第一話 千里の道も一歩から
Side:リアス・グレモリー
エクスカリバー盗難に始まる戦争再開を目論んだ一連の事件、通称コカビエル事件が解決してから半月余り。その間にゼノヴィアが私の眷属として加わるという事もあったけど、何より大きいのはあの紫藤イリナさんの駒王学園編入だった。
イッセーの幼馴染で関係が非常に深いのとお兄様から天界のメッセンジャーである事を伝えられた事で編入を許可したものの、その後次々と伝わる事実から私は完全に出遅れた事を悟った。
……何よ、イッセーの家でホームステイって。いくら幼馴染でお互いの両親も親しいからって、そんなのありなの? こっちは何度もイッセーの家にホームステイしようとしたけど、その全てをソーナの猛反対で実現しなかったっていうのに。
そんな事を考えていると、祐斗から匙君と二人で様子を見に行きたいと言ってきたので早速許可を出した。そうして戻ってきた祐斗が憐みの表情で私やアーシアを見ている事に気付いた私は、すぐに祐斗にイッセーの家で何があったのかを問い質した。……余りに衝撃的な事態に陥ると、自然と蹲るというのは本当だった。
何よ、お互い名前を呼び合うだけで、何をして欲しいのか解るって。それって、完全に「恋人」を通り越して「夫婦」じゃない。
祐斗から聞かされたイッセーと紫藤さんの二人のあり方を想像していると、ふと思い至った事があった。
イッセーの娘であるアウラちゃんは、彼女に対しては「小母ちゃん」を通り越して「ママ」と呼んでいた。しかも同じ初対面でも全く物怖じしなかった私達の時とは異なり、緊張の余りに噛み噛みになってまで「あたしのママになって下しゃい」と懇願している。私は最近になってやっと「小母ちゃん」と呼んでもらえるようになったのと比べると、アウラちゃんの懐き具合が段違いで向こうが上だった。因みに、未だに「お姉ちゃん」の朱乃は「小母ちゃん」と呼ばれている私を笑ってるみたいだけど、真実を知った時の反応が本当に楽しみだったりする。
……何だか、「既に大勢は決しているのだから観念しろ」という心の声が聞こえてくるけど、私はあえて無視する。何故なら、彼女がドラゴンの要素を持つとはいえあくまで天使である以上、まだ勝機はある筈だからだ。確かに、イッセーが志す「聖魔和合」を為す上で天界への窓口が必要となる以上、紫藤さんの存在が必要不可欠。でも同時に、冥界に関連する事については彼女は何も力になれない。そこに私の付け入る隙がある。私はそう考えていた。
ただし、それはソーナやレイヴェルにも同じ事が言えるのであり、特にソーナは彼女の盟友である事から聖魔和合を志すイッセーの手助けをする上でお互いの穴を埋め会おうとする可能性が十分にある事を、私は完全に見落としていたのだけど。
そんな中で、一つ大きな問題が起こった。
あの
……けれど、唯でさえ謝罪の為の会談を控えているのに一つ間違えたら大問題になる様な事をするなど、アザゼルは一体どういうつもりなのかしら?
