追記
ルビの件、解決しました。天ノ羽々斬様、有難うございました。
2018.12.10 修正
Prologue
「んっ?」
イリナ達が学園の敷地内に入ってから暫く経って、はやては義兄と激しくぶつかり合っていた強い力の波動が急速に弱くなったのを感じ取っていた。
「はやてさん、どうかしましたか?」
そのはやての様子の変化を察したソーナは何があったのかはやてに尋ねる。その質問に対して、はやては自ら感じ取った事に加えてそこから推測される事をソーナに伝えた。
「たぶん、決着ついたんやないかなって。アンちゃんと激しくぶつかり合っとった方の力の波動が急に弱なったから、アンちゃんが勝ったんは間違いないと思いますけど」
はやてから伝えられた一誠の、もっと言えば自陣営の勝利にシトリー眷属が歓喜に沸く中、ソーナは歓喜よりも先に安堵の息を吐く。
「そうですか。……良かった」
そんなソーナの様子を見たはやては、ソーナに中の様子を伺う事を提案してみた。
「何なら、今からサーチャーを飛ばして中の様子を伺うてみましょうか? 今なら、封時結界の強度を少し落としても問題ないと思いますし」
このはやての提案を、ソーナは即答で承諾する。
「それもそうですね。はやてさん、お願いします」
ソーナの判断の早さに何かを感じ取ったはやては、早速サーチャーを飛ばすと共にイリナ共々追及する事を宣告した。
「……了解や。それとソーナさん、後でイリナお姉ちゃん共々色々と話を聞かせてもらうで? 何でまるで何年も付き合うとる友達みたいにイリナお姉ちゃんとお互い話し合うたり、見た事も聞いた事もない筈のサーチャーの事をよう知っとるモンの様に扱うてたりしとるんかっちゅう事も含めてなぁ」
ニヤァという擬音が似合いそうな笑みに反して目が全く笑っていないはやてを見て、ソーナは思わず恐怖を感じてしまう。そうしてサーチャーから送られてくる映像を確認するはやてとシトリー眷属であったが、この後すぐに駒王学園の敷地内に急いで駆け込む事になる。
……正に歴史的瞬間というべき事態が、自分達のすぐ側で起こっていた為に。
Prologue end
星の意思から愛剣である真聖剣エクスカリバーを使用する様に促された僕は、真聖剣としてのエクスカリバーの再誕と僕がその担い手である
光の羽で形作られた翼は、二天龍の片割れである
……歴代の赤龍帝の大部分の記憶にあった形状と、完全に一致していた。僕の赤龍帝としての宿敵、白龍皇だ。しかも内包する魔力量が記憶にあった歴代の白龍皇と比べても桁違いで、流石にサーゼクス様やはやてには及ばないものの、それでも確実に最上級悪魔の域には達している。歴代でも、おそらくは最強クラス。僕は今代の白龍皇をそう見立てた。
「アザゼルには、現場に着いた時には既に全てが終わっていたと報告するとして、とりあえずコカビエルとそこで倒れている「はぐれ」の
白龍皇はそう言って、絶叫を上げ続けるコカビエルを気絶させるとコカビエルと既に気絶しているフリードを担いで立ち去ろうとする。僕は相手の戦意がない上に堕天使側の使いであるので、そのまま見送るつもりだった。
『待て。無視か、白いの?』
しかし、無視されたのが我慢ならなかったのか、ドライグが白龍皇に声を掛ける。すると、白龍皇の光翼の光の羽の部分が淡い光を放つと同時に、声が聞こえてきた。おそらくは白龍皇の光翼に封じられた
『ほう。赤いの、やはり目覚めていたか。しかし、まさか今代の赤龍帝はエクスカリバーの担い手でもあったとはな。前代未聞もいい所だ』
この白い龍の言葉に対して、ドライグはエクスカリバーと赤龍帝の関係について語り始める。
『その通りだ。しかし、これとて
『……何だと?』
ドライグの爆弾発言に白い龍は驚愕を隠せない。……確かに、聖剣としては正に最強の一角と言えるエクスカリバーが実は赤龍帝専用の聖剣だ、などと言われてしまえば、誰だってそう反応するだろう。しかし、それが真実である事は他でもない僕が証明している。白い龍の驚愕する様を見て気分を良くしたドライグは、今度は僕の軌跡を誇らしげに語り始めた。
