赤き覇を超えて   作:h995

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2018.12.3 修正


第十九話 龍帝出陣

 十字教教会より盗み出されたエクスカリバーの奪還は、無事に終了した。しかし、その後現れたコカビエルによって一時間後に駒王学園への侵攻を開始すると宣戦布告された為、僕はその場にいたソーナ会長の許可を得て一度家に戻り、戦いの為の装備を整える事にした。なお、エクスカリバーの奪還任務が達成された為、今頃イリナとゼノヴィア女史は駒王町を離れている事だろう。

 

「まさか、礼服より先に戦装束として纏う事になるなんてね……」

 

 僕は駒王学園の夏服から糸状に撚ったミスリル銀を編み込んだ白地の法衣の上下に着替えた後、先代が身に着けていた聖鎧ウィガールを参考に作成したミスリル銀製の全身鎧(プレートアーマー)の内、胴体部と脚部の装甲を装着する。その上からサーコートの形でレイヴェルお手製の緋色のローブを羽織った後、残る装甲の内、両肩部と右手用の籠手のみを装着する。なお、右手用の籠手については鎧と同じ趣向のデザインと色彩の物もあるが、今回は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使用するのが間違いないので、赤龍帝の籠手と同じ色彩とデザインのレプリカを使用している。因みに今装備したミスリル銀製の法衣やプレートアーマー、そして赤龍帝の籠手のレプリカには認識阻害の術式を施してあり、一般人である両親には解らない様にしてある。また、それらと今回初めて着用する緋色のローブには、僕とロシウ老師、ニコラス神父、計都師父の四人でありとあらゆる加護や耐性、防御術式を付与してあり、下手な魔導具(アーティファクト)神器(セイクリッド・ギア)よりも防御力が高い。

 

『なぁ相棒。この際だ、そのローブに何か名前を付けてやったらどうだ? 相棒にとって、重要な場面で幾度となく袖を通す事になるローブだ。何時までも緋色のローブでは、味気がないだろう』

 

 ドライグがローブに名前を付ける様に提案してきたので、僕もそれに応じて緋色のローブの名前を考え始める。

 

「名前か。そう言えば、魔力さえ供給すれば布切れ一枚からでも再生するんだったな。ただフェニックスだと贈与した家の名前という事で流石に露骨過ぎるし、製作者であるレイヴェルの名前だと余計に不味いな。だとすると……」

 

 その時、ふとフェニックスは十字教において不滅の象徴である事を思い出した。

 

「……不滅。幾度敗れてもその度に甦り、未来へと繋がり続ける強さか」

 

『相棒?』

 

 ドライグの訝しげな声を聞きながら、僕はレイヴェルから贈られたローブの名を決める。

 

「決めたよ、ドライグ。このローブの名は「不滅なる緋(エターナル・スカーレット)」だ」

 

『成る程、ローブの色と相棒が望む強さの形を名前としたのか。良いんじゃないか?』

 

 ドライグの感想がけして悪いものではなかったので、僕はドライグに礼を言った。

 

「ありがとう、ドライグ」

 

 そして、僕は戦場に立つ。

 

「行くぞ。ドライグ、カリス、アウラ。これが赤龍帝、そして二代目騎士王(セカンド・ナイト・オーナー)としての正真正銘の初陣だ」

 

『応!』『了解!』『あたしも頑張る!』

 

 不滅なる緋を纏い、再誕した真なる聖剣を腰に携え、盟友たる赤い龍と「聖」を司る守護精霊、そして「魔」を司る愛娘を伴って。

 しかし、いざ駒王学園前まで転移しようとしたその時、騎士甲冑を纏って完全武装したはやてが僕の部屋に入ってきた。そして自分も出る事を伝えてくる。

 

「アンちゃん。悪いけど、今回はわたしも出るで」

 

「はやて」

 

 僕ははやてに家に残る様に言い聞かせようとしたが、はやては退かなかった。

 

「ついて来るなっちゅうんは、今回はなしにせんとアカンよ。何せ、今回の相手はこの街を軽く消し飛ばせる程の力があるんやろ? だったら、出し惜しみはなしにせんとアカンとちゃうの?」

 

