赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.13 修正


最終話 責任は、取ってもらうぞ?

Side:匙元士郎

 

 一誠と会長、レイヴェル様、そしてお手伝いさんとして新たに加わった紫藤さんが小休憩を入れて仲良く会話をし始めた。俺達の方は同じ生徒会室でも四人とは少し離れた所で作業していたんだが、睦まじいのが誰の目から見ても明らかな一誠と紫藤さんの姿を見た草下が完全に使い物にならなくなっていた。

 

「うぅぅ。一君……」

 

 そう言って羨ましそうにしている草下だが、本気で一誠に惚れてしまっているからな。少し前の俺がちょうどこんな感じだったからその気持ちはよく解るし、少なからず同情心も湧いて来る。……しかしこうなってくると、主であるグレモリー先輩が一誠に好意を寄せているのが明らかなグレモリー眷属の業務に支障が出ていないか、心配になってきた。そうして、俺は紫藤さんが編入して以降の出来事を思い返していた。

 

 ……無事に高等部二年への編入試験を合格した紫藤さんが初登校した時、駒王学園は震撼した。

 

 何せ、あの駒王学園の偉大なる皇帝と評される一誠と、腕を組んで一緒に登校してきたのだ。駒王学園の生徒の驚愕は推して知るべし。しかも、一誠も少々照れ臭そうにはしていたがけして嫌がっておらず、むしろ愛おしそうに彼女を見る姿がそれに拍車を掛けた。ただ、一緒にいた義妹のはやてちゃんが二人の事を後ろから嬉しそうに見守っていたのに対し、レイヴェル様は明らかに不機嫌そうな表情を浮かべていたのが対照的だった。

 更に、一誠と同じクラスになった紫藤さんは休み時間の度に一誠の元を訪れては楽しそうに話をし、昼休みの時には二人一緒に昼食を食べていたらしい。しかも、紫藤さんは一誠に手作りの弁当を手渡した上でだ。対する一誠も、休み時間の時は嬉しそうに応えていたし、手渡された手作り弁当も美味しそうに食べていたそうだ。因みに、語尾が伝聞形なのは俺が一誠とは違うクラスであり、一誠と同じクラスの奴から話を聞いたからだ。

 こうして、一誠に対して積極的な行動を取り続けた紫藤さんはまだ編入してからほんの二、三日にも関わらず、今やすっかり一誠の彼女のポジションに納まっており、一部からは「駒王帝の后」とすら呼ばれ始めているらしい。……尤も、実はかなりの数に及んでいる一誠のファンからのやっかみを一身に受ける事になったのだが、一誠曰く「誰とでもすぐに打ち解けられる」というその天真爛漫な性格で既に一誠のクラスメイトと馴染んでおり、何人か仲の良い友達も作っている事からやっかみは次第に治まりつつある様だった。

 

 そういった背景もあって、もはや学園公認カップルと化しつつある一誠と紫藤さんの仲睦まじい姿を見た草下がガックリと肩を落としている訳だ。その一方で、副会長は辟易した様な表情を浮かべながら仁村にブラックのコーヒーを注文していた。既に仕事を始めてから三杯目で、どれだけ口の中が甘くなっているのか容易に想像できる。

 

「……留流子、コーヒーを追加して下さい。勿論ブラックで」

 

 それに便乗して花戒も注文する。

 

「留流子ちゃん、私もお願い。勿論ブラックよ」

 

 副会長と花戒の注文を受けた仁村は、自分の分も作るついでという事で他の奴にも声を掛けた。

 

「はい、副会長に桃先輩。私も自分の分を作って来ますから、他に誰か欲しい人いませんか?」

 

 折角仁村が作ってくれるというので、俺も注文する事にする。正直に言って、俺もあの光景には辟易としていたので、二人には学園内だけでももう少し抑えてくれる様に密かに願っている。

 

「仁村、俺の分も頼む。当然ブラックだ。……一誠、紫藤さん。頼むから、せめて学園の中だけでいいから、もう少し抑えてくれよ。これじゃ、お前達の間にすんなり入り込んでいる会長達はともかく、俺達は生殺しもいい所だぜ」

