赤き覇を超えて   作:h995

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2019.1.2 修正


第十八話 無限への挑戦

 精神世界で皆との対オーフィス戦の打ち合わせが終わると、イリナと共に精神世界から元の世界に戻ってきた。すると、先に戻ったらしいイリナが声をかけてくる。

 

「お帰りなさい、イッセーくん」

 

 僕はその声に応える様に目を開けると、少し笑みを浮かべているイリナに返事した。

 

「ただいま、イリナ」

 

 そして僕は体を起こすと、現在の状況を確認する。トンヌラさんと礼司さんが最前線に立ち、瑞貴、祐斗、元士郎、セタンタ、そしてギャスパー君が二人を援護、その合間にヴァーリが単独で攻撃するという形で一人の老人を相手取っている。……その老人のオーラには明らかに覚えがあった。

 

「あれが、オーフィスか」

 

 イリナに確認を取ると、イリナは首を縦に振って肯定した。

 

「えぇ。皆は最初から全力で戦っているけど、全く効いていないみたいなの。この中では一番攻撃力があるルシファー様の終末の手(ハンド・オブ・カタストロフィ)も殆ど効果なかったわ」

 

 悪魔の超越者であるサーゼクス様の終末の手でも効果薄。……という事は。

 

「やはり、出し惜しみはできないか」

 

 僕は現状で出せるものはすべて出す事を決意し、真聖剣を呼び出して静謐の聖鞘(サイレント・グレイス)から抜くと同時に皆に声をかける。

 

「皆、待たせて済まない! ここからは、僕も戦う!」

 

 そして、僕は右手に持った真聖剣を掲げると、最大の切り札を解放した。

 

「ラスト・ファンタズム!」

 

 それによって真聖剣は光の粒子となり、僕の目の前で再形成される。その際、柄の赤い宝玉が刃の中央へと移っており、形状も少し変化した。

 これが真聖剣の切り札、最終幻想(ラスト・ファンタズム)

 この状態になると全ての光力が核となったゾーラブレードに由来する三種の力に注ぎ込まれる為、七種の能力が使用不能になる代わりに威力が一気に跳ね上がる。オリジナルの欠片から星の力を六個回収した今なら、下級であれば神さえも滅ぼす事が可能だろう。

 

「だが、いくら最終幻想でも未だ星の力が揃っていない上に神器(セイクリッド・ギア)による強化もない状態でオーフィスに通用するとはとても思えない。……それなら」

 

 そこで、僕はこの世界に満ちている小さな魂達に語りかけていく。

 

「父と子と聖霊の御名(みな)において、我は今ここに(こいねが)う。草よ、木よ、花よ、虫よ。……世界を支える数多の小さき者達よ。我に邪を懲らしめる力を分け与えたまえ……!」

 

 そうする事で、僕は彼等と心を通わせてその力をほんの少しずつ分け与えてもらう。そして、自分と真聖剣に秘められた聖なる力と分け与えられた力を共鳴させる事で更に高めていく。この時点で、おそらく熾天使(セラフ)までは行かずとも智天使(ケルビム)には届いている筈だった。聖なる力の強化にある程度目途が立った所で、イリナが僕に確認を取ってきた。

 

「イッセーくん、それは礼司小父さまの……!」

 

 おそらくイリナも何度か目にした事があったのだろう。特に隠す様な事でもなかったので、僕は何をしたのかをイリナに話していく。

 

「あぁ、イリナが想像した通りだよ。アーシアはもちろんだけど、僕もまたニコラスから古式の悪魔祓い(エクソシズム)を教わっている。だから当然、無数の魂の調和で成り立つこの世界の理を利用する古式の奥義も扱えるよ。ただ、流石にニコラスや礼司さん程に極めている訳じゃないけどね。……「聖」の力はこれでよし。次は「魔」の力だ」

 

 「聖」の力を高め終えた所で、僕はセラフォルー様達と一緒にいるリアス部長とソーナ会長に兵士(ポーン)の特性である昇格(プロモーション)の使用許可を求めた。

 

「リアス部長、ソーナ会長! 昇格の使用許可をお願いします! 駒王学園が自陣営の領地である以上、お二人の許可なしでは昇格を使用できません!」

 

「リアス」

 

「解っているわ」

 

