赤き覇を超えて   作:h995

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2019.1.5 修正


第二十七話 発覚

 三大勢力の恒久的な和平協定である駒王協定が無事に締結された翌日、アザゼルさんが駒王学園の滞在許可を求めて生徒会室にやってきた。そこでソーナ会長は特異的な神器(セイクリッド・ギア)を有するグレモリー眷属に配慮する形でオカ研の顧問という立場を用意した。そうしてオカ研部員との顔合わせが終わると、アザゼルさんは表情を真剣な物に変えて祐斗とギャスパー君の現状確認を始めた。

 

「それで早速だが、まずは俺が主に担当する事になる聖魔剣使いとハーフヴァンパイアの神器の現状について確認しようか」

 

「僕は既に魔剣の王と聖剣の王の創造に成功していますので、次は先送りにしていた龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の創造ですね。そうすれば、イッセー君が作ってみせた世界蛇殺し(ウロボロス・スレイヤー)を僕も作れる様になれますから。因みに和剣鍛造(ソード・フォージ)における最終目標は、僕の「家族」の魂の結晶を核とする聖魔を超越した「剣」の頂点に立つ王の創造です」

 

 祐斗が現時点で達成している事柄と今後の目標を語ると、アザゼルさんは早速首を傾げてしまった。

 

「龍殺しに始まり、世界蛇殺しか。それはまだ理解できるんだが、聖剣の王や魔剣の王、更には聖魔を超越した「剣」の頂点に立つ王って一体何だ? ……コイツについては、既に俺ですらよく解らん領域に突入してやがるな。イッセー、どういう事か説明してくれ。このままではどうにもならん」

 

 アザゼルさんが完全にお手上げといった面持ちで僕に説明を求めてきたので、僕は剣の王に関する説明を始める。

 

「それもそうですね。では、とりあえず剣の王について簡単ながら説明します。これは今まで祐斗が創造してきた全ての剣を一本に凝縮した状態を指します。例えば、聖剣の王である天覇の聖極剣(ブレード・オブ・マーター)と魔剣の王である冥覇の魔極剣(ソード・オブ・アドバーサリー)の場合は祐斗の創造できる全ての聖剣と魔剣をそれぞれ一本に凝縮しています。その為、どちらもデュランダルの様な伝説級と比べても何ら遜色のない強度とオーラを持つ上に今まで創造した剣の能力を一本で全て使用でき、更に今後も創造できる聖剣や魔剣の種類が増えると成長していきます。ただ、この双子の剣は聖魔剣を創造できる祐斗の血を核の媒体とした為か、二本一緒でないと安定しない上にお互いに力を高め合っていくという扱いの難しい性質があります。よって、「聖」と「魔」という相反する属性を極めておきながら存在するには相容れない筈の相手が必要不可欠であり、尚且つ競い合うかの様に力を高めていくという矛盾に満ち溢れた双子の剣の王を創造するこの能力を競覇の双極剣(ツインズ・オブ・コントラディクション)と名付けました。そして、聖魔を超越した「剣」の頂点に立つ王とは、聖剣と魔剣、そして聖魔剣。これら祐斗の創造可能な全ての剣を凝縮した和剣鍛造における究極の一本です」

 

 僕の説明を聞き終えたアザゼルさんは、ここで納得が入った様に頷いた。

 

「それであの二本を使ってオーフィスの攻撃を捌く事ができた訳か。そうなると、魔剣創造(ソード・バース)は勿論だが聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)と合わせてもこの時点で既に歴代最高かつ最強になっちまうな。それどころか、「聖剣と魔剣の創造」に加えて「複数の力の凝縮」や「相反する力の共存」と本来なら組み合わせてはならない強力な能力同士が組み合わさっている今、和剣鍛造は神滅具(ロンギヌス)に認定されても何らおかしくない」

 

 ここで、桃さんに補助魔法を教えるようになってから新しく考えていた強化案についてアザゼルさんに提示する。

 

「それに邪気や災厄を祓うお守りの一種である「守り刀」という概念が日本にはありますから、防御や耐性付与、能力強化といった補助系統の能力の可能性を探ってみてもいいかもしれませんね。そうする事で剣の王ひいては使い手である祐斗自身の強化に繋がりますし、複数創造して味方に渡す事でサポートもできる様になりますから」

 

