赤き覇を超えて   作:h995

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今回の話は、一誠に救われた聖剣計画の被験者達が一堂に会する話です。

また、以前の話における重大な矛盾点に関する答えもここで明かされます。

追記
2018.11.26 修正


第四話 聖剣計画の子供達

Overview

 

 一誠が祐斗の暴走を命懸けで止め、魔剣創造(ソード・バース)和剣鍛造(ソード・フォージ)へと覚醒させたその日の夜。

 精神世界では、一誠が完全に寝入った頃を見計らって、守護の剣精(セイバー・ガーディアン)魔導帝(マギウス・ロード)が密かに会合を開いていた。

 

「どうしたのさ、ロシウ? 突然、イッセーには内緒で話がしたいなんて言い出したりして」

 

 カリスはロシウに対して、今回の会合の目的を尋ねる。すると、ロシウは逆に今回の一件における一誠の体に起こった異変についての見解を尋ねていた。

 

「単刀直入に話をするかの。お主、おかしいとは思わんかったのか? 一誠が降霊術を使って肉体を著しく損傷した事について」

 

 カリスは、ロシウが何を言っているのか、理解できなかった。何を当り前なことを、といったところだろう。

 

「へっ? でも、イッセーはもう人間をやめているし、悪魔の眷属だから別に変な事じゃないと思うけど」

 

 カリスの返答を聞いたロシウは心底呆れた様に溜息を吐くと、一誠が転生した時の状況について説明し始めた。

 

「……カリス。お主、忘れておるのか? 一誠は転生の際にドライグのオーラで強化された悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の力とエクスカリバーの力を共存させる為、「龍」の力で「聖」と「魔」の力を共存させたのを。その結果、己の体を世界の理から外れ切ったものへと作り変えることになった。ここまでは良いな?」

 

 ロシウの説明を聞いたカリスは、その結果として新たに誕生した種族について話していく。

 

「ウン。だから、一誠は四枚の天使の翼と四枚の悪魔の羽、そして三枚のドラゴンの赤い羽を持ち合わせた逸脱者(デヴィエーター)になっちゃったんだ。それくらいはオイラだって覚えてるよ。……あっ!」

 

 逸脱者の特徴を口に出した時点で、カリスはようやく矛盾点に気が付いた。それを見たロシウは、一誠が降霊術を使用した時の拒絶反応が本来はあり得ない筈のものであった事を語り始める。

 

「ようやく気付いたか。そうじゃ。その結果、羽以外にもドライグに由来するドラゴンの力と悪魔の駒に由来する悪魔の力の他に、お主とエクスカリバーに由来する天使の力をも宿す事になった。それ故、本当なら神聖魔術である降霊術を使用しても、一誠が傷つく事などなかった筈なんじゃ。自分が持っている光力を使用して発動する訳じゃからな、本来なら拒絶反応なんぞあり得んわ。実際、聖書の神を称賛する様な事を言っても拒絶反応は出んかったのじゃから、間違いはなかろう。それが蓋を開けてみれば、神聖魔術を使っても拒絶反応が出ない事を怪しまれない様、わざわざ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で約千倍の強化を施していたにも関わらず、強烈な拒絶反応を引き起こして瀕死の重傷を負ってしもうた訳じゃ。一誠にとっても、これについては大誤算もいい所であったろうな。もしあ奴が力の温存の為に儂を赤龍帝再臨(ウェルシュ・アドベント)で実体化させておらなんだら。そう思ったら、今でもゾッとするの」

 

 そこまで語り終えた所で、ロシウのカリスを見る目がかなり冷ややかなものとなった。

 

「……じゃがな、まさか一誠の「聖」の根源であるお主が気付いておらなんだとは、流石に思うておらんかったぞ」

 

 ロシウからぶつけられるキツイ言葉に、カリスはただ頭を下げる以外の選択肢がなかった。……もう少しで、守るべき存在をまた守り損ねるところだったからだ。

 

「……ゴメン」

 

 カリスの謝罪を聞いたロシウは、そこで今回の会合を持った本当の目的を語り始める。

 

「じゃが、問題はそこではない。祐斗の神器(セイクリッド・ギア)の本体である魔鞘が「聖」と「魔」を反発させる事無く共存させた上に聖魔剣をも創造可能となるという想定外な事態が起こった事で、儂も初めて思い至ったことなのじゃがな。……一誠は、人でなくなった事を完全には受け入れておらんのかもしれぬな」

 

