赤き覇を超えて   作:h995

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バタフライエフェクトとは一体どういう物なのか、自分なりに表現してみました。

なお今話に限り、「」の会話は英語、【】の会話は日本語という事になっていますので、予めご了承ください。

追記
2018.11.15 修正


第十四話 優しい魔法使い

 これは、僕がイリナと再会した後、駒王学園に入学して高校生活を開始して間もなくの頃の話だ。

 その日、僕は歴代の赤龍帝でも最も魔導に秀でたロシウ老師と模擬戦をしていたが、その最中に大魔法の撃ち合いによって生じた空間の歪みへと呑み込まれてしまった。そして気が付くと、深い森の中に僕はいた。因みに、模擬戦は封時結界こそ展開したものの街の中で行っていたので、明らかに別の場所だ。

 

【イタタタ。まさか、大魔法の激突で空間が歪むとは思わなかったよ。……ところで、ここはどこだろう?】

 

 ふと周りを見渡していると、英語で声を掛けられた。

 

「……あのう」

 

 その声に反応して振り向くと、その声の主は赤毛の幼い男の子だった。見た目からして、おそらくは三歳程だろう。その男の子は僕に英語で尋ねて来た。……見た目からは考えられない程に流暢な言葉使いで。

 

「突然僕の目の前に貴方が現れたのを見たけど、一体何者なの? ……ひょっとして、魔法使い?」

 

 僕は三歳程ではあり得ない程に滑らかな言葉使いに驚いたものの、男の子の不安げな表情を見て納得した。確かにそんな現れ方をした僕を見て不安になり、つい何者かを聞きたくなるのは解る。それにはちゃんと答えてあげないと、この男の子の不安が解消される事はないだろう。だから、僕はこう名乗る事にした。

 

「驚かしちゃったみたいで、ゴメンね。それで、僕が何者かなんだけど、僕の名前は兵藤一誠。優しい魔法使い(マーシー・ウィザード)を目指しているよ」

 

 僕がこの様に名乗ったのは、男の子の口から「魔法使い」の単語が出てきたからだ。だから、男の子の認識に乗る事にした。すると、この子は少し驚いた様な表情を浮かべた。そして気を取り直すと、自分の名前を名乗ってくれた。

 

「優しい魔法使い? 立派な魔法使い(マギステル・マギ)じゃなくて? ……ゴメン、イッセー。まだ僕の名前を言ってなかったよ。僕の名前はネギ。ネギ・スプリングフィールドだよ」

 

 森の中で出会ったネギ君と色々な話をしながら彼の住んでいる村へと向かっていた僕達は、森を出た所でその村が燃えているのを目の当たりにしていた。

 

「……僕の、僕のせいだ! ピンチになればなんて、僕が願ったから!」

 

 村が燃えている光景を目の当たりにしたネギ君は、そう言って自らを責め始める。どうしてピンチになればなんて思ったのかは解らないが、それは大きな間違いだ。僕はそれをネギ君に伝える。

 

「ネギ君、それは違うよ。これは、君以外の誰かがこうしたいと願ったからだ。けして君が願ったからじゃない」

 

 しかし、それでもネギ君は自分を責めようとする。

 

「でも。……でも!」

 

 だから、僕は宣言する。レオナルドの時の様に、ネギ君の絶望を希望へと変える為に。

 

「ネギ君。だったらその絶望を僕が希望に変えてみせる。……魔法使いは、誰かにとっての最後の希望だから」

 

 ネギ君は僕の言葉を聞き終えると、半ば呆然とした状態でその一部を復唱していた。

 

「魔法使いは、誰かにとっての最後の希望……」

 

 そして僕は自分の言葉を実行する為、長年の相棒に声を掛ける。

 

【ドライグ、行こうか】

 

 その僕の呼びかけに、ドライグは即座に応じた。

 

『構わんぞ、相棒。ここが何処かは未だによく解らんが、アイツ等の所業は気に入らん』

 

 ドライグの同意が得られた事で、僕は神器(セイクリッド・ギア)を発動させる。

 

【行くぞ! 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!】

 

 僕は神器を発動させると、そのままドライグのオーラを背中に集めて羽状に集束させた後、風の精霊の力を借りて天空へと躍り出た。ドライグの力と精霊魔法を融合させた、僕オリジナルの飛翔術だ。そして、反撃の狼煙代わりとして特大の一撃を放つ。

 

【まずは村の上空を一掃する! 大気を揺るがし、空を切り裂く風呪の叫びを受けよ……! エアリアルクライ!】

 

