赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.16 修正


第三話 シトリー家訪問

 コカビエル事件の功績に対する報奨として、上層部の中でもこれはと思える方達と面会を重ね、最後にネビロス総監察官と大いに実りある意見交換を行ってから二日後。僕は生徒会の仕事の最中、来週に控えている公開授業についてソーナ会長に尋ねてみた。

 

「そう言えばソーナ会長、ご家族の方は公開授業に来られるんですか? 僕の両親は、同じ日に予定されている初等部の授業参観の方に行く事になりましたけど」

 

 因みに、公開授業についてはどうするのかを尋ねた時の両親曰く「まだ家族になって三年程のはやてに、一つでも多くの思い出を作ってやりたい」との事だった。確かにその通りだと思うし、何より僕自身も両親、特に母さんが僕が小学生の時の授業参観にいつも来てくれていたから、はやてにも僕と同じ様な思い出を作ってほしかった。だから、今回はそれでいいと思う。

 ただ、来年は中等部に進学するであろうはやてが公開授業を利用して僕の所にやって来そうだった。……実は、我が駒王学園高等部の公開授業は高等部の学生の保護者がメインである一方、中等部の生徒達とその保護者も見学する事ができる様になっている。

 おそらくは、中等部の生徒とその保護者に卒業後の進学先として、我が校の高等部をアピールする為だろう。その様な事を思い返していると、ソーナ会長から意外な返事が来た。

 

「……実は、そもそも実家には公開授業の事を伝えていないんです」

 

 駒王学園内において模範的生徒として名高いソーナ会長が家族に伝えていないという事実に、僕は少し驚いた。

 

「恥ずかしいから、という訳でもない様ですね?」

 

 僕がそう尋ねると、ソーナ会長は懸念材料がある事を教えてくれた。

 

「えぇ。ですが、知らせると必ず来そうな方に大きな問題が……」

 

 僕の質問に答えると同時に、ソーナ会長は溜息を吐く。……どうやらかなり根が深い様だ。

 

「僕で良ければ、話をお聞きしますけど?」

 

 僕が相談に応じる旨を伝えると、ソーナ会長は決心するかのように一つ頷いた。

 

「……そうですね。ここは駒王帝のご厚意に甘えさせて頂きます」

 

 そう答えた後、ソーナ会長は自身の姉について話し始めた。

 

 ……セラフォルー・レヴィアタン。

 

 元はシトリー家の跡取りであり、現四大魔王の一人で冥界の外交を取り仕切る才媛。主に氷の魔力を得手とし、実力は冥界でも十本の指には確実に入るとの事。しかし、彼女には大きな欠点がある。

 ……とてもカルいのだ。仕事自体は真面目にきっちりとこなす才色兼備の女性なのだが、とにかく言動がカルいのだという。四大魔王の共通点としてプライベートではとにかくカルくなるのだそうだが、セラフォルー様は特に酷いらしい。

 何せ、セラフォルー様は外交以外に映画などの娯楽作品のプロデュースも手掛けているのだが、中には自ら主演する「マジカル☆レヴィアたん」という魔法少女を主人公とした子供向け番組も含まれており、更に普段から人間界で放映される魔法少女アニメに出てくる魔法少女の衣装を着て過ごす程、「魔法少女」に対する拘りが強いとの事。因みに、以前フェニックス邸に滞在した折、冥界の流行りの娯楽という事で薦められて「マジカル☆レヴィアたん」を視聴する機会があったのだが、少なくとも僕の前世の記憶にある魔法少女アニメとは大きくかけ離れたアクションヒーローの特撮番組だった。それだけに、女の子だけでなく男の子にも結構人気があるらしい。