幸い何事もなかったから良かったけど、アザゼルの考えなど私には理解できなかった。そこで、それについて早速お兄様に報告したところ、お兄様は苦笑しながら、「アザゼルは悪戯好きなだけで、コカビエルの様な事はしない男だよ」と仰った。それはそれで大いに問題ありだと思うのは、きっと私の気のせいではない筈だ。
それにしても、イッセーは冥界で一体何をしているのか、少々気になる所ではある。何せ、冥界での活動内容についてお兄様から黙秘するよう言われている事から、主である私やソーナですらその内容を知らされていないのだ。
それなら、例の「探知」で調べればいい。そう思う者も多いだろう。しかし、私はそれだけはしないと決めていた。……もし知りたいという欲だけで「探知」を使い出したら、私は唯の覗き魔になってしまう。それだけは、絶対に嫌だったから。
私が「探知」の危険性に気づいたのは、コカビエルとの最終決戦でバルパー・ガリレイが聖剣の統合体をフリード・セルゼンに持たせて乗り込んだ後にゼノヴィアが途中参戦した際、ゼノヴィアの戦闘手段を確認する為に「探知」を使用した時だった。
本来ならゼノヴィアの戦闘手段だけを「探知」すればよかったのだけど、突然ゼノヴィアに関する膨大な情報が流れ込み始め、更にそれに関連した形でゼノヴィアの仲間である紫藤さんの情報まで「探知」してしまったのだ。その結果、紫藤さんの天使化とそれに伴う精神の消滅という危機、そしてその現状における対処法まで知る事ができたのは本当に怪我の功名だったけど、同時に彼女が今まで辿ってきた過去やその時の想いまで知る事になってしまった。……同時に、煌龍剣レイヴェルトを与えられた際に紫藤さんが知る事になった、イッセーの過去も。
コカビエルとの最終決戦の翌日、ゼノヴィアの戦闘手段を見通そうとしたら思いがけずに紫藤さんの危機まで知る事になったとしてイッセーに相談した所、戦闘中だった事で自分を中心とする一定範囲のあらゆる情報を見通す戦闘仕様の「探知」を使用していた時に対象を絞り込めば見通せないものがない諜報仕様の「探知」を併用した事で、その対象に関するあらゆる情報に始まり、対象に直接関係する存在の情報をも見通してしまったのでしょう、との事。イッセーはこの現象を「連鎖の爆発」と表現し、これを応用すれば「探知」の対象を切っ掛けとして過去に対する探知を行える可能性が高く、その負担もおそらくは時間軸を対象として直接過去を「探知」するよりも遥かに小さなものになり得るという推測を語ってくれた。
イッセーの推測を聞き終えた私はその後、一週間ほど悩みに悩んだ。自分がイッセーや紫藤さん、ゼノヴィアの三人に関する事を覗き見てしまった事を謝罪するかどうかを。……詫びるのが正しいのは当然だった。でも、それを告白する事で新しく私の眷属となってくれたゼノヴィア、そして何よりイッセーの信用を完全に失ってしまわないか、それが酷く不安だった。
そうして散々悩み抜いた末、ここで逃げたらそれこそイッセーの主、いいえ将来の「后」として相応しくないとして、全てを告白する事を決意した。その翌日の昼休み、謝罪するべき対象であるゼノヴィア、紫藤さん、そしてイッセーの三人だけを屋上へと呼び出し、全てを告白した。
……本人達の了承も得ずに三人の事を「探知」してしまった私は、唯の覗き魔だと。
すると、イッセーは私に一つ質問をしてきた。
「そうですか。一つだけ、確認させて下さい。……それは、事故ですか?」
この問いかけに、私は最初「その通り」と答えようとした。でも、その言葉が口を突いて出ようとした時、私自身への疑問が浮かんだ。
……本当にそうだったのか、と。
私は目を閉じて、その時の自分の心と向き合って答えを出した。そして、私はその答えをそのままイッセーに伝える。心底好きになった男の人に嫌われる恐怖で体が震えそうになるのを、手を握り締める事で必死に堪えながら。
「……違うわ。「イッセーの事をもっと知りたい」。ライザーとの一件以来、私はいつもそう思っていたの。その思いに反応した事で「探知」の抑えが利かなくなって、こんな形で出てきたんでしょうね」
己の罪を告白したけど、誤解だけはして欲しくなかった。だから、言い訳以外の何物でもないけど、私は自分の意志が何処にあったのかを伝える。
「でも、これだけは信じて。こんな覗き魔以外の何物でもない事、私はしたいなんて思ってなかった。ゼノヴィアや紫藤さん、そして何よりイッセー本人の言葉で直接教えてもらいたかったのよ」