 僕から使用許可を求められた二人はお互いに顔を合わせると、頷き合った後に昇格の使用許可を出す。

 

「「昇格の使用を許可します(するわ)!」」

 

 二人の許可が下りた為、僕はグレモリーとシトリーの共有眷属である最大の利点を活用する。

 

二重昇格(デュアル・プロモーション)! グレモリー、女王(クィーン)! シトリー、女王!」

 

 そう。僕にはリアス部長の兵士の駒とソーナ会長の兵士の駒が宿っている。その為、例えばリアス部長の駒で騎士(ナイト)、ソーナ会長の駒で戦車(ルーク)といった様に駒ごとの昇格が可能なのだ。また、同じ種類の駒の昇格を重ねると共鳴反応を起こして単純に二倍するより遥かに能力が上昇するが、その分負担もまた大きなものとなる。そして今回使用したのは、最強の組み合わせとなる女王の二重昇格。それだけに負担がどれだけのものになるのか、全く想像がつかない。

 ……だが、これでも全く足りなかった。だから、ネギ君の世界で出会ったタカミチさんから教わった咸卦法を応用した人間としての気と魔力、そしてドライグのオーラを一つにする赤い龍の理力(ウェルシュ・フォース)を新しい領域へと引き上げる。

 

「右に集うは、星の意思に連なる聖にして光の力。左に集うは、終焉へと連なる魔にして闇の力。我が内にて聖魔和合を果たした汝等、今こそ生命の頂点たる龍の力と一つとなりて、新しき理の答えを示せ……!」

 

 僕は真聖剣を一旦地面に突き刺すと、右手に「聖」の力、左手に「魔」の力、胸の前に「龍」の力であるドライグのオーラをそれぞれ集束した後、「聖」と「魔」、「龍」の力を一つに合わせる。以前と異なるのは、「聖」と「魔」の共存の為に「龍」の力で緩衝する必要がなくなった事だ。よって、「聖」と「魔」が融合して生まれる莫大な力を糧に「龍」の力が一気に高まる。そして今、「聖」・「魔」・「龍」の三種の力を融合させた新たな力が僕の全身を覆っていく。この力は、今後の赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)を象徴する奥義の一つとなるだろう。

 

「聖・魔・龍、三位融合で生まれた赤い龍の理力の改式。名付けて、ウェルシュ・フォース・エボルブ。……まさか、初の実戦使用の相手が世界最強のオーフィスになるとは思わなかった」

 

 ただ、ようやく完成したばかりで無駄が多い上に消耗も激しい為に本来なら長期戦を避けるべきだが、対オーフィスの切り札の準備が終わるまでの時間稼ぎをする必要がどうしてもある。改式を用いた初戦闘だというのに、随分と無茶な条件がついたものだった。

 こうして全ての準備を終えたのを機に、僕と年が近い者達が大人達にオーフィスの足止めを任せて僕の周りに集まってきた。まずは瑞貴が僕に声をかける。

 

「古式の悪魔祓いの奥義に兵士の特性である昇格の二重使用、更にそれ等を用いて初めて可能になる新技まで使った上で真聖剣の切り札である最終幻想。正に大盤振る舞いだね、一誠。……でも正直な話、それでもキツイんじゃないかな?」

 

 瑞貴の言う通りだ。だが、オーフィスの望みが真聖剣を携えた僕自身である以上、少なくとも僕には退路がない。そして、既に賽は投げられている。

 

「それでも、やるしかない。ドライグが現在表に出て来られない為に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が万全でない以上、これが今出せる僕の全力だ」

 

 僕の発言を聞いた瑞貴は、呆れた様に溜息を一つ吐いた。

 

「……明らかに僕達を凌駕している状態なのにハンデ付きで万全でないって所が、何とも一誠らしい気がするよ。さて、どうする?」

 

 サーゼクス様とアザゼルさん、礼司さん、トンヌラさんの四人がオーフィスに対して足止めを敢行している中で瑞貴から戦い方を尋ねられた僕は即決でチーム戦を選択し、皆に指示を出す。

 

「この状況で一騎討ちを仕掛ける程、僕は無謀じゃない。当然、チーム戦で行く。瑞貴と祐斗は僕の両翼についてくれ。セタンタは僕と共に中央だ。元士郎には僕の背中を預ける。ギャスパー君とイリナは後方から僕達の援護に専念してくれ」

