赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.15 修正


中編 ひょうどうけ。

 イリナが我が家にホームステイすることになった、その初日。両親から言われてイリナを迎えに行ったその帰り道で、レイヴェルとバッタリ出会った事でその想いの丈をぶつけられた。

 しかし、僕はそれをはっきりと拒絶した。ライザーやレイヴェルには申し訳ないが、今の僕には将来を共にする相手としてイリナ以外に考えられなかったからだ。……それにも関わらず、引き続き僕の仕事を手伝うと言ってくれたレイヴェルには、本当に感謝するしかなかった。

 

 その様な事があった後、僕達は家に到着した。僕は今や遅しと待ち構えていた両親とはやてにイリナを連れてきた事を伝えると同時に、イリナとは結婚を前提にして付き合う事になったという報告も行った。寝耳に水だった両親はもちろん、イリナもまさか僕がここまで早く言い出すとは思わなかったらしくてビックリ仰天。一方のはやては、コカビエルとの最終決戦に居合わせた事で僕とイリナの事を知っていたので、特に驚く事はなかった。しばらくして、父さんが驚愕から立ち直ると、「お前、イリナちゃんとは付き合う事無く別れたんじゃなかったのか?」とズバリ訊かれてしまい、母さんもウンウンと頷く始末。

 

 ……どうやら、あの時の事は完全にバレバレだったらしい。

 

 そこで、再会した日の夜に一度本当に別れる事になったものの、瑞貴の取りなしでもう一度お互いに向き合った結果、間を取り持ってくれた人の言葉もあって結婚を前提に付き合う事になった、と説明した。僕はアウラの事を少し誤魔化したのを除けば全て本当の事を家族に伝えたのだが、その反応は様々だった。

 

「一誠。それなら、お前がもっとしっかりしないと駄目だろう。そのせいで、本当ならそんな必要なんてなかったのに、イリナちゃんを傷つける事になったんだからな」

 

 父さんには、もっとしっかりしろと説教されてしまった。

 

「一誠、レイヴェルちゃんにはこの事を……。そう、ちゃんと説明はしてあるのね。だったらいいわ。その代わり、イリナちゃんを泣かすような真似だけはしちゃ駄目よ?」

 

 母さんからは、男としてきっちりとケジメをつける様に念押しされた。

 

「そっかぁ……。わたしの知らん所で、そないな事があったんかぁ。なぁ、アンちゃん。余計なことやと思うけど、イリナお姉ちゃんを大事にせなアカンよ? それと、イリナお義姉ちゃん。これからはホントのお義姉ちゃんやから、もっと仲良うしような?」

 

 そして、はやては僕にしっかり釘を刺す一方で、イリナについては義姉として接する事を宣言した。皆、イリナを歓迎している点では共通しているので、僕はホッとしていた。

 なお、この日の夕食はイリナが我が家にホームステイする初日という事で当初の予定を大幅に変更せざるを得なかったらしいのだが、そこは初等部における料理の鉄人の二つ名を持つはやて。予定の大幅変更にも母さんと共に対応して、見事なご馳走を仕立て上げてしまった。因みに、はやての料理の腕前は既に母さんをも凌駕しており、夕食の料理の割合もはやてが六で母さんが四らしい。僕も早く帰って来た時には夕食の準備を手伝うし、休日には父さんと共に料理を作ったりもするが、二人にはやっぱり敵わなかった。

 

 そうしてイリナも交えて歓談しながらご馳走となった夕食を共にした後、リビングでイリナを含めた家族皆でテレビを見て過ごした。……なお、イリナがお風呂に向かった後。

 

「なぁ、アンちゃん。今までは、お父ちゃんとお母ちゃんの仲良し夫婦ぶりを目の当たりにして、兄妹揃って溜息吐くのが日常やったな。そやけど、今日のアンちゃんはイリナお義姉ちゃんと肩を寄せ合って、それはそれは幸せそうな顔をしとったで。これで、今日からはアンちゃんも向こう側や。……この、裏切り(モン)が!」