 なお、はやてに付き合う形で三年前から度々見る事になった魔法少女アニメの「魔法少女ミルキー」シリーズも魔法少女というよりは美少女戦士といった趣で、レヴィアたん程ではないがバトルの方を重視している節が多々ある。そのせいか、幼い頃のイリナに似て男の子以上にやんちゃな所があるアウラがミルキーを(いた)く気に入ってしまい、今後はアウラに付き合って毎週見る事になりそうだった。……尤も、僕の契約者の一人で時々魔法を教えている「ミルたん」さんとは話題を共有できそうな分、けしてメリットがない訳ではないが。

 それはさておき、少々憂鬱そうな表情を浮かべながら話し続けているソーナ会長を見る限り、悩みは相当に深そうだった。確かに、感性が常識的なソーナ会長にとって魔法少女の衣装を普段着にしている様な家族を他人に見られるのはかなりキツイ。しかもそれが幼い妹ならまだしも、既に成人している姉なのだから始末に負えない。だが、年齢についてはツッコんでは駄目なのだろう。きっと、永遠の十●才とかそういうノリだ。しかし、どうにも腑に落ちない事があるので、僕は早速それをソーナ会長にぶつけてみる。

 

「ソーナ会長。そもそも、何故セラフォルー様は魔法少女に強い拘りを持っているんですか? ただ憧れているからにしては、少々度が過ぎている様に思いますが」

 

 すると、ソーナ会長は「自分も解らない」という答えを返してきた。

 

「私も流石にそこまでは。ただ、私がいくらお止め下さいと言ってもお姉様はけしてご自重してはくれないのです……」

 

 ソーナ会長はそう言って首を横に振るとそのまま落ち込んでしまった。しかし、何故セラフォルー様はそこまで頑なになってしまっているのだろうか? ……だが、今はセラフォルー様に関して、あれこれと考える時ではない。そう判断した僕は、ソーナ会長にまずは公開授業の件をセラフォルー様に伝えるように勧める。

 

「ソーナ会長、やはりお伝えした方がいいですよ。こういう言い方はしたくありませんけど、セラフォルー様は多分拗ねますよ? しかも、お話を聞いた限りでは割と子供っぽい所もありますから、拗ねた拍子に天界に攻め入る様な事をなさるかもしれません」

 

 すると、ソーナ会長は最初こそ僕が仮想したセラフォルー様の取り得る行動に対して否定的だったが、すぐにそれを翻した。

 

「流石にそれは。……いえ、有り得ますね。何というか、私が言うのも変な話なのですが、お姉様は私を溺愛していますから」

 

 ソーナ会長からセラフォルー様に溺愛されている事を聞いた時、僕は初めてミルキーを見た時のアウラの微笑ましい台詞を思い出した。

 

「パパ! あたし、ミルキーみたいな魔法少女になりたい!」

 

 それで、僕はピンと来た。だから、魔法少女に強く拘っているのかもしれない、と。そこで、僕はソーナ会長に一つの提案を出す。

 

「ソーナ会長。この際ですから、公開授業の件をセラフォルー様に直接お伝えする為、僕が冥界まで行ってきましょうか? サーゼクス様に何度かお会いしている上に、ここ一週間は直接指示を仰いで活動していた以上、シトリー卿にもソーナ会長の眷属として面をお通しする必要がありますので、丁度良いかと」

 

 

 

 その後、ソーナ会長は少し悩んだ末にシトリー領にあるソーナ会長の実家への訪問許可を出したので、僕は早速シトリー邸に向かう事になった。今回はソーナ会長の伝令であると共に初回訪問でもあるので、礼服である不滅なる緋(エターナル・スカーレット)とミスリル銀を編み込んだ白い法衣を纏っている。

 なお、シトリー家は両親共に健在であり、嫡流がシトリー卿で奥方様が風と海を支配すると言われるフォカロル家出身だった。サーゼクス様とリアス部長もそうだが、どうも母方の血の影響を強く受けている様な気がする。特に、セラフォルー様が「氷」の魔力を得手としているのは、風と海から転じての事かもしれない。