 

 僕の指示を受け取った瑞貴は了解の意志を示した後、他の皆に確認を取った。

 

「了解。皆。それでいいね?」

 

 瑞貴から問われた皆は、それぞれの言葉で答えを返してくる。

 

「文句なんてモン、俺には欠片もありませんよ」

 

「イッセー君。君から預かった片翼の役目、キッチリ務めてみせるよ」

 

「ここで親友(ダチ)の期待に応えられなきゃ、男じゃねぇな」

 

「はい! 僕、頑張ります!」

 

「イッセーくんとセタンタ君以外は皆悪魔だから光力で援護するのは難しいけど、()(どう)(りき)を主体にすればいけるわね。解ったわ、イッセーくん。援護は任せて」

 

 全員の意志を確認した所で、僕はヴァーリへと視線を移した。

 

「さて、ヴァーリはどうする?」

 

 僕に問い掛けられたヴァーリは当然の様に参戦を表明した。その上で、ヴァーリは奥の手を出す決断をする。

 

「勿論、俺もこのまま戦わせてもらうよ。……アルビオン。そろそろ使い時かな?」

 

『そうだな。一誠も戻ってきた以上、他の者との連携を考慮したり出し惜しみしたりする必要もなくなった。やるなら今だろう。ただ、先程吸収した力は既に使い切っている。少しでも長く維持したいのであれば、もう一度オーフィスから力を奪った方がいいな』

 

「確かに、普通に使うと消耗が激しいからな。よし、次にオーフィスが攻撃してきた時を狙おう」

 

 アルビオンから同意の言葉と使用前のアドバイスを受けたヴァーリは、白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を使用する機会を窺う事にした。

 

「いや、どうせならこっちの方が手っ取り早いぜ?」

 

 しかし、その前に元士郎が一声かけた後で己の神器である黒い龍脈(アブソープション・ライン)のラインをヴァーリに接続し、自分から切り離す。

 

「これは黒い龍脈のラインか?」

 

 ヴァーリの質問に対し、元士郎はラインの接続先とそれからどうするのかを説明し始めた。

 

「コイツはオーフィスと繋がっている。これでオーフィスの力を送り込むから、切り札を使うんならそれからにしてくれ。あぁそれとな、限界が近づいてきたら教えてくれ。流石にこればっかりは本人じゃないとわからないからな」

 

「よくオーフィスに繋げられたな、匙元士郎。それで、できるのか?」

 

 説明を聞いたヴァーリが元士郎に対して感心すると共にオーフィスからの力の供給が可能なのかを確認すると、元士郎はオーフィスへの接続を可能にした方法と能力の本質について説明する。

 

「まぁ通常のラインを何十本も束ねて強力な一本に仕立て上げた甲斐があったって所だな。それで力の供給についてなんだが、一誠曰く「基本的に力というものは大きな所から小さな所に流れていく傾向にあるから、ラインを繋いだ相手が自分より強ければ自然にこちらの方へと力が流れ込む様になっている」らしいぜ。それを踏まえると、実は黒い龍脈は相手が格上であればある程効果が上がる特異的な神器なんだよ。まぁ、そもそもラインをしっかり繋がなきゃ話にならない上に、繋いだ後も吸収した膨大な力を制御できなきゃ自滅するって大問題があるんだけどな」

 

 元士郎の説明を聞き終えたヴァーリは納得の表情を浮かべる一方、アルビオンは心底面白いといった反応を見せた。

 

「成る程。力を奪うという一点に関しては、神格相手には効果の薄い白龍皇の光翼以上という事か。……アザゼルが神滅具(ロンギヌス)以外の神器にも興味を抱く訳だよ」

 

『ククッ。ヴァーリ、やはりお前の代は相当に面白い事になりそうだな。私にはお前、ドライグには一誠。ファーブニルもアザゼルと契約を交わしているところに、ヴリトラにも最上と言える男が相棒となった。これでヴリトラの意識が甦れば、正にドラゴンの祭典だな』

 

 ……ドラゴンの祭典。

 