 

 はやてから凄い目付きで責められてしまい、土下座して誠心誠意謝る事しかできなかった。

 

 その後、次の日の予習と期末テストが近づいてきている事もあって一学期分の復習を少しずつ始める為に自分の部屋に入ろうとしたのだが、そこでイリナが勉強を教えて欲しいと頼み込んできた。……よくよく考えてみれば、イリナは悪魔祓い(エクソシスト)として活動していたので、高校教育は受けていない筈。それでよく編入試験に受かったなと不思議に思ってイリナに話を聞くと、実は独学でそれなりに勉強していて、高校一年で学ぶ範囲についてはどうにか修めていたとの事だった。ただ、流石に高校二年に入ってからの分についてはまだ追いつき切れていないので、学業特待生である僕に勉強を教えて欲しいとの事だった。そこまで言われると流石に断れないので、僕はイリナを僕の部屋に招き入れてからテーブルの向かい合わせに座って、自分の勉強と並行してイリナに勉強を教える事にした。

 ……白状しよう。自分の部屋で好きな女の子と二人きりという状況に加えて、風呂上がりの為にラフな格好で普段はツインテールに纏めている髪を下ろしたイリナの姿がとても新鮮で可愛らしく、二時間ほど続いた勉強会の間、僕はずっとドキドキしっぱなしだった。当然、その様な状態で勉強した内容など、頭の中に入っている訳がない。

 そんなこんなで勉強会が終わると、それをずっと待っていたのだろう。アウラが僕の精神世界から飛び出して、イリナに抱き付いてきた。アウラはイリナと一緒にいられる事でとても嬉しそうにしており、イリナもまた微笑みを浮かべながらアウラの頭を優しく撫でている。

 

「エヘヘ……。ねぇママ?」

 

「どうしたの、アウラちゃん?」

 

「何でもないの。ただ、あたしがママって呼びたかっただけ」

 

「もう。アウラちゃんは甘えんぼさんね」

 

 ……誰がどう見ても、二人は完全に母と娘そのものだった。その母子の光景を見た僕は、高鳴り続けていた胸がすっかり落ち着いた事で微笑ましく見ていたのだが、イリナから手招きされたのでテーブルを回り込んで近付くと、そのまま手を引かれて隣に座らされた。

 

「ほら、アウラちゃんの側にいないとダメでしょ。お父さん?」

 

 その様な事を言いながら、まるで悪戯が成功した子供の様に無邪気な笑みを浮かべているイリナがとても愛おしくなって、僕はイリナの肩を少しだけ強引に抱き寄せる。「キャッ」と軽く悲鳴を上げたイリナの額に、僕はそのまま軽くキスを落とした。

 

「そうだね。家族は一緒にいないとね」

 

 僕がその様なキザったらしい台詞を言うと、イリナは少しだけ頬を赤く染めて「もう、イッセーくんったら」と軽く窘めてきた。僕達のこの様な姿が、他の人からはどの様に見えているのだろうか?

 

 ……できれば、何処にでもいる様な一組の家族として見えていてほしい。

 

 僕は心の中でそう強く願うと共に、今ここにある奇跡の風景を必ず日常へと変える決意を新たにした。

 

 そうして大体三十分程、秘密の家族団欒を過ごした後、イリナは割り振られていた自分の部屋へと帰っていった。その別れ際、イリナは不意打ちでキスをした後で「おやすみなさい」とウィンクしてから僕の部屋を出ていった。イリナが完全に見えなくなると、僕はベッドに背中から倒れ込んでから先程キスされた唇にそっと触れる。あの様な事をした僕も大概だったが、イリナも相当に大胆だった。

 ……今夜は、ちょっと眠れないかもしれない。明日は寝不足で苦労しそうだなと、僕は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

Interlude

 

 一誠はイリナも相当に大胆だとしていたが、実際の所は少々違っていた。

 

