普段は普通の恰好で行くよ☆ 魔法少女になるのは、本当に魔法が必要な時だけなんだから☆」

 

 そして、その言葉と共に実際に服装を改めたセラフォルー様の姿を見て、彼女の部下達は喜びに咽び泣き、まだ見ぬ恩人に対して心から感謝したとの事だった。

 

 ……そこまで酷かったのだろうか?

 

 

 

Side:セラフォルー・レヴィアタン

 

 用件を全て終えて地上へ帰っていくヒーロー君改めイッセー君を両親と一緒に見送ってからしばらくして、私は今日この目で見た事を思い返してた。

 

 私では力尽くでしか抑えられない魔獣達の暴走を優しく宥めた、月の光の魔法。魔獣達を弄んだ旧体制派の悪魔に対する純粋な怒りの感情と、話に聞いた通りの前口上。そして、救い出した魔獣達に懐かれている、とても広くて大きな背中。

 

 それは、皆が憧れる「ヒーロー」。そして「強くて優しい魔法使い」の姿そのものだった。この光景は、私の心にずっと残り続ける光景になると思う。

 

 ……ただ、こんな素敵な光景を一人占めするのは勿体無いよね?

 

 それに、その後であの魔法のモチーフとなった力を持つ、心優しい光の巨人の名前を教えてもらったし。だから、イッセー君。君に一肌脱いでもらうよ。だって、魔法少女に憧れてる自分の子供に、魔法少女として凄く大切な事を優しく教えられる君は「強くて優しい魔法少女の先生」でもあるんだから。

 

 

 

 イッセー君から魔法少女について話を聞いた後、お互いにもうお仕事は終わったし、今はプライベートだから普段の言葉使いにするようにって命令したら、イッセー君はやっと言葉使いを変えてくれた。その時に、私も彼の呼び方を「ヒーロー君」から「イッセー君」に改めた。そして、イッセー君はこの際だからという事で、自分の「魔」から生まれた娘だというアウラちゃんを紹介してきた。この子も私と同じ様に魔法少女に憧れているみたいで、私が魔法少女レヴィアたんだよって教えたら、眼を凄くキラキラさせて私を見てた。そうしてしばらくアウラちゃんとお話ししてあげていたら、お父さんであるイッセー君の膝の上にチョコンと座っていたアウラちゃんが後ろを振り向いて、イッセー君に尋ねてきた。

 

「ねぇ、パパ。あたし、レヴィアたんみたいな魔法少女になれるかなぁ?」

 

 そしたら、イッセー君はアウラちゃんの頭を優しく撫でながら「なれるよ」って答えてあげていた。でも、この後に続いた言葉に、私は巨大なハンマーで頭を強く殴られた様な激しい衝撃を受けた。

 

「アウラが優しさを見失わない限りはね」

 

 イッセー君のこの言葉を聞いたアウラちゃんは、首を傾げながら尋ねてた。

 

「どうして、優しさを見失うと魔法少女になれなくなっちゃうの?」

 

 そうしたら、イッセー君は優しく微笑みながら、でもアウラちゃんとしっかりと目と目を合わせて答えてあげていた。

 

「魔法少女の魔法はね、悪い人を含めた皆の心に優しさを送り届けるものだからだよ。だから、アウラには悪い人を懲らしめるだけじゃなくて、困っている人をそっと優しく助けてあげられる様な、そんな「優しい魔法少女」になって欲しいんだ」

 

 ……その言葉には、「ソーたん」がなりたがっていた「魔法少女」の答えが全て揃ってた。おかげで、私が目指すべき「優しい魔法少女」の形がはっきりと見えた。だから、それを皆にも伝えていきたい。とりあえず今週は総集編を放映するとして、何とか来週までには間に合わせる様に急いで撮影と編集をし直さなきゃ。それに、さっきの光景は問題があった時の証拠映像として撮っていたけど、それを基に撮り直しをすれば。

 

 ……そこで、私は思い留まった。

 

 ううん。あれは直接使わないと、きっとその時の彼と魔獣達の想いが皆に上手く伝わらない。だから、あれを基にした撮り直しなんてしないし、映像加工もあくまでCGで彼の装いを差し替えて顔が解らない様にする程度しか行わない。それ以外は、余計なものにしかならないから。