 応接室でシトリー卿に面会して今回の用件を伝えた所、シトリー卿からセラフォルー様がちょうど今日、実家に帰省する事になっていると教えられた。そこで、僕はセラフォルー様が戻って来るまで待合室で待たせてもらうつもりだったのだが、ライザーとの戦いを観戦して以来、一度僕と会って話をしたかったというシトリー卿の話し相手を務める事になってしまった。

 その話の中で、シトリー卿から「チェスができるか」と尋ねられたので「できる」と答えた結果、シトリー卿と一局打つ事になった。本当なら本気など出せるわけがないのだが、シトリー卿が中々の腕前の上に数手打った時点で接待試合にするのをやめた。……試されている。そう確信したからだ。だから、全力で行った。

 

「……王手詰み(チェックメイト)

 

 僕が打った最後の一手に対し、シトリー卿は投了(リザイン)を宣言する。

 

「私の負けだ、投了しよう。君はチェスもソーナより強いかもしれないな。しかし、一つ尋ねたい事がある。シトリー家の当主である私に対して、勝ちを譲ろうとは思わなかったのかね?」

 

 ……シトリー卿からのこの問いかけには、偽りなく答えないと駄目だろう。そう判断して、僕はシトリー卿に返答した。

 

「最初は、そのつもりでございました。ですが、数手打った時点でそれでは駄目だと愚考致しました」

 

 僕の答えに対し、シトリー卿は感心した様な素振りを見せる。

 

「ホウ?」

 

 そして、僕は対局を通じて感じた事を伝えた。

 

「シトリー卿は真剣勝負をお望みになられている。ならば、お望みに対して真剣に応えぬ方がかえって無礼になる。そう愚考致した次第です」

 

 すると、シトリー卿はこの対局において胸中に秘めていた事を明かし始める。

 

「……成る程。どうやら、君は「本物」の様だ。その通り。もし小賢しくも私の機嫌取りの為にわざと負けを選ぶ様であれば、私はソーナが何と言おうと君を追放するつもりだったよ。なまじ力が強い為に、もし相手の意を正確に読み取れなければ、待っているのは身の破滅。その様な思慮なき者を、大切な娘の側に置いておく訳にはいかないのでね」

 

 ……想像通りの答えだった。

 

「やはり、そうでしたか。シトリー卿の一手一手に只ならぬ気迫が込められており、それ故に私が試されていると察しました」

 

 試されているのを承知していたという僕の言葉を聞いて、シトリー卿は大きく溜息を吐いた。

 

「……それを察する事ができる者が、今の若い世代には殆どいないのだ。現に以前、私がソーナの婚約者として見込んでいた者と一局打って試してみたのだが、私の意志を読み取れずに接待試合で済ませていたよ」

 

 この言葉を聞いた時点で、僕は父親としてのシトリー卿の想いを感じ取った。そして、僕が中級悪魔の昇級試験に臨んでいる頃にあった、ある出来事について言及する。

 

「それで、婚約の有無を賭けてチェスの十番勝負を執り行い、その結果としてご主君(マイ・キング)の婚約破棄をお認めに?」

 

 僕からの言及について、シトリー卿は頷く事で肯定した。

 

「如何に名門の純血悪魔とはいえ、中身のない男に娘とシトリー家を任せる程、私は耄碌した覚えはないよ。その点、君なら全く問題はないな。私の意志を酌んでくれた若者など、君が初めてだよ。どうしてフェニックス卿とグレモリー卿が二人揃って君を気に入ったのか、これで理解できた。確かに、君を義息子として酌み交わす酒は、さぞかし美味いものになるのだろうな」

 

 あれ? 話が変な方向に向かい始めた様な……? 僕は非常に嫌な予感がしてきた。

 

「まぁ、今の話は忘れてくれ。流石にまだ早過ぎるな。君が上級悪魔としてソーナから独立した時に、改めて持ち掛けるとしようか」

 