 大気を超振動させて自分以外のあらゆる存在を文字通り粉砕する、ゼテギネアにおける風の禁呪だ。しかも精神体に対しても有効な為、実体を持たない存在にも効果がある。……だからだろうか。

 

「……凄い。空にアレだけいた悪魔が皆いなくなっちゃった」

 

 ネギ君の言った通り、既に上空には悪魔の存在が見当たらなかった。……正直に言って、これは予想外の戦果だった。本当なら、禁呪で数を削った後、取りこぼしを虱潰しにする予定だったのだ。少々呆気無さを感じながら、僕はネギ君の側へと降り立った。

 

「呆けている暇はないよ。急いで他の人を助けに行かないと」

 

 僕が先を急ぐように促すと、正気に返ったネギ君は頷いた。

 

「あっ、うん!」

 

 そして、僕達は未だ火が燃え盛っている村の中へと掛け込んでいった。

 

【セイヤァ!】

 

「ゴハァッ!」

 

 時に、相手の力を利用して何倍にも返すクロスカウンターで敵を沈め。

 

【カイザーフェニックス!】

 

「ギャァァァ! ひ、火の鳥がぁ……!」

 

 時に極限まで凝縮した事で不死鳥を模った炎の魔力を浴びせ掛け。

 

【深淵よりなお深き闇に沈め。……デアボリック・エミッション!】

 

「か、体が潰れ……!」

 

「何でだ! 何で家や石にした村人には全く影響が出ねぇで、俺達だけが潰されるんだぁぁぁ……」

 

 仕上げとして、はやての持つ夜天の書に記されていた、敵味方の識別と物理的な干渉をしない非物理設定が可能な広範囲殲滅魔法を発動、村に攻め入った悪魔達の鎮圧を完了した。

 

 

 

Interlude

 

 その頃、村の外ではネギによく似た風貌の青年が一誠の戦いぶりを目の当たりにしていた。自分の生まれ故郷であり息子のいる村が襲われる事を察知した彼は、かなりの無理をして村に急行したのだが、この分では無理をした意味が殆どなくなりそうで、彼は苦笑を浮かべるしかなかった。

 

「おいおい。アレじゃ俺、いらなかったんじゃねぇか? ……まぁあの分なら、ネギの心配はいらねぇな。それじゃ、こっちは雑魚を虱潰しにすっか」

 

 彼はそう言うと、村の外にいた悪魔を始めとする多数の異形の存在に一人立ち向かっていった。

 

Interlude end

 

 

 

 既に村の中で無事な人間がいない事から、風の精霊の力を借りて村の外を索敵すると、僕より少し年下の女の子がいる事を察知した。ネギ君を連れてそこに向かうと、ネギ君がその女の子に声を掛ける。

 

「ネカネお姉ちゃん!」

 

 村へと向かう途中で身の上話を聞いていた僕は、ネギ君の女の子への呼び方からこの子がネギ君の従姉である事を察した。

 

「ネギ! 無事だったのね! ……ところで、この人は?」

 

 ネギ君からネカネと呼ばれた女の子は、僕の事をネギ君に尋ねてきた。しかし、今はそんな悠長なことをしている余裕がない。

 

「詳しい話は後でしよう。それより今は、君の足の治療が先だ。遅効性の石化の呪いに冒されている上に石化した足が砕けている。もはや一刻の猶予もない」

 

 ならば、解呪と治療の両方ができる魔法を使用する必要がある。……幸いというべきだろう。その魔法を僕は既に修得している。僕は水の精霊に呼びかけ始めた。

 

【生命を潤し清める水の精霊よ。その力を以て汚れを祓い、命を癒したまえ。……トータルヒーリング!】

 

 命の恵みを司る水の精霊の力を借りた、回復系魔法の一つの極み。怪我の治療はもちろん、解毒と解呪を同時に可能とする複合型の治癒魔法だ。その効果は覿面だった。

 

「……嘘。砕けた足が治っていくわ。しかも、アレだけ強力だった石化の呪いも一緒にだなんて……」

 

 自らの足が治った上に石化の呪いも解けた事で、一部始終を見ていたネカネさんは呆然としていた。一方、ネギ君は初めて見る魔法にすっかり興奮していた。

 

「……凄い。本当に凄いよ、イッセー!」

 

 そんなネギ君のお褒めの言葉を頂いた僕はそれに対する返礼をするとともに、近付いてきた強大な力を秘めた存在に対して、顔を向ける事無く声を掛ける。

 

「ありがとう、ネギ君。……ところで、何か御用ですか?」

 

 すると、その強大な力を秘めた存在はその要件を素直に話し始めた。

 

