赤き覇を超えて   作:h995

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最終話 赤き覇を超えて、未知なる天を往く者

 僕に宿っていた神器(セイクリッド・ギア)が実は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)でなく、グイベルさんを封じた龍の手(トゥワイス・クリティカル)である事が発覚した。僕はその能力から黎龍后の籠手(イニシアチブ・ウェーブ)と名付けたが、どうやら赤龍帝の籠手の一形態でなく新神器の名前になりそうだ。また黎龍后の籠手はあくまで通常の龍の手である事から、ドライグとグイベルさんの両方が覚醒していると容量が足りずに崩壊する為、どちらかに眠ってもらわなければならないという問題も発覚した。

 ……解決案はある。赤龍帝の籠手の器を黎龍后の籠手と融合させて、神器の容量不足を補う事だ。ただし、それには無限に広がる次元の狭間から見つけ出すという難業という言葉すら生温い事を達成しなければならない。幸い、探索に必要な情報については当てがある。僕自身の心情としては余り気が進まないが、ドライグとグイベルさんを引き離してしまう事に比べたらどうという事はない。だから、今はあらゆる手立てを使っていくべきだった。そうしてある種の遠慮を棄てる決意を固めた所で、アザゼルさんが黎龍后の籠手に関する詳細な情報を求めてきた。

 

「そうなると、イッセー。お前の本来の神器は黎龍后の籠手という事になるな。現在眠っているドライグに代わって表に出ているグイベルの波動の力を使うという事だったが、具体的にはどんな事ができるんだ?」

 

「首脳会談の後でアルビオンが実例として挙げた事は全てできます。最大の特徴である中和の波動も可能です。後は、そうですね。一度、実演してみせましょう」

 

 僕はそう答えた後で黎龍后の籠手を発現すると、アーシアに僕の側に来てもらう様に頼む。

 

「アーシア、ちょっとこちらに来てくれないかな?」

 

「はい!」

 

 すると、アーシアは少し嬉しそうな表情で了解した後、小走りに近い感じでこちらに来てくれた。

 

「それで、私は一体何をすればいいんでしょうか?」

 

 アーシアにそう訊かれた僕だったが、その前に祐斗とギャスパー君にやってもらいたい事があったのでまずはそれを頼む。

 

「その前に、祐斗、ギャスパー君。指先に小さな傷をつけてくれないか? できれば、アザゼルさんにもお願いしたいんですが……」

 

「あぁ、それくらいなら構わないぜ」

 

 少々頼み辛い事ではあったが、アザゼルさんは快く引き受けてくれた。そして小さな光の刃を出すと、人差し指の先に軽く押し当てて傷を付ける。

 

「痛っ! ……まぁ、こんなものかな?」

 

「そうですね、祐斗先輩」

 

 そしてアザゼルさんに続く形で祐斗はキーホルダー程の小さな魔剣、ギャスパー君は自分の爪でそれぞれ指先に軽く傷を付けた。こうして三人が傷をつけ終えた所でアザゼルさんから何をするのか尋ねられた。

 

「さて。三人とも指先に傷を付けたんだが、これでどうするんだ?」

 

 そこで、僕はアーシアを含めた四人に指示を出す。

 

「そうしたら、アザゼルさん、祐斗、ギャスパー君の順で僕から距離を取って下さい。そうして三人が離れ終わったら、アーシアには聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の力を()()使ってもらうよ」

 

「あっ、ハイ」

 

 何故傷を付けていない僕に癒しの力を使うのかが解らずにアーシアは少し戸惑っていたが、三人が離れ終わると素直に聖母の微笑を僕に使用し始めた。癒しの力が僕の体に行き渡った所で、僕は黎龍后の籠手の能力を発動する。

 

「これで、後は……」

 

『Propagate!!』

 

 籠手の宝玉部から能力発動の音声が響き渡ると、その効果はすぐに現れる。最初に声を上げたのは、僕から一番離れていたギャスパー君だった。

 

「アレ、僕の傷が治った?」

 

 そこで首を傾げているギャスパー君に対し、祐斗の方は別の意味で首を傾げている。

 

「僕より離れているギャスパー君の傷は治っているのに、僕はまだ治っていない。……アザゼル先生の方は?」

 

 祐斗はそこで僕に一番近いアザゼルさんに確認を取ると、アザゼルさんは僕の想像通りの答えを返した。

 

「俺はもう治っているぜ。一番近くにいた俺や逆に一番離れていたハーフヴァンパイアが治ったのに、俺達の中間の位置にいた聖魔剣使いはまだ治っていないか。……成る程。コイツは中々に厄介な能力だな」

