赤き覇を超えて   作:h995

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第二章、最終話です。

ライザーとの熾烈な一騎討ちを繰り広げた一誠に対する処置が下されます。

また、文中のソーナの過去についてはこの物語独自の物なのでご了承ください。

追記
2018.11.29 修正および生徒会関係の設定を一部変更


最終話 Promotion

 ライザーとのレーティングゲームから時間が経ち、やがて迎えた母の日において海鳴市の翠屋で出来立てのシュークリームを家族で堪能する一方、夜中に出くわしてしまった薫君によって自分自身の本当の心情と向き合う事になってしまった。

 

 そうして、レーティングゲームから一週間後。

 

 その日、僕は生徒会の手伝いを終えた後でソーナ会長を伴ってオカ研の部室に向かっていた。その前日にかなり複雑な表情を浮かべたリアス部長から、ソーナ会長を伴う様に指示を受けたからだ。……リアス部長がソーナ会長を呼び出したのは、おそらくはあの件の筈だ。ただ、僕の隣を歩いているソーナ会長がかなり嬉しそうなのが気になった。一体何が嬉しいのか気になるが、今は一先ず置いておこう。

 

 

 

Side:ソーナ・シトリー

 

 リアスから重大な連絡事項があるということで、私はフェニックス邸における十日間の滞在が終わってようやくこちらに戻ってきた一誠君を伴って旧校舎にあるオカ研の部室へと向かっていた。

 

 ……一誠君が今、私の隣にいる事が凄く嬉しい。

 

 先日、一誠君への好意を自覚した事で、それが実はずっと以前からのものである事も思い知らされた。そう。兵藤一誠という少年を見極める為にその為人と能力を調べていく内に、いつの間にか芽生えていたものだったと。

 

 始まりは、入学式の時。

 

 駒王学園史上初の快挙である、入学試験において全科目満点での首席合格。これに関しては当然ながら非公開なのだが「裏」における駒王学園の関係者という事で、私には知らされていた。だから、その彼が入学生を代表しての宣誓を学園側で用意した文面とは異なり、しかもそれ以上に出来のいい内容で行った事で、私はまず彼の高い知力に注目した。何故彼がそのような事をしたかといえば、何と教師からこれを読むように手渡された封筒の中身が宣誓文でなく全くの白紙だったという学園側の大失態が原因であり、彼は完全に即興で宣誓をしていたのだという。……因みに、その時の一誠君と同じ事をやれと言われても、私ではその場凌ぎがせいぜいだろう。

 

 次は、生徒会の会合の時。

 

 新一年生の各クラスの総務委員と生徒会役員が初顔合わせした時、副会長に就いたばかりでようやく仕事に慣れてきつつあった私の顔を見た一誠君が少々驚いていたのが印象的だった。……今にして思えば、あの時に私が悪魔であると気づいたから驚いたのだと理解しているのだが、当時は似た様な反応を他の新一年生の男子もしていたので、きっと同じ事なのだろうと思ってしまった。

 

 それからしばらくして、当時は二大変態と悪名を馳せた松田君と元浜君を更生させた事で、一誠君が学園内でその存在感を露わにし始めた。当時の私は「何度こちらが注意しても行いを正さなかった彼等を、一体どうやって!」と、驚きを露わにしたものだった。そして一誠君にどうやったのかを尋ねると、頬を指で掻きつつ少しはにかむ様に微笑みながら教えてくれた。

 

「彼等は行いこそ行き過ぎていましたけど、それをきちんと理解できる様に諭せばちゃんと反省しますし、反省を行動に移せる誠実さもあるんです。……まぁ、同じ男から言われないと伝わらないものも確かにあったんですけどね」

 

 ……今思えば、その時の一誠君の言葉に納得する以上にその仕草を「可愛い」と感じてしまった時点で、一誠君の事を唯の異性としては見れなくなっていたのだろう。

 

 そして、総務委員としてクラスの中心に立って行動していき、体育祭における学年別の総合優勝を果たし、学園祭のクラスの出し物の時は自分が先頭に立つのではなく、あえて一歩後ろに引いて他のクラスメートのバックアップに回る事でクラスを一致団結させ、やがてクラスメートの勉強を補助していった結果、学年末テストでクラスメート全員が上位百位以内という快挙を成し遂げた。