 イリナは自らに宛がわれた客間に入ってベッドの上に寝転がると、嬉しさと恥ずかしさの余り、枕を胸に抱いてベッドの上でゴロゴロ転がり始めた。しばらくするとゴロゴロ転がるのをやめて、枕に顔を埋めて両足をバタバタし始める。

 傍から見ると奇行以外の何物でもない行動を取るイリナの心の中はといえば。

 

(キャアー! 私、イッセーくんに肩を抱き寄せられちゃったわ! しかも、デ、デコチューまでしてもらっちゃった! お陰で、さっきからもう胸がドキドキしっぱなしよ! しかもそれに乗っかって、自分からおやすみのキスまでしちゃったし! 私、今夜はもう眠れないかも!)

 

 ……先程の行動に興奮しっぱなしだった。

 

 何の事はない。イリナは一誠の行動で完全に逆上せあがった事で、勢いでおやすみのキスという大胆な行動を取っただけであった。この様に、お互いの格好や仕草、行動の一つ一つに胸を高鳴らせてしまう辺り、何とも初々しい二人である。

 

Interlude end

 

 

 

 イリナは駒王学園に通い始めたのは、その翌日からだった。そしてその日以降、僕は母さんから弁当を受け取る事がなくなってしまった。その代わり、イリナが母さんと一緒に作ったという弁当を持って来てくれるようになった。きっと、女同士で話をつけておいたのだろう。こうして、僕は可愛い彼女(というより殆どお嫁さん)と一緒に仲良く登校し、弁当を作って来てもらって一緒に食べるという、俗にリア充と呼ばれる生活を始める事となった。……好意をはっきりと告げられた上で断ったレイヴェルには、正直申し訳なく思いつつ。

 

 そうして数日が経った所で、はやてが意外な事を言い出した。いい機会なので、両親に全てを伝えるべきだと言うのだ。はやて曰く「アンちゃん、何や大きな事をしようって考えとるんやろ? それやと、もう普通の高校生活を保てんようになるんとちゃうの? それやったら、せめてお父ちゃんとお母ちゃんには知ってもろうとかんとアカン。このままやと、きっとお互いに後悔することになるで?」との事だった。

 確かにはやての言う通りだった。夜天の王としての素質なのか、はやては視野の広いものの考え方をする事ができる。その意味では、はやては何処までも正しい。だが、なかなか決心がつかなかった。唯でさえ、両親は当時五歳の僕が前世の記憶持ちであるというオカルトを受け入れているのだ。その上で更に「実は息子は人間をやめていました」などという事を、果たして受け入れられるのだろうか?

 

 ……何の事はない。僕は、ただ両親から拒絶されるのを恐れていただけだった。

 

 両親がはやてを伴って僕の部屋に入ってきたのは、自分の部屋で一人苦悩していた時だった。ただし、はやての手には夜天の書があり、リインとリヒトが実体化した状態であったが。

 

「はやて、どういうつもりだ!」

 

 僕は余りの事態にはやてを問い質すと、はやてからはとんでもない答えが返ってきた。

 

「……アンちゃん。お父ちゃんもお母ちゃんも凄過ぎや。アンちゃんの事、それとなく気づいとったで」

 

 僕の想像から余りにかけ離れたはやての答えに、僕は完全に頭が真っ白になった。……はやての話は続く。

 

「ホントはな、まずわたしの事から話そう思うたんや。アンちゃんの抱えてるモンに比べたら、わたしのはまだ理解の範疇の筈やからな。そうしたら、なんて言うたと思う? そんな事は知っていた。むしろいつ言い出すのかを待っていた、やて。わかる、アンちゃん? わたしもアンちゃんも、すっごく大きな愛情に守られてたんや。……わたし、お父ちゃんとお母ちゃんには一生敵わん気がするわぁ」

 

 はやては途中から笑顔のまま泣き出してしまい、声が掠れてしまった。そして、はやての話が終わると、今度は父さんの告白が始まった。

 

