赤き覇を超えて   作:h995

2 / 125
連続投稿です。
この物語における最大の目玉といえるモノが登場しますが、独自設定のオンパレードなのでご注意ください。

追記
2018.11.11 修正


中編 騎士の王

 ジャングルジムから転落した時に頭を強く打って、三日間生死の狭間を彷徨った事で前世の記憶を思い出し、更に赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)のドライグとはじまりの赤龍帝であるアリスお姉ちゃんと出逢った。そして、転生直前に僕に与えられた「対話の才」の本質にも触れてしまい、一緒に与えられた「発見の才」共々正しく使っていく事を決意した。

 

 正に運命と呼べる出来事が立て続けに起こった、その日の翌日。

 

 僕がジャングルジムから転落した時に一緒に遊んでいた教会の子が、僕のお見舞いにやってきた。どうやら母さんが相手方に連絡していたみたいだった。この子は病室に入ると、未だベッドの上にいる僕の元に駆け寄ってきて、泣きながら僕に謝ってきた。

 どうも、ジャングルジムで遊んでいた時に悪ふざけで僕の背中を押したら、そのまま頭から転落してしまったらしい。僕はこの時、ジャングルジムから転落して死に掛けた事を不運に思えばいいのか、頭から落ちたにも関わらずに首の骨を折らずに済んだ事を幸運に思えばいいのか、少々判断に困っていた。でも、当事者である彼女にしてみれば、全くの別の話だろう。

 

「このままイッセー君が死んじゃったら、私のせいだ。そう言って、ずっと泣きながら怯えていたよ」

 

 同伴していたこの子のお父さんがそう言っていた。でも、無理はないと思う。その腕白ともいえる快活さで「ボク」は男の子だと思っていたようだけど、「僕」はこの子の顔を見てすぐに理解した。

 

 ……この子は、女の子だと。

 

 ここが病室で、罪悪感も手伝ってか酷く大人しくて、女の子らしい振る舞いになっていたこともこの判断を後押しした。僕としては女の子にここまで泣かれてしまうと正直困ってしまうし、本人も反省して謝ってきた。それに小さな子供のした事だから、僕は彼女を許すことにした。……しかしこの時、自分も小さな子供である事は、完全に棚に上げてしまっていた。

 

「大丈夫、僕はここにいるよ」

 

 僕はこの子の頭を撫でながら、僕はもう大丈夫だとはっきり伝えた。その結果、彼女は余計に泣き出してしまったのはちょっとだけ失敗だった。

 ……今思えば、この一連の行動はいろいろな意味で不味かった。この時には、既に僕の精神年齢は少なくとも十代半ばにはなっていたと思う。だから、小さな女の子を泣き止ませるつもりで頭を撫でていたのだ。言動だけなら、十代半ばの少年が幼い女の子を慰めているように聞こえたと思う。でも、この時の僕はあくまで五歳児であり、相手は同い年の女の子である。

 

 ……この光景には、どう考えても違和感しか湧いてこない。

 

 僕自身、今でもそう思っているし、その場にいたあの子のお父さんは僕に対する不審感を露わにしていた。幸い、あの子のお父さんがプロテスタントの牧師だったこともあって、一週間後に退院してから両親の付き添いで教会に訪れ、前世の記憶に関して相談したら納得してくれた。それどころか、今までの「ボク」を殺してしまった事でかなり落ち込んでいた当時の「僕」を励ましてくれた。僕はトウジ小父さん -相談に乗ってくれた、あの子のお父さんの名前だ- の優しさが胸に染みて、また泣き出してしまった。こうして僕は、前世の記憶を持っていても普通の子供として過ごしていくことができた。

 

 ……問題は、あの子の方だった。

 

 罪悪感で押し潰されそうな時に、僕に優しく許された事で感情の揺り返しが起こり、さらに僕が頭を撫でたことによって自分への好意を感じ取るという無意識の刷り込みも発生。これらの相乗効果で、僕に好意を抱いてしまったらしい。僕の退院後も僕を引き摺り回して遊ぶのは変わらなかったけど、時折僕と視線が合うと頬を赤く染めて視線を逸らすようになったのだ。……こんな行動を見せられたら、いくら話下手で人付き合いが余りなかった僕でも流石に気づく。でも、前世を含めて初めての事態にどう対応したらいいのか、僕にはわからなかった。