 

 ……だが、俺は知っている。実は、あれでもまだ抑えている方であり、家に帰ると「恋人」から「夫婦」にランクアップするという事を。

 それを知っている理由は簡単だ。一誠と紫藤さんの様子を見に行こうという事で、昨日は会長とグレモリー先輩の許可をもらって俺と木場の二人で一誠の家を訪れたんだが、その時に二人の「夫婦」ぶりを目の当たりにしたのだから。

 ……信じられるか? たぶん二人で夕食の準備を手伝っていたんだろうが、紫藤さんが「イッセーくん」と呼べば一誠は「はい、塩」と言って塩を手渡し、一誠が「イリナ」と言えば紫藤さんが「はい、お皿」と言って大きめの皿を出す。そんな風に、名前を呼ばれただけで相手の求めているものを即座に手渡しているんだぜ? どれだけお互いの事をよく見て、そして理解しているんだよって話だ。アレはもう「恋人」というよりは「夫婦」、しかも「新婚」じゃなくて「熟年」の二文字がくっついても全くおかしくない光景だった。もしあの時、二人によく似たアウラちゃんがいたら、間違いなく「幸せな家族」の光景になっていた事だろう。

 この件によって、俺は会長の恋が余りにも前途多難である事を改めて思い知らされてしまった。どうやら木場もグレモリー先輩やアーシアさんに対して同じ事を感じてしまったらしく、一誠に想いを寄せる女性達の今後の困難を思うと、二人揃って溜息を吐く羽目になってしまった。

 

 ……今思い出しても口の中が砂糖塗れになりそうな事を思い返していると、由良が俺に向かって軽口を叩いて来る。

 

「アレを見ても一歩も退かないとは、会長の想いは本物なんだな。……ご愁傷様だな、匙」

 

 この由良の軽口に巡も乗って来た。

 

「翼紗の言う通りよ、匙君。あれじゃあ、もう匙君の想いは届きそうにないわ。それにしても、随分とあっさり身を退けたわね。どうして?」

 

 ……確かに、以前の俺が抱いていた会長への思慕の強さを知っていれば、その疑問は当然だろう。だから、俺はそんな巡の問いへの答えとして、自分の思っている事を正直に話す事にした。

 

「最近会長の眷属になった俺と仁村以外は知っているだろうけど、会長の近くにはかなり前から一誠がいたし、一誠の為人と能力を見極める為、会長は一誠の事をずっと見続けていた訳だろ? それに、はっきりと自覚したのはつい最近みたいだけど、本当はもっと前から会長は一誠に惹かれていたと思うんだ。それで、解っちまったんだよ。結局、俺が好きになったのは「一誠を好きな会長」だった。そしてもし俺が会長を振り向かせてしまったら、その瞬間に俺の好きな会長がいなくなってしまうんじゃないかってな」

 

 ……そう。会長が自分の想いに気付いていないだけで、実は一誠に想いを寄せていると気付いた時から、俺は身を退く事を決意していた。その際に自分の想いを整理している内に、今言った事に気が付いたのだ。つまり、俺の会長への恋はどうあっても成就しないものだった。

 馬鹿だよな、俺。何たって「自分以外の誰かに恋する事で輝いている女性」を好きになっちまうんだからな。

 

「だったら、会長が俺の好きな会長のままでいられる様に、俺は会長の恋を応援してあげたい。……そう、思える様になったんだよ。巡」

 

 そうして自分の想いを整理した上で出した結論を話すと、何故か巡と由良は微笑ましげに俺を見ていた。

 

「……男だねぇ、匙君」

 

 巡はそう言って俺を囃し立てて、それに便乗した由良も随分調子のいい事を言って来る。

 

「シトリー眷属には男は三人だけだが、どうやら揃って良い男だったらしい。学園の皆の見る目がないのが、どうにも惜しいね」

 

 そんな二人に、俺は苦笑いを浮かべながら答えてやる事にした。

 