 アルビオンの口から出てきたその言葉に、ヴァーリは自分の判断が正しかった事を実感した様だ。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)に鞍替えしていたら、この事実は最後まで解らなかったか、解っても相当後になってからだったな。これでまた一つ、楽しみが増えた。鞍替えを思い留まって本当に良かったよ」

 

「元士郎」

 

 ヴァーリの反応を見た僕は元士郎に呼び掛けると、元士郎は頷き返して配置変更を受け入れた。

 

「あぁ、解っている。この際だから、俺はこのままヴァーリの補佐に回るよ。祐斗、しくじるんじゃねぇぞ?」

 

 元士郎が祐斗に失敗しない様にと脅しをかけると、祐斗も負けずに言い返して来た。……尤も、顔が笑っているので当人達にとっては軽口の類になるのだが。

 

「元士郎君、君こそ任された仕事を失敗しないでほしいね。お互い、重要な役目を担っている訳だしね」

 

 そうして親友二人のやり取りが終わった所で、ヴァーリが力の供給の開始を促す。

 

「匙元士郎。始めてくれ」

 

「それじゃ行くぜ!」 

 

 元士郎は早速オーフィスから力を吸収し始めたが、オーフィスの力が余りに強大である為にヴァーリがオーバーフロー寸前になるまでにほんの僅かな時間しかかからなかった。

 

「……もういいぞ、匙元士郎!」

 

 ヴァーリから十分に力を受け取った事を伝えられると、元士郎は吸収能力を停止させる。そして、ヴァーリは白龍皇の光翼に秘められた奥の手である覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を発動させる為の呪文を詠唱し始めた。

 

「では、始めるか」

 

 ……ただし、その内容は歴代の赤龍帝達やドライグの記憶にあった今までのものとかなり異なっていた。

 

「我、目覚めるは……」

 

〈消し飛ばせっ!〉〈消し飛ばしちゃえっ!〉

 

 歴代白龍皇の残留思念の声もまた、今までの様に怨嗟に満ちたものではなくなっている。

 

「覇の理を従えし、新たなる二天龍なり……」

 

〈悪夢が終わるっ!〉〈幻想が始まるっ!〉

 

 その呪文には、白き天龍皇(バニシング・ダイナスト)としてのヴァーリの在り方が反映されていた。

 

「無限に臨み、夢幻に挑む……」

 

〈全部だっ!〉〈そう、全てを勝ち取れっ!〉

 

 また、呪文の詠唱が進むごとにヴァーリが纏っている(ディバイ)(ン・ディバ)(イディン)(グ・スケイ)(ルメイル)から神々しいまでの白いオーラが噴き出し、宝玉は七色の輝きを増していく。

 

「我、白き龍の覇道を超えて……」

 

 それに伴い、鎧の形状がより有機的に、具体的にはドラゴンに近いものへと変化しつつあった。

 

「「「「「「「汝を無垢なる終焉へと誘おう……ッ!」」」」」」」」

 

 そして、呪文の詠唱が終わると同時に眩い光がヴァーリから発せられ、辺り一帯を覆い尽くしてしまう。

 

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!!!!』

 

 やがて光が納まると、そこには神々しいまでの白い光を放つ鎧を纏ったドラゴンの様な姿となったヴァーリがいた。

 

「……思ったより消耗が少ない?」

 

 ヴァーリは覇龍を使用した時の消耗具合に疑問を抱いたが、アルビオンがその疑問を解消する。

 

『いや、違うな。匙といったか。あの男がオーフィスからの力の供給を再開したらしい。オーバーフローしない様に供給量を調整しているから、これなら覇龍を通常の制限時間である二時間と言わずに継続できるぞ。……匙元士郎。世界最強たる無限から力を奪い、更に制御してみせる男か。どうやら私にとっても忘れられない名前になりそうだ』

 

 とうとう二天龍の片割れであるアルビオンにもその名を覚えられる様になった元士郎に対し、ヴァーリは興味を抱き始めた。

 

「アイツとは一誠と一度思う存分戦った後にでも戦ってみるか。一誠とはまた違う形の強さを見せてくれそうだ。……本当に。あぁ本当に楽しみな事ばかりだ」

 

 そこで、オーラを全身から噴き出してサーゼクス様達四人を吹き飛ばしたオーフィスが、僕達のいる方を向いて不気味な笑みを浮かべる。

 