 ……はやての言葉には一理ある。それに魔導においては僕以上であるはやての参戦は、正直言って心強い。しかし、はやてには父さんと母さんを守って欲しいのも確かだ。その僕の懸念を、はやては次の言葉で完全に吹き飛ばした。

 

「あぁ。お父ちゃんとお母ちゃんについては、何も心配いらへんよ。リヒトとリインは家に残していくし、リヒトが認めとる銀もおる。何よりな、二人の護衛として念王をつけるって、レオ君が言うてくれたんや」

 

 念王? ……ミュウツーか! 確かに父さん達の護衛に彼がついてくれるなら、それこそ魔王しかもサーゼクス様と同等クラスでない限りは大丈夫だろう。

 

 ……これで、はやてを家に押し留める理由が完全になくなってしまった。

 

「だから、今回はリヒトとリインがおらん分、アンちゃん達のサポートに専念する。後はただアンちゃんがわたしに「サポートを頼む」って、言うてくれたらえぇんや。……それでもアカンの?」

 

 その為、このはやての駄目押しに反論する術はもうなかった。僕は、義妹の力を借りる覚悟を決める。

 

「……解った。はやて、僕達のサポートを頼む」

 

「了解や! 兵藤兄妹の力、神話の連中に見せたるで!」

 

 こうして、夜天の王の参戦も決定した。

 

 その後、駒王学園前に転移すると既に戦闘用の装備を整えた瑞貴とセタンタが到着しており(流石にはやても参戦する事には二人とも驚いていたが)、僕達はそのまま学園の中へと進んでいった。

 

 

 

Side:木場祐斗

 

 装備を整える為に一度それぞれの家に戻ったイッセー君達より一足早く、僕と匙君、そして会長の三人は駒王学園に戻ってきていた。そこで、イッセー君の舎弟であるセタンタ君が聖剣の奪還に成功した事、それに伴いコカビエルから宣戦布告を受けて、一時間後にここへ攻めて来る事、それに合わせてイッセー君達が装備を整える為に一度それぞれの家に戻った事を部長に伝える。それを受けて部長はサーゼクス様に連絡を入れてご出陣を要請し、既に何時でも出られる様に準備していたサーゼクス様は連絡を受けた直後に転移して来られた。本当は会長の命を狙う事もはっきりと宣言された事でセラフォルー様もこちらに来ようとしたけど、他の魔王様三名に流石に過剰戦力だと言われて止められたらしい。

 そして現在、戦場となるグラウンドを中心に陣を張り、学園の外側では会長が指揮を取って、瑞貴さんと匙君以外のシトリー眷属と朱乃さん、小猫ちゃん、アーシアさんが結界を展開する準備を行っている。なお、これらの人員配置は別れる前のイッセー君によって提示された案を会長が承認したもので、瑞貴さんと匙君については戦闘に参加することになっている。

 よって、戦闘に参加する主要人物は僕、瑞貴さん、匙君、セタンタ君、部長、レイヴェル様、サーゼクス様、そしてイッセー君の八人で、僕達は露払いを行う事になっている。

 

「さて、リアス。向こうの現状は解るかな?」

 

 サーゼクス様に問われて、部長は早速「探知」を使用した。

 

「……コカビエル自身は、宣言通りの時間に攻めて来る心積もりのようです。また、自らの攻撃を完璧に斬り伏せたイッセーに大きな関心を抱いており、自ら相手取るに相応しいとして考えています。ただ、バルパー・ガリレイはコカビエルがエクスカリバーをあっさりとこちらに譲ってしまった事に大きな不満を抱いています。この分では独断で自ら別働隊を率いて、エクスカリバーを奪いに行きそうですね。まぁそれについては、自分達で何とかしてもらいましょう。正直そこまでは面倒を見切れません」

 

 部長はコカビエル一派の現状をつぶさにサーゼクス様に伝えている。こういう場面でのグレモリーの「探知」は本当に反則だと思う。……確かにこれなら、古式の悪魔祓いの技法において「紅髪(べにがみ)を見たら真っ先に潰せ」と口伝される訳だ。サーゼクス様は部長の報告を聞き終えると、満足げに頷く。

 

「確かに、リアスの言う通りだな。エクスカリバーについては、既にこちらの手を離れている。私達はコカビエルとの戦いに専念しようか」

 

「解りました、魔王様」

 