『だが、それだけではないぞ? 相棒は赤龍帝の籠手に宿っていた怨念を祓い、歴代赤龍帝の残留思念の自我を回復させた。それどころか、
白い龍はドライグの言葉に息を呑んでいる様だ。だがドライグ、それは余りに褒めすぎだ。過大評価にも程があるぞ。その様な僕の困惑を他所に、白い龍は驚きの念を露わにした。
『……ドライグ。お前がそこまで言うとはな』
白い龍からの言葉に対して、ドライグは白い龍の名を呼んだ後で自らの生い立ちを絡めて応える。
『アルビオン。貴様も一誠と一度立ち会ってみれば、骨身に染みて理解するさ。二天龍と呼ばれる程に強く生まれ落ちた俺は、やがて貴様と殺し合う様になり、その最中に三大勢力の連合軍に敗れて、体をバラバラにされた挙句に魂を神に封印された。だが、俺はそれでもなお貴様と貴様を宿した白龍皇と戦いながら、今まで生き永らえてきた。こうした俺の生涯は、その全てが兵藤一誠という一人の男と出会い、そして共に歩む為にあった。……今なら、俺はそう断言できるな』
ドライクの誇らしげな声色から、もしドライグに肉体があればきっと胸を張って言っている事だろう。
……ドライグ、もう止めてくれ。正直言って凄く嬉しいけど、凄く恥ずかしい。
そして、ドライグは今までとは全く異なる荘厳な雰囲気を持った声色で突如宣言を始めた。
『二天龍の一角にしてウェールズの守護神、
ドライグがロシウ老師に呼びかけると、ロシウ老師は既に詠唱を完了させていたのだろう。
『了解じゃ。赤龍帝再臨』
すると、僕の体から八個の
「
鎧甲冑を身に纏った三十代前半の金髪碧眼のレオンハルト卿。
「
ジャケットの様な衣服の上から黒い外套を纏う、五十代のアッシュブロンドのロシウ老師。
「
黒い神父服を身に纏った二十代後半で亜麻色の髪をしたニコラス神父。
「
ボロボロの衣服を申し訳程度に来ている黒髪で三十代半ばのベルセルク師匠。
「
緑色の艶やかな衣装を纏った緑髪と美しい容姿を持つ二十代前半のリディアさん。
「
道士服を纏う銀髪紅眼で四十代前半の計都師父。
「女性赤龍帝代表、「
少し軽めな雰囲気を持つ二十代後半のエルシャさん。
「男性赤龍帝代表、「
歴戦の戦士に特有の雰囲気を持つ三十歳前後のベルザードさん。
ここで更に、三個の兵士の駒が出て来ると一纏めになって魔方陣を潜り抜ける。
「はじまりの赤龍帝、「
そこで現れたのは、十歳前後で白いワンピースを身に纏った可憐な容姿の女の子、アリス。僕との付き合いが最も長い赤龍帝だった。
そうしてこの場に歴代最高位の赤龍帝達が揃うと、ドライグはアルビオンに彼等の紹介を始めた。
『最初に言っておくぞ、アルビオン。今ここにいるのは、歴代でも最高位の赤龍帝だ。得意分野に関して言えば、歴代最強であるエルシャやベルザードですら遠く及ばない。アリスに至っては、原初にして究極の赤龍帝だ。最強の称号すら霞んでしまうぞ?』
アルビオンはドライグの発言に対し、アリスとレオンハルト卿を見て声を荒げる。
『馬鹿な、私が全く知らない赤龍帝が殆どだぞ! そもそも初代はその様な幼い少女ではなく、あの騎士の筈だ! 何より神器を発現しただけで、赤龍帝としては無能だった筈!』
このアルビオンの発言に対して、レオンハルト卿は冷静に言葉を返した。
「正確には、私はアリス嬢の次。即ち二代目だ。それに当時の私は騎士としてドライグの力を借りる事を良しとせず、その使用を自ら禁じていたのだ。その為に当時の白龍皇には一太刀入れただけで終わってしまったが、その後どうなった? 命に届いた手応えが確かにあったのだが」
レオンハルト卿の問い掛けに、アルビオンは渋々と言った感じで返答した。
『……その後、傷の治療が全く追い付かずに破傷風に罹って、そのまま命を落とした。むしろ夜毎悪夢に見る、空をも断ち切らんばかりの凄まじい斬撃とそれを繰り出すお前の姿。それらに対する恐怖から逃れるために、自ら死に急いだ様なものだ。あの死に様では、相討ちどころか心を完全にヘシ折られたこちらの敗けだ。しかも戦いの最中で、恐怖の余りに禁手どころか奥の手だった
