赤き覇を超えて   作:h995

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第三話と同じく、原作介入の話となります。
……といっても、原作における味方陣営ではありませんが。

追記
2018.12.24 シェイミの鳴き声を追加


第八話 生まれ出づる命

 聖剣計画の被験者であった瑞貴や薫君、カノンちゃんを救出して、実は教会の聖剣使いでも最強だった礼司さんに託してから一年後。

 僕が十四歳となって間もなく、別世界におけるゼテギネア時代のヴァレリア諸島に飛ばされた事がある。なお、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)やエクスカリバーが呼び出せず、更にドライグやカリス、アリスお姉ちゃんを始めとする歴代の赤龍帝と意思疎通ができなかった事に加えて、元の世界に戻ってきた時には一秒すら経っていなかった事から、この時も精神だけが飛ばされていた。

 

 ……そこであった数多くの出来事は、けして誰かに話せるものではない。何故なら、それは誰にも話す事のできない、僕の罪の記憶だから。

 

 だが、あの凄惨極まりない戦乱を潜り抜けた代償として、僕は軽い鬱症状を患っていた。できるだけ表に出さない様にしていたつもりだったが、両親には気付かれていたのだろう。僕の気分転換を図る為に、貯金を崩してゴールデンウィークを利用してフランスに三泊四日の家族旅行に出かけることになった。

 フランスにやってきた僕達は、ルーヴル美術館やエッフェル塔、ヴェルサイユ宮殿等の観光地を三日かけて回った。今までは写真や映像でしか見た事のなかったものを実際に目の当たりにした事で、僕の陰鬱とした気持ちは次第に晴れていった。両親はそんな僕の様子を見て安堵したみたいだった。

 そうして明日は帰るのみという頃になって、僕は宿泊先のホテルの近くにある公園を一人で散歩していた。その時、七歳程の金髪の男の子が項垂れて声を殺して泣いている所に出くわした。その様子が気になった僕は、フランス語でその男の子に話しかける。魔導やオカルト系統に携わる関係上、様々な言語を扱えるようになる必要があったからこそできた事だった。

 

「どうして泣いているのかな?」

 

 すると、僕の声に反応して顔を上げた男の子は涙を流しながら、僕の質問に答えてくれた。

 

「だって、誰も僕と遊んでくれないんだ。僕が変な力を持っているから」

 

 その答えに対し、僕は思わず尋ね返してしまった。

 

「変な力?」

 

 すると、その男の子は少し躊躇したものの、結局はその力を見せてくれた。

 

「……こんな力」

 

 そう言って男の子の前に現れたのは、一匹の小さな仔猫だった。……いや、仔猫というには語弊がある。何故なら、その背中には蝙蝠の翼があったからだ。

 

 ……猫の妖精、ケット・シーだった。

 

「これは?」

 

 この男の子に問い返しながらも、僕は頭の中にあった知識を引っ張り出していた。

 

 ……赤龍帝の籠手もその中に含まれる十三種の神滅具(ロンギヌス)の一つ、魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)。格としては赤龍帝の籠手より上位とされていて、直接的な攻撃力こそないものの、扱い方次第で街はおろか国でさえも簡単に滅ぼす事が可能とされている。

 

 そして、知識を引っ張り出した所で男の子の答えが返って来た。

 

「僕の考えた動物が形になって出て来るんだ。もちろん、手品とかじゃないよ?」

 

 ……確定だった。しかし、同時に思ってしまう。どうしてこんなに幼い普通の男の子に、一国をも滅ぼし得る力が宿ってしまったのか、と。

 そうしてふと気が付くと、その男の子は怯えた様な、そして諦めた様な表情でこちらを見ている。その顔を見た時点で、この男の子に対して今まで他の人がどう接して来たのか理解できた。だから、僕はこの男の子の事を受け入れてみせる事にした。

 

「うん、わかっている。僕は君を信じるよ。……寂しかっただろう?」

 