私がそう言い終わると、イッセーは私ではなくゼノヴィアと紫藤さんの二人の方を向いてその意志を確認していた。
「二人とも、どうするのかな?」
すると、まずはゼノヴィアから答え始める。
「まさか、部長がその様な能力を持っていたとはね。確かに、プライベートを無断で覗き見られたのは余り気分のいいものでないのは事実だ。だが……」
ゼノヴィアがプライベートを侵害されたとして不快感を表すと、紫藤さんがその後を継いで話し始めた。
「リアスさんは今、自分の行いに対して懺悔している。……たとえ悪魔であっても、ここまで己の行いを羞悪し、反省しているであれば、私達からは何も言う事はないわ」
紫藤さんがそう締め括ると、イッセーは私の方を向いて声を掛ける。
「……だそうですよ、リアス部長」
イッセーはその後、自分の考えていた事を私に伝え始めた。私が持つ「探知」の本質と、使い方を誤った時の末路を。
「もし、ここで僕の質問に対して肯定する様なお返事をなされていたら、遠慮も容赦も捨てて徹底的にお説教させて頂くつもりでした。……「探知」で見通せるのは、あくまで使用者が知りたいと望む事だけ。それを理解していないと、今回と同じ事を何度も繰り返す事になります。そうなれば、いつか必ずリアス部長は破滅する事になっていたでしょう。知られたくない過去を知られる事でリアス部長を激しく憎み、忌み嫌う者、あるいは情報の漏洩を恐れる者達の手によって」
この時、武藤神父の忠告が改めて頭に浮かんだ。
「リアス・グレモリーさん。どうか、その力の使い時を誤らない様にして下さい。でなければ、貴女を待っているのは破滅かもしれません」
あれは、こういう事だったのだ。私は今、実感と共に理解できた。ライザーの忠告もそうだったけど、どうやら私は一度実際にどうなるかを体験しないと、折角の忠告をしっかりと理解できないらしい。それが、かなり情けなかった。
私が自分の不甲斐無さに内心落胆している中、イッセーの言葉は続いていく。
「ですが、リアス部長はそれを自ら気づいて、そして反省しました。だから、二人と同様に僕ももう何も言いません。後は、こんな不快な思いを他人にさせるのを僕達で最初で最後にして頂ければ十分です」
そして、イッセーは私の謝罪を受け入れると共に、私に同じ過ちを繰り返さない様に釘を刺したのを最後に話を締め括った。……本当に、どちらが
それ以降、私は訓練の時以外は極力「探知」を使用しない様にしている。戦闘の時も、有効範囲を一流の
だからこそ、今は何をしているのか、イッセーが自分から教えてくれるのを信じて待つだけだ。ソーナが私のこの考えを聞けば、きっと「似合わない」って言いそうだ。けれど、時には自分が見込んだ男を信じて待つのも大切だと思う。
……それにそれくらいできなかったら、
尤も、それでも気になるのは流石にどうしようもないとは思うのだけど。……お兄様は一体、イッセーに何をさせようとしているのだろうか?
Side end
「ご尊顔を拝し、恐悦至極にございます。私の名は兵藤一誠。グレモリー家次期当主リアス・グレモリー及びシトリー家次期当主ソーナ・シトリーの両名にお仕えしている眷属でございます」
サーゼクス様から冥界における礼装と認められた
「フム。名乗られた以上は、こちらも名乗り返すとしよう。儂がエギトフ・ネビロスだ。だが、儂は長々しい割に大した意味もない世辞を一々聞くつもりはない。早速だが、貴様がルシファー様の紹介状を使ってまで、儂との面会を望んだ理由を聞こうか。まさか、ただ儂の話を聞きに来た訳ではあるまい?」
エギトフ・ネビロスと名乗り、僕に話の続きを促すその人物は既に老年の域に入って久しいらしく、既に髪と髭は完全に白い物となっていた。しかし、その眼光はモノクル越しであってもなお力強い物があり、心弱き者であれば耐え切れずに失神、あるいは心臓麻痺すら起こしかねない程だ。
……だが、無理もない。この老年の人物こそ、悪魔創世の頃から生き続ける最長老の悪魔でありながら未だに現役であり続けている事から、上層部はおろか現ルシファーのサーゼクス様ですら一定の配慮を必要とする、冥界の総監察官なのだから。
―― 聖魔和合。