 でもそれ以上に、一誠君のクラスには担任である音楽教師も含めて絶えず笑顔があり、その中心には必ず彼がいた。彼はまるで太陽の様に皆の中心に立つと、皆と一緒に頑張って、皆と一緒に騒いで、皆と一緒に悔しがって、そして皆と一緒に笑っていた。

 

 そんな彼を観察する事が、私にとっての最大の楽しみとなった。最初はそれこそ「為人と能力を見極める」のが目的だったのに、いつの間にか「為人と能力を見極めるという名目で彼の事を見つめる」のが目的となっていた。……今思えば、この時にはもう彼の事を異性として好きになっていたのだろう。

 だからこそ、一誠君にとっての運命のあの日、女堕天使に連れられて行く一誠君を見つけた時、私は二人を尾行する事にしたんだと思う。

 

 ……何の事はない。駒王学園の昼の管理者でもなく、シトリー家の次期当主でもない、唯のソーナとしての判断であり、行動だった。

 

 そして、唯のソーナとして行動してしまってからが速かった。今までは無意識だった一誠君への想いがどんどん表に出るようになり、あのフェニックス邸の滞在で長期間離れた事で無意識での抑制が利かなくなってしまい、とうとう自覚するに至ったのだ。

 ……だからと言って、先日の生徒会室でそれを思いっきりカミングアウトした挙句、シトリー家の次期当主の名に懸けて一誠君をモノにすると宣言するのは、我が事ながらどうだろうかと思う。やはり、私は()()お姉様の妹ということなのだろうか? でも、その言葉を撤回する気持ちなどは毛頭ない。もはや賽が投げられた以上、私は必ず手に入れる。

 

 兵藤一誠という、最高のパートナーとなり得る男性を。

 

Side end

 

 

 

 ソーナ会長を連れて旧校舎の中を歩いて行くうちに、オカ研の部室に到着した。……どうやらあの話は通ったらしい。

 

「リアス部長、ソーナ会長をお連れしました」

 

 僕はノックをした後で、ソーナ会長を連れて来た事を伝える。

 

「……入って来なさい」

 

 リアス部長から許可をもらったので、さっそくソーナ会長と一緒に入った。

 

「兵藤様!」

 

 ……すると、つい最近まで良く聞いていた女の子の声が聞こえて来た。そして、リアス部長が説明を開始する。

 

「……レーティングゲームが終わった後、フェニックス卿からお兄様を通してご提案があったのよ。後学の為に、末娘のレイヴェル・フェニックスをこの駒王学園に通わせて欲しいと。この話には問題ないのよ。そう、この話にはね……」

 

「リアス?」

 

 しかし、何やらリアス部長の様子がおかしい。ソーナ会長も訝しんでいる。その様な中で、リアス部長の説明は続く。

 

「それで許可さえもらえれば家も自分達で用意するって言うから、私はその許可を出したのよ。そうしたら、フフフ……。やってくれたわ、フェニックス家は。よりにもよって、イッセーの家の隣の家と土地を買収して、今日の昼間に突貫作業で改築したのよ!」

 

 リアス部長が怒りの声色で言い放ったその瞬間、僕の隣から絶対零度のブリザードが吹き始めた。

 

「フフフ……。成る程、あの時のイメージはそういう事でしたか」

 

 ……ソーナ会長、今の貴女は凄く怖いです。

 

「兵藤様、これで私は兵藤様のお隣様ですわ。登下校もご一緒できますわね。それと、私は高等部の一年生で後輩になりますわ」

 

 レイヴェルは凄く嬉しそうだ。その純粋な笑顔に、僕もどう答えたらいいか解らなくて少し混乱してしまった。だからつい、レーティングゲーム直前に約束された呼び方と話し方をしてしまったのだ。

 

「そ、そうか。これからよろしく頼むよ、レイヴェル」

 

「はい、一誠様!」

 

 そう言って満面の笑みを浮かべるレイヴェル。しかし、このやり取りを聞いて黙っていられなかったのが、この二人だった。

 

「あら、イッセー? 貴方、一体いつからフェニックス家の令嬢を呼び捨てで呼べるくらいに偉くなったのかしら? ついでに一誠様と名前と敬称で呼ばれる様になったことについても、主である私に説明してもらえるかしら?」

 

「一誠君、私にもその辺りを詳しく聞かせて頂きましょうか?」

 