 

 どうやら僕が何をやったのかを解った様で、アザゼルさんは納得の表情を浮かべた。そこでリアス部長が僕のやった事についての説明をアザゼルさんに求める。

 

「アザゼル、どういう事かしら?」

 

「つまりな、イッセーは黎龍后の籠手を使って他の奴の力を波動に乗せて飛ばす事ができるって事だ。しかも、力を及ぼす対象を選別できるってオマケつきでな。例を挙げると、さっきの様に癒しの力を波動に乗せれば敵味方の入り混じった乱戦状態でも味方だけを癒せるし、お前の「滅び」の魔力を乗せれば逆に敵だけを叩けるって訳だ。さしずめ伝搬能力、黎龍后の届け物(イニシアチブ・ウェーブ・デリバリー)って所か。それにしても、相手の力を別の相手に送り届ける、か。自分の力を与えるドライグと相手の力を奪うアルビオンの中間みたいな能力だな」

 

 アザゼルさんの言った通りである。僕は波動の能力を応用する事で、アーシアの癒しの力を波動に乗せて狙った相手に届けたのだ。その意味では伝搬能力に黎龍后の届け物とは正に言い得て妙である。……ただ、伝搬能力については実はグイベルさんが目覚める前からその兆候があった。譲渡能力が進化した際に対象に触れる必要がなくなった事だ。グイベルさんの存在が発覚した事で、譲渡能力に波動の力が加わっている可能性に気付いた僕は早速レオンハルトの愛剣であるアスカロンの聖なるオーラや召喚魔法で呼び出した幻想種達の力を波動に乗せられるかを確認した。その結果どうなったのかは、今やってみせた通りである。そして僕自身の力も色々試してみると全て波動に乗せる事ができた事から、実際は「波動を除くあらゆる力を他者に送り届ける」能力が正解の様だ。

 一方、アザゼルさんの説明で伝搬能力の有効性に気付いたリアス部長は驚きを露わにした後、レーティングゲームにおける有効な活用例を挙げてきた。

 

「それ、複数対複数の集団戦で無類の効果を発揮するじゃない。特にギャスパーの時間停止の力やゼノヴィアが持つデュランダルの聖なるオーラを波動に乗せてしまえば……!」

 

「狭いバトルフィールドだと、それだけでレーティングゲームの対戦に勝ってしまうな。まぁもはやハメ技の類になるから、詳細が解った時点で対戦での使用を禁止されるだろうがな」

 

 リアス部長が挙げた活用例をアザゼルさんが肯定した所で、僕はアーシアに聖母の微笑を使うのを止めて祐斗の治療に向かう様に伝える。

 

「アーシア、もういいよ。後は祐斗の傷を治して来て」

 

「ハイ!」

 

 アーシアは元気に返事すると、傷を治す為に祐斗の方へと向かっていった。……自惚れでなければ、僕から頼み事をされたという事でアーシアはかなり嬉しそうにしている。それだけにアーシアに対する申し訳なさが湧き上がってきた僕だったが、アザゼルさんに声を掛けられた事で一旦脇に置く事にした。

 

「しかし、イッセー。ドライグが深い眠りについている事で主力である赤龍帝の籠手が使えなくなっちまっているのに、余り弱体化した感じがしねぇな」

 

 確かにその通りかもしれない。ただ、僕の場合は赤龍帝の籠手や真聖剣が全く使えない状況での戦闘経験の方が遥かに多い事から、ある意味ではいつもの状況に戻っただけとも言える。……この様な事、御伽噺の世界やゼテギネアでの戦いで全く力を貸せなかった事に対して少なからず後ろめたさを抱いているドライグやカリスには絶対に言えないのだが。それに、ただ慣れ親しんだ状況に置かれているだけではない。アザゼルさんにはむしろそちらの方を伝える事にする。

 

「グイベルさんの波動の力は色々と応用が利きますから、黎龍后の籠手は僕との相性が非常に良い神器です。それに赤龍帝の籠手が強力になり過ぎて真聖剣と同様に使い所がなくなりつつあったので、ドライグが目覚めた後も通常は黎龍后の籠手を使っていく事になりそうです」

 

 僕が黎龍后の籠手を今後の主力として使っていく事を伝えると、アザゼルさんは納得の表情を浮かべた。

 

