無垢の少女と純粋な青年   作:ポコ

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1週間前と比べてお気に入りが400近く増えました……もう驚かんよ? 頬はめっちゃ緩んだけど。

なんか絵を描きたい気分になったので、2年ぶりくらいに絵を描いてみた。挿絵投稿の実験で活動報告に昔トレスした絵を載せてみたけど、ちゃんと投稿出来て安心。

というわけで、全力でアリエッタを描いてみた。前話でルークの服を掴んで涙ぐんでるアリエッタを。似ねえよう……似ねえよう……! 鉛筆描きな上にスマホのカメラで撮ったやつなので見にくいですが、それでよければどうぞ。何故か横向きになったから、次からは最初から横向きに撮ろう。


【挿絵表示】



6話 居場所

 朝食の時間を報せにルークの居室へ訪れたメイドに案内され、広間へと向かうルークとアリエッタ。

 アリエッタは自分はどうすれば良いか分からずキョロキョロと焦った様子で首を動かしていたが、「何してんだ? さっさと行こうぜ」というルークの言葉に従い、ルークの後ろを離されないように早歩きで付いて行った。

 

 

 広間の前に到着すると、ここまで二人を案内してくれたメイドは優雅に一礼をしてから扉を開け、そのまま後ろに控える。

 当然のように広間の中へ進むルークと、メイドの優雅な一連の動きに目を奪われながらも慌てて付いて行くアリエッタ。

 

 広間には既にファブレ夫妻が席に着いており、シュザンヌの傍には何故か泣きそうな顔をしたヤナギが何かを報告しており、報告を受けているシュザンヌとクリムゾンは、どこか困ったような表情だった。

 扉が開きルークが広間に入って来た事に気付くと、三人は朝の挨拶をする為に一斉に此方を向き――――ルークの後ろに隠れるように立つアリエッタを見て、同時にに動きを止めた。

 

「「「…………」」」

「おはようございます。父上! 母上! ヤナギも!」

 

 嬉しそうに挨拶をするルークだったが、普段ならすぐに返ってくる挨拶が聞こえてこない事を不思議に思い前を向くと、ようやく三人が何故か固まっている事に気付く。

 

「……? 三人とも、何かあったんですか?」

 

 再度声をかけてもやはり反応は無く。少し眉を顰めながらも三人の視線の先を辿ると、自分の後ろにいるアリエッタを凝視している事に気付いた。

 特に何も考えずに連れて来てしまったが、もしかするとアリエッタをここに連れて来たのはマズイ事だったろうかと、慌てて頭を下げようとする。が――――。

 

「アリエッタちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「っ!?」

 

 その行動は、凄まじい速度で自分を追い越してアリエッタを抱きしめたヤナギによって遮られた。

 抱きしめられているアリエッタ本人もいつの間にか抱きしめられている事実に驚き、声にならない悲鳴をあげた。

 

「や、ヤナギ!? いきなり何してんだ!?」

「どこに行ってたの今までどこにいたの!? アリエッタちゃんが家出したんじゃないかってメイドの皆さんにお願いして屋敷中捜してたのに全然見つけられなくてもう屋敷から出て行っちゃったんじゃないかって!」

「あのっ、あのっ……?」

「聞けよ!」

 

 自分の声が全く聞こえていない様子のヤナギは、鼻がくっつきそうなくらいの至近距離でアリエッタを質問攻めにして止まる様子が無い。あまりの鬼気迫る勢いにアリエッタが少し涙ぐんでいるが、それにさえ気付いてないようだ。よく見れば、どこかヤナギの瞳から光が失われているような気もする。気のせいだと思いたい。怖いので。

 

 ヤナギのあまりにもおかしな様子にルークが若干引いていると、遅れてやってきたシュザンヌが軽くヤナギの頭を叩いたところで、ようやくヤナギは正気に戻った。

 目の前で涙ぐむアリエッタにようやく気づくと、慌てて一歩離れる。ヤナギから解放されたアリエッタはすぐにルークの後ろに隠れ、でヤナギを涙目で睨んだ。涙目で警戒態勢に入ったアリエッタを見て、嫌われてしまったかと自分も涙ぐんでしまう。

 そんな二人の様子を見て苦笑するシュザンヌとクリムゾンだったが、アリエッタがルークを頼っている事に気付き、いつの間に信頼関係を築いたのだろうと不思議そうに首を傾げる。

 

 ルークとアリエッタの事は気になるがまずは朝食にしようと、軽く手を二度叩き、席に座るよう促すシュザンヌ。クリムゾンはすぐに上座に座り、その向かって右隣にシュザンヌ、左隣にルークが着席した。ヤナギは先程まで涙ぐんでいたのが嘘のように表情を引き締め、料理人に指示を出す。