 リアス部長とソーナ会長がドス黒いオーラを放って、僕に問い詰めて来る。一方、アーシアはと言うと、新たなライバルの登場に思いっきり動揺していた。

 

「ウゥゥ……。イッセーさんの周りにどんどん素敵な方が集まって来ます。私、一体どうしたら……」

 

そして、他のグレモリー眷属は完全に観客と化していた。

 

「ハハハ。モテるね、イッセー君」

 

「あらあら。でも、アレだけ派手に活躍していれば、無理もありませんわね」

 

「……戦闘の時と、ギャップがあり過ぎです」

 

 この場が混沌とする中、突如として転移用の魔方陣が現れる。

 

「あの紋章はグレモリー? 一体誰が?」

 

 リアス部長が訝しく思っている中で、転移してきたのはグレモリー家のメイドであるグレイフィアさんだった。グレイフィアさんは転移終了後、リアス部長に挨拶してきた。

 

「リアス様、ご機嫌麗しく」

 

「あらグレイフィア、一体何の用かしら? レイヴェル・フェニックスの件については、今話し終えた所よ」

 

 リアス部長はグレイフィアさんが訪れた用件を尋ねる。するとグレイフィアさんは、まずリアス部長とソーナ会長に冷静になる様に言い付ける。

 

「リアス様、ソーナ様。今からお話しする事は、おそらく冥界史上でも極めて稀と言えることでしょう。ですので、まずは心を落ち着けて頂きたいのです。よろしいですか?」

 

 そこまで言われた二人は、何度か深呼吸をして心を落ち着けるように努めた。どうやらグレイフィアさんが突然現れたこともあって、頭が冷えた様だった。

 

「……フウ。何とか頭も冷めたみたいだわ。それでグレイフィア、改めて訊くけど用件は?」

 

 改めて確認を取りに来たリアス部長に対して、グレイフィアさんは簡潔に答えた。

 

「今日、私が仰せつかったのは、兵藤様に関する決定事項をお伝えする事です」

 

「一誠君の? それはどういう事でしょうか?」

 

 ソーナ会長は不安そうな表情でグレイフィアさんに尋ねている。……僕には両親を人質に取られて、服従を強制されかけた前例がある。それに、逸脱者(デヴィエーター)の件もある。サーゼクス様はけして裏切らないと契約込みで約束してくれたが、サーゼクス様以外もそうとは限らない。それ等の事に気付いたリアス部長が静かに目を閉じた。どうやら「探知」を使用する様だ。

 

 ……実は、あれからリアス部長に「探知」の有効範囲を勘違いしている事を指摘した。リアス部長はあくまでレーティングゲームの為に用意した位相空間の全域を補足できていたから、有効範囲を駒王学園の敷地内と見なしていたが、それでは上空3000 mで戦闘していた僕とライザーを捕捉できない事になる。だから、実際の有効範囲は少なくともリアス部長を中心とした半径3 km以上である事を伝えた。そこで実際のところどれくらいまで有効なのか調査した結果、幾つか判明した事がある。

 まず、戦闘指揮の為に範囲内のあらゆる情報を見通す、いわば戦闘仕様の場合については、有効範囲は半径5 km以内である事が判明した。実際はこれ以上の範囲でもあらゆる情報を得る事が可能だが、リアス部長の情報処理能力を超えてしまって情報を処理し切れないのだ。その為、処理できる限界範囲が5 kmという事になる。

 ……ただ、問題は知りたい内容だけを知ろうとする、いわば諜報仕様の場合についてだ。何と、知りたい情報の種類を絞り込みさえすれば、有効範囲という制限が存在しない事が判明した。実際に一度、サーゼクス様のご協力の元、冥界で紙に何か書いて頂き、その内容をリアス部長に見通してもらうという実験を行った。その結果は、見事的中。リアス部長は顔を真っ赤にして、サーゼクス様を叱っていた。因みに、書かれた内容について、リアス部長は何も教えてくれなかった。

 

 ……よほど恥ずかしい事でも書かれていたのだろうか?