「あぁ、そっちの問題もあったか。それに相手の能力を弱体化あるいは無効化した上に影響を及ぼす対象を選別できるなら、敵に対する手加減や周りへの影響を配慮した戦い方もしやすそうだしな。その意味じゃ、確かに黎龍后の籠手はイッセーの神器だな。しかも、本来封じられているドラゴンの意識が覚醒したという事は……」

 

「はい。黎龍后の籠手なら禁手化(バランス・ブレイク)が可能です」

 

「やっぱりか。……んっ?」

 

 話の流れの中で僕が禁手化できる事を伝えると、アザゼルさんは最初こそ納得した素振りを見せたが、後になって僕の発言の意味を理解した様で僕に詰め寄ってくる。

 

「イッセー。今、お前は「可能でしょう」でなく「可能です」と断言したよな? どうしてそう断言できるんだ?」

 

 そこで、僕はその質問に対して簡潔な答えを返す。

 

「実際に禁手化できますから」

 

「ハッ?」

 

 呆気に取られるアザゼルさんを余所に、僕は皆の前で禁手化してみせる事にした。

 

「この際ですから、見せておきましょう。グイベルさん、行きましょうか」

 

『解ったわ』

 

 グイベルさんの了解を得た僕は黎龍后の籠手を着けた左の掌に右拳を当てる。それと同時にグイベルさんの波動の力を僕の力に同調させた。

 

『Tune! ……Resonance Boost!!』

 

 こうする事で、黎龍后の籠手から発する波動を僕の力と共鳴させて爆発的に高めていく。そうして十秒程で準備が整うと、僕は神器の奥義である禁手(バランス・ブレイカー)を発動させる。

 

「禁手化!」

 

『Welsh Grace Dragon Balance Breaker!!!!!!!!』

 

 グイベルさんの声で禁手化の発動を示す音声が響き渡ると、グイベルさんを象徴する青みがかった黒、いわば黎いオーラが籠手の宝玉から僕の全身を覆い尽くし、やがて凝縮される事で一つの形へと変わっていく。そして、僕の姿は駒王学園の夏服から首から下を覆う黎いレザースーツへと変化した。因みに、両手には黎龍后の籠手と同型の籠手を、両足には籠手の意匠に合わせた脚甲をそれぞれ装着している。

 

黎龍后の戦闘服(イニシアチブ・ウェーブ・レザースーツ)。黎龍后の籠手の禁手です。この状態になると服が覆っている箇所なら何処からでも波動を放てますし、通常は不可能である中和の波動と別の波動の並行使用が可能になります。なお、この並行使用は黎龍后の届け物も対象になります」

 

 僕が禁手の名称とその能力を明かすと、アザゼルさんは少々呆気に取られた様子を見せていた。

 

「つまり敵の能力は弱体化あるいは無効化して、自分の能力である波動の力は使い放題って訳か。正に戦いの主導権を掌握する神器だな。……って、そうじゃない。イッセー、一体いつ禁手に至ったんだ?」

 

 ……あれっ? アザゼルさんには連絡が行っていなかったのか?

 

 僕が黎龍后の籠手に関しては禁手に至っている事をアザゼルさんが知らなかった事に今頃になって気付いた僕が疑問に思っていると、僕の代わりに八卦の件で呼び出したままであった計都(けいと)が答えた。

 

「つい先日、ティアマットと戦った時だ。どうやら禁手に至る条件を一誠は既に満たしていたらしく、後は実際に使用する事で最終調整をするだけだったのだろう。ただ、戦いの後に召喚契約を交わし終えた所で突然黎龍后の籠手が禁手化し始めた時には、ティアマットを含めて皆が驚いたぞ」

 

 ここでレイヴェルが計都の返答に補足を入れる。

 

「そう言えば、一誠様は先日、リディア様を通じてティアマット様に呼ばれていましたわね。それに戻って来られた時には、「週明けに面白い事を報告する」と一誠様は仰っていましたけど、この事なのですか?」

 

「まぁね。どうせなら、皆を少し驚かそうと思ってね。因みに、イリナとリアス部長、そしてソーナ会長には報告済みだよ。……だから、アザゼルさんにはサーゼクス様やミカエルさん経由で既に話が通っていると思っていたんですが」

 

 僕が既に知らせるべき相手に知らせていた事を皆に伝えると、アザゼルさんの表情が苛立たしげなものへと変わった。

 

「アイツ等、イッセーの禁手の件で俺を驚かそうと示し合わせやがったな。……覚えておけよ、ミカエルにサーゼクス。後で必ず吠え面かかせてやるからな」

 