アルビオンの嘆息混じりの言葉を受けて、レオンハルト卿は現在の自分の状態をアルビオンに告げる。
「駄目押しをする様で申し訳ないが、魂に刻まれた記憶を再現している上に神器については全員と共有している為か、私も現在の神器の能力を全て使用できる。それに、今の私は一誠様にお仕えする騎士の赤龍帝。故に、今後はあくまで赤龍帝としてお相手するが、どうする?」
レオンハルト卿に戦闘を持ち掛けられたアルビオンは、それを避ける選択をした。
『今代には悪いが、今は遠慮させてもらおう。完全な赤龍帝となった今のお前では、先に言った禁手の先を用いてもまだ勝てる気がしない。それ以前に、得物次第では素で四大魔王や聖書の神とすらやり合えそうなお前が相手では、能力を発動する間もなく一瞬で斬り伏せられるのがオチだろう』
……かの白い龍がここまで評価するとは。やはりレオンハルト卿は、歴代でも特に図抜けた存在だったらしい。
「さて、落ち着いた所で始めるかの」
ロシウ老師がそう言うと、僕の目の前に横一列に並びその前にアリスが立った。そして全員が僕の前で跪く。
「「我等、赤い龍の力と魂を受け継ぎし歴代の赤き龍の帝王を代表し」」
まずは最強たる覇帝と女帝が切り出した。
「「怨念に踊り、血に彩られた孤独なる覇道を終わらせ」」
覇道に最も深く踏み込んでいた武闘帝と仙帝が続く。
「「和を以て我等と共に歩む王道を敷く、兵藤一誠様を唯一無二の主と戴き」」
仁愛を以て覇道を避けた聖帝と幻獣帝が更に言葉を重ねた。
「「赤き龍の帝王を統べるべき、新しき赤を纏いし天龍の帝に永久不滅の忠誠を誓わん」」
そして、己の道を極めた剣帝と魔導帝が締め括る。
『我が友よ。今こそ、我が力と魂を継承してきた帝王達の上に立ち』
ここで、赤い龍が歴代の赤龍帝の上に立つ事を僕に薦めてきた。
「新たなる赤龍帝の未来を、どうか我等にお示しあれ」
最後に、赤龍帝の始祖がその決断を迫る。
……そこにいたのは、僕に「帝」への即位を奏上する強き「王」達だった。
Side:リアス・グレモリー
予想外の光景が広がっていた。
ドラゴンの中でも間違いなく最強クラスの赤い龍をして歴代でも最高位と讃えた赤龍帝達が、揃って一人の少年の前に跪いている。そして自分達の上に、つまり赤き龍の帝王を統べる帝に推戴しようとしている。
一体、誰がこの様な光景を想像できるだろうか? この場にいる者は、全員が言葉一つ出せなかった。……そう。この事態を察知したのか、封時結界の強度を先程から大きく下げてこの場に駆け込んできたはやてちゃんとそれに同行してきたソーナ達。そして、四大魔王の一人であるお兄様はおろか、赤龍帝の宿敵たる白龍皇と白い龍でさえも。
イッセーはあのはじまりの赤龍帝を名乗った少女の言葉を聞いてから、ただ瞑目していた。そして、そのまま言葉を掛け始める。
「……皆に問おう」
その時、私は間違いなく身震いした。
「僕の望みは、ただ平凡な日々の積み重ねだ。お互いを尊重し、時に言葉で、時に真剣勝負で意志を交わし合える友達と仲間がいて、ただ一緒にいる事、それだけで幸せだと思える家族がいて、そんな大切な人達と共に泣いて、笑って、時には喧嘩する様な極普通の生活。これらが何一つ欠ける事無く、僕のこのちっぽけな手の中にあれば、それでいいと思っている」
そこにいたのは、もはや誰かに使われる様な下僕などではなく。
「だから、ただ戦いの中に生き、そして満たされながら死んでいく修羅道も、己の欲するままに生き、望む全てを得んとして孤高に往く覇道も、僕がこれから歩む道と重なる事は絶対にないと思う」
強き力を持ち、衆に秀でた英傑たる赤き龍の帝王でもなく。