 三人が席に座った事を確認してからヤナギと料理人たちが料理の配膳を始めるが、三人分の配膳が終わったところで、普段ならすぐに後ろへ下がる筈のヤナギが困った様子でシュザンヌを見つめた。疑問に思いシュザンヌが見つめ返すと、ルークの方へと視線を向けるヤナギ。

 そこでルークの後ろでぬいぐるみを抱え、どうすれば良いか分からず同じ場所をウロウロと所在無さげに歩くアリエッタに皆が気付いた。

 ルークは先程自分の部屋を出る時の光景の焼き増しのようだと呆れながらも、アリエッタにさっさと席に座るよう促した。

 

「何ぼけーっとしてんだよ。さっさと座らねえと、朝飯が食えねえだろ」

「……アリエッタも、座って良い、の?」

「あ? 何言って…………あ」

 

 導師守護役を務めていた頃の経験から、護衛や付き人は立場が上の人物と一緒に食事をしないという事を知っていたアリエッタは、屋敷の主人であるファブレ夫妻と一緒の食事の場に抵抗を見せる。

 最初は何を言っているのだろうと思ったルークだったが、アリエッタの食事がこの場には用意されていない事。ヤナギの暴走で忘れていたが、先程アリエッタをこの場に連れて来た事はいけない事ではないかと考えた事を思い出し、慌てて弁解しようとするが、それよりも先にシュザンヌが口を挟んだ。

 

「好きな席に座ってくれていいのよ、アリエッタちゃん」

「え、良いんですか? 母上」

「シュザンヌ!?」

「貴方は黙ってて下さいな。そうだ! どうせならヤナギも一緒にどうかしら?」

「え、わ、私もですか!?」

 

 ニコニコと、笑顔でアリエッタに座るよう促すシュザンヌ。クリムゾンが慌てた様子で止めようとするが、口を出すなと一蹴され口を噤んだ。

 一応客人扱いのアリエッタに加え、メイドのヤナギにまで着席を促し始め、今までに無い提案に焦り出すヤナギ。

 その光景を不思議そうに眺めながら、アリエッタはルークに座っても良いのか尋ねた。

 

「座っても……良い、の?」

「あ~……別に大丈夫だろ? 母上が良いって言ったんだし」

「……分かった」

 

 ルークの返答に頷くと、迷わずルークの隣の席にちょこんと座る。

 アリエッタがあまりにも自然にルークの隣を選んだ事に、クリムゾンは様々な感情を含んだ難しい表情でその様子を見つめ、シュザンヌとヤナギは昨日解散してから今までの短い間に、ルークとアリエッタの間に何があったのかが気になって仕方が無い事を隠す気配も無く、目を爛々と光らせていた。

 ルークはアリエッタが迷いなく自分の隣を選んだのを見ると、照れくさそうに頬を染め、アリエッタとは反対の方を向き頬杖をついた。

 ルークにそっぽを向かれたアリエッタは、自分が何かいけない事をしてしまったのかと焦りだす。クリムゾンやシュザンヌ、ルークと付き合いの長いヤナギはルークの行動が照れ隠しだとすぐに気付いたが、まだ知り合ってから数日のアリエッタにそれを察する事は難しく。次第に目元に涙が浮かび始めた。

 これ以上はマズイと判断したシュザンヌは、アリエッタに視線を向けたままヤナギに声をかける。

 

「ヤナギ。今回だけですから、貴女も席に着きなさいな」

「奥様? ……あ。はい! 分かりました!」

 

 シュザンヌの意図を察したヤナギは、オロオロしながらルークに何か話しかけようとするアリエッタの隣に座ると、優しく話しかけた。ヤナギに話しかけられたと気付いたアリエッタは一瞬硬直したが、ヤナギの先程とは違う優しい表情に気付くと、話に耳を傾けた。

 

「アリエッタちゃん。ちょっと耳を貸してね?」

「…………でも……」

「ルーク様の事だよ?」

「…………じゃあ、聞く」

 

 チラチラとルークの方を気にするアリエッタ。その様子に苦笑しながらも続きを離すと、話す内容に興味を持ってくれたようで、素直に耳を寄せてきた。

 

「ルーク様はね、ちょっと照れれるだけだから。別に怒ってるんじゃないよ」

「……照れてる?」

「うん。ルーク様は恥ずかしがり屋だから、アリエッタちゃんみたいな可愛い子と話すと緊張するんだよ」

「…………可愛い……」

 