 そうした中、ついにイッセー君達が戻ってきた。しかし、その足音には金属音が多分に含まれている。しかも気配が一つ多い。それを不審に思った僕がイッセー君達の方を向いた。

 そこには、黒い神父服の上から白いコートを纏った瑞貴さんと青を基調にした服の上から両肩と左腕、腰部、そして脚部に強い魔力を秘めた金属製の装甲を身に付け、真紅の魔槍ゲイボルグを右手に担いだセタンタ君、黒い生地と金の装飾で統一したタイトスカートとノースリーブを身に纏い、先端に剣十字を象った杖を右手に持ち、百科事典程の大きさと漆黒の装丁を持つ一冊の本を左手に携えたはやてちゃん。そして、その三人を後ろに従えた完全武装のイッセー君がいた。

 四人はサーゼクス様と部長の前に歩み寄ると、イッセー君の後ろに三人が並んだ状態で揃って跪いた。そして、イッセー君が代表して帰還の報告を行う。

 

「遅くなって申し訳ございません。ルシファー陛下、我が君(マイ・ロード)。兵藤一誠および武藤瑞貴、只今戻りました」

 

 ……白状しよう。

 

 僕はこのイッセー君の姿に、「騎士」としての在り方を見つけた様な気がした。今のイッセー君からは、それだけの気高さと闘志が感じられる。

 

「リアス」

 

「……ハッ! え、えぇ。それについては気にしなくても良いわ。戦闘に遅れて来た訳じゃないもの。それと、聖剣奪還についてはご苦労様、イッセー。これで後はコカビエルさえどうにかできれば、戦争再開の火種はとりあえず消せるわね」

 

 サーゼクス様に促されて慌てて返事をする部長を見て、「あぁ見惚れていたんだな」と思った。ふと見渡すと、レイヴェル様も完全に見惚れてしまって顔が真っ赤だ。レイヴェル様のイッセー君への好意は誰の目にも明らかだったから、こうなるのも納得だ。それに、匙君を見たら苦笑いを浮かべていたから、僕と同じ事を考えたのだろう。そこで匙君が僕に気付いて目が合うと、肩を竦めた。

 

「限られた情報の中でコカビエルの動きと目的を見切り、更に先手を打った知略の冴え。見事だったよ、兵藤君。君の全てを見通す神の頭脳のお陰で、こちらは後手に回る事無く先手を打ち続けられた。この功績は後で篤く賞するとしよう」

 

「有り難き幸せ。今後も冥界への忠勤に励みます」

 

 その間に行われたイッセー君とサーゼクス様とのやり取りも完全に堂に入っていて、流石は中級悪魔といった所だった。

 

「兵藤君、立ってくれないか。その姿を良く見せて欲しい」

 

「はっ」

 

 サーゼクス様に促されて、イッセー君は悠然と立ち上がる。イッセー君は白一色ながらも僅かに光沢を放つ法衣を纏った上から白銀に輝く鎧の胴体部と脚甲を装着し、更にその鎧の上からフェニックス家から贈与された例の緋色のローブを羽織っていた。そして、白銀の鎧の肩当てと赤龍帝の籠手と同じデザインの赤い右籠手をローブの上から装着している。

 この緋と白、そして白銀の調和がイッセー君の凛とした雰囲気を更に際立たせていた。サーゼクス様もどうやらそれを認めた様だ。

 

「……成る程。私も一度父上と共に実物を見たが、君が纏うとまた一段と違うな。フェニックス卿も中々に見る目が有る。これは確かに戦装束としても礼装としても映える一品だ。しかし、その装備は?」

 

 サーゼクス様の問いにイッセー君が答えていく。

 

「赤龍帝はいずれ、二天龍の片割れである白龍皇と戦う定め。これらはその時に禁手(バランス・ブレイカー)に至っていなかった場合に備え、歴代赤龍帝の協力の元でミスリル銀を用いて自ら作成した物。ここまで念入りに手を入れて用意した代物ですが、実際にこうして纏ったのは両手の指で収まる程度でございます」

 

 確かにその為に作ったのなら、内在する力の強さにも納得できる。サーゼクス様も同じ事を考えていた事が、次の言葉で判明した。

 

「生半可な魔導具や神器を上回る力を感じるのは、その為か。しかし偶然の賜物とはいえ、まるで一セットとして創られた様な組み合わせの妙だ」

 