「冷やかしも世辞も、ついでに慰めもいらねぇよ。巡、由良」

 

 そしてそのまま、生徒会書記としての仕事に集中し始めた。……だからこそ、二人の言葉が俺の耳に届く事はなかった。

 

「別に、私は世辞や慰めを言った覚えはないんだが……」

 

「私も、匙君を冷やかした訳じゃないんだけどね」

 

Side end

 

 

 

Interlude

 

 ……実はこの時、元士郎の潔い姿を見て、密かに胸をときめかせた少女がいた。

 

(えっ? 匙君って、こんなに格好良かったっけ? そう言えば、あの時だって凄く格好良かったし。……あれっ? 匙君を見ていると、何だか胸が凄く温かくなってきた)

 

 その様子を、元士郎に想いを寄せる後輩の少女は見逃したりはなかった。

 

(むっ、桃先輩の様子が少しおかしい。見ている先は、……匙先輩! どうして! 貴女の目当ては木場先輩じゃなかったんですか!)

 

 そして、後輩の少女は新たに現れた恋敵に心の中で宣戦布告する。

 

(解りました、憐耶先輩の例もありますし。でも、匙先輩はけして渡しません!)

 

 ……どうやら、匙元士郎の周りもこれから騒がしくなりそうである。

 

Interlude end

 

 

 

 小休憩も終わり、再び生徒会の仕事を再開してから一時間後。本日分の仕事が粗方片付いた所で、リアス部長が一人の女子生徒を連れて生徒会室に入って来た。

 

「ゼノヴィア女史! どうして貴女が駒王学園の制服を着ているのでしょうか?」

 

 ……その女子生徒とは、既に駒王町から去った筈のゼノヴィア女史だった。

 

「兵藤一誠。今後は私の事をゼノヴィアと呼び、言葉使いも普段の物にしてくれ。これからは長い付き合いになるのだから」

 

 ゼノヴィア女史、いやゼノヴィアはそう言って、僕の態度を改める様に求めてくる。しかし、彼女に言っている事の意味が僕にはよく解らなかった。

 

「長い付き合い?」

 

 僕が思わずそう尋ねると、ゼノヴィアは事の次第を語り始める。

 

「実はイリナの件を報告する際、イリナが心神喪失した後でコカビエルから主が既に亡くなられている事を聞かされたとヴァチカンに報告したら、その場で「異端」認定されてしまったんだ。如何に天然の聖剣使い、しかもデュランダルの担い手とはいえ、主の死を騙る者は教会にとって唯の異端なのだろう。それによって、今まで聖剣使いとして尊敬の目で見られていたのに、一転して蔑みの目で見られる様になってね。そのまま行き場も生きる糧も全て失ってしまった私は、イリナに心配を掛けない様にヴァチカンに帰還したと見せかけてリアス・グレモリーに匿ってもらい、その時に頼み込んで悪魔に転生させてもらったんだ」

 

 ゼノヴィアがそう言い終わると、彼女の背中から悪魔の羽が生えてきた。それに合わせて、リアス部長も生徒会室を訪れた理由を伝え始める。

 

「それで、今回新しく私の眷属となったゼノヴィアをソーナ達に紹介する為にこちらに来たの。これで前衛の中央で指揮を執るイッセーの手足となる両翼の剣士が揃ったわ。それに、スピードとテクニック重視の祐斗だけでは不足していた破壊力も補えるから、グレモリー眷属としても良い補強になったわね」

 

 そう言いながら、リアス部長は満足げに頷いた。

 

 ……しかし、随分と手の込んだ事をした様で。

 

 僕がこの様な感じで呆れているのを余所に、ゼノヴィアは悪魔の羽を引っ込めると自分の使用された悪魔の駒(イーヴィル・ピース)について言及し始めた。

 