 可愛いと言われ、以前イオンに自分が拗ねる度に可愛い可愛いと頬を突かれた事を思い出し、思わず眉を顰めるアリエッタ。

 可愛いと褒めたのに何故か不機嫌そうに眉を顰めるアリエッタを不思議に思いながらも、ヤナギは話を続ける。

 

「ルーク様が黙っちゃう時は殆どが照れてる時だから、気にしないでね」

「……ヤナギは可愛くないの?」

「…………え?」

 

 ルークが怒っていると誤解されないように説得するヤナギだったが、アリエッタが返してきた言葉に固まってしまう。

 

「ヤナギと話してる時は、ルーク、普通に話してたから……。可愛いと緊張するなら、ヤナギは可愛くないの?」

「そ、それは……え~と……」

 

 一昨日にルークとヤナギが色々と相談しながらアリエッタに話しかけていた事を、呆然としていながらも、しっかりと覚えていたらしい。

 確かにルークと自分は公爵子息と使えるメイドという主従関係でありながら、かなり砕けた関係であると自負しているが、それは長年の付き合いの中で家族同然に打ち解けているからであり、ルークが自分を姉のように慕ってくれている事をヤナギは気付いていた。

 付き合いが長いからだと説明したいが、それでは自分が可愛くないのかという質問には答えていない。変なところで生真面目なヤナギは、アリエッタの質問に正直に答えなければいけないと思っていた。

 だが、可愛いと言えば自分が自意識過剰のナルシストのようで嫌だ。可愛くないと言えば簡単だが、ヤナギの女としてのなけなしのプライドが、それを言う事を全力で拒否した。

 

 うんうんと唸りだしたヤナギを不思議に思ったアリエッタだったが、自分の前にも料理が配膳されるとすぐに意識をヤナギから外し、料理を観察し始めた。

 出された料理はパンとスープ、サラダという簡単なもので、イオンが気にしなかった為にマナーにはあまり縁の無いアリエッタにも食べやすいものだった。

 

「それじゃあ、食べましょうか」

「はい!」

「うむ」

「え? あ、は、はい!」

「……はい」

 

 シュザンヌの号令に返事をする三人を見て、少し遅れて自分も返事をしてから食事を始める。

 久しぶりに誰かと一緒に食べた食事は、イオンと共に過ごしていた頃を思い出させ、アリエッタをどこか暖かい気持ちにさせてくれた。

 

 

 ◇

 

 

「そう……そんな事があったのですね」

「そうか……よく引き止めてくれたなルーク」

「ルーク様、凄いです!」

 

 朝食後、ヤナギから今朝の騒ぎについての話が出ると、アリエッタは緊張しながらも早朝からの自分の行動について、度々言葉に詰まったり所々ルークが口を挟みながらも、ゆっくりと最後まで話した。

 

 

 魔獣に育てられた、魔獣と友達だという自分の境遇を昨日話したことで、嫌われたに違いないと思い、嫌われる前に屋敷を出ようと思った事。

 

 部屋から出て早々にヤナギに見つかり、慌てて逃げ出した事。

 

 迷って中庭に出てしまったところでガイという青年に出会い、再び逃げ出した先で飛び込んだ部屋が、たまたまルークの部屋だった事。

 

 ルークがガイから匿ってくれ、嬉しかった事。

 

 感情を爆発させてしまい、それをルークが真正面から受け止めてくれた事。

 

 そして、ルークが自分を嫌わないとと約束してくれた事。

 

 

 最後まで話を聞いたシュザンヌ達は、優しい表情でルークとアリエッタを見つめる。何とも言えないむず痒さを感じたルークは、「こいつが泣きそうな顔で言うから、仕方なくだ!」と、顔を赤くしながら言い訳をしていた。それもただの照れ隠しである事は、誰の眼から見ても明らかだったが。

 

「それで、アリエッタちゃんはどうしたいの?」

「え……?」

 

 場が落ちつくと、シュザンヌがアリエッタにこれからどうするのかを聞き始めた。

 

「貴女の立場は一応客人という事になってるけど、それだとずっとこの屋敷にいてもらう事は出来ないわ。もしアリエッタちゃんがここにいたいのなら、客人としてじゃない別の立場を用意します。

 けど、そうすればアリエッタちゃんは、キムラスカの人間として生きていく事になるし、今まで見たいに自由に町の外に出かける事も出来なくなるから、貴女の友達とは会いにくくなるわ。人間社会で生きて行くには、社会のルールを最低限守らないといけないの。導師守護役をしてたアリエッタちゃんなら、その辺りは分かってるわよね?」

「…………」

 

 自分のこれからの生き方を左右する突然すぎる問いかけに、頷く事でしか答えられない。

 