 このサーゼクス様の称賛をイッセー君は素直に受け取る。

 

「お褒め頂き光栄です。この不滅なる緋を下されたフェニックス家の方々も、そのお言葉にはさぞお喜びになりましょう」

 

 イッセー君の言葉からローブの名が判明した。リアス部長からは特に言われなかったから、おそらく自分で付けたのだろう。魔力さえ流せば布切れ一枚からでも再生できるというこの緋色のローブには、確かに相応しい名だ。サーゼクス様はローブの名を聞いた事で更に言葉を重ねていく。

 

「不滅なる緋? それがそのローブの名前か、良き名だ。……兵藤君。その不滅なる緋を君の正式の礼装とし、今後はあらゆる公の場において着用する事を許可する」

 

 サーゼクス様から不滅なる緋が正式の礼装とする旨を伝えられると、イッセー君は返礼の言葉を口にした。

 

「有り難き幸せ」

 

 こうして、サーゼクス様の承認で不滅なる緋がイッセー君の正式の礼装となった。そして、サーゼクス様は早速イッセー君に敵の戦略について尋ねてきた。

 

「さて兵藤君。武藤瑞貴君の他に君に従う二名については後で聞くとして、これからコカビエルが攻めて来る訳だが、どのような戦略で来ると思う?」

 

 ……ここからが、イッセー君の持つ神の頭脳の本領発揮だ。イッセー君はあらゆる感情を排した平静な声で淡々と進言していく。

 

「陛下がお出ましになった以上、コカビエルは陛下との一騎討ちを望むでしょう。あるいは先の宣戦布告の際に私に興味を抱いた様なので、その前哨戦として私との戦いを望むかもしれませんが」

 

 イッセー君の進言を聞いたサーゼクス様は、自らが持っている情報と突き合わせた上でその可能性が高いと判断した。

 

「アザゼルに確認を取った所、コカビエルは半ば自然消滅した戦争の決着を望む戦争狂だと教えられた。それに「探知」を使用したリアスからも、君を自ら相手取るに相応しいと評価しているとの報告が上がっている。それらを踏まえると、まずは君から狙って来る可能性が十分にあるな」

 

 このサーゼクス様から伝えられたコカビエルの性質を考慮に入れたイッセー君は、更に向こうが取り得る戦略を語っていく。

 

「自ら戦う相手に陛下を選ぶにしろ私を選ぶにしろ、我が君とレイヴェル様、瑞貴、祐斗、元士郎、セタンタに対しては、余興として他の者と戦わせようとするでしょう。ただし己一人で十分と豪語していた以上、おそらくは魔獣の類になると思われます」

 

 それを聞いたサーゼクス様は、現状の戦力で十分との判断を下した。

 

「それなら、私と君を除いた戦闘メンバーでもどうにかなるか」

 

 ……確かに、この場にいる戦力は現時点における最精鋭に近いものがある。戦力としては十分過ぎるだろう。イッセー君もサーゼクス様の判断を支持する言葉を発した。

 

「はっ、ご明察の通りにございます。特に瑞貴は「水氷の聖剣使い」の異名を持つ程の強者。また、後ろに控えしセタンタはアイルランドの大英雄と謳われし「クランの猛犬」クー・フーリンの全てを継承する末裔であり、力量は木場祐斗および匙元士郎の両名に並びます。更に、義妹(いもうと)のはやては事魔導においては私をも上回る技量の持ち主。ただはやてに関しましては、この後は被害を最小限に抑える為に結界構築班に回しますが、これだけ戦力が揃っていれば魔獣程度なら千頭相手取っても不覚は取らないでしょう」

 

 このイッセー君の発言を受けて、サーゼクス様は納得した様な表情を浮かべていた。

 

「確かに、君以外にも剣を使う悪魔祓い(エクソシスト)では最強たる武藤礼司の後継者と目されていた彼がいる。しかも、君が連れてきた二人は共にリアス達をも上回る強さと来たか。流石に君の義妹はサポートに回す事になってしまったが、被害を最小限に食い止めるのもまた重要な役目だ。適材適所ということだろう。確かに君の言う通り、戦力としては十分だろうな」

 