 ……だからだろう。退院してから三日後、あの子の好意にどう応えたらいいのかを相談するついでに、公園の森で散歩している途中に何故か拾った酷く錆び付いた西洋剣の鞘を見てもらおうって考えたのは。

 

 

 

Side:幼馴染の少女

 

 私は幼い頃、プロテスタントの牧師であるパパと二人で日本の教会に住んでいた。当時の私はとてもやんちゃで、周りの友達の一部からは男の子だと思われていた節もあったけど、私は楽しく過ごしていた。

 

 そんな私に転機が訪れたのは、五歳の時。

 

 近くに住んでいて仲良く遊んでいた男の子を、私は私自身の迂闊な行動によって危うく殺しかけた。彼が意識不明の重体に陥った時、最初はその子が助かる事をひたすら祈っていた。でも、心肺停止状態に陥ってからは、ただ自分の罪深さに怯えて泣いていた。彼が死の淵に立たされた事で、初めて自分のやった事の意味を理解した。

 

 ……全く以て、度し難い。

 

 この時の自分を思い返す度、私は当時の自分に対して憎悪に近い思いを抱いてしまう。

 そうしている内にパパから彼の意識が戻ったことを聞いた私は、その翌日にパパに連れられてお見舞いと謝罪の為に入院していた彼の元を訪れた。私は目を覚ました彼の姿を見た瞬間、溢れる涙を止める事ができずに彼の元へと駆け寄り、ただひたすら謝り続けた。

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、って。

 

 すると、彼は私に殺されかけたのに、優しく頭を撫でながら私を許してくれた。

 

―― 大丈夫。僕はここにいるよ。

 

 この言葉に幼かった私の心は救われた。そして、私の胸の中にほのかな温もりが残った。

 

 ……今思えば、これが今もなお続く私の初恋の始まりだった。

 

 それ以来、彼の顔を見る度に自分の顔が熱くなるのがはっきり自覚できた。胸の動悸が激しくなった。そして、その時から私は彼の事を「イッセーくん」と気易く呼べず、尊敬と思慕の念を込めて「一誠君」と呼ぶようになった。そんな私の姿から彼は私の想いに気づいたみたいで、どうしたらいいか戸惑っているようだった。転落した際に頭を強く打った為か、意識を取り戻した彼は振る舞いや言葉遣いがすっかり変わってしまっていた。当時の私は特に何も感じていなかったけど、今思えば彼の振る舞いや話し方は高校生とそう変わらないものだった。おそらくその時点で、彼の心は既に高校生と同じくらいにまで成長していたんだと思う。そんな高校生の心を持った彼にとって、五歳の女の子から向けられる純粋な好意はさぞ対応に困るものだっただろう。

 ……でも、当時の私はそんなことに全く気がつかなかった。ただ好きな男の子の気を引きたくて、それには珍しいものを見せたらいい。そう考えた。そんなある日、前の日に拾った拾得物についてパパに相談したいと言う事で教会を訪れた彼に、私はあるものを見せた。

 

 パパが大事にしていた、鞘に収められた一本の西洋剣だ。

 

 ……実は、パパは牧師であると同時に人には言えない使命があった。主の名において、世界の影で暗躍する悪魔や堕天使の魔の手から罪なき人々を守る。その実戦部隊の悪魔祓い(エクソシスト)であり、パパはその中でも錬金術の粋を集めて作られた対悪魔用の切り札である聖剣を携える聖剣使いと呼ばれる存在だった。その関係で、パパは西洋神話と西洋系の刀剣類に関する造詣も深かった。もちろん、当時の彼はそんなことを知っているはずもなく、単にパパが牧師だから拾得物について相談しやすいと考えたみたいだ。

 彼が教会を訪れた時、パパは懺悔室で別の訪問客の懺悔を聞いていたからしばらく居間で待つことになった。これを好機と見た私は、パパが装飾品に擬態していた聖剣を持ち出し、鞘から抜いて彼に見せた。

 その瞬間、彼の持ち込んでいた拾得物である、酷く錆び付いた西洋剣の鞘が眩い光を放ち始めた。この時、微かに男の子の声が聞こえたような気がした。

 