 そうして僕は頭を撫でてあげた。一人ぼっちで寂しい想いをしていた事を慰め、それに負けること無くひたすら耐えていた事を褒める様に。すると、男の子は僕が頭を撫でて来た事に驚いた後、安心した様な表情を見せて実に男の子らしい事を僕に頼んで来た。

 

「……うん。ねぇお兄ちゃん、僕と遊んでくれる?」

 

 それは、男の子が精一杯の勇気を振り絞って口に出した誘いだった。それを突っぱねることなど、僕には到底できなかった。

 

「いいよ」

 

 僕の笑顔での快諾を聞いたその男の子は、心からの喜びを露わにした。

 

「やったぁ!」

 

 その笑顔には、先程までの陰りなど何処にも見当たらなかった。

 

 大体一時間程だろうか。追いかけっこをしたり、公園で遊んでいた子供達に混ざってサッカーをしたり、色々な事をして男の子と遊んでいた。

 

「あ~、楽しかった。 ありがとう、お兄ちゃん」

 

 すっかり笑顔になった男の子からは、一緒に遊んだ事へのお礼を言われた。その頃には明るい表情が板に付いた男の子の様子を見て、僕は安心していた。そして、僕は大切な事を忘れていた事に気付いた。

 

「よかった。あぁ、そう言えば名前を聞いてなかったね。僕は一誠。兵藤一誠だよ。君は?」

 

 僕は自分の名前を名乗った後で、男の子に名前を尋ねた。すると男の子は僕に名前を教えてくれた。

 

「僕はレオナルド。よろしくね、イッセー兄ちゃん」

 

 男の子、レオナルドにはおそらく日本語の発音が難しかったのだろう、「一誠」と言うべき所を「イッセー」とやや舌足らずな感じになってしまった。しかし、僕はこの「イッセー」という響きに対して、何故かよく犬と間違われた嘗ての相棒の事を思い出し、何処か懐かしい感じを覚えていた。

 

「イッセー、か。随分と久しぶりに聞いた様な気がするな。……よろしくね、レオナルド」

 

 僕はそう言ってレオナルドに返すと、レオナルドは上目使いでこう尋ねて来た。

 

「また、会えるかな?」

 

 ……この質問については、正直に答えないといけないだろう。それが、レオナルドの望む答えでなかったとしても。

 

「……ゴメン。僕は日本から旅行で来ただけで、明日にはもう帰ってしまうんだ」

 

 そんな僕の答えを聞いたレオナルドの落胆ぶりは明らかだった。

 

「そんな……」

 

 魔獣を生み出す異能を受け入れてみせたのは、おそらく僕が初めてだったのだろう。だからこそ、希望を見せた僕と逢えなくなる事で、レオナルドは先程以上に絶望してしまっている。このままでは、レオナルドが絶望の中で全てを諦めてしまうだろう。

 

 ……だったら、レオナルドが今抱いている絶望を何としてでも希望に変えてみせる。

 

 そう思った僕は、その場で決断した。

 

「……レオナルド、おでこを借りるよ」

 

「えっ?」

 

 戸惑うレオナルドを余所に僕はレオナルドの額に自分の額を当てた上で、思念波と霊波長を同調させる。

 レオナルドが所有しているのは神滅具、しかもその中でも更に上級だ。既に能力が発現している以上、近い将来に神話の存在と関わらざるを得ないだろう。だから、僕は考えた。容姿から側にいても人形として怪しまれず、尚且つレオナルドの身が危険になったら戦える存在を。

 

 そして、閃いた。アレで行こうと。

 

 僕は思念波と霊波長を同調させる事で魔獣創造に接続し、魔獣の創造を始める。その時、僕はこの神滅具の中にいる存在に気付いた。それがどういう存在かを悟った時、魔獣創造の能力の仕組みを理解した。

 

 ……そういう事なら。

 

 やがて、僕の望み通りの成果を得られたので、僕はレオナルドの額から自分の額を離した。

 

「……出来た」

 

「イッセー兄ちゃん?」

 

 不可思議そうな表情を見せるレオナルドに対して、僕は説明を始める。

 