 イッセー君の進言を聞き終えたサーゼクス様は、とても満足げな表情を浮かべていた。……イッセー君。ここだけ見れば、完全にサーゼクス様の懐刀だ。しかも的を全く外していない。ひょっとすると、サーゼクス様はイッセー君の独立を視野に入れているのかもしれない。だからこそ、イッセー君の実力を皆に知らしめる為にこうした行動を取っているのだろう。

 やがて、サーゼクス様は頃合いと見たのか、戦闘時の指揮系統について触れ始めた。

 

「……そろそろ時間か。コカビエルが相手に選ぶのが私か君かで、予め指揮系統をどうするか決めておこう。まずは私だった場合だが、その時は私が許可する。全軍の指揮を君が執れ。初めて会った時から薄々感じていたが、ライザーとのレーティングゲームと今回の件で確信した。君には、この場にいる誰よりも(キング)としての才器が有る。今回はそれを存分に生かしてもらおう」

 

 サーゼクス様の余りに高い評価に、イッセー君もかなり困惑している。

 

「……流石にそれは」

 

 流石にイッセー君は辞退しようとしたけど、その前にサーゼクス様から強く命令されてしまった。

 

「兵藤君、これは命令だ。リアスとレイヴェル嬢の命を護る為だと思って承知してくれ」

 

 もはや断れなくなったイッセー君は命令を受け入れる。

 

「……Yes, your majesty.」

 

 イッセー君の承服を確認したサーゼクス様は、更に考え得るもう一つのケースについて言及してきた。

 

「そして君だった場合は、リアスに指揮を執らせた上でいざという時に私がフォローする形にする。だから、君はコカビエルの相手に専念してくれ」

 

 ここで、イッセー君が余りにも予想外な事を確認して来る。

 

「その件に関して一つ。コカビエルの生死はいかが致しましょう?」

 

 サーゼクス様も一瞬息を呑んだみたいだけど、何故そこを確認するのか理解したようだ。堕天使側の意志をイッセー君に伝えた。

 

「コカビエルの身柄拘束の為に兵を派遣したとの事だ。自身の手で処罰したいから、できれば生かしたまま引き渡して欲しいと頼まれたよ」

 

 それは僕達に言わせれば、無理な注文だった。しかし、イッセー君は指揮を執る様に言われた時とは打って変わって、一片の迷いなく言い切る。

 

「承知しました。私が選ばれた場合も無力化させる方向で参ります」

 

 その迷いも躊躇いも一切ないイッセー君に、サーゼクス様は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「……君は本当に頼りになるな、兵藤君」

 

 僕もそう思いますよ、サーゼクス様。

 

Side end

 

 

 

 サーゼクス様との打ち合わせが終わってから数分後、駒王学園の上空にはコカビエルが到着していた。コカビエルはサーゼクス様が出陣しているのを確認すると、喜びつつもやや予想外な所があるのか少々驚いていた。

 

「ホウ、まさかサーゼクスが自ら出て来てくれるとはな。変なプライドが邪魔して、貴様の妹が呼んでいない事も考えていたんだが」

 

 それに対し、サーゼクス様は出陣が早かった理由をコカビエルに伝えていく。

 

「コカビエル。今回の一件は、お前の独断であることは既に解っている。だから三竦みに影響を与えないとして、私が出て来られた。既にアザゼルも私が出る事は了承済みだ。教会の聖剣使いも全てのエクスカリバーを取り返してここを去った以上、戦争の再開はもうあり得ない」

 

 サーゼクス様がコカビエルに野望が潰えたと断言すると、コカビエルは少々驚いた表情を浮かべた。

 

「まさかアザゼルにも手を回していたとはな。実際に手を回したのは、確かに貴様だろう。しかし冥界にいて情報が遅れているはずなのに、幾ら何でも早過ぎる。それを早期に指摘した者がいるな。しかも地上にいた者の中に。……考えるまでもないか。貴様だな、赤龍帝?」

 

 流石に気付かれた様なので、僕はどうやって気付いたのかを説明した。

 

「そうだ。エクスカリバーを全て奪える状況で半分しか奪わなかった事、自身の情報を大々的に伝え回った事、そして潜伏場所をここに選んだ事で、その目的が戦争の再開にある事は容易に想像できた。後は神の子を見張る者(グリゴリ)の上層部に問い合わせる事で、お前の独断かどうかを判断すればいい」