 ……とりあえずは助かったのだろうか? しかし、僕には既にアウラという愛娘がいるし、何よりイリナという将来を誓い合った女性もいるのだ。それを向こうは果たして理解しているのだろうか? それを承知の上だとしたら、非常に不味い事態になるだろう。

 少々気不味い思いをしていた僕は、あえて話の流れを変えようとシトリー卿にお伺いを立てる。

 

「シトリー卿、一つよろしいでしょうか?」

 

 すると、シトリー卿は僕の求めに応じる構えを見せてくれた。

 

「何かな?」

 

 僕はシトリー卿の許可を得た事で、早速ある質問をぶつけてみる。

 

「ご息女で魔王陛下であらせられる、セラフォルー・レヴィアタン様に関する事です。普段から魔法少女の物をお召しになるなど、セラフォルー様は魔法少女に対して相当の拘りをお持ちの様ですが、一体いつ頃からその様になされているのでしょうか?」

 

 壮年の執事さんが応接室に入って来て、セラフォルー様が帰って来た事をシトリー卿に知らせて来たのは、シトリー卿からその答えを聞き出した後だった。

 

「解った、御苦労。……さて、セラフォルーが帰って来た様だ。駒王学園の公開授業の件、しっかりと伝えてきたまえ」

 

 シトリー卿が本来の用件の遂行を促して来たので僕は席を外すことにし、その意志をシトリー卿に伝える。

 

「はい。シトリー卿、これで失礼致します」

 

「あぁ」

 

 そして、シトリー卿の許可を得た僕は先程知らせに来た執事さんの案内で別の応接室へと向かった。そこへ向かっている最中、僕は先程の質問に対するシトリー卿の答えを思い返していた。

 

「セラフォルーが魔法少女に対する憧れを公言する様になったのは、大体数十年程前だ。だが、それが今の様に殊更強く拘る様になったのは自ら主演を務める「マジカル☆レヴィアたん」の放送を開始した十年程前だな。ちょうど、ソーナに物心がついた辺りになるか……」

 

 ……どうやら、僕の推測が正鵠を得ていた様だ。

 

 

 

Interlude

 

 一誠が応接室を退室してから、しばらくした後。

 

「フフフ……」

 

 シトリー卿が満足げな表情を浮かべてながら、ワインの入ったワイングラスを回していた。そこで一誠が退室した後で応接室に入り、夫の持つグラスにワインを注いだシトリー夫人が声を掛ける。

 

「あなた、随分とご機嫌の様ですね?」

 

 妻からの問い掛けに、シトリー卿は己の想いを明かし始めた。

 

「あぁ、そうだな。何せソーナに相応しい器量を持つ若者に出会えたのだ。しかも、それは最強の聖剣に選ばれた上に赤龍帝の上に立つ存在だ。私としては、もう文句の付け様がないな。……実は君と結婚してから、成長した息子と酒を酌み交わしながら語り合うという夢を密かに持っていてね。今のところは娘二人で少々遠のいてはいるんだが、彼を義息子に迎えればその夢が一足飛びに叶えられそうだよ」

 

 夫の意外な一面を垣間見たシトリー夫人は、それについての懸念材料を伝える。

 

「……でも、あの分では敵が多そうよ? それに、ソーナの気持ちも」

 

 しかし、シトリー卿は次女であるソーナの思惑に気付いていた。

 

「何故、ソーナが通信一つこちらに寄こせばそれで済むのに、彼をわざわざ伝令としてこの邸に寄こしたと思う? ……私に見てもらいたかったのだよ、彼の事を」

 

 夫から言葉少なに伝えられた事で、シトリー夫人もまた娘の意図に気づく。

 

「……そういう事なのね」

 

 それを確認したシトリー卿は、早速娘に対して連絡を入れようと動き始めた。

 

「さて、彼がセラフォルーと話している間にソーナに伝えておこうか。……彼ならば、眷属としてはもちろん婿としても歓迎するとな」

 