最初は、カリスとエクスカリバーとの繋がりを断ち切るのが嫌で、ドライグのオーラを間に挟む事で「聖」と「魔」の力を自分の中で無理矢理共存させるという、いわば自分で自分を騙すハッタリの様なものだった。しかし、祐斗が和剣鍛造によって「聖」と「魔」の力を共存させた事が切っ掛けで、ドライグのオーラが干渉しなくても共存できるのではないかという疑問を持った。そして、アウラの涙ながらの嘆願によって天界と冥界の和平とそれに伴う共存共栄こそが己の使命であると悟った僕は、その理念として聖魔和合の言葉を掲げる事になった。なお、聖魔和合の成立を志す事をはっきりと宣言したのはコカビエルとの戦いの終盤で二代目騎士王の名乗りを挙げた時だったので、当然ながらサーゼクス様も居合わせている。
……だからだろう。コカビエルとの最終決戦の翌日、サーゼクス様から僕個人に連絡があり、次の様な事を言われた。
「君が本当に「聖魔和合」を目指すのなら、ただ理想を掲げるだけでは駄目だ。闇雲に保守派の多い上層部に反発しても、現実は大して変わらないよ。だから、まずは上層部に連なる者達を味方につけるべきだ。尤も、政治に関しても造詣の深い君にとっては釈迦に説法かもしれないけどね」
そして、僕がコカビエル事件で立てた功績からイリナに関する嘆願を叶えた分を差し引いた残りについては、僕が望むのであれば上層部に連なる者達の内の数名と面会する許可を与える事で報奨とする事を提案された。もちろん、通常の報奨を望むならそれでも構わないとサーゼクス様は仰ったが、これは千載一遇の好機だった。通常なら、功績を更に積み重ねて上級悪魔に昇格・独立してから悪魔としての爵位を上げていく事で初めて可能となる事である。それを今の段階で叶うとなれば、今後どう動いていけばいいのかをじっくりと考える事ができるだろう。だから、サーゼクス様の提案を断るという選択肢は、僕にはなかった。
ただ、仮に上層部に連なる者と面会できるとはいえ、ただ闇雲に顔合わせをするだけでは全く意味がない。そこで、とりあえず上層部に連なる者達の名前を教えてもらった所、以前フェニックス邸に滞在した折に読破した書斎の本に名前が書かれてあった者が何人かいた。特に様々な苦難の果てに現在の悪魔社会の礎を築いた偉人や人品と才覚を併せ持つ事で立身出世を果たした英傑達については自伝を含めてその内容を良く覚えていたので、まずはそういった方達にお会いしようと思ったのだ。そうして、僕はイリナがホームステイを始めた翌日から一週間、睡眠時間を削って様々な方との面会をこなし、その中でそのお考えを聞かせて頂いた。
例えば、上層部の中でも数少ない改革派の一人で比較的サーゼクス様と年齢が近く、
自らも実力で伸し上がった事もあって、この方は実力さえあれば下級はもちろん転生悪魔にも活躍の場を与え、更に功績に応じて階級の昇格や爵位の授与も惜しまないという完全実力主義を掲げている。今はとにかく人材が不足している以上、使える者はドンドン上に引き上げなければ、直接敵対する天界や堕天使勢力もそうだが、それ以上に今は三大勢力の情勢を静観している他の神話体系に付け入る隙を与えかねないとして、他勢力の動向を警戒していた。
一方、悪魔としても高齢者が多い保守派の一人で、当時は家の中での教育を是とする為に悪魔達の教養や戦闘技術の個人差が余りにも大きい事を懸念し、名家を始めとする上級悪魔の子息達を一か所に集めて一定レベルの教養や戦闘技術を指導教育するという、現在の上級悪魔の為のレーティングゲーム学校の前身となる貴族学校を設立する事で戦力の底上げに尽力した、先代プールソン卿。
この方は、元が人間や人間の血を引く事に由来する神器や元の種族特有の異能を所持する転生悪魔が台頭しつつある現状を密かに憂いており、このままではいつか下剋上を望む転生悪魔による反乱が発生しかねないと語っていた。それだけなら待遇の改善なり権利の拡大なりで懐柔する用意があるが、先代四大魔王の血縁者を中心とした反体制派がそれに乗じて行動を起こす事で悪魔勢力が分裂した挙句、最後は滅亡してしまう恐れをどうしても拭い切れないと言うのだ。
両者の話を聞いた時、僕はどちらにも一理あると思った。ただ、アドラメレク卿の意識は外に向いている一方、先代プールソン卿は内に意識を向けていた。アドラメレク卿が懸念している他勢力からの干渉はもちろんだが、先代プールソン卿が懸念している転生悪魔による反乱に始まる破滅劇もまた、けして絵空事と笑い飛ばせる事ではない。何故なら、転生悪魔はほぼ例外なく上級悪魔の所持する
例えば、独立して上級悪魔となり、その能力と功績が認められて行政に携わる重要な役職に就いた転生悪魔がいたとしよう。その後、かつての主から密かに自分への便宜を図る様に言われた時、彼はどうするべきだろうか?