「天界と冥界の和平とそれに伴う共存共栄を謳う聖魔和合を成立させる為、僕がこれから歩む事になる道は覇道とも王道とも呼べない、名もなき道だ。だからこそ、挑む甲斐があると僕は思っている。だが、「聖魔和合」を成し遂げ、名もなき道を超えたその先は、皆が心に抱く偉大な赤龍帝の軌跡とは余りにも程遠い、見渡せば何処にでも転がっている、そんな凡庸な道の筈だ。それでも、皆は僕と一緒に歩んでくれるのか?」
帝王達を統べて新たな道を示す、正に新たなる赤を纏った天龍の帝と呼ばれるに相応しい存在だった。
……イッセー。私は、本当に貴方の
余りに大き過ぎる存在を自らの眷属としている事に、私は完全に自信を失ってしまった。……その時だった。
「一誠君、私はもう迷いません。貴方が私の側にいるのではなく、私が貴方の側にいる。そして、心は貴方という
この幼馴染の親友の言葉に私はハッとなり、そして改めて決意した。
……だったら、私は赤き天龍帝の隣に立つに相応しい「后」に必ずなってみせると。
負けないわよ、ソーナ。そして、紫藤イリナさん。勝負はまだまだこれからなのだから。
Side end
僕はそこまで問いかけて、更に体感時間で二分程待ってから目を開けた。……そこには、目を閉じる前と変わらない光景があった。
「これが答えよ。イッセー」
先頭にいた、原初にして究極たる少女が代表して答える。
「一誠様。怨念より解き放たれし後に初めてお会いした折、私は申し上げた筈です。我が剣は常に貴方と共に在ると。それを今、改めてここに誓いましょう」
「じゃがな、一誠。お主はまだまだ脇が甘いから、そこを付け込まれんか心配なんじゃ。実際、運命が違えば、狗にされて使い潰されておったからの。ならば、これからも儂の様な年寄りがお主の脇をしっかりと固めてやらんとな」
忠義篤き騎士と知恵深き魔導師が、僕を支える事を宣言した。
「YAHAA! 戦いしか楽しめなかった俺や戦いしかなかった計都に教え育てるっていう新しい楽しみをくれたのはテメェだろ、イチ? だったら、俺等にもっと面白いモンを見せてくれや!」
「……そういう事だ」
戦いと共に生きた闘士と戦いの中でしか生きられなかった道士が、指導者という新たな道を見出した事で更なる未来に思いを馳せている。
「貴方は、知らなかったとはいえ私達が避けてしまった赤龍帝の業と正面から向き合い、そしてそれを力で無く心で正しました。その意味では、貴方は全てを慈しむ主の愛の体現者とも言えるでしょう」
「だからこそ、私達は赤龍帝を統べる者として貴方を認めたのよ。一誠」
仁愛溢れる悪魔祓いと慈愛に満ちた召喚師が、僕の今までして来た事を認めてくれた。
「誇りなさい、一誠。貴方は赤龍帝を壊して、そして新しく作り直したの」
「……俺は歴代最強の名を持っていても、「覇」に生きる赤龍帝を超える事はなかった。だが、お前は「和」を以て赤龍帝を超えてみせたんだ。だから、「覇」に生きる俺はより強いお前に従うだけさ」
「素直じゃないわね、ベルザード。一誠の力になりたいって、ちゃんと言えばいいのに」
「今更言えるかよ、そんな事」
歴代でも最強と呼ばれる二人の赤龍帝が、赤龍帝の新生を改めて謳い上げる。
『思えば、お前と初めて会った時からこうなるのは解り切った事だったな。……一誠、俺はもう二度とお前を相棒とは呼ばんぞ。これからは横に並び立つ対等な友として、お前の名を呼ぶ事にしよう』
最も長い付き合いである赤い龍は、共闘するだけの相棒という関係を止めて対等な友である事を選択した。
……そして、これらを受けて僕の意志が固まる。
「皆の意志は確かに受け取った。これからは偉大なる赤き龍の帝王達を統べるべき、新たなる赤を纏う天龍の帝として、僕は
僕のこの即位宣言に対し、皆は声を揃えて承知する事で答えた。
「はっ! 我等は常に主と共に在り!」
……この瞬間、僕は新たなる赤を纏う天龍の帝に即位した。それを見届けた白龍皇は
「良い物を見せてもらった礼だ。俺も名乗りだけはしておこうか」
白龍皇はそう言って兜を解放すると、その素顔を露わにして名乗りを上げた。