「俺の形見を渡すついでに、俺のガキを守ってくれた礼を言おうと思ってな」

 

 そして、途中から話す言葉を英語から日本語に切り替えてきた。

 

【それと、ここからは日本語で話してくれ。ネギにはこれから話す事を聞かれたくないからな】

 

 強大な力を持つ存在はどうやらネカネさんの顔見知りだったようで、その顔を見た瞬間、彼女の顔が驚愕に彩られた。

 

「あぁ……。そんな、まさか……」

 

「ネカネお姉ちゃん?」

 

 そんなネカネさんの変化にネギ君が首を傾げる一方、強大な力を持つ存在はどうやら僕に重大な頼み事をする様なので、僕は初めてその存在の方を向いた。その存在は、赤髪で何処かネギ君に似た面持ちの青年だった。そして、彼が現在どの様な状態なのかも理解できた。

 

【……そうでしょうね。その体、魔力で作った仮初の物でしょう? しかも崩壊が始まっていますから、確かに時間は余り残されていない様ですね。それで、その杖がそうですか?】

 

 僕は彼の言う形見が携えていた杖である事を看破した。杖に込められている魔力の量が膨大なものだったからだ。そうした僕の問いかけに対して、彼は答えを返してきた。

 

【……あぁ、そうだ。それにしてもお前、本当に頭が切れるな】

 

 彼はそう言ってきたが、僕にはそう思えなかった。

 

【少しだけ注意深く見れば、その道の人なら誰でも思い至りますよ。それと、この村の人達に掛けられた石化の呪いも後で僕が解いておきます。こうなったのは自分のせいだと、ネギ君が思い込まない様に。優しい魔法使いを目指す者と名乗ったんです。だったら、僕はネギ君の絶望を希望に変えてみせます】

 

 ネギ君が自分の事を責めない様に。一人ぼっちだったレオナルドの時と同じ様に。

 

 僕はそう宣言した。すると、彼は何故か感慨深げな様子で言葉を紡ぎ始めた。

 

【絶望を希望に変える、か。その言葉、できれば俺がお前ぐらいの頃に聴きたかったぜ。そうすりゃ、俺も俺の仲間ももう少しだけマトモな事ができていたはずだからな。千の魔法使い(サウザンド・マスター)の俺が断言してやる。お前が優しい魔法使いを目指す必要はねぇ。何故なら、お前はもうなっちまっているからな】

 

 ここまで話した所で、彼は表情を真剣な物へと変える。

 

【……こんな事、ネカネとそう変わらねぇ年のお前に頼めた義理じゃねぇのは解っているんだが】

 

 まだ途中だったが彼が頼みたい事を察した僕は、言葉を先取りして承諾した。唯でさえ残り少ない彼の時間を僕の為に浪費して欲しくなかったからだ。

 

【承りました。ネギ君が道を誤らない様に見守っています。いつか、日の当たる道を堂々と胸を張って歩きながら、貴方を探しに行ける様に】

 

 僕の承諾の言質を取った彼は、おそらくは珍しいであろう安堵の表情を浮かべていた。

 

【……悪いな。頼むぜ】

 

 そう言うと、今度はネギ君の方を向いて自らの形見だと言った杖をネギ君に渡す。

 

「ネギ。コイツを受け取りな。俺の形見だ」

 

 ネギ君は彼から杖を受け取ると、少々よろけつつも何とか体勢を立て直した。そして、自分が抱いていた疑問をそのまま彼にぶつける。

 

「……ひょっとして、お父さん?」

 

 その問いに対して、彼は肯定した。ということは、彼が英雄と崇められたネギ君の父親で、そして憧れでもあるナギ・スプリングフィールドなのだろう。

 

「あぁ、そうだ。赤ん坊の頃しか逢った事が無かったんだが大きくなったな、ネギ」

 

 ナギさんはそう言うと、万感を込める様にネギ君の頭を撫で回した。

 

「でもな、だからって俺を目指すのは止めておけ。目指すなら、むしろコイツだ。お前には、俺みたいな偉大な魔法使いよりもコイツみたいな優しい魔法使いの方がきっと似合ってる」

 

 ナギさんは僕の事を親指で指差しながら、ネギ君にそう言い聞かせていた。……普通はむしろ逆の様な気もするが、もしかすると彼の持つ英雄という肩書の裏側には血生臭い物があるのかもしれない。すると、ネギ君は父親の言葉に応えようと一つの決意を伝え始めた。

 

「お父さん! 僕。……僕、いつか必ず会いに行くよ! イッセーみたいな優しい魔法使いになって!」

 