 僕の提示した強化案に対し、アザゼルさんは面白そうだと言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

「成る程な。いくら剣を作る能力だからって、何も攻撃用の能力ばかりを持たせる必要は何処にもねぇな。極端な話、「所持者を光力から守る防御結界を張る」能力を持つ魔剣や「切り付けた相手の傷を治す」能力を持つ聖剣を作ったっていい。更に剣の王を創造する要領でそれ等補助系統の能力の剣を一纏めにした短剣を創造し、それを味方に配れば戦力の底上げも可能って訳だ」

 

 アザゼルさんが僕の新しい強化案に興味を示した事を受けて、祐斗が後で試す事を伝えて来る。

 

「イッセー君、後で色々試してみるよ」

 

 ここで、アザゼルさんから別の方向からのアプローチを提示された。

 

「……いや待てよ。どうせなら、剣だけでなく剣を扱う奴もセットで創造させてもいいな。何せ、和剣鍛造には魔剣と聖剣の両方を創造する能力があるんだ。それなら魔剣創造であると同時に聖剣創造でもある訳だから、その禁手(バランス・ブレイカー)である聖輝の騎士団(ブレード・ナイトマス)も使える様になるかもしれないな。そうなれば、もっと面白い事ができそうだ」

 

「確かに、ロシウ老師から魔剣創造は機能不全による聖剣創造の亜種だという意見が出されていますし、原点に回帰させればそれも可能になるかもしれませんね。そもそも、僕の和剣鍛造はイッセー君達が魔剣創造を原点回帰させようとして生まれたものですから」

 

 祐斗がロシウの魔剣創造に関する意見と和剣鍛造の誕生秘話について口にすると、それがアザゼルさんの琴線に触れた様だ。僕に後で話をする様に迫ってきた。

 

「マジか! ……おい、イッセー。その話、後で詳しく聞かせてくれ。上手くいけば、今言った事が実現可能になるかもしれないからな」

 

 僕にとっても祐斗の新しい可能性が開けるかもしれない事だったので、アザゼルさんの申し出を快諾した。ただし、カリスの事があるので場所を改めて説明する事にする。

 

「解りました。後で場所を改めて説明します」

 

 そうして祐斗に関する話が一区切りした所で、アザゼルさんは何処か呆れた様な面持ちで祐斗の総評を語り始めた。

 

「しかし、何だな。これだけ強力この上ないのに、成長の余地がまだ残っているって時点でとんでもねぇな。しかも神器ですらこれだけ桁外れだってのに、剣士としての技量もあの剣帝(ソード・マスター)と夜天光の騎士を別格とすれば、世界最高峰といってもいい武藤親子の一歩手前と来ている。正直な所、コイツが一体何処まで強くなるのか、俺すら想像がつかねぇよ。あるいは最上級悪魔を通り越して魔王級に至るかもしれないな。……聖魔剣使いについてはこれぐらいか。次はハーフヴァンパイア。お前はどうだ?」

 

 アザゼルさんは次にギャスパー君に話を振ってきたが、ギャスパー君は少し悩んだ素振りを見せた後、リアス部長に何かを窺う様に声を掛ける。

 

「……リアスお姉様」

 

 声を掛けられたリアス部長も少し考えた後で何らかの決断を下した。

 

「……そうね。この際だから、ここで話を聞いてもらいましょう。場合によっては、独立後のイッセーと交換(トレード)する可能性も出てくるから」

 

 独立後の僕との交換? あの眷属に対する情愛が深いリアス部長が?

 

 余りに想像の埒外であった為に、僕は一瞬呆けてしまった。一方、アザゼルさんも話が意外な方向に向かった事に只ならぬ懸念を抱いた様だ。

 

「おい、リアス。イッセーの眷属にする話が可能性として出てくる時点で既にとんでもない話になっている気がするんだが」

 

 そして、ギャスパー君からとんでもない爆弾発言が飛び出してきた。

 

「実は、僕にはその力を模倣した贋物(フェイク)だけでなく、断片とはいえ本物(オリジナル)の意識も宿っているんです」

 

 ……ハァッ?