「そう。その光の力を我は探していた。光の力、二年前よりも更に強くなっている。それにそれを使うドライグも、今までのドライグとは明らかに違う。アルビオンやヴリトラもドライグに影響されて大きく変わった。ドライグの(つがい)の天使は我も知らない、でも我に近いドラゴンの力を持っている。今までは周りに誰もいなかったドライグの側に、これだけ多くの者達がいる。……これだけいれば、グレートレッドにもきっと勝てる。だから、我が皆連れていく」

 

 どうやら僕が目覚めるまでに頑張り過ぎてしまい、オーフィスの目に皆が留まってしまった様だ。……これで、ますます負けられなくなった。

 僕が不退転の決意を改めて固めている所に、まずはヴァーリが先陣を切る。

 

「オーフィス! これは挨拶代わりだ!」

 

 ヴァーリはオーフィスに向かって手をかざすと、オーフィスの周りの空間を何度も半分にして超圧縮させる。

 

『Divide Divide Divide Divide Divide Divide Divide Divide Divide Divide……!!』

 

 しかし、およそ千分の一に空間を圧縮する程の圧力を受けているにも関わらず、オーフィスの表情は何ら変化がなかった。

 

「……我には効かない」

 

 オーフィスがそう言うと、次の瞬間には全身から発せられたオーラによって空間を圧縮する力が砕かれてしまった。しかし、ヴァーリは何ら動揺する事無くオーフィスに向かっていく。

 

「行くぞ!」

 

 僕が戦闘開始の声をかけると、皆はそれぞれの答え方で返事をしてくれた。そして、僕達もそれぞれの役割を果たす為に行動を開始する。

 

 ……こうして、僕達の無限への挑戦が始まった。

 

 

 

Side:アザゼル

 

 さっきのオーフィスのオーラをまともに浴びて吹き飛ばされちまったが、ダメージは殆どない。ただ、ここで(ダウン・フ)(ォール・)(ドラゴン・)(アナザー)(・アーマー)の限界が来てしまい、核である宝玉を残して砕け散ってしまった。

 

「……サーゼクス、行けるか?」

 

 ここで、俺は俺と同じ様に吹き飛ばされたサーゼクスにまだ戦えるか確認を取るが、その返事はけして芳しいものとは言えなかった。

 

「体中がまだ少し痺れていて、上手く動かせそうにないな。正直な所、もう少しだけ回復の時間が欲しい所だ。……そちらは?」

 

 サーゼクスが俺の方について訊いてきたので、現状を正しく伝える。

 

「俺の方は堕天龍の鎧があったからダメージ自体はそうでもないが、その鎧もとうとう時間切れで壊れちまった。防御力に関してはこれでガタ落ちだな。さっきのを一発でも喰らったら、即アウトだろう」

 

 俺の現状を聞いたサーゼクスは苦笑いを浮かべた。……たぶん、俺も苦笑いを浮かべている事だろう。

 

「お互い、万全とはいかない訳か。だが、贅沢は言っていられないな」

 

「そういうこった。いよいよ、腹を括る時が来たかもしれないな」

 

 だが、俺達がイッセー達を逃がす為の捨て駒になる最終的な決断を下すその前に、イッセー達がヴァーリの先制攻撃を皮切りにオーフィスとの戦いを始めてしまった。

 オーフィスがヴァーリの先制攻撃を凌いだのを確認したイッセーは、その身に纏った真っ赤なオーラを全開にして俺ですら寒気がする程の聖なるオーラを発する聖剣、おそらくは噂の真聖剣をオーフィスに振り下ろす。それに対して、オーフィスは右腕で受け止めようとしたが、接触する直前に右腕にオーラを集めた。その結果、真聖剣はオーフィスの右腕に傷一つ付ける事無く止められてしまったが、俺はその光景に驚愕した。

 ……と言っても、真聖剣を止められた事じゃない。むしろ今まで、それこそサーゼクスの終末の手に対してすらまともに防御しなかったオーフィスが、イッセーの振るう真聖剣の一撃に対してはっきりと防御を意識したという事実にだ。

 

「クッ! やはりそう簡単には通らないか!」

 

 そういった経緯を知らないイッセーは、オーフィスとの鍔迫り合いを演じながら、改めてオーフィスとの圧倒的な力量差を感じ取っている様だ。

 