 ……やっと見つけた、って。

 

Side end

 

 

 

 道中に拾った錆び付いた鞘が眩い光を放った瞬間、僕は真っ白な空間にいた。一体何が起こったのかを考えようとしたところで、元気な男の子の声で呼びかけられた。

 

「始めまして! オイラはカリス! よろしく!」

 

 突然自己紹介をしてきたので僕は声のした方を向くと、そこには騎士甲冑を纏った十歳程度の男の子がいた。ただ、身長は30 cm程で、そのサイズになる様に縮小した様な感じではあったけど。

 余りの事態に放心していた僕は、完全に条件反射で答えを返していた様だ。

 

「あっ、うん。僕は一誠。兵藤一誠だよ。よろしくね、カリス」

 

 僕の自己紹介を聞いたカリスは、それはもう嬉しそうに僕の周りを飛び回り始める。

 

「やっと、やっと見つけたよ! 赤い龍の加護を持つ、アーサーの後継者を! これで、オイラが今まで果たせなかった使命をやっと果たす事ができるんだ!」

 

 ……アーサーの後継者?

 

 この単語を聞いてようやく気を取り戻した僕は、明らかに浮かれていたカリスに声を掛ける。

 

「ねぇ、カリス」

 

 すると、僕の声に反応したカリスは飛び回るのを止めて、僕の顔の前にやってきた。

 

「あぁ、ゴメンゴメン。オイラとした事がちょっと浮かれ過ぎていたよ。それで、イッセーだっけ。オイラが何者か訊きたいんだろう?」

 

 そのカリスの念押しに僕は頷く事で答えた。

 

「ウン、解った。それじゃあ、説明するよ」

 

 僕の意志を確認したカリスは説明を始めた。

 

―― エクスカリバー。

 

 アーサー王伝説において、数多の騎士を統べる王であるアーサー王の愛剣として世界的にも有名な聖剣の代表格。

 その実態は全ての人々が抱く希望の集合体であり、創造神である星の意思が剣の形に鍛え上げた真なる神造兵器。即ち、最終幻想(ラスト・ファンタズム)

 しかし、現在はどういう訳か破壊されており、その欠片を埋め込んだエクスカリバーの模造品が幾つか存在しているらしい。

 ……なお、イリナが持ち出して来た剣はエクスカリバーそのものではなかったが、相当に格が高い聖剣らしい。

 

―― エクスカリバーの鞘。

 

 所持者に不老の加護を齎し、たとえ致命傷であっても瞬時に回復させるほどの高い治癒再生能力を持つとされる。

 アーサー王伝説において魔法使いマーリンに「剣(エクスカリバー)よりも大切にするべし」と言わしめた鞘であるが、アーサー王はモルガンの姦計によってこれを紛失している。その後のアーサー王の破滅は伝承では親友でもある騎士ランスロットの裏切りが発端だけど、鞘の紛失はその前であることから鞘を紛失したことでアーサー王は破滅したとも言える。

 そして、僕が拾った鞘こそがエクスカリバーの鞘である静謐の聖鞘(サイレント・グレイス)だった。

 

―― そして、カリス。

 

 彼は聖剣エクスカリバーの守護精霊であり、担い手の選定と補佐、及び聖剣の修復と保護を使命とする。その為、星の意思から直接「力」の供給を受けられるという、知られざる最上位の精霊騎士でもあった。でも、エクスカリバーの守護精霊ではあるけど、エクスカリバーではなく静謐の聖鞘を宿代としているのが最大の特徴だろう。

 カリスは物質の錬成、生命の治癒再生、光力の高速大量供給、空間転移など多岐に渡る能力を持つ。その極めつけは、静謐の聖鞘に収めた剣に様々な能力と光力を与えて聖剣に変える聖剣転生(セイバー・リメイク)だ。この能力を使用すれば、一時的とはいえ最終幻想としての力を付与する事すら可能である事から、サポーターとしては間違いなく最上位だろう。その代わりに個人の戦闘能力が皆無であり、単独では一般人にすら勝てない。その為、宿代の静謐の聖鞘には極めて高い隠蔽能力が付与されている。また、静謐の聖鞘が持つとされる不老の加護と治癒再生能力はあくまでカリスによるものだった。

 