「俺はヴァーリ。今代の、そして現在・過去・未来において最強の白龍皇と言われている」
ヴァーリと名乗った、暗い銀髪と透き通った蒼い瞳の美貌を持つ白龍皇は、そこでいったん言葉を区切る。そして、自らの決意を露わにした。
「だが、これからは違う! 今ここに俺は白龍皇を超えて、その先に進むことを宣言する!」
その言葉と共に、膨大な魔力がヴァーリの体から溢れ出す。……見立て通り、最上級悪魔クラスの膨大な量だった。
「今後、俺は「白き天龍皇」バニシング・ダイナストを名乗る!」
僕の赤き天龍帝に対抗する称号を自ら名乗る事を宣言したその目には、はっきりとした歓喜があった。
「歴代の赤龍帝が戴いた天龍の帝、赤き天龍帝の宿敵として!」
僕を宿敵と見定めたその心には、燃え立つような闘志があった。
「兵藤一誠! 俺は、お前に勝つ!」
そして、僕の打倒を誓うその言葉には、必ず実現するという強烈な信念があった。
その言葉を最後に、白き天龍皇の自称を宣言したヴァーリはコカビエルとフリードを抱えて飛び去っていった。
こうして、エクスカリバー強奪に端を発するコカビエルの起こした騒動は終焉した。そして、ここから運命が更に加速していく事を、この時の僕はまだ知らなかった。……だが、今は。
「イッセーくん!」
白金の羽毛を持つドラゴンの翼を生やして、僕の元に文字通り飛び込んできた愛しいイリナ。
「パパ! ママ!」
そして、精神世界から飛び出して僕とイリナに抱きついてくる愛娘アウラの相手をするのが先だろう。
……あれ?
「イリナ、その翼は?」
割と凄い勢いで飛び込んできたイリナをしっかりと抱き留めながらクルッと回って勢いを殺し、そのまま地面に下ろした後で僕がイリナに翼について尋ねると、イリナはかなり気不味そうに逡巡しながらも自分の身に起こった事について白状した。
「えぇっと。「人としての生を全うする」約束を破ってゴメンなさい、イッセーくん。私、色々あってドラゴンの天使に、
僕に恐る恐る尋ねてくるイリナを見て、僕は溜息を吐きつつも正直な想いを伝える事にした。
「怒っているよ。あれだけ人をやめてもいい事なんてないよって忠告したのに、結局は人をやめてしまったんだから。……けど、これでイリナと同じ時間を一緒に生きていける。心の何処かで、そんな風に感じて喜んでいる自分がいるのも確かなんだ。我ながら、現金なものだね」
……本当に、現金なものだった。そして、僕の想いを聞いたイリナは一つの提案をしてくる。
「あのね。私、今なら天使の一人として「聖魔和合」を天界に働き掛ける事ができると思うの。それに、ただイッセーくんが迎えに来るのを待つだけじゃなくて、少しでもそれが早く叶う様に私だって頑張っていきたいの。だから、イッセーくん。私にも手伝わせて?」
イリナからのこの提案を断る理由が、何処にもなかった。だから、僕はイリナの提案を受け入れようとした。しかし、それに待ったが掛かる。
「いい雰囲気の所を申し訳ないんだが、ソイツは
突然声を掛けてきた見知らぬ黒人男性に対し、僕は思わず名前を尋ねてしまった。
「……貴方は?」
すると、彼は僕に自己紹介を始める。
「あぁ、そう言えばアンタには自己紹介がまだだったな。俺の名はシモン・トンヌラ。しがない傭兵で、このお嬢さんに人間をやめさせる切っ掛けを作っちまった張本人さ。そして、もう一つ。さっきお嬢さんのやりたがってる事に待ったを掛けた理由なんだがな……」
トンヌラと名乗った彼はここで一端言葉を切ると、とんでもない事実を明かしてきた。
「実は、教会の中にいた一部の馬鹿が天使の量産を目指して行った
……イリナの今後については、どうやら良く話し合って考えた上で決めないといけないらしい。コカビエルの件こそ片付いたが、難解な問題がまだ残っていた。
いかがだったでしょうか?
赤き天龍帝、ウェルシュ・エンペラー。
拙作における一誠の代名詞ですので、今後ともよろしくお願いいたします。
では、また次の話でお会いしましょう。