 

 ギャスパー君の爆弾発言だったが少々婉曲した表現だったので、本人以外のグレモリー眷属とレイヴェルはよく解っていなかった。しかし、爆弾発言の意味を理解した僕は驚きの余りに頭が真っ白になった。そして、僕と同様にギャスパー君の爆弾発言の意味を理解したアザゼルさんは先程とはまた違った意味で僕に詰め寄ってくる。

 

「おい、イッセー。一体どういう事だ?」

 

「流石にこれは僕も初耳です。まさか、ギャスパー君に断片とはいえケルト神話における古の魔神バロールの意識が宿っていたなんて」

 

 アザゼルさんの質問に対する僕の答えを聞いて、ようやくギャスパー君の爆弾発言の意味を理解した皆は揃って息を呑む。しかし、これで僕はギャスパー君に関するある事実が何故起こっていたのかを理解できた。

 

「でもそういう事なら、ギャスパー君が何もしなくても禁手に至るという本来ならあり得ない事が何故起こっているのか、説明できます。バロール本人の意識が宿っているのなら、その魔眼の能力を模倣した贋物が影響を受けて本物へと変わっても何らおかしくはないでしょう。……それに」

 

「バロールの意識がコイツの神器に宿ったという見方も可能という事か。そう考えると、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)と同じケースという事になるな。あれだって封じられているのが二天龍の片割れであるドライグだから常識外れの能力を有しているのであって、あくまで数ある龍の手(トゥワイス・クリティカル)の一つでしかないという見方ができるからな」

 

 アザゼルさんの言う通り、ギャスパー君の停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)は魔眼の贋作に本物を有していた魔神の意識が宿るという訳の解らない状態である一方で、赤龍帝の籠手と同じケースにも当て嵌まる。ただ、ギャスパー君がどうやってその事実を知り得たのかが気になった僕は、早速ギャスパー君に尋ねてみた。

 

「ところで、ギャスパー君。どうやってそれを知ることができたのかな?」

 

「本人に教えてもらいました」

 

 ……返ってきた答えは、僕の想像の斜め上を行くものだった。

 

「それじゃ交代しますね」

 

 ギャスパー君はそう言うと瞳を閉じる。

 

「……全く。「僕」は皆の前に表立って出るつもりはなかったのにな」

 

 暫くして瞳を開いたギャスパー君はそう口にしたのだが、ギャスパー君から放たれる気配や魔力の波長が全くの別物だった。

 

「ギャスパー君じゃないね。それじゃ、君がそうなのかな?」

 

 僕が確認を取ると、彼は苦笑いを浮かべた。

 

「やはり貴方はすぐに解ってしまうか。そうだよ。「僕」は古の魔神バロールの意識の断片を元にして生まれた存在だ。強いて言えば、ギャスパー・バロールと言ったところかな。ギャスパーは「僕」の事をバロールと呼んでいるけどね。ただ「僕」がギャスパーと共存できる様になったのはつい最近だよ。そしてその切っ掛けは、貴方だ」

 

 バロールと名乗ったギャスパー君とは別の存在から、生まれた切っ掛けが僕である事を聞かされ、僕は首を傾げざるを得なかった。

 

「僕?」

 

 すると、バロールはララバイ事件の時にギャスパー君に僕が言った言葉を持ち出して来た。

 

「そう。「君を信じる僕を信じろ」。貴方のこの言葉が心の奥底で孤独に苛まれていたギャスパーの魂を救済し、更に変革を齎したんだ。そして、ギャスパーの強い歓喜の感情が「僕」に力を与えて呼び覚ました。だから、ギャスパーは勿論「僕」にとっても、貴方は幼馴染のヴァレリーと同じ位に特別な存在なんだ」

 

 バロールから明かされた事実に、僕は何だかむず痒い様な思いを抱いた。ただ、ここで聞き覚えのない人名が出てきたのでバロールに尋ねてみる。

 

「ヴァレリー?」

 

「ヴァレリー・ツェペシュ。ギャスパーの幼馴染で、彼女もハーフヴァンパイアだ。その縁で一緒に幽閉されていたけど、彼女がいたから本当の意味で孤独にならずに済んだし、幽閉先から逃がしてもらった。ただ彼女がギャスパーの側にいた影響で「僕」が生まれたみたいだから、おそらくは生命に何らかの影響を与える力でも持っているんじゃないかな?」

 

 断片化していたとはいえ魔神の意識に影響を与える程の力。その驚くべき事実を聞かされたアザゼルさんは何やら考え込み始めた。

 

「生命に何らかの影響を与える力、しかも断片と化した筈の意識が再生される程のレベルだと? まさかアレか? だがそうなると……」

 