 

 それを聞いたコカビエルは暫く無言だったが、やがて大笑いを始めた。

 

「……クッ、ハッハッハッハッハッ! 良いぞ、赤龍帝! まさか、ここまで鮮やかに俺の目論見を暴かれるとは思わなかったぞ! そうだ! 確かにその気になれば、あの間抜け共からエクスカリバーを全て奪う事ができた! しかし、それでは却ってミカエルを始めとする熾天使(セラフ)共が自重して、聖剣を諦めるかもしれなかった! それでは面白くない! だからあえて半分しか奪わずに、奪い返せる可能性を残したのだ! だが、そこまでお膳立てしたのに、やって来たのは雑魚の悪魔祓い(エクソシスト)共と未熟な聖剣使いが二人だけだ! 天使はおろか上等な悪魔祓いすら、俺の元には攻めてこなかった! だから今度は、悪魔に戦争を仕掛けようとここにやってきた! エクスカリバーを奪った俺がここに来れば、妹可愛さに魔王が自ら出陣すると思ってな!」

 

 コカビエルは自らの思惑とそれに伴う今までの行動に着いて明かすと、サーゼクス様の方を向いて話を続ける。

 

「サーゼクス! その結果、確かにお前はここに来た! だが、俺の本当の目的だった戦争の再開の芽は全て潰された! ここまで完璧に俺の考えを読まれて悉く潰されると、いっそ爽快感すらあるぞ!」

 

 そして暫く笑い続けた後、憤怒の表情で僕を睨みつけて来た。

 

「俺の目論見を完膚なきまでに叩き潰してくれた礼だ! 赤龍帝、まずは貴様から殺してやる! サーゼクス、貴様はそれからだ! それ以外の雑魚共はコイツらと遊んでいろ!」

 

 コカビエルはそう言うと、指を一回鳴らす。すると魔方陣が展開された。あの術式構成は召喚魔術だ。そして出てきたのは、結構な大物だった。

 

「三つ首、ということは地獄の番犬と謳われたケルベロスか! しかも二つ首のオルトロスまで!」

 

「さぁ来い、赤龍帝! 来なければ、まずはこの結界の外の雑魚共から殺してやる!」

 

 ……コカビエルは、一騎討ちの相手に僕を選んだ。

 

「陛下」

 

 僕がサーゼクス様に呼びかけると、サーゼクス様は軽く頷いて先程決めた通りに行く事を承認した。

 

「解った。先程決めた通り、いざという時には私がリアス達をフォローしよう。……尤も、君が連れてきた強力な戦力を考えるとその必要はなさそうだがね」

 

 サーゼクス様の言葉を聞いて、僕は安心した。……だからだろう、つい素で感謝を伝えてしまう。

 

「有難うございます、サーゼクス様」

 

 言ってからしまったと思ったが、サーゼクス様にはかえって喜ばれてしまった。

 

「やっと普段の話し方になったか。私にとっては其方の方が好ましいな」

 

 僕は苦笑いしそうになるのを堪えるしかない。

 

「ご冗談を。……では、行きます」

 

 僕が出撃の意志を伝えると、サーゼクス様は最後に僕がこの一連の騒動を終わらせるように激励してきた。

 

「あぁ。今回の一件、君がここで終わらせるんだ」

 

 この激励に、僕はただ一言で応える。

 

「はい」

 

 そして、僕は一人で前に歩み出すと静謐の聖鞘(サイレント・グレイス)に収めたエクスカリバーを呼び出して腰に差した後、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発現し、更に籠手の宝玉から天龍剣クォ・ヴァディスを静かに抜いた。全ての準備が完了すると、僕は他の皆との距離が十分に取れたのを確認してから、五対十一枚の赤いドラゴンと悪魔の羽を広げる。

 

「さぁ始めようか。ドライグ、アウラ」

 

〈それにカリス〉

 

 僕がドライグとアウラには実際の声で、カリスには精神感応でそれぞれ声を掛けると、それぞれが頼もしい言葉で返事をしてきた。

 

『あぁ、神器の制御は任せておけ。これで、俺もやっとまともに働けるな。何せ、あのライザーとパンデモニウム以外は雑魚ばかりだったからな。アイツ等を除けば俺が出る必要もなくて、退屈で仕方がなかった』