 

 その余りに強力な能力だった為に、リアス部長が父親であるグレモリー卿に確認を取った所、とんでもない事実が判明した。……何と、「探知」という特性はそもそも時間軸を対象として発動しているというのだ。その為、現在の時間軸を対象として「探知」する事で、あらゆる世界のあらゆる情報を見通す事すら可能となるらしい。その上、更に「探知」の熟練度を上げていく事で、過去や未来の時間軸における事象や物事すら「探知」できるようになるという。尤も、過去や未来の時間軸を対象とするには、膨大な魔力に加えて時間軸の方向を認識できるような特殊な感覚が必要らしく、流石に過去の「探知」はともかく未来の「探知」を成功させた者は歴代でも五指に満たないらしいのだが。

 そして、これらの事実がグレモリー家以外に漏れた場合、敵味方共にグレモリーを狙ってくる事が分かり切っている事から、「探知」の真実は主である四大魔王にすら秘され、代々グレモリー家の当主を継ぐ者のみに口伝で伝えられるという秘中の秘として扱われていた。……何故それを僕が知っているのかといえば、リアス部長が教えてくれたからだが、その可能性には既に気がついていた。

 レーティングゲームの最中にリアス部長の魔力の根源に触れた際、何故かリアス部長の幼少時の記憶や駒王学園の大学部に進学して学生生活を謳歌している姿を垣間見てしまい、そこから「探知」が時間軸をも対象にしている可能性に気が付いたのだ。これはやはり「発見の才」が原因だろう。そして、グレモリー卿もまたリアス部長の魔力の根源に導いた事で僕が「探知」の本質に気づいていると踏んだのだろう、僕に対してだけは詳細を話した上で「探知」に関する訓練に協力させるようにリアス部長に言いつけていた。

 その結果、リアス部長の「探知」の訓練の時には、側近中の側近である女王(クィーン)の朱乃さんですら同席が許されず、むしろ僕だけが同席を許されている。

 

 そういった背景のある諜報仕様の「探知」を終えたのだろう、リアス部長は目を大きく見開いてからグレイフィアさんの方へ視線を向ける。グレイフィアさんは一回頷いて、肯定の意を示した。

 

「嘘……」

 

 リアス部長はそう言ったきり、黙り込んでしまった。リアス部長の様子を見たグレイフィアさんは、今日ここに来た目的を説明し始めたのだが、その内容は確かにリアス部長を驚愕させるに値した。

 

「実はレーティングゲームの終了後まもなく、サーゼクス様はこれ程の強者を下級悪魔の地位に置いておくのは余りに勿体無いと仰せになって、ご自身の名で兵藤様の中級悪魔への昇格をご推薦なされたのです。そして上層部の協議の結果、先程それが承認されて、兵藤様は中級悪魔への昇格試験の受験資格を得ました。よって、これから一週間後に開催される昇格試験に合格すれば、兵藤様は中級悪魔に昇格致します。その際に、最近まで兵藤様が滞在なさっていたフェニックス家に確認を取った所、フェニックス家の初代から代々集めてきた書物のほぼ全てを読破しており、既に最上級悪魔の昇格試験にすら合格できる程の知識や教養を修めているとの事ですので、おそらく転生悪魔における史上最短期間での中級悪魔昇格となるでしょう」

 

 グレイフィアさんの説明を聞き終えてからしばらくの間、誰からも言葉が出なかった。……一方、僕はサーゼクス様が僕に対してどう考えたのかを理解した。

 

「私の持つ力を危惧したルシファー陛下が、私を早急に上へ上げようとお考えになったのは理解しました。下級悪魔に回される難度の仕事に対して、私の力が余りにも大き過ぎるということですね?」

 

 僕がそう確認すると、グレイフィアさんは軽く頷きながら肯定した。

 

「ご理解が早いので、こちらも助かります。また、今までの行動を見る限りにおいて、兵藤様はリアス様及びソーナ様の繋ぎ役の他にお二人の眷属達を統括する能力も十分過ぎる程にお持ちであると、サーゼクス様はご判断なさったのです。これも兵藤様の中級悪魔への昇格をご推薦になった理由です」

 

 グレイフィアさんはそう言うと、早速中級悪魔の昇格試験についての話を始めた。

 

「兵藤様には、今回の試験をアスタロト領にある中級悪魔の昇格試験センターで受けて頂きます。サーゼクス様からは、最も権威のある所で合格して箔を付けて欲しいとの事でした。なお試験形式はレポート提出と筆記、そして実技となりますが、筆記と実技については問題ないでしょう。レポートについては、中級悪魔としての目標と今までに何を得たかについてお書き下さい。今までに何を得たかについては、流石に悪魔に転生してからの期間が短すぎますので、今までの人生を通したもので結構との事です。……念の為にお尋ねしますが、この推薦をお受け致しますか?」