「この子達はレオナルドの持つ力を使って、僕が創り出したレオナルドの友達だよ。頭に赤いVの字があるのがビクティニ。青いクリオネみたいなのがマナフィ。そして草の花を背負っている白い獣がシェイミ。皆、レオナルドに挨拶して」

 

 ……そう、前世の世界において世界的なヒットを出した携帯ゲームに出て来る、とても不思議な生き物。その名はポケットモンスター、略してポケモン。なお、ポケモンの性格は基本的にアニメや劇場版に準拠させている。

 因みに、こちらの世界にはポシェットモンスター、略してポシェモンという似て非なるゲームが出ているものの、余り売れなかったのか一作目で打ち切りになっていた。だから、このポケモンについてネタを突っ込まれる心配はないだろう。

 

「ティニ!」

 

「マナァ!」

 

「ミィ!」

〈ミーはシェイミでしゅ。よろしくでしゅ〉

 

 ポケモン達の挨拶を受けて、レオナルドは名前を復唱していた。

 

「ビクティニ、マナフィ、シェイミ……」

 

 僕は明らかに安心した表情を浮かべるレオナルドに対して、心から謝った。人間の友達が出来ない限り、はっきり言って一時凌ぎにしかならないからだ。

 

「ゴメンね。僕にできるのは、ポケモン達を紹介する事で寂しさを紛らわせることぐらいだよ」

 

 その僕の言葉に対して、レオナルドは僕に尋ねて来た。

 

「……ポケモン?」

 

 そして、僕はその問いに答えていく。同時に、最善を選べない事をレオナルドに改めて謝った。

 

「ポケットモンスター、略してポケモン。様々な可能性を秘めた、とても不思議な生き物達の事だよ。……本当は僕が側にいる事で、他の子達と遊べるようにした方が一番良いんだけどね。本当にゴメン、レオナルド」

 

 しかし、僕の謝罪を受けたレオナルドの表情は笑顔だ。

 

「ううん。ありがとう、イッセー兄ちゃん。これで僕は、もう一人ぼっちじゃないんだね?」

 

 どうやら、孤独感からは解放する事ができた様だった。だから、僕もそれを肯定する。

 

「そうだよ。これからは僕の代わりにビクティニやマナフィ、シェイミが一緒にいてくれる。寂しくなったら、何時でも遊んでくれるよ。……そうだ。レオナルドが大きくなったら、いつか日本に遊びにおいで。駒王町という所に僕は住んでいるから」

 

 そして、いつか遊びに来るようにレオナルドに言っておいた。……いつか、本当にそうなる事を祈って。

 

「うん!」

 

 そんな僕の言葉に対して、レオナルドは笑顔で元気に頷いてくれた。そうしていつかの再会を約束して、僕達は笑顔で別れた。

 レオナルドを頼んだよ、ビクティニ、マナフィ、シェイミ。そして……。

 

 

 

Interlude

 

 人気のない山奥の森林の中で、四つの影が夜も更けた事もあって焚火の側で暖を取っている。その背に草花を背負った白い獣が、舌っ足らずな声で七、八歳の少年に話しかける。ただし、人語を話せない為に念話によるものであったが。

 

「ミィ、ミィミィ。……ミィミィ」

〈あれから、もう一年でしゅね。……あっという間だったしゅ〉

 

 その声には、過去を懐かしむ様な響きがあった。白い獣に話しかけられた少年はそれに応じて、昔を振り返りながら独り語りを始めた。……ただし、その内容は平凡からは明らかにかけ離れたものであったが。

 

「僕がイッセー兄ちゃんと皆に出逢ってからだよね、シェイミ? アレから色々大変だったよ。まるでイッセー兄ちゃんがいなくなるのを見計らったかの様に、悪魔や堕天使からは何度も命を狙われるし、そのせいですっかり怯えた親によって寝ている間に山奥に捨てられてしまうし。もし皆がいなかったら僕はとっくに死んでいたか、仮に生きていたとしても世界の全てを恨んでいたかもしれないよ。あの時、寂しくて泣いていた僕と遊んでくれた事も併せて、イッセー兄ちゃんには本当に感謝し切れないね」