 聞いているだけの僕の方が恥ずかしくなってくるネギ君の言葉を聞いて、ナギさんはむしろ嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「……待ってるぜ、ネギ」

 

 ナギさんはそう言って空に浮かぶと、やがて空に溶け込むように消えていった。そこに残されたのは僕とナギさんの形見という杖を抱えたネギ君、ネギ君の従姉であるネカネさん。……そして、老人の石像だけだった。

 

「……スタンお爺ちゃん」

 

 前言は撤回だ。どうやらネギ君を孫の様に可愛がっていたご老人が石化されたようだった。

 

「ネギ君、今からこの人の石化を解く。僕が使う魔法をしっかり見ておいて欲しい」

 

 トータルヒーリングは複合式の治癒魔法の為、魔力の消耗が激しいという一面がある。村人達の石化を全員解くとなると、魔力は少しも無駄にはできなかった。

 

「……うん」

 

 そして、僕はもはや解呪に関しては定例化してきた感のあるオリジナル魔法を使用する。

 

「月の光よ。ここに集いて心を鎮め、魔を祓う希望となれ。……フルムーンレクト」

 

 フルムーンレクトの発動を目の当たりにした二人は、驚きを露わにしていた。

 

「掌に光が集まっていくわ……」

 

「……イッセーが集めた光を浴びて、スタンお爺ちゃんが元に戻ってきてる!」

 

 そして、石化が完全に解けると、ご老人は意識を取り戻した。

 

「……ウォ! 儂は確かにあの悪魔と相討ちになったはず。それが、何故元に戻っておるのじゃ?」

 

 ご老人が石化が解かれた事に疑問を持つが、今はひとまず脇へ置いてもらう事にする。

 

「済みませんが、話は後で。今は手分けして、石にされた人達を一か所に集めましょう。僕がまとめてフルムーンレクトで治します」

 

 僕の提案に、どうやら自分の石化を解いたのが僕である事を何となくではあるが悟ったようだ。少々の沈黙の後に承知してくれた。

 

「……わかったわい」

 

 ……それから数時間後。石化された村人を全員救出した後で、ネギ君はお礼の言葉を僕にかけてきた。

 

「村の皆を救ってくれてありがとう、イッセー。イッセーがいなかったら、僕はきっと全部自分のせいだって絶望してた」

 

 このネギ君の言葉を聞いて、三歳児としては異常なまでに大人びていると感じた僕は、ネギ君にもっと甘えるように言い聞かせる。

 

「いいんだよ、ネギ君。ネギ君はまだ小さな子供なんだから、もっと大人に甘えないと」

 

 そして、僕は今後どうするのかを考え始める。

 

【……さて、これからどうしようか? 当面は帰る手立てを探しながら、ネギ君と暮らす事になるかな】

 

 しかし、その必要はなくなってしまった。突如、僕の目の前の空間が歪むとそこに円形状の黒い穴が形成され、その中からロシウ老師が現れたのだ。

 

【一誠、やっと見つけたぞ。まさか時間軸のズレた平行世界に飛ばされておったとはな。だが、風の禁呪を使ってくれたお陰で座標を特定できたのじゃから、まずは良しとせねばのう。……では、帰るぞ】

 

 どうやら、平行世界に飛ばされた僕を迎えに来てくれたようだった。やはり、この方も只者ではない。すると、ネギ君が寂しげな表情でこちらを見つめてきた。

 

「……イッセー、帰っちゃうの?」

 

 こういう時の子供の純粋な眼差しには、大人として余りにもきついものがある。……尤も、お前も大人じゃないだろうというツッコミは勘弁してもらいたいところだが。僕はロシウ老師にもう少し待ってもらう様に頼み込んだ。

 

【ロシウ老師、少しだけ待っていて下さい。ネギ君に一つだけ教えたい魔法がありますから】

 

【……早めに済ますのじゃぞ?】

 

 ロシウ老師の承認を得た僕は感謝の言葉を伝えると、ネギ君に額を貸してもらう様に頼んだ。

 

「はい、ありがとうございます。ネギ君、おでこを貸してくれるかな?」

 

「うん」

 

 素直に応じてくれたネギ君の額に自分の額を当てた僕は、そこからある魔法の術式を伝える。

 

「……イッセー、これって!」

 

 驚きを露わにするネギ君に、僕は伝えた魔法の名前を教えた。

 

「さっきネギ君の前で使って見せた魔法で、名前はフルムーンレクト。その術式を頭の中に送ったから、頑張って覚えてね」

 