「これで、捕まえた」

 

 一方、右腕で真聖剣を防いでいるオーフィスは空いている左手でイッセーを捕まえようと手を伸ばした。

 ……不味い。オーフィスは掴んだ所でもう一度イッセーに自分の力を流し込むつもりだ。しかも、今度は手加減一切抜きで。

 

「そうはさせないよ」

 

「その為の僕達だ」

 

 そこに聖水の剣と聖剣、魔剣の三本が割って入ってきた。聖水の剣は武藤瑞貴、聖剣と魔剣は聖魔剣使いこと木場祐斗だ。二人掛かりでどうにか左手を抑え込んでいる所にイッセーが新たな指示を出す。

 

「今だ、セタンタ! 殴れ!」

 

「了解! オリャアッ!」

 

 オーフィスの両手が塞がっているのを好機と見たイッセーの指示に、セタンタは一片の迷いもなく即座に応じた。そして、その拳がオーフィスの胸の中央を叩く。ここでオーフィスが一旦イッセー達から距離を取って胸を擦ると、首を傾げる様な素振りを見せる。

 

「……ちょっと、痛い?」

 

 ……オーフィスが痛みを感じただと!

 

 俺は再び驚愕を露わにするが、オーフィスに痛みを感じさせた張本人は何処かホッとした様な面持ちでネタばらしを始める。

 

「ヘッ。何だかんだ言って、結局はテメェもドラゴンなんだな。ちっとは効いている様で正直安心したぜ。それでテメェが攻撃力自体は真聖剣に遠く及ばねぇ筈の俺の拳で痛みを感じた訳だが、俺の先祖であるクー・フーリンは空を飛ぶドラゴンの心臓を素手で掴み出すなんて事をやらかしている。その影響だろうな、俺の拳には龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の効果があるんだよ。だからこれ以上痛い目を見たくなけりゃ、一誠さんの真聖剣だけじゃなく俺の龍殺しの拳にも注意するんだな!」

 

 痛みを与えてからあえてネタばらしする事で自分に意識を向けさせ、チームリーダーで攻撃力も最も強いイッセーへの注意を逸らさせる。当然、自分の命の危険が一層高まる事になるが、チーム全体としてはかなり有効な一手だ。コイツ、ただの猪なんかじゃねぇな。全体を見極めた上で退くべき時には素早く退く。その代わり、行くべき時にはトコトン前のめりに突き進む。……切り込み隊長としては、一番敵に回したくねぇタイプだ。

 一方、自分に痛みを与えたセタンタに対しても、オーフィスは興味を持った様だ。

 

「その拳、我の力で強化すれば、グレートレッドにも効くかもしれない。だから、ドライグ達と一緒に連れていく」

 

 そしてまずはセタンタに狙いを定めて、一気に踏み込んでくる。

 

「そうはさせない!」

 

 そのオーフィスの突撃を見切ったイッセーが、さっきとは逆に真聖剣でオーフィスの攻撃を受け止めた。

 

「魔動力、エスタンブル!」

 

 そこにイリナが地面に手を着けてマドーリキなる力を発動すると、オーフィスの足元から赤い光が伸びて足首に絡みつく。

 

「えぇぇい!」

 

 そしてイリナが気合の入った掛け声と共に赤い光を引っ張り上げると、オーフィスの体勢が僅かに崩れた。

 

「合わせろ!」

 

「解った!」

 

「俺も参加させてもらうぞ」

 

 その隙を見逃さず、セタンタ、ハーフヴァンパイアことギャスパー・ヴラディ、そしてヴァーリの三人が一斉にオーフィスに殴りかかる。三人の拳は体勢を崩したオーフィスの顔面にクリーンヒットするが、オーフィスは吹き飛ばなかった。

 

「確かに、ちょっとは痛い。でも、我慢できない程じゃない」

 

 オーフィスはそう言って再びイッセーに手を伸ばそうとするが、その前に武藤瑞貴が動く。

 

「それなら、多少強引になるけど一誠から離れてもらうよ。……氷紋剣、水為る蛇」

 