 ……もしこの場にグレモリー眷属やシトリー眷属の面々がいれば到底受け入れがたいであろうロシウの言葉であるが、祐斗の神器が覚醒するに至った経緯の一部始終を見ていたカリスは、それが一体どういう事なのかが理解できた。

 

「そっか。確かにロシウの言う通りだよ。もしイッセーが逸脱者へと転生したあの時、本当に悪魔になる事を。……ううん、人をやめてしまう事を受け入れていたのなら」

 

 そして、ロシウがカリスの理解した事を肯定する様に言葉を繋げていく。

 

「そうじゃ。おそらくは魂を消し飛ばす程の激しい反発などは起こらず、そのまま逸脱者として転生しておった筈。しかし、実際は相反する「聖」と「魔」をドライグのオーラで緩衝して強引に共存させる事で転生しておる。そして、一誠の中では未だに「聖」と「魔」が反発し合っておる筈じゃ。じゃから、降霊術を使用した際に一誠の中で強まる「聖」に消されまいとして「魔」が激しく抵抗し、その結果として一誠の肉体に拒絶反応が出てしまったのじゃろう」

 

 ここでドライグに並んで最も一誠に近しい存在であるカリスは、ロシウの言葉を聞いた事で一誠の心の奥底にある葛藤に気づいた。

 

「イッセーは「あの子」の事をまだ強く想い続けているんだね。だから、悪魔祓い(エクソシスト)にとって不倶戴天の敵となってしまう悪魔の眷属になった事を、それ以上に人をやめてしまった事で同じ時間を一緒に生きられなくなった事を、心の奥底では受け入れ切れずにいるんだ……」

 

 そして、ロシウもカリスの考えを肯定した。

 

「おそらくは、そういう事なんじゃろうな。……その意味では、一誠が「魔」を、そして人でなくなった事を本当の意味で受け入れて前へと進んでいく為の「鍵」を握っておるのは、幼馴染で想い人でもある「あの娘」かもしれんの」

 

 そのロシウの考えを聞いたカリスは、ロシウに一つだけ質問した。……これが、非常に重要な事になると思ったからだ。

 

「……ねぇ、ロシウ。イッセーは何処まで気づくと思う?」

 

 カリスに問われたロシウはしばらく考えた後、静かに答え始めた。

 

「今回の一件で、己の中にある「聖」と「魔」が未だに反発しておる事には間違いなく気づいたじゃろうな。ただ、問題はその先じゃ。「聖」と「魔」が反発しておるのは、心の底では未だに人でなくなった事を受け入れ切れておらぬからという事には自力で気づくかも知れんが、何故受け入れ切れておらぬのかまでは、少々難しいかもしれんのう。信じたい物しか信じない、信じたくないという人間の本能とも言うべきものからは、流石の一誠も免れる事はできぬであろうからの」

 

 ロシウは一誠の心情をかなり深い所まで見抜いていたが、同時に自分達がこの件では無力である事もまた悟っていた。その事をカリスにも伝える。

 

「じゃが、それを知らしめるのに、一誠の一部といえる儂等の言葉では意味がなかろう。己がけして一人きりではない事を一誠に悟らせる為には、あくまで一誠と共に今を生きておる者からの言葉で知らしめるべきじゃ」

 

 このロシウの答えを聞いたカリスは、この一件に対する己の無力さに歯噛みするしかなかった。そして、己の守るべき存在にただただ謝ることしかできなかった。

 

「ゴメン、イッセー。オイラ、今回の件については全く役に立ちそうもないよ。オイラ、どうしてこうイッセーにとって肝心な時ばかりに役立たずになっちゃうんだろう……」

 

Overview end

 

 

 

Side:木場祐斗

 

 イッセー君と本当の意味で親友となり、時折お互いに剣を交えて鎬を削るようになってから三日後。

 この日は日曜という事で、かねてから予定されていた瑞貴さんの兄弟である薫君やカノンちゃんとの面会がようやく叶う事になった。本当はもっと早くに行う予定だったけど、ライザー氏とのレーティングゲームやイッセー君の中級悪魔昇級試験の準備が重なって、予定が伸びに伸びた末に今日となったのだ。だけど、僕や瑞貴さんが悪魔である事から流石に教会内の孤児院での面会は不可能なので、瑞貴さんに頼んで二人を駒王学園の近くにあるカフェに呼び出してもらった。なお、そこの代金については、十字教教会専属の傭兵として活躍していた時の稼ぎの一部を将来の自立資金として貯めていた瑞貴さんが奢ってくれた。

 

「シトリー眷属になった事で、自分の事で使う予定がもう殆どなくなったからね。その内、孤児院の運営資金として、貯金の大部分を義父さんの教会に寄付するさ」

 