 ……つまり、エクスカリバーとはカリスと共にあって初めて真価を発揮する聖剣だった。

 

「これで、オイラの話は終わりだよ」

 

 カリスの説明を聞いていた僕は、一つだけ気になった事を尋ねた。

 

「カリス、一つだけ疑問に思った事があるんだ。エクスカリバーは創造神とも言える星の意思が作った最終幻想だって、確かに言ったね。だったら、格下の存在である天使や堕天使、悪魔の力で破壊される事なんてまずないんじゃないかなって思うんだ。それなのに破壊されたって事は……」

 

 僕の疑問というより確認を聞いたカリスは、頷きながら肯定した。

 

「ウン。イッセーの想像通りだよ。モルガンの姦計で静謐の聖鞘というよりオイラと切り離されてしまったエクスカリバーは消費した光力を回復する事ができなくなって、次第に消耗していったんだと思う。だから、破壊されたというよりもむしろ消耗の果てに自己崩壊したって言うべきかもしれない」

 

 そこまで話し終えた所で、カリスの声から明るさがなくなってきた。

 

「……オイラ、エクスカリバーの守護精霊なのに肝心のエクスカリバーを守れなかった。しかも、幾ら力を温存する為と悪意ある者に利用されない様にする為とは言え、イッセーが見つけてエクスカリバーじゃないけどかなり格の高い聖なるオーラを浴びるまで、オイラはずっと寝ていただけだった。さっきは使命を果たせるって浮かれていたけど、よく考えたら一度エクスカリバーを壊しちゃったオイラが、このまま守護精霊を続けるわけにはいかないよ……」

 

 カリスはそう言い終えると、そのまま項垂れてしまった。

 

 ……やっぱりか。

 

 僕は項垂れるカリスの肩にそっと手を置いて、はっきりと告げた。逃げたら駄目だと。

 

「……カリス。だったら、尚更だよ。君はこのままエクスカリバーの守護精霊を続けるべきだ。確かに、カリスはエクスカリバーを守り切れなかったという大きな失敗をしてしまった。そして、それを深く悔やんでいる。そうやって深く反省したんだから、これからはもう同じ過ちを繰り返したりはしないよ。そして、もし僕が本当にエクスカリバーを受け継ぐことになるのなら、大きな失敗をした事で守護精霊として成長したカリスだからこそ信じられると思うんだ」

 

 僕の言葉を聞いたカリスはハッとして、僕の眼をジッと見つめた。

 

「同情、なんかじゃない。イッセーは、本当に心の底からそう思っているんだ。……ねぇ、イッセー。本当に、オイラが守護精霊でいいのかい?」

 

 カリスが瞳に涙を一杯に溜めながら問い掛けて来たので、僕はしっかりと頷いた。

 

「ウン。だから、これからは一緒に頑張ろう!」

 

 そして、カリスは涙を流しながら、笑顔で承諾してくれた。

 

「ウン! オイラ、今度こそ使命を果たせる様に頑張るよ! ……それじゃ、選定の儀を始めるよ」

 

 そして、聖剣選定の儀を執り行い始めた。

 

守護の剣精(セイバー・ガーディアン)カリスの名の元に」

 

 カリスが今までとは異なり、厳粛な態度で誓約を紡いでいく。

 

「我が分け身たる王者の剣よ」

 

 すると、カリスの声に応えるように圧倒的な何かを感じられる光が剣の形に集束してきた。

 

「勝利を齎すその身を鎮め、静かに憩う鞘を伴い」

 

 次に神聖で厳かな雰囲気を放つ蒼い鞘が剣状の光から放たれる圧倒的な何かを容易く鎮め、剣状の光を静かに収めていった。そして、鞘に収められた剣が僕の目の前へと近付いてくる。

 

「新たなる主にして騎士達の王をここに選定せよ。もし相応しからざれば魂諸共これを滅ぼし、相応しければその証をここに示せ」

 

 ……カリスから紡がれた言葉は、何処までも本気だった。もし僕がエクスカリバーに相応しくないと判断されれば、肉体はおろか魂までも消し飛ぶ事になるだろう。

 意を決した僕が剣状の光が収まった鞘を掴むと、何かと繋がった様な気がした。そして、僕は鞘に収まっていた剣状の光を静かに引き抜く。

 