 

 その一切の陰りもない澄み切った表情から、本気でそう思っている事は明らかだった。

 

「マナァ……」

 

 その表情を見た青いクリオネの様な生物は、その表情を悲しげなものに変えた。

 

 ……結局、自分達はこの少年が孤立する事を防げなかった。

 

 その様に自身を責める様な雰囲気が感じられた。それに気付いた少年は、青いクリオネの様な生物の頭を優しく撫でる。

 

「大丈夫だよ、マナフィ。僕はけして絶望しない。その為の勇気と希望を、イッセー兄ちゃんがくれたから」

 

「……マナァッ!」

 

 マナフィと呼ばれた青いクリオネの様な生物が少年の言葉を聞いて喜んでいると、頭に赤いVの字を持つ獣が周囲の異変に気付いた。

 

「……ティニ!」

 

「ビクティニ?」

 

 少年が頭に赤いVの字を持つ獣をビクティニと呼びながら、何があったかを問いかける。すると、シェイミと呼ばれた白い獣がその答えを少年に伝えてきた。

 

「ミィ、ミィミィ。……ミィ?」

〈何か、囲まれてしまったみたいでしゅね。……またみたいでしゅよ?〉

 

 シェイミの呆れた様な声に答える様に、少年もまた心底ウンザリといった表情を浮かべた。

 

「……ったく、堕天使達も懲りないなぁ。こっちは殺さない様に気を付けているのに、まだ襲ってくるなんて。これもあるから、イッセー兄ちゃんに会いに行けないんだよね」

 

 少年がそう愚痴を零した。……本当なら、実の両親に捨てられた時点で兄と慕う少年の元へ身を寄せても良かったのだ。しかし、堕天使や悪魔に命を狙われている現状では、とてもではないが身を寄せることなどできない。その事実に少年はちょっとしたジレンマを感じていた。そこでシェイミは、話題を変える様に少年が狙われる理由について言及した。

 

「ミィ。ミィミィ」

〈珍しいでしゅからね、レオナルドの神器(セイクリッド・ギア)は〉

 

 シェイミからレオナルドと呼ばれた少年は、一瞬だけ考え込んでから自身の考えを口にしていった。

 

「まぁね。確かにコレのせいで、ロクでもない目に遭った。でも、コレがあったお陰でイッセー兄ちゃんや皆に出会えたんだから、そう悪い事ばかりじゃないよ。……だから、これからも僕は胸を張って生きていくよ。いつか、堂々とイッセー兄ちゃんに逢いに行ける様に」

 

 そう断言したレオナルドの瞳には、一切の迷いがなかった。……それはレオナルドにとって夢でも希望でもない、己が見定めた確固たる目標であり、未来の現実だった。そして、その歩みを止めない為に、レオナルドは自分達に降りかかる火の粉を振り払う決意を固める。

 

「それじゃあ、ビクティニ、マナフィ、シェイミ。始めるよ? しつこい堕天使達にお仕置きしちゃおう」

 

 レオナルドから声を掛けられたビクティニとマナフィ、そしてシェイミは気合を入れる様にレオナルドに応えた。

 

「ティニ!」

 

「マナァ!」

 

「ミィッ!」

〈解ったでしゅ!〉

 

 そして、レオナルドは三体の魔獣に指示を出す。

 

「ビクティニ、マナフィ、シェイミ! 君達に決めた! いくよ!」

 

 その決意と覚悟を秘めた凛々しい表情からは一切の弱さを感じられず、正に魔獣達の主として相応しいものであった。

 

 ……それから十数分後、レオナルド達はこの場を去っていった。そこに残されていたのは、山火事にならない様にとしっかりと消された焚火の後と、痛みに呻きながら地面に横たわる数十名の堕天使達だけであった。

 

 なお、この戦いにおける死者は一人も出なかった事を追記しておく。

 