 

 グレイフィアさんが僕の意志を確認してきたので、リアス部長に視線を向けると静かに頷いた。そしてソーナ会長に視線を移すと、僕の判断に任せると微笑みながら言ってくれた。

 

「一誠君、これは貴方の今後の生涯における重要な選択です。私の事は気にせずに、自分の意志で判断して下さい。私はそれを応援するだけです」

 

 お二人に背中を押してもらった僕は、この場で決断した。

 

「解りました、中級悪魔の昇格推薦をお受けいたします。また、レポートについては前日までに仕上げておきましょう」

 

 僕は承諾する旨をグレイフィアさんに伝えた。それと同時にグレイフィアさんの説明を聞いていて一つ気になった事があったので、早速尋ねてみる事にした。

 

「それと参考までにお尋ねしたいのですが、中級悪魔の標準的な強さはどれくらいになりますか? それが解らないと、やり過ぎということにもなりかねません」

 

 僕の言葉を聞いたグレイフィアさんは納得してくれたようだ、自身の見立てを僕に伝えていく。

 

「確かにそうですね。参考としまして、ソーナ様の女王(クィーン)である真羅様が中級悪魔に届くのではないでしょうか? 後は実力的に姫島様が上級悪魔に僅かに届かない程度、木場様が中級の中位、塔城様が中級の下位と言ったところですね。アルジェント様は戦闘能力が皆無なので下級悪魔の扱いとなりますが、治癒能力に限定すれば上級悪魔に比するレベルであるのは間違いないでしょう。なお肝心の兵藤様についてですが、サーゼクス様は通常でも最上級、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)込みであれば魔王級に至る実力があると見ておられます。つまり、兵藤様は全力で手加減して頂く必要があるという事です」

 

 ……これは逆に、物凄くやりづらい様な気がする。僕は内心、かなり気不味い思いをしていた。

 

「昇格試験なのに、全力で手加減しなければならないなんてね……」

 

 木場は他の受験者が全力を出して挑む昇格試験の場で、却って全力で手加減しないといけない僕に対して苦笑いだ。

 

「……イッセー先輩、頑張って手加減して下さい」

 

 小猫ちゃんの毒舌は相変わらず絶好調だ。僕はもう笑うしかなかった。

 

「ハハハ……。まぁ中級悪魔に昇格すれば、シトリー眷属の一員としての時間を割き易くなりそうですから、一発で合格できるように頑張って来ます」

 

 僕は皆に対して、中級悪魔への昇格試験への意気込みを語ってみせた。最近、グレモリー眷属に掛かりきりでシトリー眷属としては殆ど動けていなかったので、ソーナ会長にはかなり申し訳ないことをしていると思っていた。だがグレイフィアさんの言葉通りなら、今後は両眷属間の繋ぎ役としての役目もあるので、シトリー眷属としても動き易くなると思ったのだ。

 

 ……思ったのだが、それがどうしてこうなるのだろう?

 

「ウフフ」

 

 ソーナ会長が明らかに上機嫌になって、僕の腕を抱き寄せて来たのだ。

 

「ソ、ソーナ会長?」

 

「あら。これは単なるスキンシップですよ、一誠君。そう。最近リアス達ばかりに構っていて、私達とは付き合いが悪かった一誠君に対するスキンシップです。断じて会えなくて寂しかったからでも、私の為に時間を割いてくれると言ってくれた事が嬉しかったからでもありませんよ?」

 

 あの、思いっきり自爆しているんですが。いや、コレは間違いなく自覚してやっている。それに私の為って、そういう意味じゃないんですが。

 ……現実逃避は止めよう。今のソーナ会長の眼は、レイヴェルと全く一緒だ。でも、一体いつから?そんな素振りは全くなかったのに。僕も好意を引く様な事はしていない筈だ。半ば混乱状態に陥った僕を他所に、リアス部長はソーナ会長に詰め寄る。

 

「……そう。ソーナ、貴女もなのね?」

 

「えぇ。ですからリアス、例え貴女であってもけして譲りませんよ?」

 

「望む所よ」

 

 お互いにそう言いあった後、リアス部長とソーナ会長は完全に睨み合っていた。

 

 ……あれ? ということは、リアス部長も? 一体何で?