 僕が少し申し訳なく思っているところに、瑞貴さんは微笑みながらそう言って器の大きな所を見せた。因みに、その貯金の総額については億円単位の豪邸が即金で購入できる程度とだけ言っておこう。

 こうしてまずは先に着いた僕達が席を取り、二人でコーヒーを頼んでからしばらく待っていると、瑞貴さんから呼ばれたであろうイッセー君もやってきた。確かに、僕達全員の恩人であるイッセー君がいないのでは始まらない。僕はそう思ったけど、イッセー君は何故か気が進まない様だった。それが非常に気になったけど、イッセー君が来てから数分後、一組の少年少女がカフェに入ってきた。

 男の子の方は、150 cm半ばぐらいの背丈で逆立った黒髪にクリっとした目をしていて、よく言えば元気いっぱい、悪く言えば落ち着きのない感じを受けた。……ただ、身のこなしについては、一目見ただけで相当に鍛えられているのがはっきりと解る。おそらくレオンハルトさんの指導を受ける前の僕なら全く歯が立たず、和剣鍛造を得た今でも神器をフルに使えばともかく、白兵戦になるとかなり分が悪いだろう。

 一方、女の子の方は僕と殆ど変わらないくらいの身長とスレンダーな体付きで、サイドポニーに纏めた長い黒髪と碧眼という余り見かけない容姿をしていた。また、顔立ちは美形の多いオカ研ことグレモリー眷属の中に入れてもけして見劣りしない程に整っていたけど、目付きが少々キツいのが玉に(きず)だった。この子も男の子程ではないものの、やはり以前の僕なら勝てないと断言できるほどの強さは持っているだろう。

 ……ただ、この二人は大きく成長していたけど、顔立ちについては確かに見覚えがあった。それに、あの施設にいた「家族」達の中でも最年少に近かったので、僕より年上だった「家族」が良く二人を含めた年少組の面倒を見ていたのを今でもはっきりと覚えている。

 僕がそうして二人の事を思い出していると、二人が僕達の事を探している様なので、瑞貴さんが手を上げて軽く手を振った。すると、それにすぐに気が付いた二人は僕達のテーブルに近づいて来た。二人がテーブルのすぐ側まで来た所で、瑞貴さんが立ち上がって二人の間に移動し、二人と僕の仲立ちとしてお互いを紹介し始める。

 

「祐斗、この二人が僕と一緒に一誠に救われた後で義父さんに引き取ってもらった同士で、僕の兄弟だ。男の子の方は薫、女の子の方はカノンという名前を付けてもらったよ。薫、カノン。彼があの時、動く事ができた他の同士の協力であの地獄から生き残った同士で、今は木場祐斗という名前なんだ。二人とも、祐斗に挨拶を」

 

 お互いの紹介を終えた所で瑞貴さんに促された二人は、僕に向かって挨拶をし始めた。……ただし。

 

「武藤カノンです。貴方の事は、去年の駒王学園の入学式で見かけたって、兄さんから聞いていました。悪魔になっていたとはいえ、生き残っていてくれて本当に嬉しいです。嬉しいんですけど、正直言って……」

 

「オレは武藤薫。オレも、カノンと同じで「久しぶり!」って言いたいんだけどさ……」

 

 二人とも、僕に対する感情はかなり複雑なものがある様だった。特に、薫君は僕に対する不快感を隠そうともしていない。薫君は視線を僕から瑞貴さんの方へ変えると、自分の思う所をこれでもかとぶつけてきた。

 

「瑞貴(にぃ)。オレ、やっぱり二人が悪魔になったの、全然受け入れられないよ。だいたい、何でオレ達の同士とはいえ、オレ達から瑞貴兄とイチ兄を奪った悪魔と顔を合わせないといけないのさ? そりゃ一応は瑞貴兄とイチ兄の顔を立てるけどさ、お陰で二人とも義父さんの教会の中にある孤児院に来れなくなっちゃうし、義父さんもとうとう隠し切れなくなっちゃって、イチ兄も瑞貴兄も二度と孤児院に来れなくなったって話したら、小学生の年少組が揃ってワンワン泣き出すし、セタンタなんて完全にブチ切れた挙句、「一誠さんをコケにした奴等は、一の舎弟であるこの俺が全員纏めてブッ殺してやる!」なんて言いながら駒王学園に乗り込もうとしたから、オレ達総出で慌てて止めたんだよ? まぁセタンタの奴が先に暴走していなかったら、むしろオレの方が我慢の限界で乗り込もうとしたんだろうけどさ……」

 