「スマンな、一誠。俺はこれでもお前の父親だ。お前がただ研究者を目指していたという前世の記憶を思い出してしまっただけじゃない事には、すぐに気がついた。それに、頭が良くて心もある程度成長していたお前が俺達にそれを教えようとしないのは、俺達じゃ殆ど力になれないからだという事にもな。だからせめて、俺達だけでも特別扱いなんてせずに普通に接してやろうと決めていたんだ」

 

 父さんの告白が一区切りついた所で、今度は母さんが話し始めた。

 

「苦労したわよ? ただでさえ頭が良い上に、勘も鋭い一誠に隠し事するのはね。でも、その甲斐あって、一誠は人に優しくなれる立派な男の子に育ってくれた。それは、私達の自慢の一つなのよ? そんな時ね、一誠の帰りが突然遅くなり始めたのは。どうも誰かが私達に催眠術か何かを掛けて、一誠の帰りが遅くなる事に違和感がないようにしたかったみたいだけど、暫くしたら元に戻ったわ」

 

 僕の変化を感じ取ったという母さんの言葉に、僕は密かに家に仕掛けておいた幻術返しの術式が仇になってしまった事を悟った。そして、父さんと母さんは僕が変化した事への確信に至った決定的な証拠を上げていく。

 

「そして何より、大きく変わったのが銀だな。今まで部活動に参加していなかった一誠が突然入部したオカルト研究部の子達が訪ねて来た時、銀は初対面にしては異常なまでに激しい敵意をぶつけていた。いつもなら、吼えこそしても敵意をぶつけたりはしない銀が、だぞ? ……それだけじゃない」

 

「専業主婦の私だから気付けた事だけど、ある時期を境にして、銀はいつも家の周りを警戒するようになったわ。例外は、それこそ一誠が家にいる時だけね。銀はまるで「一誠が帰って来るまでは、自分がこの家を守る」と言っている様だったわ。決定的だったのは、一年ほど前にはすぐに懐いたイリナちゃんにすらオカルト研究部の子達と同じ様に激しい敵意をぶつけていた事ね。そこで悟ったのよ。私達のせいで、一誠の身に何かとても大きな事が起こったんだって」

 

 ……まさか、そこまで気付かれていたなんて。

 

 僕は両親の鋭い観察眼に感嘆すると同時に、それに気付けなかった自分の間抜けさに憤慨した。そして、父さんから僕に決断を促す様な言葉が紡がれていく。

 

「なぁ、一誠。話してくれないか? 俺達はお前の親だ。だから、お前の全てを受け入れる。結局の所、俺達にはそれしかできないからな」

 

 ……もう、これ以上は誤魔化せない。

 

 そう悟った僕は、椅子から立ち上がると人をやめた証である十一枚の羽を広げた。……天使と悪魔、そしてドラゴンの羽が混在した、あらゆる理から外れた異端の証を。

 

「これが答えだよ。父さん、母さん。僕は人間を止めて、天使でも悪魔でもない全く別の何かに。……化け物になったんだ」

 

 その時の僕の声は、きっと凄く寂しげに聞こえていただろう。そう確信できるくらいに、僕の声には感情というものがまるで籠っていなかった。……だからだろうか。

 

「母さん?」

 

「……バカね。一誠はただ人間じゃなくなっただけで、中身が変わったわけじゃないんでしょう? だったら、一誠は私の可愛い息子のままよ」

 

 母さんに抱き締められるまで、僕が全く反応できなかったのは。……それだけではなかった。

 

「さっきも言っただろう? 俺達は、お前の全てを受け入れると。全く、お前は変な所でバカだな。お前は俺達の息子である兵藤一誠だ。それは人間じゃなくなったという今でも変わらない。それとも、何か? ()()()()()()()()()()、お前は俺達の息子を辞められると本気で思っていたのか?」

 

「……父さん」

 

 父さんが母さんに抱き締められた僕の右肩に手を置いて、僕を励ましてくれた。この二人が僕の両親で本当に良かったと、改めて思う。……だから。

 

「父さん、母さん」

 