「因みに、私に使用された悪魔の駒は騎士(ナイト)だよ。如何に最高ランクの聖剣であるデュランダルを扱えるからと言って、私自身はそこまで大したものではなかったのだろう。それに、私はてっきり破壊力を更に引き上げる為に戦車(ルーク)を使うと思ったんだ。しかし、リアス・グレモリー曰く、「貴女の絶大な攻撃力は、あくまでデュランダルという強力な聖剣によるもの。だから、貴女の場合はいくら戦車でパワーを強化しても、攻撃力が劇的に引き上がる訳じゃないのよ。それに攻撃一辺倒の貴女の性格では、戦況に応じて敵の攻撃から味方を庇ったり、私と位置を入れ替えるキャスリングを使ったりと、絶えず周りに気を配り続ける必要がある戦車は無理でしょう? 兵士(ポーン)五個分の価値って、そういう戦略的な意味合いも含まれているのよ。だから、それよりは相手に素早く接近し、強力な攻撃をより確実に当てる為のスピードが得られる騎士の方がまだ貴女に向いているのよ」という事で、騎士を選択したそうだ」

 

 ……確かに、リアス部長の言う通りだろう。因みに、僕がゼノヴィアに最適だと思う駒は、高い魔力を得る事でデュランダルの力を制御しやすくなるであろう僧侶(ビショップ)だ。そして「騎士の方がまだ向いている」という発言と僕を見て軽く頷いた所から考えると、リアス部長もまた僕と同じ事を考えたのだろう。

 何故なら、破壊力重視と思われる考え方と天性の聖剣使いである事を考慮すると、彼女の場合は自身の身体能力や剣の技量以上に聖剣の力をどれだけ引き出し、尚且つ制御できるかが重要になってくるからだ。

 例えば、破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)。アレだって、もし剣から発せられる破壊の波動を圧縮して飛ばす事ができれば、距離を選ばずに戦う事が可能となるし、破壊の波動を自分の周囲に限定的に展開する事で敵の攻撃を破壊する防壁としても扱う事が可能だ。その意味では、実は七本あるエクスカリバーの複製品の中でも擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)と並んで汎用性に秀でた聖剣だったりする。

 しかし、ゼノヴィアはその辺りが解っていないのか、破壊の波動の扱い方がかなり雑だった。それを踏まえると、もしパワーとタフネスが向上する戦車として転生した場合、腕力で生み出される見せかけだけの破壊力に囚われて最も重要な聖剣の力の使い方が雑なままとなり、その内に成長が頭打ちになっていただろう。その点、僧侶なら聖剣の力を上手く引き出せないと強くなれないので、ゼノヴィアは必死に聖剣の力の使い方を磨いていった事だろう。

 ……だが、リアス部長は既に僧侶の駒を使い切っていた。その為、次点としてスピード特化の騎士を選択するしかなかった、というのが正直なところだろう。ただ、確かに僧侶に比べて聖剣の力を引き出す難易度が上がるというデメリットこそあるものの、スピードが向上する事で自分の間合いに持って行きやすくなる上に攻撃も当てやすくなるという、僧侶にはないメリットがある。更に、デュランダルが破壊力特化の聖剣である事も、このメリットをより大きな物としてくれるだろう。結局の所、騎士であるメリットを生かせるかどうかは彼女次第ではあるのだが。

 そうして考えたゼノヴィアの適性については一先ず脇に置き、僕はゼノヴィアに悪魔に転生するに至った理由を確認した。

 

「……ゼノヴィア、まさか自棄になって」

 

 僕はゼノヴィアが神の死を知った事で絶望し、自棄になったのだと推測したのだ。しかし、彼女はそれを否定した。

 

「……兵藤一誠。私が悪魔になったのは、自棄になったからじゃない。いや。君の言葉がなかったら、きっと自棄で悪魔になっていただろうな。しかし、君の「主の愛は私達の中で生きている」という言葉が、私に新たな希望を与えてくれた。だから、私はけして絶望していないし、自棄にもならなかったんだ」

 

 そう言った彼女の目には、確かに輝きがあった。絶望したり自棄になったりした人間にはできない目だ。

 

「それでは、何故?」

 

 だからこそ、訳が解らない。何故、ゼノヴィアは今までの生き方と真反対の道を選んだのか。僕が混乱している姿を見て、ゼノヴィアは少し微笑みながら自分の想いを語っていく。