 ……まぁ、どうせすぐに僕が自分で教えると踏んでの事だろう。それに、肝心な情報についてはその様な事をしないだけの分別をあのお二方はお持ちだ。アザゼルさんもそれは百も承知だから、きっと組織としては余り問題がなく、しかし個人としては地味にダメージが来る類の事で仕返しを企てるのだろう。アザゼルさんはお二方への復讐を誓ったところで、話をグレモリー眷属への協力に関するものへと方向転換した。

 

「まぁ、とにかくだ。これから俺はお前達に色々な面で協力していく事になる。あくまで俺自身の鍛錬の片手間になっちまうから当面はお前達のパワーアップについて知恵を貸すぐらいだが、まぁ仲良くやっていこうぜ」

 

「そうなると、まずは夏休みに私が冥界の実家に帰省するのを利用して貴方をアドバイザーとする強化合宿を行うのかしら?」

 

 リアス部長が自身の予定を絡めてそう推測すると、アザゼルさんは強化合宿以外にも手配をしている事を明かした。

 

「お前達についてはそうなるな。後は合宿中にお前達と同年代の若手とレーティングゲーム形式の試合をセッティングする予定だ。既にサーゼクスに打診してあるし、あの分なら承諾するだろう。ただイッセーについては、基本的にお前達とは別行動になる」

 

「聖魔和合親善大使に就任した僕の挨拶回り、ですか」

 

 自分がどういった役職に就いたのかを踏まえた上での僕の確認に対し、アザゼルさんは僕の今後の予定を話す事で答えとした。

 

「あぁ、そうだ。その為に、お前には悪魔のお偉方との顔合わせは勿論、冥界の堕天使領や天界の方にも出向いてもらうぞ。それと、高天原だな。あそこの神族は他種族に対して比較的寛容だ。だから、逸脱者(デヴィエーター)であるイッセーについても受け入れてくれるさ。後はお前の直接の上司であるセラフォルーとガブリエル、そして俺も同行すれば完璧だろう」

 

 ……成る程。唯の挨拶回りという訳ではない様だ。

 

「そうする事で、少なくとも公の場では他の神話体系から無視されたり見縊られたりする事がなくなるという事ですか」

 

「あぁ。そんな事をすれば、イッセーを認めた日本神族の顔に泥を塗る事になるからな。流石に公の場では自重する様になるだろう」

 

 確かに、今後僕は三大勢力内だけでなく他の神話体系の元へと赴く事になる。その際、身内以外からも認められているのとそうでないとでは、相手の認識や対応に大きな差が出るだろう。その意味では、夏休みに挨拶回りを済ませておく必要があるのは理解できる。……理解できるのだが。

 

「……確かに挨拶回りが重要なのは解っているんですが、この分では夏休み中に自分の鍛錬をする余裕は殆どなさそうですね」

 

 オーフィスがいつ僕を狙って襲撃してくるか全く解らない状況の中で、自己鍛錬が殆どできないのは余りに致命的だった。アザゼルさんもこれについては少なからず懸念を抱いてはいるものの、止むを得ないといった様子だった。現に僕に言い聞かせてはいるが、どちらかと言えば僕よりも自分自身を対象にしている様だった。

 

「俺も本音を言えば、お前には次のオーフィスとの戦いに備えて自己鍛錬に専念してもらいたいんだ。ただ何事も最初が肝心だからな、オーフィスに狙われているからと言って挨拶回りを怠る訳にはいかないのも事実なんだよ」

 

「この件といい、戦闘を自粛しなければならない事といい、それなりの地位や力を得たとしてもそう簡単には思い通りになりませんね。……いや。だからこそ、なのか」

 

 大いなる力には大いなる責任が伴う。……結局はそういう事なのだろう。アザゼルさんも僕の意見に対して、そういうものだと断言した。

 

「世の中、得てしてそういうモンだ。……さて。このイッセーの挨拶回りにも関連してくるんだが、実は聖魔和合親善大使であるイッセーの下に各勢力から一人ずつ人員を出向させる事になった。その際、駒王学園に通っても疑われない必要がある事からイッセーに近い年代である事が求められた。そこで天界からは、元々メッセンジャー兼イッセーの監視役としてここに赴任していたイリナがそのままイッセーの補佐として出向する事になっている。俺達神の子を見張る者(グリゴリ)については、実は適任者が中々いなくてな。本当ならヴァーリが適任なんだが、アイツはイッセーに勝つ為の修行に支障が出るのを嫌がるだろうし、後見しているクローズの件もあるからな。だから、当面の間は自分を一から鍛え直す為にこっちに滞在する事になる俺が直接イッセーと共に仕事する形でとりあえず落ち着いた。正式な出向者は後日改めて選出する事になるだろう。そして、悪魔側からは……」