 その内容はイッセー君や瑞貴さんが悪魔に転生してからの孤児院の子供達の様子であり、はっきり言って僕に対する遠慮や容赦というものがまるでなかった。それこそ「お前達のせいだ!」と言わんばかりに。でも、無理もなかった。結果的に、二人を始めとするイッセー君が親しく通っていた孤児院の子供達からイッセー君を奪ったのは、間違いなく僕達悪魔なのだから。しかも、薫君の言葉から察するとイッセー君が悪魔になったこともそうだけど、それに加えて瑞貴さんも悪魔になった事を知らされたのはつい最近の様だ。この分だと、知らされた時の衝撃は只ならないものがあったのだろう。

 ……むしろ、イッセー君を奪った側である僕との面会なんて不愉快以外の何物でもない事に、本当によく応じてくれたものだと思う。きっと先程の薫君の言葉通り、イッセー君と瑞貴さんの二人の顔を立てる為に、不本意ながらも面会に応じてくれたのだろう。取り合えず、向こうが挨拶をしてきたのだから、僕も挨拶で返す事にする。

 

「二人とも、久しぶりだね。こうして逢うことができて、本当に嬉しいよ。僕の今の名前は、木場祐斗だ。……そうだね。イッセー君との関係を言い表すとすれば、誰よりも大きな恩のある恩人で、共に並び立つべき仲間で、そして何よりも無二の親友かな?」

 

 そして、二人に現在の僕が考えている事も伝える事にした。

 

「だから、いきなりは難しいかもしれないけど、どうか僕の事を信用してほしい。それに絶対にあり得ないけど、もし死にかけていた僕を助けてくれたリアス・グレモリー様がイッセー君を蔑ろにしようとしたら、僕が命を懸けて必ず止めてみせるし、それでも駄目だったら「はぐれ」になるのを覚悟の上でイッセー君の方に付くよ。……僕を「弟」の様に接してくれたリアス様や「家族」の様に接してくれた朱乃さんや小猫ちゃんには悪いけど、今の僕にとってはイッセー君からの恩の方が大きいからね。もちろん、そうならない様に全力を尽くすけどね」

 

 イッセー君が僕の考えを聞いて驚いているけど、これは紛れもなく僕の本心だ。それだけ大きな物を、僕はイッセー君からもらっていた。だから、僕はそれを少しずつでもイッセー君に返していかないといけないし、実際に色々な形で返していこうと心に誓っている。

 それが、僕が騎士道(ナイト・クエスト)として掲げた、「宣誓の成就」と「不断の報恩」なのだから。

 

「解りました。その言葉、私は信じます」

 

「ウン。その言葉には、けして嘘がないのはオレにも解る。ただ……」

 

 一方、僕の考えを聞いた二人については、カノンちゃんは信じてくれたものの、薫君の方は言葉こそ信じてくれたものの、別の事を不安視している様だ。それについては僕も理解していたので、早速力試しの提案をする。

 

「解っているよ。それなら、後で僕の力を見せる為に少し打ち合ってみようか?」

 

 この僕の提案を薫君は承諾した。……ただし。

 

「解った。それでいいよ。……ただ、オレって孤児院の中でも結構強い方だから、年下に負けたからって恥ずかしい事は全然ないと思うよ?」

 

 僕の事を思いっきり挑発してくれたけどね。……その思い上がり、後で思いっきりヘシ折ってあげようかな?

 それはさておき、こうして薫君と力試しをする事を約束した後、まずは二人と瑞貴さんからイッセー君に助けられてからの事を教えてもらった。すると、イッセー君について実に色々な事を知る事ができた。

 例えば、カノンちゃんは実は一度完全に死んでいたのだけど、まだ魂が体に残っている間にイッセー君が聖鳥フェニックスを召喚、その真なる力を使って蘇生させてもらったという話を聞いた時には「召喚師(サモナー)って、そんな事までできるのかい?」と、思わずイッセー君を問い質してしまった。

 また、イッセー君が二人の為に作った専用武器があると聞いて、携帯モードになっている物を実際に見せてもらった時には「イッセー君。これ、明らかに僕の聖魔剣よりも強い力の波動を感じるんだけど。一体、何をどうしたら、こんな伝説級の業物を作れるのかな?」と、かなり本気でツッコんでしまい、イッセー君には何故か首を傾げられてしまった。

 

 ……アレは、実は神の武器です。

 

 そう言われたらむしろ納得してしまいそうだったし、それくらいに出来が良い。……というよりも良過ぎだった。それに、これらの元となったという三種の神の武器を()(どう)(りき)という今まで聞いた事もない力を使って作り上げる事もできると二人から教えてもらった。

 

 ……イッセー君。君、後どれくらい力やら何やらを隠し持っているんだい?