 あの様子ではアザゼルさんは当分思考の海から戻って来そうにないので、僕はここで話を打ち切ると共にバロールに最終確認を行う。

 

「話は大体解った。バロール、君はこれからもギャスパー君と共に歩んでいくという事でいいんだね?」

 

「その通りだけど、貴方はそれでいいのかな?」

 

 バロールからは即答で返事が返ってきたが、それと共に僕にそれでいいのかと確認された。だが、それについては今更というべきだろう。

 

「ギャスパー君がそれを望んでいるみたいだからね。それに、君も特に害意を持っていない以上、僕からは何も言う事はないよ。だから、ギャスパー君共々これからもよろしくね。バロール」

 

 僕がそう言って手を差し出すと、バロールは苦笑を浮かべながらも僕の手を取って握手を交わして来た。

 

「……本当に面白い人だね、貴方は。「僕」の方こそ、今後とも良い付き合いをしていきたいと思うよ。それでは、ギャスパーと交代するよ」

 

 そうしてバロールが瞳を閉じてから数秒後、瞳が開かれる。……そこにいたのは、いつものギャスパー君だった。

 

「……はい! これからも宜しくお願いします、一誠先輩!」

 

 そう言ってギャスパー君は既に交わしていた握手を握り返して来たが、力の入り方がバロールとは微妙に違っていた。握手の仕方一つ見てもかなり違うのを思えば、やはりギャスパー君とバロールは別人であり、ギャスパー君の別人格ではなく一個人として扱うべきだろう。僕がバロールとの付き合い方に答えを出していると、アザゼルさんが呆れ切った様子で僕の方を見ていた。

 

「しかし、トンヌラに武藤親子、魔王クラスの魔力で異世界の魔法を使いこなすお前の妹と二天龍すら落としかねない騎士の片割れ、オーフィスに本気で睨まれて怯えるどころか牙を剥いて立ち向かう様な忠勇無比な飼い犬なんて規格外れな連中に始まり、何故かオーフィスに目を付けられた龍天使(カンヘル)の嫁さんや常識を投げ捨てたレベルで神器を使いこなす親友二人に魔獣使い(ビースト・テイマー)、更には大英雄の末裔に兄貴が目覚めなかった特性に目覚めたリアスと俺でもよく解らん力に目覚めたソーナ、火力だけなら俺に匹敵しかねないフェニックス家の令嬢に魂や精神すら癒せる元聖女、そして断片とはいえ古の魔神の意識を宿したハーフヴァンパイアのコイツ。……なぁ、イッセー。お前の周りは一体どうなっているんだ? 本当なら相当に希少な筈の天然のデュランダル使いですら、コイツ等の前では思いっきり霞んで見えるぞ」

 

「ア、アハハハハ……」

 

 アザゼルさんの鋭過ぎる指摘に思い当たる事が余りに多過ぎて、僕はただ笑う事しかできなかった。

 

 

 

Side:アザゼル

 

 聖魔剣使いである木場祐斗の更なる可能性をイッセーとの意見交換で見出した後で為された、停止世界の邪眼持ちのハーフヴァンパイアであるギャスパー・ヴラディからの衝撃的な告白。……確かにバロールの意識を宿しているというコイツは、三大勢力共通の親善大使となった事でどの勢力にも所属している形となったイッセーに預けねぇと三大勢力間のパワーバランスが色々と狂ってしまいそうだな。しかも、コイツの幼馴染であるというヴァレリー・ツェペシュについても、もし俺の想像通りなら早急に接触する必要があるだろう。こうして、俺が今後について色々と考えている時だった。

 

「……んっ?」

 

 イッセーが何かに思い当たった様な表情を浮かべたのは。そして、歴代でも最高位の一人である計都(けいと)を呼び出す。

 

「計都、出て来てくれ。頼みたい事がある」

 

 その声に応える様にイッセーの左手から光の球が飛び出すと、その光の球が計都の姿に変わった。計都は早速イッセーに用件を確認する。

 

「どうした、一誠?」

 

「本当なら自分でやりたい所だけど、念には念を入れて専門家に任せたい。……今から言う物が現在何処にあるのか、八卦で占ってみてくれないか?」

 

 八卦、か。確か、東洋の占いの一種にそんなのがあったな。確かに赤龍帝である事が発覚して追放される直前には洞府を開いて弟子を取る事や仙号を名乗る事を許可されたというコイツなら、その精度は極めて高いだろう。