 

「……解らないか、兵藤一誠? 君は悪魔だ。主の愛を肯定し、尚且つ体現するなど大いに疑問を抱く所だが、それでも主の敵対者だ。尤も、実際はそうではなく、ある意味ではそれ以上の異端だった訳なんだが。その様な異端の極みである君から希望を与えてもらうなど、もはや異端以外の何物でもないだろう? まぁ早い話、主に全てを捧げた神職者たる私は、君という異端によって心底堕とされてしまった訳だ」

 

 そこまで聞いて、流石に僕も理解した。

 

 ……まさか、君もなのか?

 

 僕はすっかり混乱していた。少なくとも彼女に対しては、好意を抱かれる様な事を僕は全くしていないはずだ。それなのに、どうして?

 困惑を隠せない僕を他所に、ゼノヴィアは決定的な言葉を言い放つ。

 

「だからその、その他諸々含めてだな。……イッセー、君は私をここまでオトしたんだ。責任は、取ってもらうぞ?」

 

 顔を赤らめながら上目使いで、しかも僕に対する呼び方まで変えて詰め寄ってくるゼノヴィアを見て、そして背中に感じる視線が次第に冷たくなっていくのを感じながら思った事は、たった一つだった。

 

 イリナ。僕は浮気なんてしてないからね?

 

 数分後、どうにか気を取り直した僕はゼノヴィアに任務はどうしたのかを尋ねる。

 

「ゼノヴィア。それでは、エクスカリバーは一体どうしたんだ?」

 

 僕の質問に対し、ゼノヴィアはこの街に住むもう一人の教会関係者に任せた事を伝えてきた。

 

「五本のエクスカリバーの核であるオリジナルの欠片とバルパー・ガリレイの遺体だが、武藤神父が私達の代わりに教会本部に届ける事になった。尤も、私の考えに気づいていたんだろうね。あの時の笑みは完全に苦笑いだったよ。……君だってもう気付いているんだろう、イッセー?」

 

 もはや自身の好意を隠そうともしていないゼノヴィアに、僕は苦笑しながら一つだけ尋ねる。

 

「一つだけ聞きたい。……一体、いつから?」

 

 それに対するゼノヴィアの答えは意外な物だった。

 

「始まりは、おそらく凛としたアーシアから伝えられた君の言葉だな。その言葉に含まれていた君の誠実な想いに、私はきっとオトされていたんだろう。後はもう、悪魔である筈の君の言動を思い返しても、肯定的にしか受け止められなかったよ。そこに来て、コカビエルの時のアレだ。アレはアーシアだけでなく、私にとっても福音となった。そして私は君の宣言通り、絶望を希望に変えてもらった。つまり、私は完全に君色に染め上げられてしまった、という訳だよ」

 

 ……まさかアーシアを元気づける為に放った言葉が、完全に意識の外だったゼノヴィアにも直撃していたとは思わなかった。すると、ゼノヴィアはそのアーシアとの関係について話し始める。

 

「それとあの夜に私とイリナを癒してくれたアーシアとは友達になったよ。……彼女は強いな。私は異端とされた時点で何度も挫けそうになった。それこそイッセーの言葉がなかったら、未だに絶望の淵にいたままだっただろう。しかし彼女はそんな状況の中でも優しさを、そして信仰を失ってはいなかった。主は誰もお助けにはならない。アーシアは、君が伝えた言葉の意味を正しく理解していたよ」

 

 ゼノヴィアのその表情は、自慢の友達を紹介する様な温かい雰囲気を纏っていた。

 

「……そうか」

 

 僕はアーシアが着実に成長している事を知って、とても嬉しくなった。そして、ゼノヴィアは力試しの時に祐斗に惨敗した時の雪辱を晴らす事を宣言する。

 

「それと木場についてだが、今度また模擬戦をする事になった。いつまでも負けっぱなしではいられないよ。それにデュランダルなら、あの聖魔剣にも負けないさ」

 

 ……そうか、ゼノヴィアはまだ知らないのか。

 

 ふと祐斗の方を見ると、祐斗は苦笑いを浮かべて一つだけ頷く。アレは話しても良いという事なのだろう。僕は早速、ゼノヴィアに現実を教える事にした。

 

「ゼノヴィア。君にとってはかなり悪い報せを聞かせる事になるけど、いいかな?」

 

「何だ、イッセー?」

 

 ゼノヴィアが小首を傾げて、僕の話を聞こうとしている。

 

 ……何時の間に、この様な可愛らしい仕草を?