 それに、アウラちゃんにせがまれてイッセー君が歌ってあげていた、「君にできるなにか」と「心の絆」。どっちも凄くいい歌で、「どちらも僕が生まれる前に放送されていた特撮番組で歌われていた、実は結構古い歌なんです」ってイッセー君は言っていたけど、後で調べてみたら、そんな事実は人間界にはなかった。

 ……きっと、自分で作詞作曲したのを知られたくないだけの、ただの照れ隠しだね☆ だから、後でイッセー君に許可を貰って「マジカル☆レヴィアたん」で使わせてもらおうっと☆ そうして、私が感じたものを、皆も感じてくれたら嬉しいな☆

 

 ……ねっ、先生?

 

Side end

 

 

 

Overview

 

 その後、「マジカル☆レヴィアたん」はその週は予定を大きく変更して総集編が放映され、翌週には今までのストーリー構成を大きく変えてきた。

 

 いつもの様に魔法をキラメかせて、悪魔の敵である怪獣をやっつけるレヴィアたん。

 

 しかし、そこに一人の魔法使いが現れる。コスモスと名乗ったその魔法使いは、レヴィアたんに「君は本当の魔法少女ではない」と告げる。魔法少女である事を否定されて怒るレヴィアたんを余所に、何故か血飛沫を上げながら襲いかかってくる怪獣軍団。

 再び魔法をキラメかせようとしたレヴィアたんに対して、コスモスは怪獣が邪悪な力によって凶暴化しているだけである事を指摘し、レヴィアたんが魔法を使用するのを止めた。

 そして、コスモスが選択したのは、暴れる怪獣達の心を鎮め、凶暴化させている邪悪な力を浄化する事で、怪獣たちをこれ以上傷付けること無く救う事だった。

 

 掌から優しい月の光を放ち、怪獣達に優しさを注ぎ込むコスモス。

 

 怪獣達は自分達を操っていた邪悪な力を取り除かれて落ち着きを取り戻すと、凶暴な顔つきとは裏腹に穏やかな表情になっていき、更に慈雨を降らせて傷ついた体を癒す魔法で怪我を治してくれたコスモスに懐いていった。

 想像だにしなかった光景を目の当たりにして愕然とするレヴィアたんに対し、コスモスは語る。

 

「魔法少女とは、ただ敵をやっつけるのではなく懲らしめる者であり、困っている者をそっと優しく助けられる者の事だ。そして、魔法少女の魔法とは、魔力を使って敵を打ち倒す物ではなく、敵を含めた全ての命と心に優しさを送り届ける物だ。優しさを見失っている今の君では、敵をやっつける事はできても、誰かを助ける事はできない。……自分の心と向き合って、君の中にある「本当の魔法」を探しなさい。それを見つけられた時、君は「本当の魔法少女」になれる」

 

 そう言って、懐いた怪獣と共に森の中へと去っていくコスモス。

 

 その優しく穏やかな光景とコスモスの大きな背中を見送ったレヴィアたんが、改めて自分の魔法少女としての在り方、そして自分の中にあるという「本当の魔法」について考え始めた所で、新エンディングとなる「君にできるなにか」が流れ始め、その週の放送が終わった。

 

 後に、この週の放映回はファンの中で「レヴィアたんの革新」と呼ばれる様になり、この話以降のレヴィアたんはただ怪獣や悪者をやっつけるだけでなく、様々な事で困っている人や怪獣をこっそりと魔法を使って助けていくようになった。時には慣れない魔法で失敗する事もあったが、それでもレヴィアたんは挫けること無く助け続け、やがて「本当の魔法少女」へと変わっていく。

 特に、見様見真似で幾度も特訓して習得し、フルムーンレクトと名付けられた月の光の魔法は、「本当の魔法少女」となったレヴィアたんの代名詞となった。

 新エンディングの歌詞にあった様に、今まではただ悪魔の敵をやっつけるだけだったレヴィアたんは、「本当の魔法を見つけて、本当の魔法少女になる」という新しい夢を追い駆ける事でその全てを変えていったのだった。