 ……一誠は今後、友好関係にある女性の男親には普通とは別の意味で苦労させられそうである。

 

Interlude end

 

 

 

 僕がセラフォルー様の待つ応接室に入ってから掛けられた第一声は、「あっ☆ 本物のヒーロー君だ☆ 会いたかったよ~☆」だった。これには、流石に僕も唖然とさせられてしまった。それに話に聞いた通り、格好が魔法少女の物だった。ご丁寧にもスティックまで持っている。うろ覚えだが、確か「魔法少女ミルキー」シリーズでも割と新作で着ていた物の筈だ。ただ、顔付きがソーナ会長に比べてやや幼い印象もあってかなり似合っている。これでは並んで立つと姉妹が逆転して見られるかもしれない。

 

 ……どうやら、想像以上にカルい女性らしい。

 

 何とか気を取り直して、セラフォルー様の前に跪いて自分の名前を名乗る。ただし、ソーナ会長の眷属として訪れているので、あくまで悪魔としての名乗りだ。なお、伝令という勤めを果たす以上は公の場となるので、言葉使いもそれに応じたものにしている。

 

「セラフォルー・レヴィアタン陛下。挨拶が遅れました事、失礼致します。私は兵藤一誠。妹君であらせられますソーナ・シトリー様及びそのご学友であらせられるリアス・グレモリー様のご共有である兵士(ポーン)でございます」

 

 しかし、セラフォルー様はむっとした顔をした後、とんでもない事を言い出した。

 

「……堅い、堅過ぎるよ。もっとにこやかに行こうよ、ヒーロー君☆ それこそ、ライザー君と気軽にお話ししてた時みたいに☆ それと、私の事はレヴィアたんって呼んでね☆」

 

 ……僕はシトリー卿やソーナ会長の苦労がどれ程のものなのか、それを垣間見た様な気がした。そして、それについては遠慮する旨を慌てて伝える。

 

「い、いえ。幾ら陛下のご意向とはいえ、流石にそれは。こちらとしては公の場となりますし、それを弁えないとなればご主君の体面に大きく関わりますので……」

 

 僕の断りに対してセラフォルー様は納得がいかない様子であったが、ソーナ会長の体面が悪くなる事を伝えたのが効いたらしく、どうにか受け入れてくれた。

 

「う~ん。ソーナちゃんが悪く言われるのなら、仕方ないね☆ 今は我慢してあげる☆」

 

「あ、有難うございます……」

 

 セラフォルー様に謝辞を伝えつつ、僕は一つの事を確信した。……姉がこれでは、ソーナ会長が確り者になる訳だ、と。

 

「それで、用件は何なの?」

 

 セラフォルー様が僕の訪ねて来た用件を確認して来たので、僕は駒王学園で公開授業が開かれる事を伝えた。その為に、僕がシトリー家への顔通しも兼ねて伝令として来た事も。

 

「へ~。ソーナちゃんの通ってる学校って、そんなこともするんだぁ☆ でも、良かったぁ☆ ソーナちゃんがわざわざ眷属の子を伝令に使って、私に教えてくれて☆ もし教えてくれなかったら、ショックの余りに天界へ攻め入っちゃったかも!」

 

 セラフォルー様はカルい雰囲気で、非常に物騒な事を言い放った。……冗談、ではなさそうだ。目が割と本気だ。

 

「それで、お勤めはこれで終わり?」

 

 セラフォルー様が尋ねて来たので、僕は本来の目的を告げる事にする。

 

「いえ、実はレヴィアタン陛下に一つお訊きしたい事がございまして。よろしければ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 

 かなり失礼ではあるが、為人(ひととなり)を見る限りでは多分受けてくれるだろう。実際、セラフォルー様は予想通りに快諾してくれた。

 

「うん、いいよ~☆ それで、このレヴィアたんに訊きたい事って何かな?」

 

 そこで、僕は早速尋ねてみる事にする。

 