「何だ?」

 

「なぁに、一誠?」

 

 いつだって僕の呼び掛けに応えてくれる二人に、しっかりと感謝を伝えよう。

 

「僕を産んでくれて、本当にありがとう。二人が僕の親で、本当に良かった」

 

 ……この感謝の言葉を伝えた時、僕はきっと泣いていた事だろう。それくらい、僕は嬉しかった。そして、僕の前世の世界にいるイエスに、この二人の子として生まれる様にしてくれた事を心から感謝した。

 

 

 

 その後、この際だからとイリナも呼んでリビングに移動してから、僕が前世の記憶を取り戻してから重ねてきた事を色々と話していった。父さんには驚かれつつも、時に男のロマンについて共に熱く語り、母さんには無茶した事を時々叱られつつも、最終的には頑張りなさいと励ましてくれた。途中、はやてについて詳しく話していくと、二人して「グッジョブ!」とサムズアップを返してくれた。

 その最中、魔力で編み上げる事で頑丈な鎧と化す騎士甲冑の話が出る事で母さんから強請られたはやてが展開してみせたのだが、母さんは「凛々しくて可愛い!」と大興奮。父さんも、「これも娘の成長を見守る男親の醍醐味か……」と感慨に耽っていた。すると、両親にしかと見られて褒められるうちに恥ずかしくなったのか、はやては死なば諸共とばかりに僕の不滅なる緋(エターナル・スカーレット)とミスリル銀製の鎧甲冑の存在をバラしてしまった。そこで、今度は僕がそれを纏う事になったのだが、父さんと母さんはしっかりと感想を述べてくれた。

 

「ホウ。馬子にも衣装、とは言えないか。ここまでバッチリと決まっているとな」

 

「父さん、それはちょっと言葉が足りないわよ。一誠、凄く凛々しくて格好良いじゃない」

 

 二人の褒め言葉に僕は少々照れ臭くなってしまったものの、そのお礼をしっかり伝えると共に、父さんにはこの服装が悪魔の住まう冥界における礼服にもなっている事を伝える。

 

「褒めてくれてありがとう、母さん。それに父さん、ローブについては戦装束であると同時に、冥界における礼服も兼ねているんだ。だから、これでみっともなかったら、流石に不味いよ」

 

 僕がそう言うと、父さんは納得してくれたようだ。

 

「成る程な。日本人なのに、紋付き袴が似合わない様なものになるか」

 

 それも少し違う様な気がするが、僕はあえてツッコまなかった。そうして僕が自分の事を語り終えると、今度はイリナが自分の事を語り始めた。

 自分が十字教の悪魔祓い(エクソシスト)であり、本来なら敵対者である堕天使や悪魔と戦う使命を帯びている事、それ故に僕と一度は完全に決別した事。その際に僕が与えた煌龍剣レイヴェルトをソーナ会長に託し、自らは悪魔祓いをやめて「研究者になって人に役立つ研究開発をする」という僕の夢を継ぐつもりだった事。……そして、事故によって心なき天使に転生した後、ソーナ会長や元士郎、トンヌラさんのお陰で心を取り戻し、更に僕が与えたレイヴェルトに宿っていたゾーラドラゴンの献身によって、ゼテギネアの神竜であるディバインドラゴンの因子を持つ天使、龍天使(カンヘル)となった事も。

 流石に、イリナがレイヴェルトを受け取った時に元となった僕の()(どう)(りき)からその時までの僕の記憶を見てしまった事や、ゾーラドラゴンにファイアクレストに由来するディバインドラゴンの因子が入っていた事には気づいていなかったので、僕もまたイリナの話を聞いてかなり驚いていた。

 ……という事は、レイヴェルトを一度は継承したソーナ会長もまた僕の記憶を見ているという事になる。明日、学園で会った時に一体どの様な顔をすればいいのか、少々判断がつかなかった。

 イリナが自分の事を話し終えた後、父さんから「それなら、相容れない敵同士として一度は別れたお前とイリナちゃんを取り持ってくれたという人の事を教えて欲しい」と頼まれた。