契約に則って主に対する便宜を図る? ……魔王を始めとする上層部と冥界を裏切る事になる為、バレた時点で重い罪に問われる上に他の転生悪魔に対する見方も厳しいものへと変わる事だろう。
それでは、贈賄罪としてかつての主を告発する? ……悪魔にとって契約が絶対である以上、おそらくは無理だろう。仮に為し得たとしても、契約違反のペナルティがどの様な形で現れるのか、全く想像がつかない。ひょっとすると、主から逃げ出すか主を殺害した「はぐれ」悪魔の大部分が欲望のままに行動するのも、この主従関係における契約違反のペナルティによって精神の均衡が損なわれているからかもしれない。それに、これはあくまで可能性であるが、天使が存在意義である神の愛を捨てると「堕天」する様に、悪魔もまた存在意義を自ら否定する事で「堕天」するのかもしれない。尤も、悪魔の場合は「天から堕ちる」のではなく「天へと堕ちる」のだろうが。
以上の点を踏まえると、転生悪魔には政治や経済に直接関わる様な重要な役職を任せるわけにはいかなくなってしまうのだが、それで転生悪魔達が納得できるかはまた別の問題だ。特に自らの能力に自信を持ち、大志や野望に溢れる者達には到底耐えられないだろう。
ならば、どうするのか? ……その答えは、人間が今まで積み重ねてきた歴史が証明している。力ある転生悪魔には人間、もしくは人間の血を引く事で強力な力となり得る神器を所持する者が多い事が容易に想像できる以上は尚更だ。そして、外部の敵対勢力を放置して内乱を引き起こした勢力がどうなるのか、これも人間が重ねてきた歴史が教えてくれる。歴史は場所と種族を変えてもなお繰り返される、という事なのだろう。それでは、一体何の為の
……いや、違う。
そもそも転生悪魔とは、絶滅の恐れがあった純血悪魔を少しでも社会に還元して数を増やさせる為の代替戦力であり、その代替戦力としての転生悪魔を容易に生み出す為に用意されたのが悪魔の駒であった筈だ。その意味では、ここまで転生悪魔が活躍の幅を広げていき、今や冥界にとってなくてはならない存在となった事は完全に想定外であろう。
つまり、見方を変えれば冥界は現在非常に危うい状況下にあり、それ故に大きな転換期を迎えているとも言える。だからこそ、現在の悪魔社会における最長老であるエギトフ・ネビロス総監察官と面会して、直接確かめてみる事にした。……悪魔という種族そのものの変遷を見続けてきたこの方は、今の冥界に対して一体何を感じているのかを。
こうして、サーゼクス様から報奨として許可して頂いた面会の最後の相手として総監察官を希望した僕は、サーゼクス様から総監察官の邸の場所を教えて頂いた後にそこを訪れ、正門に詰めていた門衛に自らの名と要件を告げた上でサーゼクス様の紹介状を渡した。
そうして、そのまま待つ事一時間。ようやく邸の中に入る事を許され、応接室で初めて顔を合わせた時に思ったのは、この方は厳格ではあるがけして頑迷ではないという事だった。それと共に、この方は何かを待ち望んでいる様にも感じられる。そこで、僕は自己紹介の後、あえて挑発以外の何物でもない言葉を投げかけてみた。
「私は、貴方を超えていく者です」
すると、総監察官は表情こそ変えないままだったが、僕が投げかけた挑発としか受け取れない筈の言葉に興味を引かれた様だ。
「ホウ。……そうきたか」
総監察官はそう言って、不敵な笑みを浮かべた。……さぁ、ここからが本番だ。
いかがだったでしょうか?
大いなる力には大いなる責任が伴う。
今回の件で、リアスはそれを実感した事でしょう。
後はそれをどう生かしていくか、でしょうね。
では、また次の話でお会いしましょう。