 ……僕の身には、特に何の変化もなかった。

 

 それを見届けたカリスは、声も高らかに宣言し始めた。

 

「……選定は、ここに成った! エクスカリバーは継承され、新たなる騎士王(ナイト・オーナー)が誕生した! 我等は今後、新たなる主と共に天に有りて顕わなる正道を歩む事をここに誓う!」

 

 この瞬間、僕はエクスカリバーとそれを携える騎士の王の称号を継承した。

 

 

 

Side:幼馴染の少女

 

 しばらくして光が治まると、彼の目の前にはいつの間にか私の手から離れた聖剣と拵えの立派な一本の鞘が並んで浮いていた。鮮やかに蒼く染められ、金で縁取られたその鞘からは神聖で厳かな雰囲気が漂っており、先ほどまで酷く錆び付いていたとはどうしても思えなかった。彼は聖剣と鞘を手に取ると、静かに聖剣をその鞘に収める。

 

「これでいいんだね?」

 

 彼はそう言うと、収めた聖剣を再び抜いて私に返した後、この事をパパ以外には内緒にするように頼んできた。混乱していた私は、好意を寄せていた彼の頼みという事でそれを承諾した。

 その後しばらくして訪問客の懺悔が終わってパパに空き時間ができたから、彼はパパの待つ書斎へと向かった。

 ……彼とパパが書斎で何を話したのか、その時の私が知ることはなかった。ただ、相談が終わって家に帰っていく彼の背中を見送るパパの何処か悲しげな表情は、この時つぶやいた言葉とともに忘れられなかった。

 

「主よ、貴方はあの幼子にどれ程大きな試練をお与えになるつもりなのですか」

 

 

 

 一誠君はそれから時折パパに相談するようになったけど、パパはその内容を私に教えてはくれなかった。

 

 そして二ヶ月後。

 

 私はパパとともに日本を去り、イギリスへ移り住んだ。パパの日本での任期が満了になった為だと聞かされ、その後は十年に渡って日本を訪れることはなかった。本当は何度も彼に会いに行きたいとパパに頼んでいたけど、パパは認めてくれなかった。まさか彼に会いたいが為にパパに隠れて一人で日本に行くことなどできるわけもなく、当時の私は彼に会えない不安と不満でいっぱいだった。

 ……時が経ち、私もパパと同じ悪魔祓いとなる為に育成機関に入ったのはいいけど、彼への気持ちを抑えられずに訓練に専念できず、一時は落第直前までに成績を落としたけど何とか気を取り直して持ち直し、最終的には一人前の悪魔祓いに認定された。そして実績を重ねていく事で、遂には聖剣使いとして祝福を受ける事で教会が所有する聖剣の内の一本を任されるまでになった。

 この時に初めて、あの日に彼がパパに相談を持ちかけたあの鞘のこと、それを彼が所有する意味をパパが教えてくれた。同時に私が彼に会いに行くのを認めなかった理由も話してくれた。

 

 彼が聖剣使いの娘である私と度々会うことでただでさえ過酷な彼の運命が加速し、それに私が巻き込まれることを恐れたのだと。そして、これは日本を発つ直前になって彼に頼まれたことだ、とも。

 

 彼に課せられた運命と私への気遣いを知った時、私はもう溢れる思いを止めることはできなかった。そして理解した。主がお与えになった私の歩むべき道を。

 

 赤い龍の魂を宿す者、赤龍帝。

 

 聖剣エクスカリバーの新たなる担い手、二代目騎士王(セカンド・ナイト・オーナー)

 

 彼が過酷という言葉すら陳腐に思える運命を背負って生きるなら、私は彼の傍でずっと支えよう。やがて赤き龍の帝にして騎士の王たる彼の元に集う事になるであろう騎士の一人となって。それが彼の運命を決定づけてしまった私、「紫藤イリナ」にできるたった一つのことなのだから。

 

 ……そして、その機会は意外と早く訪れた。

 

Side end

 




まずは、いきなりのオリジナル展開にご容赦を。
ですが、エクスカリバーと赤い龍は同じウェールズ地方の神話が原典という点で結構関わりが深いと思ったので、この様な処置をとりました。
なので、当然とある原作キャラとの関係も原作以上に深くなります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。