 

 僕はその時、本気で呆れ返ってしまった。しかし、これなら和剣鍛造を使って剣の王を作り上げる時には、イッセー君の「創り出す者」としての力を借りようと心底思った。きっと、最高の一本ができるだろう。

 そうして瑞貴さん達の話が終わると、今度は僕が施設を脱出してから今日に至るまでの事を話していった。話が進んでいくにつれて、薫君は明らかに申し訳なさそうな表情を浮かべ、カノンちゃんに至っては少し涙ぐんでいた。

 そして、つい最近の出来事であるイッセー君の命懸けの行為とその後の和剣鍛造の件に話が及んだ所で、二人は揃ってイッセー君を責め出した。

 

「イチ兄! オレには「無茶するな」って散々言っておきながら、自分が無茶してどうするのさ! 普段はヤンチャして叱られてばかりのオレの方がイチ兄を叱っているって、よっぽどだよ!」

 

 薫君はまるで叱られる役はむしろ自分だと言わんばかりの事を言い出す一方で、カノンちゃんも、まるでヤンチャな薫君以上に無茶するイッセー君を自分が監視しますと言わんばかりの事を言い出した。

 

「何で普段は冷静でしっかり者の一誠さんを薫があんなに心配していたのか、今のでよく解りました。……今、決めました! 一誠さん! やっぱり、私も駒王学園に進学します! そんな薫よりも無茶する人、私は放っておけません!」

 

 この二人の発言には、流石のイッセー君も苦笑いしつつも甘んじて受けるしかない様だった。だけど、ここで瑞貴さんが妙な事を言い出した。

 

「一誠。何故、君が降霊術を使った時に激しい拒絶反応が出た挙句に死にかける様なことになったのかな?」

 

 ……それは、イッセー君が悪魔だから当然だ。僕はそう思っていたし、薫君とカノンちゃんも同様だった。しかし、瑞貴さんはここでとんでもない事を言い出してきた。

 

「だって、おかしいだろう? ()()()()使()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()。しかも、祐斗の魔剣創造が和剣鍛造に「覚醒」した時には「聖」と「魔」の力がお互いに反発していないのだから、尚更だ。一誠。その時の君に、一体何があったんだ?」

 

 ……悪魔となった筈のイッセー君に、天使の力?

 

「瑞貴!」

 

 僕達が瑞貴さんの発言に戸惑っていると、イッセー君が今までにない程の焦りを含ませた声で瑞貴さんを怒鳴った。その声に瑞貴さんはハッとなって、明らかに失言だったと自らの発言を悔む様な表情をしていた。

 そして、そんな二人を見て、黙っていられる様な薫君ではない。

 

「ねぇ。イチ兄、瑞貴兄。一体、オレ達に何を隠しているのさ? ひょっとして、イチ兄はただ単に悪魔になっただけじゃなかったの?」

 

 この薫君の問い掛けに、カノンちゃんも矛盾点に思い至ったようだ。

 

「よくよく考えると、確かにおかしいわね。だって、一誠さんは本物のエクスカリバーの担い手で星の意思にも愛されているのに、明らかに格下の存在である悪魔の眷属になったこと自体、本来は絶対にあり得ない事だもの。それこそ、エクスカリバーの力が一誠さんの転生に直接関わる様な事でもない限りは……」

 

 カノンちゃんが言及した矛盾点については、まだイッセー君との付き合いが浅い僕ではまず行き着かないだろう。この辺りは、流石イッセー君の妹分というべきだった。そして、この二人の言葉と僕の神器が「覚醒」した事実によって、僕はある答えに思い至った。

 

「イッセー君。もしかして、君は……」

 

 僕がその続きを言う前に、イッセー君は頷く事で肯定した。……きっと、これ以上はもう隠し切れないと悟ったのだろう。そして、僕達に場所を変えようと提案してきた。

 

「そこで、全てを教えるから」

 

 僕達にそう言って。

 

 そこで、僕達は世界を揺るがすであろうイッセー君の秘密を知る事になった。

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

第二話であえて逸脱者の設定である「天使の力を持つ為に神聖魔術を使っても拒絶反応は出ない」と大きく矛盾する内容としたのは、この為です。

第三章では、この様に人をやめた事への一誠の苦悩という影の部分をより詳細に描いていく予定ですので、人によっては受け入れられないと思いますが、どうかご容赦の程を。

では、また次の話でお会いしましょう。

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