 

 アザゼルさんから天界と神の子を見張る者から出向させる人員について話し終えた所で、次は悪魔からの出向人員について話をしようとするが、その前にレイヴェルが口を挟んできた。

 

「私、ですわね」

 

 レイヴェルがそう断言すると、アザゼルさんはそれを肯定する。

 

「あぁ、その通りだ。お嬢さんはこっちに来てからずっとイッセーのマネージメントを担当しているんだろう? それに血筋良し、器量良し、しかも頭は回るし個人の戦闘能力は上級悪魔の中でも最上位に近い連中とほぼ同等なんて好条件が揃っているからな。俺でもお嬢さんに任せるし、実際にサーゼクスがお嬢さんを候補として挙げると満場一致で決定したらしいぞ。……セタンタがお嬢さんに向かって「イッセーとイリナ、アウラの三人以外は全員見殺しにしてでも生き延びろ」と言い出す訳だぜ」

 

 レイヴェルが悪魔側の出向人員に決定した経緯をアザゼルさんが説明すると、レイヴェルは嬉しそうに受け入れていた。

 

「フフッ、それは光栄です。しかもやりたい事とやるべき事が完全に一致していますもの、これ以上の僥倖はありません。……という事ですので、スケジュール管理は私にお任せ下さいませ。一誠様が鍛錬に励む時間を少しでも捻出してみせますわ」

 

 ……こう宣言した以上、レイヴェルは本当に鍛錬の時間を捻出してくれるだろう。その分スケジュールが過密になるかもしれないが、それは仕方がない。僕はその点に関しては素直にレイヴェル頼る事にした。

 

「頼りにしているよ、レイヴェル」

 

「ハイ」

 

 すると、レイヴェルはとても嬉しそうな表情で返事をしてくれた。

 

 

 

Interlude

 

 一誠とレイヴェルが会話を交わす中、祐斗はギャスパーと小声で会話をしていた。

 

「アーシアさんと草下さんには悪いけど、イッセー君の僧侶(ビショップ)はギャスパー君とレイヴェル様でほぼ決定かな?」

 

「本当に僕でいいんでしょうか?」

 

 首を傾げるギャスパーであるが、祐斗は自らの推論をギャスパーに語っていく。

 

「まぁギャスパー君の場合は、万が一の時の抑え役がイッセー君以外には無理だろうって事も大きいと思う。それにそれがなかったとしても、草下さんはともかくアーシアさんはやはり望み薄かな? 仮にイッセー君が独立した場合、イッセー君を(キング)とするいわば天龍帝眷属はイッセー君本人が、シトリー眷属も会長ご本人がそれぞれ回復技能を持っている。そうなると、バランスを取る意味でグレモリー眷属にも回復技能を持っている人が必要になるんだけど……」

 

 天龍帝眷属、グレモリー眷属、シトリー眷属。

 

 もし一誠が独立した場合、駒王学園には三つの眷属が犇き合う事になる為、それぞれの眷属に割り振られる戦力の均衡をある程度は保たなければならない。そしてそれは、回復技能を持つ者の配置についても同様である。それを理解したギャスパーはグレモリー眷属の現状について話し始めた。

 

「現状、一誠先輩以外にはアーシア先輩だけですからね。傷を癒す聖剣を祐斗先輩が作れる様になるか、あるいは小猫ちゃんが治療用の仙術を習得すればまだ解りませんけど」

 

 ギャスパーはそう語ったものの、祐斗は首を横に振って否定する。

 

「事治療に関しては、アーシアさんは天才的な所があるからね。僕の場合、流石にアーシアさんの域に達するのは無理だと思うよ。それに小猫ちゃんについても、計都さんから聞いた話だと仙術による治療は傷を直接治すというよりは生命力を高めて自然治癒を促進させるものらしいから、外傷が酷い場合やスピードを求められる場合にはあまり向いていないみたいだ」

 

 ……よって、現状ではアーシアをグレモリー眷属から一誠の元へと移籍させられない。祐斗は口にこそ出さなかったが、そう結論付けていた。そこで、一旦瞳を閉じると共に雰囲気が変わったギャスパーがレイヴェルに対する印象を語り始めた。

 