 レオナルドが魔獣使い(ビースト・テイマー)と呼ばれ、その名を馳せていくのはもう少し先。そしてその傍らには必ず3体の小さな、しかし強力な魔獣がいたという。

 

 しかし、世界は未だ知らない。

 

 この少年に秘められた可能性は、神話体系の上位存在すらも凌駕し得るものである事を。

 

 魔獣使い、レオナルド。

 

 彼こそは、兵藤一誠によって絶望を希望に変えてもらった存在の第一号であった。

 

 ……絶望を希望に変える。

 

 そしてレオナルドの一件以降、確固たる行動理念として兵藤一誠が掲げる事になったこの言葉は、後に二人の信心深い少女達の心を救う事になる。

 

Interlude end

 

 

 

 僕がレオナルドに出会ってから半年後。

 

「……人間、やれば案外できる物なんだね」

 

 僕は新たな生命の誕生を前に、少々気が抜けた様な事を口にしていた。

 

『なぁ、相棒。お前は一体何がやりたいんだ? 独学のプログラミングの技術とデジタルワールドで得たデジモンの知識、魔動力による神獣召喚の術式、そして以前出逢ったレオナルドの持つ魔獣創造の能力の要素を加えた事で、デジモンとは似て非なる新たな電子生命体を生み出した様だが』

 

「オイラもそれは不思議に思っていたけどさ。それに結局、エクスカリバーはまだ使ってないし。まぁ正確にはまだ再誕には至っていない訳だし、何より使い所に困るのも確かだけどさ」

 

 ドライグとカリスは完全に呆れ返ってしまったようだ。カリスに至っては、なかなかエクスカリバーを使ってくれないと拗ねてもいる。……カリスには後で謝らないといけないとして、確かにドライグの言い分も解らなくもない。僕自身まさか再現できるとは思っていなかったのだ。それに今の状態では僕の意図を余り理解できないと思う。

 

 だが、これだけは言える。

 

「それについては、後で見せるよ。ただ、彼等の存在によって、赤龍帝の戦い方が大きく変わるはずだ」

 

 そう断言した僕の周りには、青い一角獣、紫の蝮、白い獅子、橙の雄牛、赤い龍、緑の猪、そして虹色の光を放つ不死鳥が小さな姿で浮いていた。

 ……彼等の種族は電子の聖獣、データウェポン。前世の頃に偶々見て気に入ったロボットアニメに出て来た幻想の存在だった。

 

 それから一時間後、就寝する事で精神世界に入った僕は早速皆を使ってみせた。

 ドライグとカリスは始め、データウェポンを通常の魔獣と同じ様に使役すると思っていたのだろう。だから、実際に皆の動きを見てもそこまで心を動かされなかった。しかし、本来の用途で使い始めるとこちらに視線を向け、更に彼等に認められる事で得られる特殊能力を見た事で興味を持ち、そして最大の特徴である必殺技を使ってみせた時には明らかに驚愕していた。特に虹の不死鳥、フェニックスエールを使ってみせた時には完全に言葉を失っていた様だ。

 

『相棒、断言しよう。騎士王(ナイト・オーナー)の事を抜きにしても、コイツ等を生み出したという一点だけで、お前は歴代最高の赤龍帝だ。特にフェニックスエールのインフィニットレイヤーは反則もいいところだぞ。どれだけ蓄積した強化の力を使っても、全く消費せずに保持し続けるというのはな。……ヤツの泣き面が目に浮かぶ様だ』

 

 ドライグはそう言うと、その顔を想像したのだろう。独り悦に浸っていた。しかし、これだけは伝えておかなければならないだろう。

 

「実は、データウェポンにはそれぞれ自我意識を持たせることで、彼等の象徴たる心に相応しいと認めた相手しか使用できない様に設定してあるんだ。ユニコーンドリルは壊れない信頼、ヴァイパーウィップは揺ぎ無い自信、レオサークルは挫けない勇気、ブルホーンは煌めく知恵、ドラゴンフレアは溢れ出る慈愛、ガトリングボアは終わりなき創造。そしてフェニックスエールは、絶望の淵にあってもなお消えることの無い大いなる希望。どれだけ力が強くても、その心なき者には彼等の力を扱う事ができないんだ。そしてそれは、生みの親である僕ですら例外じゃない。尤も、彼等には生みの親という贔屓目抜きでどうにか認めてもらえたけどね」