 

「それは承知したが、その対象は?」

 

 計都から対象について尋ねられたイッセーは、ここで余りにも意外な物を挙げてきた。

 

「対象は二つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「……解った、やってみよう」

 

 イッセーがどういう意図でそんな訳の解らない事を言い出したのか、俺には解らなかった。それは計都も同様だったが、奴は少々首を傾げながらも早速八卦を始める。どんな事をやるのかと思って見ていると、計都は懐から銅銭を三枚取り出し、それを徐に宙へと放り投げた。銅銭は自然に落下して地面に落ちると、あるいは地面に跳ねるだけだったり、あるいは転がったりして完全にランダムな動きをした後に止まった。計都はその銅銭の位置を確認すると指を折りながら何かを数え始める。……計都が眉を顰めたのは、指を折り終えた直後だった。

 

「どういう事だ? ……いや、まさか」

 

 計都はそう言うと、一度地面に落ちた銅銭を拾い集めた後に再び八卦を行う。そうして二度目の八卦が終わると、計都は深い溜息を一つ吐いた。そして、余りにも衝撃的な爆弾発言をイッセーに向かって言い放つ。

 

「一誠。結論から言おう。お前が思い至った通り、お前の神器は赤龍帝の籠手ではない。お前が黎龍后の籠手(イニシアチブ・ウェーブ)と名付けた、グイベルを封じた龍の手だ。それにも関わらず赤龍帝の籠手の能力が使用できていたのは、ドライグと我々歴代の赤龍帝の残留思念や魂が本来の赤龍帝の籠手から移り変わっていたからに過ぎない」

 

 計都によって明かされた衝撃の事実に、俺は完全に固まってしまった。しかし、当人であるイッセーはどうやらこの事実をある程度は思い至っていた様で、むしろ納得した様な表情すら浮かべている。

 

「やはりそうだったか。……幾つかおかしな点があるとは思っていた。僕がドライグに初めて会った時に皆ともすんなり逢えたけど、本当ならアリスに端を発した千年の怨念が僕を蝕んでいて、そもそもアリスに辿り着く事すらできなかった筈なんだ。しかし、それが全くなかった。それに今思えば、神器として完成している筈の赤龍帝の籠手で龍拳や極大倍加、それにあらゆるものを倍加させる能力であるDouble Dimensionといった新機軸の能力を次々と作り上げられた事も、けしてあり得なくはないけどほんの数年で完成する様な事じゃない。でも、これが初めて使われる神器であれば全ての説明が付く。器がまっさらの新品なら怨念なんて蓄積している訳がないし、能力だってこれから開拓していく事になるから、他の神器と比べても難易度が格段に下がる。……僕にとって、随分と都合のいい神器が宿ったものだよ」

 

 最後は苦笑しながらであったが、確かにイッセーの言う通りだろう。……これだけ神器に革新を齎してきた男に、いくらでも手が加えられる神器が宿ったのだから。

 

「それで、追加の八卦は何を占ったんだ?」

 

 イッセーが二度目の八卦について尋ねると、計都はもはや開いた口が塞がらない様な事を答え始めた。

 

「ドライグや我々が黎龍后の籠手に移り変わった経緯についてだ。まず、お前の魂に神器が宿る際に赤龍帝の籠手と黎龍后の籠手が同時に入り込んだ事で衝突している。ドライグや我々がそちらに移り変わったのはその時だな。その結果、元々天数としてお前に宿る事になっていた黎龍后の籠手が残り、空となってしまったいわば赤龍帝の籠手の器が弾き出されている。そして、現在の赤龍帝の籠手の器の所在だが……」

 

 ここで計都が言い淀んだので、イッセーは先を促す。

 

「計都、続きを頼む」

 

「どうやら天数から外れているらしく、詳細な情報が得られなかった」

 

 計都の八卦では赤龍帝の籠手の器の情報が得られなかった。どうやら、八卦というものも万能という訳ではない様だ。尤も、過去の事象すら調べられるという時点でとんでもない技能だがな。……そう、技能だ。つまり、保持者にしか扱えない神器と異なり、他の誰かに教え伝える事が可能なのだ。その事実に気付いた俺は戦慄した。どうやら、仙道という存在は俺が思っているより遥かに化物染みているらしい。また、計都は八卦で解らなかったという事から逆算して、赤龍帝の籠手の器の在り処を割り出していた。