 優しい魔法使いを目指すなら、フルムーンレクトは間違いなく役に立つだろう。僕はそう思って、ネギ君に術式を教えた。しかし、ネギ君は申し訳なさそうな表情をして僕に話しかけてきた。

 

「イッセー。僕、イッセーから貰ってばかりで何も返せてないよ」

 

 ……そんな事を気にしていたのか。

 

 僕は人としては正しい反応をするネギ君に改めて好感を持つと共に、恩返しの代わりとしてある提案をする事にした。

 

「そんな事、気にしなくても良いんだよ。でも、そうだな。だったら君が大きくなった時に、今度は君が誰かを助けてあげてくれないかな? 僕がネギ君の希望になれた様に、ネギ君も誰かの希望になってくれると嬉しいな」

 

 この僕の提案を受けたネギ君は、力強く頷いて承知してくれた。

 

「……ウン! 約束するよ!」

 

 ネギ君の力強い返事を聞けた僕は、最後に優しい魔法使いの定義を念押しした。

 

「魔法使いは誰かにとっての最後の希望。それをけして忘れないでね。じゃあ、またね!」

 

 そして、僕はロシウ老師と共に元の世界へと帰って行った。

 

 

 

Epilogue

 

 一誠が元の世界に帰った後、ネギは父ナギが去っていった空を見上げながら誓いを立てていた。

 

「……お父さん。僕、お父さんに言われた通りにイッセーを目指すよ。村の皆を助ける事で僕の絶望を希望に変えてくれたイッセーみたいな優しい魔法使いに、そして誰かにとっての最後の希望に、僕は必ずなってみせる!」

 

 それは、皮肉にもネギを利用しようとした大人達の思惑とは真反対の内容となる誓いだった。

 

 こうして父ナギの様な立派な魔法使いではなく一誠の様な優しい魔法使いを志す様になった少年ネギは、後に大きく成長して希望の魔法使い(ウィザード・オブ・デザイア)と呼ばれる様になる。

 そして、その象徴として、十五年に渡り中学生である事を強制された真祖(ハイ・デイライトウォーカー)の呪いを解き、千年もの間荒ぶっていた飛騨の鬼神の心を鎮め、未来人の歴史改竄の野望を世界樹の発光現象を鎮めるという荒技で阻止し、ついには崩壊間近の魔法世界すら修復してみせた奇跡の魔法があった。

 

 ……その魔法の名は、フルムーンレクト。

 

 ネギは後に自身の半生を振り返るインタビューを受けた際、次の様に語ったという。

 

「その人は、その後もお父さんとの約束を守って半年に一度、僕の様子を見に来てくれました。そして、時に少しでも早く強くなる為に無茶をしようとする僕を叱って止めてくれたんです。僕がここまで道を間違えずに歩んでこられたのは、間違いなくその人のお陰です。……今、ここで断言しておきます。僕は偉い人にとって都合の良い偉大な魔法使い(マギステル・マギ)じゃない。絶望を希望に変えられる、誰かにとっての最後の希望。優しい魔法使い(マーシー・ウィザード)です」

 

 なお、数々の試練を乗り越えて見事一人前の魔法使いとなる為の課題である「日本で教師をする」を全うしたネギは、その修了を意味する卒業式の後に従者との仮契約(パクティオ)を解約している。因みに、ネギは仮契約に際して口付けによる簡易的な儀式を一切行わず、またその目的も自己防衛の為の緊急回避であった為、従者となったのは父ナギを含めて深い関わりのあった神楽坂明日菜の他は、日本有数の名家の生まれで膨大な魔力を持つが故に外敵から狙われやすい近衛木乃香のみだった。更に研究者としての高い素質も手伝って全く新しい魔法系統を独自で築き上げていた為に、本来の歴史であればいたはずの師匠すらいなかった事を記しておく。

 課題を全うした事で故郷であるイギリスのウェールズに帰る時、ネギは「いつか、お互いに独り立ちした時にお逢いしましょう」という別れの言葉を口にしたという。その後、手紙によるやり取りこそ続いたものの、元従者を含めた生徒達がネギと再会したのは実に二十年近い月日の後の事だった。

 

Epilogue end

 




いかがだったでしょうか?

詳細は次話に記載していますが、一誠自身はネギに今話で教えたフルムーンレクトの他はせいぜい護身用の体術くらいしか教えていません。むしろ原作では結局誰も果たせていなかったブレーキ役を果たしています。

そして、自分がいない時のブレーキ役として、彼の参謀(?)を徹底的に鍛えています。

引き続き、序章の最終話をお楽しみください。

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