 

 僕は完全に混乱していた。

 

「……大変だね、イッセー君」

 

 木場が溜息を吐きながら零した言葉が酷く印象に残った。

 

 やがて夜になって引越しの挨拶の為に僕の家に来た際、銀から散々吠えかけられたレイヴェルは銀に向かって頭を下げていた。

 

「確か、銀という名前でしたわね。……目を見れば解りますわ。貴方は一誠様が人間をやめざるを得なかった時の事を深く悔やみ、二度と同じ様な事は起こさせないと固く誓っている事が。銀、私は一誠様をけして裏切らず、最期まで共にある事を貴方に約束いたします。ですから、これからは一緒に一誠様を支えて参りましょう?」

 

 そのレイヴェルの言葉を聞いて、銀は吠えるのを止めてレイヴェルの元へと近付いて行った。そして、歓迎の意を示す意味で一吠えしてから僕の側へと擦り寄ってきた。

 

「……銀、ありがとうございます」

 

 レイヴェルの銀への感謝の言葉が、僕の耳には確かに届いていた。

 

 その翌日。

 

「初めまして。私はこの度、駒王学園に編入致しましたレイヴェル・フェニックスと申します。今後とも、よしなにお願い致します」

 

 レイヴェルが小猫ちゃんのクラスに編入してきた。因みに、僕の登校と合わせて来たので、学園中が大騒ぎになってしまった。

 

「おい。駒王帝と一緒に歩いているあの女の子、一体誰だ?」

 

「しかし、すっごく可愛いなぁ。兵藤の彼女か?」

 

「えぇ~! 兵藤君、私達を見捨てないで~!」

 

「クソッ、リア充は敵だ! ……とは言いにくいよなぁ。親の離婚問題の相談に乗ってもらって、離婚を回避してもらった身としてはなぁ」

 

「しかしあの子、本当に兵藤君が大好きなのね。凄く幸せそうに会話しているもの」

 

「しかも一緒にいる妹のはやてちゃんとも会話が弾んでいるぜ。家族も認めているってところか?」

 

「アレ見ていると、嫉妬する気も失せるなぁ。チクショウ、得な奴だぜ」

 

 僕の彼女扱いしている周りの反応を見て、レイヴェルはかなり嬉しそうだった。そして、レイヴェルは当然の如くオカ研へ入部した。しかし彼女はグレモリー眷属ではないので契約活動は行わず、あくまで客分の扱いとなる。

 

 そして一週間後。

 

 僕はおそらくレイヴェルから話を聞かされたであろうフェニックス卿の付き添いでアスタロト領に赴き、中級悪魔の昇格試験センターで昇格試験を受けた。まずは受付で必要書類に記入した後は試験室に向かい、筆記試験の始まる前にレポートを提出した。レポートの課題である何を得られたのかという事については、冥界もまた平穏を望んでいる事実を知る事ができた事を挙げた。そして中級悪魔の目標として、グレモリーとシトリーの両方の眷属という特殊な立場を利用して、両家の橋渡し役を務める事で魔王を輩出した両家を盛り立てていく事、そして歴代の赤龍帝から学んだ知識や技術、経験を少しでも冥界に住まう子供達に還元していく事を挙げた。

 その後、試験室で筆記試験を行い、場所を移してから実技試験を受けた。それらについては、あえて話す必要はないだろう。筆記試験はそれほど難しいものではなかったし、実技試験はむしろやり過ぎない様に手加減するのに苦労したぐらいだ。

 そして、昇格試験から一週間後にサーゼクス様の推薦ということで、妹であるリアス部長の元に僕の合格通知が届いた。その知らせを聞いて、当人である僕以上にレイヴェルが喜んでいたのが凄く印象的だった。

 

 こうして僕はただ二人の主に仕えるだけでなく、二つの眷属の間を取り持ちながら統括するNo.2の立場に立った。

 そして、新しい友と新しい立場を得ることとなった五月も既に後半を迎えていた。

 




いかがだったでしょうか?

駒王学園に在籍する悪魔の組織構造が大きく変動しました。

この変動が次章で早速生かされる事になるのですが、それがどういった形なのかはお楽しみという事で。


なお、第三章は現在大幅変更中の為、申し訳ございませんが今しばらくお時間を頂く事になります。
ですが、その分より面白いものとなる様に仕上げていきますので、どうかよろしくお願い致します。


では、次章の第一話でお会いしましょう。

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