 

 だが、僕は心を鬼にして、祐斗に関する事実を伝える

 

「実は祐斗の和剣鍛造(ソード・フォージ)には、本来の能力である「聖」と「魔」が共存する聖魔剣だけでなく、神器(セイクリッド・ギア)の本体である魔鞘がある。この魔鞘は、能力の効率を著しく向上させる上に実は剣を創造できなくなる代わりに一時的に剣の力を爆発的に強化する事もできるんだ。だから祐斗に本当の意味で勝ちたかったら、まずは本体である魔鞘を出させないと駄目だ」

 

 ……ゼノヴィアの驚愕ぶりは、顔の表情が崩れる程に凄かった。

 

「なん……だと……!」

 

 だが、彼女に伝えるべき事はまだある。

 

「それと僕の愛犬である銀の事だけど、銀は祐斗の聖魔剣を噛み砕く事ができる。だから祐斗も、銀と模擬戦をやる時は始めから魔鞘で聖魔剣を強化して使っている。その意味では、まず銀と戦って勝てる様にならないと祐斗と戦っても勝てないよ」

 

 その事実を聞いた時、ゼノヴィアは顔面蒼白になった。

 

「……あの時、イッセーに敵意を向けかけた私は、もう少しでイッセーの愛犬に噛み殺される所だったんだな。だが、五本も統合したエクスカリバーを圧し折る事のできる聖魔剣を噛み砕く犬とは一体何なんだ? そして、イッセーの愛犬にすら劣りかねない私は一体……?」

 

 ゼノヴィアは犬である銀にすら劣りかねない自身の力量について、次第に悩み出してしまった。そこで、僕は悩めるゼノヴィアにある提案を持ち掛ける。

 

「ゼノヴィア、まずはレオンハルトに剣の基礎を鍛え直してもらおうか? 祐斗も十日間の超過密スケジュールで実際に強くなったのはむしろその後だったけど、それが下地になっているのは確かだから」

 

 ゼノヴィアはかなり肩を落としながら、剣帝(ソード・マスター)の剣術訓練を受ける事を承諾した。

 

「そういう事なら、お願いしよう。グレモリー眷属の中で現在戦力として一番価値が小さいのは、どうやら私の様だ」

 

 ……流石に、そこまで卑下する必要はないのだが。

 

 

 

 こうして、エクスカリバーの盗難を発端とする一連の騒動は、本当の意味で終焉を迎えた。

 

 新たなる力と仲間を加え、更に戦力を増すグレモリー眷属。

 

 主力となり得る騎士と兵士(ポーン)の力を改めて示したシトリー眷属。

 

 そして、真聖剣を携える二代目の騎士王として名乗りを上げた後、赤き龍の帝王を統べる新しき赤を纏う天龍の帝となった僕、兵藤一誠。

 

 僅か半月ほどで僕達を巡る情勢は著しく変化していった。そしてその変化は更に激しさを増すだろう。しかし、その空は梅雨の時期である六月の中旬としては珍しく、雲一つない晴れ渡った青空だった。

 

 ……まるで、大きな嵐が来る前の凪いだ青空の様に。

 




いかがだったでしょうか?

ゼノヴィアは最終的には原作通りの位置に収まりました。
なお、ゼノヴィアの悪魔の駒に対する適性についてはあくまで私独自の解釈であるので、異論は当然ながら認めます。

これで、長かった第三章も終了です。
イリナの扱いが二転三転する展開となってしまいましたが、それでも拙作にお付き合い頂いた事、誠に感謝しています。

では、また次章でお会いしましょう。

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