 武藤瑞貴はイッセーによって突撃を止められたオーフィスの真横に立つと、閻水と呼ばれる特殊な道具に聖水を圧縮させた。そして空中に十字を描く様に四つの点を打ち込むと十字の中央に聖水が集まり、そこから水の蛇が形成されてそのままオーフィスを押し出す。しかし、イッセーからオーフィスを離した武藤瑞貴はその表情を苦虫を噛んだ様なものへと変わった。

 

「やはり、一撃の破壊力が乏しい僕ではオーフィスに対する有効打を出せないか」

 

 そこに木場祐斗が声をかけてくる。

 

「剣の技量はイッセー君以上の瑞貴さんで駄目なら、僕の攻撃も届きそうにありませんね。龍殺しの聖剣や魔剣を僕が作り出せる様になっていれば、また話は違うんですが」

 

 コイツもコイツで悔しそうな表情を浮かべているが、難易度が極めて高いとされている事をそんなにホイホイ創造されてたまるかという思いが俺の心の何処かにあった。しかし、この後で交わされた会話で俺は何処からツッコミを入れたらいいのかわからなくなった。

 

「ない物ねだりをしても仕方がないな。それなら、僕達はオーフィスの攻撃を捌くのに専念するとしよう。祐斗、いけるね?」

 

「任せて下さい、瑞貴さん。オーフィスの攻撃は確かに強烈ではありますが、師匠(マスター)の様に全く読めない訳ではありません。それなら、僕の技量でも対処は十分可能です」

 

 おい、ちょっと待て。世界最強であるオーフィスが仕掛ける攻撃の方が捌き易いって、一体どういう事だ?

 

「よし。それじゃあ、行こうか」

 

「はい!」

 

 しかし、この二人はそれこそ「できて当然」と言わんばかりにやり取りを終えると、イッセーやセタンタに向けられた攻撃の数々を的確に捌いて行く。……イッセー達に関しては、今まで持っていた常識を忘れてしまった方がいいかもしれねぇな。

 

「沈め!」

 

 そこでオーフィスの注意が逸れた一瞬の隙を突く形で、ギャスパーが闇の底無し沼をオーフィスの片足にのみ発動させる。これでまたしても体勢が崩れた所でイッセーの真聖剣が振り下ろされた。オーフィスは体勢を崩した状態から両手を交差させる事で攻撃を凌いだが、ボディが完全にがら空きになる。

 

「ブッ飛べぇっ!」 

 

 その隙をセタンタが見逃さず、ボディに強烈な一撃をぶちかますとそのままオーフィスをかなり上空まで殴り飛ばした。……あぁ。そういえば、クー・フーリンには自分でブッ飛ばした館の巨大な壁を地面に埋まっている状態から一人で引っこ抜いて、更に建築家よりも正確に元に戻してみせたなんて怪力を誇る逸話もあるんだったなぁ。

 

「赤い龍の理力、圧縮(プレス)!」

 

 すると、イッセーは真聖剣を地面に刺して手放すとそのまま両手を組んで頭の上に掲げ、手の中に赤い龍の理力と名付けたオーラを集束した上で更に圧縮し始めた。

 

「ヴァーリ、お前も合わせろ! 俺が穴埋めするから、力の消耗は気にするな!」

 

「解っている! この絶好機、逃す手はない!」

 

 同時に匙に促されたヴァーリも胸と腹の装甲を開いて発射口を開放すると、白い龍(バニシング・ドラゴン)の白いオーラを集め始める。

 ヴァーリがオーラを集め終えるのとほぼ同時に赤い龍の理力を集め終えたイッセーは、そこから両手をオーフィスに向けるとまるで龍の顎が開く様な形で組んでいた両手を広げた。その両手の中では超圧縮された赤い龍の理力が激しい光を放っている。……そして。

 

「ウェルシュブラスター!」

 

『Longinus Smasher!!!!!!!』

 

 膨大な赤と白のオーラが、上空にいるオーフィスに向けて同時に照射された。

 ……ここに至るまでの戦いの推移を見ていた俺の口から、こんな年寄り染みた言葉が自然と出てきた。

 

「これは、世代交代を真剣に考える時がいよいよ来てるのかもしれねぇなぁ……」

 

 ……ただ、それは永遠と言える程の永い刻を生きてきた俺が心の何処かで望んでいた事でもあった。

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

……この戦闘、傍から見ればどんな印象を抱くんでしょうかね?

では、また次の話でお会いしましょう。

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