「では、レヴィアタン陛下。陛下は何を求めて、魔法少女になられたのでしょうか?」

 

 ……おそらく、行動理念の根幹になっている事を。

 

 そうして十分ほどセラフォルー様の話を聞いた所で、僕はセラフォルー様が迷走している様な気がした。

 

 ……自分は魔法少女の事を知ってから、ずっと憧れている。だから、皆にもっと魔法少女について知ってほしいし、魔法少女の活躍を見る事で皆に笑顔になって欲しい。

 

 言っている事を僕なりに解釈すると、大体この様な感じになる。確かに、その通りだろう。冥界には娯楽が少なく、特に子供達が楽しめるモノが殆どない事は、フェニックス邸に滞在していた時に聞いている。だからこそ、セラフォルー様の「皆に笑顔になって欲しい」という意志はけして間違ったものではない。むしろ尊いものだと思う。しかしそれ故に頑張り過ぎてしまって、いつのまにか最初の想いを見失っている様な気がするのだ。僕の推測なのだが、実際に魔法少女に扮する切っ掛けとなったであろう女の子が、本当に望んでいたのは……。

 

 その時だった。

 

「お取り込みの所、失礼致します、セラフォルー様。緊急事態が発生しました。お入りしてもよろしいでしょうか?」

 

 案内してくれた執事さんが、入室の許可を求めて来た。

 

「入って来ていいよ~」

 

 セラフォルー様の許可を貰って入って来た執事さんからは、明らかに焦りが見えている。……よくこのような心理状況で、あれだけ落ち着いた言葉使いができたものだと思う。

 

「それで? 一体どうしたの?」

 

 セラフォルー様が執事さんに報告を促すと、執事さんからは驚くべき事が報告された。

 

「実は、シトリー領内の原生林に生息していた魔獣達が突如暴れ出しまして、大挙してこちらに向かっております」

 

 それを聞いたセラフォルー様は一つ頷くと、ソファから立ち上がる。

 

「解った☆ ここはレヴィアたんの出番だね☆」

 

 セラフォルー様は完全にノリノリでヤル気満々だ。……不味い。不明な点が幾つもあるが、まず確認するべき事がある。

 

「レヴィアタン陛下、一体どうなさるおつもりで?」

 

 僕がそう問いかけると、セラフォルー様は事も無げにこう答えてくれた。

 

「決まっているよ☆ 私の魔法をキラメかせるの☆」

 

 要約すれば、「自分が魔獣達を撃滅させる」と。

 

 ……いい機会かもしれない。

 

 そう感じた僕は、あえてセラフォルー様に進言する。

 

「レヴィアタン陛下。そのお役目、どうか私にお任せ頂けないでしょうか?」

 

 セラフォルー様には、一度本当に望まれていたのは、どの様な魔法少女だったのかを考えてもらった方がいいのかもしれない。そこで、僕は攻撃的な所があるセラフォルー様の代わりに魔獣達に対処する事を伝えた。

 

「えぇ! 何で~?」

 

 セラフォルー様は明らかに不満気な様子で僕に理由を尋ねてくるが、その前に確認しなければならない事がある為、僕は逆に尋ねる事にした。

 

「その前に一つ、確認させて頂きたいのです。今こちらに迫っている魔獣達は、わざわざ住処である森から出て来て相手を襲う様な凶暴な性格をしているのですか?」

 

 僕の問いに関して答えてくれたのは、執事さんだった。

 

「いえ、普段は温厚そのもので、住処としている原生林から出て来ることはまずありません。それに住処に入って来た悪魔を襲う事はありますが、それはあくまで自己防衛によるもの。無理に入ろうとしなければ、実害は皆無と言っても良いでしょう。それ故に、緊急事態と申し上げた次第です」

 

 確かに、普段から襲撃する様であれば「緊急事態」とは言わないか。……という事は、ある可能性が浮上してくるのでそれを伝える。

 