 

『あたしはパパの魔力とクォ・ヴァディスの出力制御を担当するよ! だから、頑張って!パパ!』

 

《了解! 守護結界その他の出力制御はオイラに任せて!》

 

 確かにドライグの言う通り、逸脱者(デヴィエーター)になってから赤龍帝の籠手をフルに活用したのは全力の真剣勝負だったライザーとの模擬戦くらいだ。パンデモニウムについては神器こそ使用しなかったが、ドライグのオーラは全開に使っていたから、ドライグの力を借りていたのは間違いない。まして、実戦で静謐の聖鞘の加護と悪魔の力としての魔力を全開にするのは、正真正銘これが初めてだ。

 ……それだけに、何だかドライグとカリスをほったらかしにしていた様で申し訳なかった。

 

「そうか。確かに、今まで力を借りる様な事態に陥る事がなかったからね。何かほったらかしにした様でゴメン、ドライグ」

 

〈それと、静謐の聖鞘の力だけを借りる形になってゴメンね。カリス〉

 

 僕がドライグとカリスに謝罪すると、それぞれ気にしない様に伝えて来てくれた。

 

『何、気にするな。相棒。それにあの程度で俺を呼ばれていたら、お前の身に何かあったのかとかえって心配していたぞ。だが、これで退屈な時間も終わりだな』

 

〈そうそう。そもそもエクスカリバーは用いられる事がないに越したことはないんだからさ。それに、今までイッセーにとって重要な戦いの時に限ってオイラの力を貸せなかった憂さがこれでやっと晴らせるし、この場はここまでで満足しとくよ〉

 

 そして、ドライグはここで一つの注文を出してくる。

 

『この際だ、奴に前口上を決めてやれ。お前のアレは俺としてもかなり気に入っているし、娘のアウラには父親の格好良い所を見せてやらないとな』

 

《それに、カリスの奴も俺同様に気に入っているしな》

 

 このドライグの注文に対して、僕は思った事をそのまま口に出していた。

 

「……滅多にないドライグの頼みだ、応えてやるか」

 

 それにドライグはカリスとアウラの事を気遣っていた以上、断る理由が何処にもない。僕は深く息を吸い込むと、クォ・ヴァディスの切っ先をコカビエルに突き付けて前口上を始める。

 

「堕天使コカビエル! 戦争に酔い痴れ、その残照に目が眩んだお前の好きにはけしてさせない! 戦争再開を望むお前の野望は、僕がこの手で叩き潰す! ……天を背負う、赤龍帝の名に懸けて!」

 

 これは、一種の決意表明だ。これによって、意識が完全に戦闘モードへと切り替わる。一方、コカビエルは僕の前口上を受けて、面白そうな笑みを浮かべた。

 

「面白い! ならば、俺に見せてみろ! 天を背負うと吠えた、赤龍帝の力を! あっさりと死んで、俺を落胆させるなよ!」

 

 そして僕はそのまま、コカビエルのいる上空へと向かう。……だから、サーゼクス様がこんな事を呟いていた事を僕は知らなかった。

 

「天を背負う、赤龍帝の名に懸けて、か。セラフォルーが聞いたら大喜びだな、これは。それにしてもまさか、兵藤君が素でヒーローしているとは思わなかった。それにあの格好でやると、これまた良く似合うな。……サタンレンジャーのピンチかも」

 

 

 

Postscript

 

「え~! 何それ、凄くカッコいい☆ 本物のスーパーヒーローだぁ☆ あの時、やっぱり私も一緒に地上に行って、リアスちゃんとソーナちゃんが共有してる子と一緒にキラめけばよかったなぁ……」

 

 後にサタンレッドからこの話を聞いたサタンピンクこと魔王少女は、この様な事を言って大変残念そうにしていたという。

 

Postscript end

 




いかがだったでしょうか?

一誠の戦装束についてですが、先代のイメージがFate/Prototypeのセイバー(通称:旧セイバー)なので、装甲部分はそれに準じるデザインとなってます。

鎧の下の服の色が白な上に、鎧の上から赤いローブを纏う様なコーディネイトが本当に秀逸と言えるのか、正直言って余り自信はないのですが。

では、また次の話でお会いしましょう。

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