 そして、コスモスはその後二度と登場しなかったにも関わらず、フルムーンレクト使用時の凛とした雰囲気と怪獣達に対する慈悲深さ、そしてレヴィアたんを優しく導いた聡明さから、ファンの間でレヴィアたんの真なる師匠と見なされて「コスモス先生」と呼ばれる様になり、主人公であるレヴィアたんに次ぐ人気を博する様になる。

 

 レヴィアたんの革新から暫くして、コスモス先生とは何かと尋ねられた時、レヴィアたんを演じるセラフォルー・レヴィアタンは次の様に答えている。

 

「いつの間にか間違えちゃっていたレヴィアたんを優しく正しく導いてくれた様に、全ての魔法少女の先生になれる、とても強くて優しい魔法使いなの☆ それと、コスモス先生が邪悪な力で凶暴化した怪獣達をフルムーンレクトで落ち着かせてから、慈雨の魔法で怪我を治した事で怪獣達に懐かれて、最後に一緒に森へと入っていった、あのシーン。実は姿格好こそCGで上書き修正しているけど、それ以外は全て本物の記録映像よ☆ だから、あのシーンで使われた魔法はもちろん、コスモス先生だって実在してるの☆」

 

 この「コスモス先生は実在する」というセラフォルーの爆弾発言が冥界で大反響を呼び、レヴィアたんを変えたコスモス先生が一体誰なのか、様々な憶測が飛び交ったという。

 

 

 

 週が変わって公開授業の前日。支取蒼那ことソーナ・シトリーが住まうマンションの一室に来客があった。

 

「ソーナちゃん! せっかくだから、今日はお泊りに来たよ☆」

 

 授業の見学の為、前日に駒王町入りしたセラフォルーだ。来客自体は想定の範囲内であったが、その服装が完全に想定の埒外だったソーナは驚きを隠せず、思わず服装について尋ねてしまった。

 

「えっ? お姉様? ……その服装は一体? 正直に申し上げると、いつものように魔法少女の服装でお越しになるものと覚悟していましたが」

 

 すると、セラフォルーは最愛の妹に自らの心情の変化について語っていく。

 

「えへへ☆ 思い出したんだよ☆ レヴィアたんを始めようと思い立った時の事。私が本当になりたかったのは、ソーナちゃんが小さい時になりたがっていた、困っている皆をそっと優しく助けてあげる「優しい魔法少女」なんだって。だから、魔法少女になるのを撮影の時以外は「ここ一番!」って時だけにしたの☆」

 

 ……どうやら、駒王学園での魔法少女のコスプレ撮影会は無くなりそうである。

 

 姉に公開授業の件を伝える事で発生するであろう最大の懸念材料がなくなった事に安堵する一方、ソーナは姉が大きく変わった事に対して完全に呆気に取られていた。

 

「お姉様……」

 

 そうしてソーナが呆気に取られている内に、セラフォルーはソーナの体をそっと抱き寄せて謝罪と決意の言葉を伝える。

 

「悲しませちゃってゴメンね、ソーナちゃん。でも、これで本当に始められるよ。ソーナちゃんが小さい頃に憧れた「優しい魔法少女」を。……コスモス先生に感謝しなきゃ」

 

 姉から聞いた事のない固有名詞が飛び出したので、ソーナはすぐに問い返した。

 

「コスモス先生?」

 

 しかし、いくら最愛の妹であっても、セラフォルーはコスモス先生、正確にはそのモチーフとした一誠が自分に影響を与えた事を詳細に教える事はしなかった。あの光景を作り出したコスモス先生の正体は、「本当の魔法少女」を始める切っ掛けを作ってもらった自分だけが知っていればいいと思ったからだ。

 

「そう、コスモス先生☆ 詳しい話は今週のレヴィアたんで分かるから、絶対に見てね☆」

 

 最愛の妹にそう呼びかけるセラフォルーの表情は、一点の曇りもない笑顔であった。

 

Overview end

 




いかがだったでしょうか?

駒王帝の相談解決率100%伝説は未だ継続中。
ご相談のある方は、一度ご連絡を。

では、また次の話でお会いしましょう。

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