 

「ただ、天数から外れているということは、赤龍帝の籠手の器はこの世界の外側にあるという事になる。……つまり」

 

 ここでイッセーが計都の言葉を先取る形で答えを出す。

 

「器の在り処は、次元の狭間か」

 

 そして、計都は更に悪い知らせをイッセーに伝えてきた。

 

「もう一つ、悪い知らせがある。黎龍后の籠手はドライグ専用に調整された赤龍帝の籠手と異なり、元があくまで一般の龍の手である以上、ドライグとグイベルが共に覚醒すると容量がまるで足りない。オーフィスの時は短時間だった上にドライグが負担の大部分を肩代わりしていたから何とか持ち堪えられたが、もしあのまま使い続けていれば、遠からず神器が崩壊してお前は死んでいただろう。それを避けるには、どちらかに眠ってもらうしかない」

 

 ……死をも乗り越えて果たされたドラゴンの夫婦の再会が、イッセーを窮地に追い込もうとしている。なんて皮肉だ。俺はそう思わざるを得なかった。そこで、グイベルがイッセーに語りかけてくる。

 

『一誠。それなら、もしドライグが回復して眠りから覚めたら』

 

 もう一度、自分が眠りにつく。グイベルはそう言うつもりなんだろう。……何で、こんな女房の鑑みたいなドラゴンが邪龍扱いされたんだろうな? しかし、イッセーは既に別の解決案を見出していた。

 

「……いや。もう一つ、手立てがある」

 

 そして、その解決案を明らかにする。

 

「赤龍帝の籠手の器を見つけ出し、黎龍后の籠手と融合させる。そうすれば、どちらかが眠らなければならないという事がなくなる筈だ」

 

 確かに、その通りだろう。だが、それはほぼ不可能に近い。計都もそれが解っている様で、最大の問題点を一誠に伝え始めた。

 

「だが、それは広大な砂漠の中から一粒の砂金を見つけ出す様なものだぞ。しかも、これでもまだ楽観視している方だ。それでもやるのか?」

 

 計都の言う通りだ。探索場所は「無」であるが故に無限の広さを有する次元の狭間。ここから特定の物を一から探して見つけ出すなど、実質不可能だ。しかも、対策せずに次元の狭間に行けば、「無」に呑み込まれるかそこに住まうグレートレッドの怒りを買うかして命を失う事になるだろう。しかし、イッセーはそれ等の要素など承知の上だった。現に、計都からの確認に対して答えるイッセーの表情からは、迷ったり怖じたりする様子が全く見られない。

 

「やるさ。いや、やり遂げてみせる。どうせ真聖剣を完成させるには、行方知れずとされているが実際には計都の八卦すら弾く程の強力な圧星術が施された状態で隠されている支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)を探し出さなければならないんだ。だったら、探し物がもう一つ増えても大して問題はないだろう?」

 

 真聖剣を完成させるには、あと一本のエクスカリバーを見つけ出さなければならない。この事実を改めて知らされた時、俺は恐ろしい事実に気付いた。

 

 ……禁手に至っておらず、真聖剣も完成していない以上、世界最強たる無限をあと一歩まで追い詰めたこの男が実はまだ半分も完成されていないという事に。

 

 そして今、イッセーは己を完成させる為に本格的に奔走し始めたのだ。

 

「それに、当てならある。だから、けして勝てない勝負じゃない」

 

 そう断言したイッセーには確かな勝算があるらしく、その瞳は力強く輝いていた。

 

 

 

Interlude

 

 冥界、某所。

 

「……あら?」

 

「どうした?」

 

「どうも、この邸にあの子が来る事になりそうですよ。ただ、目的は貴方ではなく私みたいだけれど」

 

「そうか。……ジェベル。儂はその日、邸を空ける様にする。その時は頼むぞ」

 

「承知致しました、旦那様。……ですが、よろしいのですか?」

 

「人間をやめさせた儂がおっては、流石のあ奴も落ち着いて話ができんだろう。一度やると決めた憎まれ役だ。ならば、最期までやり通さねばな」

 

Interlude end

 




いかがだったでしょうか?

……これで、やっと伏線の回収を始める事ができます。

では、また次の話でお会いしましょう。

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