「この街……バチカルを出るなら、多分もうこの屋敷に来る事は出来なくなるわ。今アリエッタちゃんがここにいるのは、たまたま私達が乗った馬車がアリエッタちゃんを轢きかけた偶然のおかげだもの。ここは貴族街だから、本当なら身分の低い者が近寄れる場所じゃないの」

「あ……」

「アリエッタちゃんには辛い質問だけど、これだけは早めに決めておかなきゃいけないの……ゴメンなさいね」

 

 心から申し訳無さそうに、アリエッタへ頭を下げる。

 

 急な話ではあるが、いつまでもこのままではいられないのは確かだ。

 

 とは言っても、本来ならまだ数日は客人としてアリエッタを屋敷に置く事は出来る。それなのにシュザンヌが今この話を始めたのは、アリエッタの本音を聞くには今しかないと感じたからだ。ルークに心を開いたばかりで、依存しかけている今のタイミングしか。

 これがもう数日してからだと、恐らくアリエッタはルークに判断を全て委ねてしまうだろう。ルークが残れというなら残るだろうし、照れ隠しでも残らなくて良いと言われれば、絶望の中屋敷を去ってしまうかもしれない。

 それだと、アリエッタはルークの言う事なら何でも聞く人形と変わらない。今、この場で、自分の意思で自分の居場所を決めてもらわなければ、アリエッタには不幸になる道しか残らない。シュザンヌは朝食の間考え続け、そう結論を出していた。

 

「あ、あの母上! そんな大事な事なら、今すぐじゃなくても少し考えさせてやれば……」

「ルーク」

「うっ……」

「貴方の優しさは尊いものです。ですが、これだけは今、アリエッタが自分で決めなければいけないのです」

 

 緊迫した空気に耐え切れずアリエッタを庇う発言をしたルークだったが、普段のどこかおどけた調子とは違う凛としたシュザンヌの一声には逆らえず、納得いかない様子ながらも引き下がった。

 クリムゾンとヤナギは今のルークへの言葉でシュザンヌの意図を察したのか、口出ししようとはしない。

 

 

 アリエッタは葛藤していた。

 

 屋敷に残れば、この暖かい人達と離れないで済む。けど、友達とは会えなくなるかもしれない。

 

 ここから出れば、友達とは好きな時に会える。けど、ここへ戻って来る事はできず、また一人ぼっちの生活が始まる。

 

 愛情に飢えているアリエッタには、この屋敷での数日間の暮らしはとても心地良いものだった。不安だった自分の境遇についても、受け入れてくれた。

 ここから離れれば、二度とこんな温かい気持ちにはなれないかもしれない。

 

 だが、アリエッタには愛する母がいる。

 

 ライガクィーン。魔獣達の女王。

 

 母親と二度と会えなくなるかもしれないというのは、アリエッタにはこの屋敷から離れる事と同じくらい耐え難いものだった。

 

 人間の愛情か。

 

 魔獣の愛情か。

 

 同じくらい大切な物を天秤にかける苦痛に、頭を抱え蹲る。

 

 

 そんなアリエッタを見かね、大声を上げた者がいた。

 

 

「あー! もう辛抱できねえ!」

 

 突然叫んだルークに、4人ともが注目する。

 4人に見つめられて一瞬怯んだが、構わずにアリエッタを指さして叫び続ける。

 

「何を難しく考えてんだよ! 要するに屋敷に残れば魔獣に会いにくくなって、残らなかったら俺達と会いにくくなるって事だろ!? 別に選ばなかったら二度と会えなくなるわけじゃねーんだから、適当に好きな方を選んだら良いんだよ!」

「好きな方……?」

 

 選ばなかった方と一生会えなくなる訳じゃない。だから好きな方を選べば良い。

 

 そう言われ思い出すのは、イオンと過ごした暖かい日々。

 

 先程の朝食でも感じた、温かい気持ち。

 

 母親からも愛情は受けていたが、ダアトにいる頃は数か月に1度会いにいくだけで満たされていた。

 

 そこまで考え、ルークの顔を見つめる。

 

 イオンと約束した、一緒にいて幸せになれるかもしれない人。

 

 だったら、自分が選ぶのは――――。

 

 

 

 

 

「アリエッタは……アリエッタは…………!」

 

 

 

 

 

 ――――この日、ファブレ家の住人が1人増えた。




なんか、えらく長くなりました。過去最長の6500文字。たまげたなぁ。
ま、アリエッタがファブレ家に住む事になる大事な話だし仕方ない。2話に分けるのもなんか違う気がしたし。

次回からは少しずつほのぼのが入ると思います。

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