 

 ドライグは僕の行った事を聞いて、今度こそ呆れ返ってしまった。

 

『……という事は、お前は自分が使えない可能性があるにも関わらず、その様な設定をしたのか? 随分と愚かな真似をする物だな』

 

 確かに、ドライグの言う通りだろう。……データウェポンを扱えるのが、僕一人だけであれば。

 しかし、カリスは僕の説明を聞くと納得の表情を浮かべた。

 

「……いや、オイラは何となくわかったよ。イッセーが何を考えているか。それにコイツ等、オイラと同じだ」

 

 ……カリスは「剣」の守護と同時に担い手の選定の使命も担っている。だから、僕の考えも理解できたのだろう。

 

「データウェポンは赤龍帝の籠手とリンクさせてある。つまり、僕以降の赤龍帝も扱う事ができるんだ。ドライグ。今まで様々な赤龍帝を見て来たお前なら、もし赤龍帝であれば誰でも扱える様にしたらどうなるか、容易に想像がつくだろう?」

 

 僕の問い掛けを聞いて、ドライグは納得した様に頷いた。……僕が何を考えて設定したのか、理解できたようだ。

 

『成る程。確かに好き勝手に扱えるようにしておいたら、大半の奴は好き勝手に暴れ回るのがオチだろうな。覇龍(ジャガーノート・ドライブ)()()()連中は特にそうだ。コイツ等をまともに扱えるのは、おそらくお前の指導を担当している連中を含めた極一部だけだろう。その意味では、確かにカリスの言った通り、コイツ等はより高みに至れる赤龍帝を選定する役目を担っているとも言えるな』

 

 そう。その懸念が僕にはあった。だからこそ、作った僕自身が使用できなくなる恐れも呑み込んだ上で、データウェポンの意志による使用制限の設定をしたのだ。

 

「僕はデータウェポンという強力な力を生み出した。力の善悪は使い手次第なのも確かだけど、だからと言って力を生み出した者に責任がないわけじゃない。生み出した力を少しでも悪しき方向に使われない様に努力しなければならないと、僕はそう思うんだ」

 

 それは研究者を志す者として、そして新しい物を生み出す者として絶対に譲れない一線だった。

 

『……全く。相棒、お前と居ると本当に飽きが来ないな。ここまで一緒にいる事が楽しいと思える赤龍帝は、お前が初めてだ』

 

「オイラもさ。それに、そんなイッセーに出逢えた事がオイラの永い生涯で一番の幸運だったって、今ならそう思えるよ」

 

 ドライグとカリスはそう言って、僕を褒めてくれた。

 

「ありがとう。ドライグ、カリス」

 

 だから、僕も笑顔でそれに答えた。

 

 強化した力を一気に消耗して放つデータウェポンの必殺技、ファイナルアタック。僕は後に、その強化した力を一瞬で使い果たす機能を元にした最大火力の必殺技を編み出す事になる。

 その理由として、データウェポン達は結局この世界で日の目を浴びること無く、その命を燃やし尽くしてしまったからだ。

 

 全てを崩壊させる次元災害から世界を守り抜いた、その代償として。

 




いかがだったでしょうか?

介入対象キャラは、禍の団英雄派のレオナルドでした。
良く考えてみると、この子はポケモンとは相性が抜群ではないかと思い、今回の処置となりました。

そして、一誠が作り出した秘密兵器であるデータウェポン。
全エネルギーを一気に消費するファイナルアタックは倍化を蓄積する赤龍帝の籠手と組み合わせると面白いと思い、実行しました。
ただ余りに強力なので、文末に書かれた通り、彼らには一時退場してもらいます。
そして、本当の意味での初登場は相当に先になりますので、そこまで書く事ができればと思っています。

本日もお付き合い頂き、有難うございました。

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