 

 ……ある意味、これが一番重要な報告になるかもしれない。

 

 僕は早速、精神世界からアウラを呼び出した。両親は突然現れた30 cmにも満たない大きさで頭に山羊の角を生やし、何より顔付きが僕とイリナに良く似た六、七歳程の女の子が蝙蝠の翼を広げて宙に浮いているのを見て、流石に驚いている。その驚きの中で、僕はアウラに自己紹介をするように促した。

 

「アウラ。お爺ちゃんとお婆ちゃん、そして僕の義妹(いもうと)のはやてにご挨拶しなさい」

 

 すると、アウラは笑顔を浮かべながら、元気いっぱいに自己紹介を始める。

 

「ウン! あの、初めまして! お爺ちゃん、お婆ちゃん! それに、はやてお姉ちゃん! あたし、パパの娘でアウラって言います! それで、あたしが「あたしのママになって下さい」ってお願いしたから、ママはパパのお嫁さんになってくれました!」

 

 この僕の両親と義妹に対しても物怖じしないアウラの元気いっぱいの自己紹介を見て、やはりイリナの時が例外中の例外だったと改めて思い知らされた。両親とはやてが揃ってフリーズした後、まずははやてが再起動した。

 

「ア、アハハ……。あん時、アンちゃんを「パパ」って言うとったから、どないなっとんのか訳分からんかったし、今もイマイチ理解できへんけど、これでわたしは「叔母さん」になったんは間違いないなぁ。小学生の叔母さんって、一体何処の漫画の話やねん……」

 

 はやては「小学生の叔母」という事実に、ショックを隠し切れずにいる。……確かに、それは少々きついかもしれない。

 そして、ようやく再起動を果たした両親が僕に詰め寄ってどういう事かを問い質してきたので、僕はアウラ誕生に纏わる話を始めた。

 

 ……それは同時に、僕自身の弱さを伝える事でもあった。

 

 全てを話し終えた後、父さんには頭を下げて謝られてしまい、母さんに至っては泣きながら抱き着いて、そのまま何度も謝ってきた。二人とも、僕が人をやめた事で抱いてしまった苦悩に気付けなかった事を、親として深く悔やんでいる様だった。僕は二人にもう大丈夫だからと伝えながら、同時にこう思った。

 

 ……二人の様な親に、僕もなりたいと。

 

 そうして落ち着いた後、父さんと母さんは孫であるアウラを交互に膝の上に座らせて頭を撫でるなどして、全力で可愛がり始めた。一方のアウラの方も、お爺ちゃんやお婆ちゃんと堂々と一緒にいられる事で凄く喜んでいる様だ。その両親とアウラが織り成す祖父母と孫娘そのものの姿を見た事で、はやてもやっと腹を据えたのだろう。三人の元に向かった後、両親と一緒になってアウラを可愛がり始めた。どうやら、三人共アウラを完全に僕の娘として認めてくれた様で、僕は色々な意味でホッとしていた。

 

 ……これでもう、両親に隠し事をせずに済むと。

 

 こうして、僕は僕の抱える秘密の全てを両親に明かした。しかし、僕が人間をやめてしまった事に対して「たかがその程度」と言い切った父さんと、中身が変わらないのなら自分の可愛い息子のままだと断言した母さん。この二人の子である事を、僕はとても誇らしく思う。だから、人でなき者としてこれから歩む事になる永い生涯の中でも、僕の名前はけして変わる事はないだろう。

 

 ……僕はこの兵藤夫婦の長男、兵藤一誠だ。

 




いかがだったでしょうか?

……今回は、色々と自重という物を投げ捨ててみました。

それと、「普通である」事と「普通であり続ける」事はまた別物であるというのが、今話におけるテーマだったりします。
「普通になれなかった」子供達の為、兵藤夫婦はこれからも「普通であり続ける」事でしょう。

では、また次の話でお会いしましょう。

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