「……でも、少しもったいないね。今やっている事を考えると、レイヴェルは僧侶よりも女王(クィーン)の方が向いている」

 

「その言葉使い、バロール君かい? まぁ確かにレイヴェル様が女王になれば、僧侶の椅子が一つ空くんだけどね。でもさっき言った人材配置のバランスの問題があるから、アーシアさんが不利な現状は変わらないよ。本当にままならないね。……ただいきなり出てくるのは流石に少し頂けないかな、バロール君?」

 

 祐斗はいきなりギャスパーと入れ替わったバロールを軽く窘めると、バロールは意外にも素直に反省する姿勢を見せた。

 

「流石に少々イタズラが過ぎた様だね。解った、今後は注意するよ」

 

(ギャスパー。どうやら、ここは君だけでなく「僕」にとっても居心地が良い場所になりそうだよ)

 

 バロールはそう反省の弁を述べながら、一誠の親友である祐斗もまた自分を受け入れている事を悟って安堵した。

 

Interlude end

 

 

 

「俺からの連絡事項はこれで以上だ。今後、聖魔和合親善大使であるイッセーはお前達と別行動を取る事が多くなる。そうなると当然、イッセーが不在の時に強敵と戦わざるを得ない事も十分考えられるし、さっきも言った様にイッセーは戦闘そのものを自粛しなければならないのも合わせると、イッセーがお前達を助けられる機会は殆どないだろう。だから、さっき自分の言った事をけして忘れるな。……ただイッセーの後ろで守られるだけじゃなく、イッセーの横に並び立ってみせるというお前達の決意と覚悟をな」

 

 連絡事項の通達が終わると、アザゼルさんは最後に僕がいなくてもやっていける様に皆へ発破をかけた。すると、それに対してリアス部長が真っ先に応える。

 

「えぇ、解っているわ。だからこそ、私達はこの夏休みの強化合宿でイッセーとの差を少しでも縮めていかなくちゃいけないのよ。ただこの分だと、合宿中に予定されているレーティングゲームの試合でイッセーと一緒に戦うのは無理そうね」

 

 リアス部長はそう言って、僕がレーティングゲームの試合に出られない事に対して残念そうな素振りを見せた。しかし、アザゼルさんはどの道それは不可能だったと話し始める。

 

「イッセーについては、聖魔和合親善大使の件がなかったとしても、若手同士の対戦には出られなかったと思うぞ。何せ、俺が眷属として参加する様なものだからな」

 

 アザゼルさんから何とも分かり易い例えを聞かされたリアス部長は、深い溜息を一つ吐いた。

 

「やっぱり、そうなっちゃうのね。強くて頼りになるのはいいけど、度が過ぎるのも考えものだわ……」

 

 何とも複雑そうなリアス部長の表情を見た僕は、何だか凄く申し訳なく思えて仕方がなかった。

 

 僕が己の使命として見出した、天界と冥界の和平とそれに伴う共存共栄。即ち、聖魔和合。その第一歩として、天使と堕天使、そして悪魔の三大勢力が恒久的な和平協定を結んだ。三大勢力は協調路線へと舵を切り、今後はお互いに協力し合う事になる。そして、僕はその懸け橋として聖魔和合親善大使の役目を果たしていく事になるだろう。

 ……それは即ち、イリナやレイヴェルの様に今後も共に歩んでくれる者とグレモリー・シトリー両眷属の皆の様に道を違えてしまう者とに分かれてしまう事を意味する。

 しかし、僕はそれを寂しいとは思わない。何処かの誰かが言っていた。絆とは、決して断ち切る事の出来ない深い繋がりであり、例え離れていても心と心が繋がっている、と。

 だから、僕はこれからも前を見据えて歩んでいく。いや、歩んでいける。この胸の中に、無限さえも超えてみせた皆との絆がある限り。

 

 

 

Epilogue

 

 歴代の赤龍帝が重ねてきた赤き覇を超えて、未だ嘗て誰も見た事のない未知なる天を往く者、兵藤一誠。

 

 人呼んで、赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)。あるいは、逸脱者(デヴィエーター)

 

 愛する者と添い遂げる為に聖魔和合を成し遂げようとする彼が挑み始めた、覇道でも王道でもない名もなき道。その先にあるものとは、一体何なのか。

 

 一誠がその答えを得るのは、まだまだ先の事であった……。

 




いかがだったでしょうか?

これにて第一部「赤き覇を超えて」は終了でございます。

では、次は第二部「未知なる天を往く者」でお会いしましょう。


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