「成る程。という事は、何者かが魔獣達を扇動もしくは洗脳して襲わせている。その様な可能性もないわけではないという事ですか」

 

「……言われてみれば、確かに」

 

 僕の推測を聞いて執事さんが納得する一方、驚いたのはセラフォルー様だ。どうしたらいいのか、悩み始めてしまった。

 

「えぇっ! 私の魔法をキラメかせて、悪い魔獣達をやっつけるつもりだったのに! もし本当に利用されているだけだったら、全然悪くない魔獣達をやっつけるなんて事、魔法少女なら絶対にできないよぉ! それなら、魔獣達を元の状態に戻してあげるのが一番いいんだけど、私はその類の魔法を得意にしてる訳じゃないし、その前にまず凶暴化して暴れてる魔獣達を鎮圧してからじゃないと……」

 

 「マジカル☆レヴィアたん」が明らかにアクション重視の特撮物であった事から、薄々そうではないかとは思っていた。セラフォルー様は魔法少女を名乗る割には、使用する魔法がどれも余りにも物騒なのだ。その意味では、魔法少女というよりはむしろ魔王少女と呼ぶべきかもしれない。……だからこそ、今回の一件は任せられない。

 

「レヴィアタン陛下、それ故に私にお任せ頂きたいと申し上げたのです」

 

 僕はセラフォルー様に改めて進言する。

 

「それって、自分なら魔獣を傷付けずに助ける事ができるって言うつもりなの、ヒーロー君?」

 

 そう問い掛けてくるセラフォルー様は明らかに機嫌が悪くなっているが、ここで退く訳にはいかない。それに、これだけは言える。

 

「実際に魔獣達を見なければ解りませんが、おそらくは」

 

 僕の発言を聞いたセラフォルー様は、僕にこの場を任せる発言をしてくれた。

 

「うん、分かった☆ここはヒーロー君に任せるね☆」

 

 しかし、この分では失敗した時が大変だろう。

 

「た・だ・し」

 

 ……現に。

 

「駄目だった時には、酷いんだからね☆」

 

 言葉こそカルい印象があるが、眼が全く笑っていなかった。この辺りは、やはり悪魔の頂点に立つ魔王のとしての厳しさなのだろう。

 

「承知致しました。レヴィアタン陛下」

 

 僕は全てを承知して早速現場へと向かう。その時、精神感応でロシウが話しかけてきた。

 

《一誠。まさかお主、アレを使うつもりかの?》

 

 ロシウが僕に確認を取ってきたので、僕はその通りである事を伝える。

 

〈そのつもりだよ。実際に見てみないと解らないけど、おそらくは有効な筈だ〉

 

 すると、ロシウは嘆息交じりで()()()()を開発した時の事を口にし始めた。

 

《……完成した魔法を見せられた時、儂は無駄の極みだと確かに言った。使用に適した場面など到底有り得ないと思ったのじゃよ。実際は、はやての件を始めとしてその真反対じゃったがな》

 

 ロシウの言う通りだった。特に戦いの日々の中でソレを使用する機会は、おそらくなかっただろう。僕もその点については同意しているので、それをロシウに伝える。

 

〈そうだな。僕自身、その自覚はあった。でも、それでも作らずにはいられなかった。幼き日に見た桃太郎さん達の愛を以て懲らしめる戦い方を魔法で表現したいと思ったし、幻想種と語らいながら共に歩む召喚師(サモナー)としても、正に理想の魔法だったから。そして、その甲斐は確かにあったよ〉

 

《……そうじゃったな。では、今回もそうなる事を祈っておこうかの?》

 

 半ば呆れる様なロシウの声に、僕は苦笑いするしかなかった。

 




いかがだったでしょうか?

セラフォルーが魔法少女に憧れる様になった時期と「マジカル☆レヴィアたん」が始まった時期については、独自の物である事をご了承下さい。

では、また次の話でお会いしましょう。

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