アリエッタとファブレ家をとことん贔屓するだけのこの作品が、よもやここまで応援されるとは……感無量であります! 眠気がヤバくて1時までうっかり寝ちゃったけど、今日は夜勤だから問題無い無ーい! 執筆じゃーい! こんなペースで投稿するのって電子の妖精の最初期以来で、妙に新鮮であります。
褒められたらすぐにテンションと執筆速度が上がる、分かりやすいアホ作者でスイマセン。ただでさえ低いクオリティが更に落ちないように気を付けねば。
「「…………」」
アリエッタが金髪の青年から逃げ出し、思わず飛び込んだ部屋。そこはファブレ公爵子息である、ルーク・フォン・ファブレの部屋だった。何度か顔を合わせ、ルークからは幾度も話しかけたものの、ちゃんとした会話になった事は未だに一度も無く。どこか気まずい雰囲気が、差ほど広くもない部屋中に漂っていた。
アリエッタはクローゼットの陰からルークをチラチラと伺い、ルークはそんなアリエッタにどう反応すれば良いか分からず、片手で頭を掻きながら、どうしたものかと悩んでいた。初対面こそ喧嘩腰になってしまったが、アリエッタの境遇を知ってしまった今、突然部屋に飛び込んでこられたとはいえ追い出すような事は出来ず。自分の部屋に来た理由を訊こうにも、こうも警戒している子猫のような反応をされては話しかける事も出来なかった。
互いに動こうにも動けない妙な状況を打ち壊したのは、先程アリエッタが飛び込んできた扉から聞こえてきた、慌ただしいノックの音。ビクンと肩を震わせてしゃがみ込むアリエッタを尻目に、何か屋敷の物を壊して逃げてきたのだろうかと適当に予想しながらも、誰が来たのかを確認しに向かう。
「朝っぱらからうるせえな! 誰だよ!」
「無事かルーク!? 俺だ! ガイだ!」
「あぁ?」
扉の向こうから聞こえてくる焦ったような声は、自分が苦手としている妙に馴れ馴れしい使用人。ガイ・セシルのものだった。無事かどうかを聞いてくるという事は、屋敷に盗人か何かが忍び込んできたのかと、身体を震わせるルーク。詳しい内容を知る為に、自分から扉の向こうのガイに尋ねた。
「無事って何だよ。屋敷に賊が入って来たのか?」
「いや、そうと決まったわけじゃないんだが……さっき中庭に、導師守護役の服を着た小さい女の子がいたんだよ。桃色の長い髪をした10歳くらいの」
「はぁ?」
桃色の長い髪をした少女と聞き、後ろでクローゼットの陰からこちらの様子を伺うアリエッタをチラリと横目で見る。
あいつがまた何か面倒事を持ってきたのかと、思わず息を吐いてしまう。
「あー……そいつが何かしたのか? 屋敷の物を壊しやがったとか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……導師守護役の服を着た知らない女の子がいつの間にか屋敷にいたなんて、怪しいにも程があるだろ? もしかしたら守護役のフリをした諜報員か何かかもしれない!」
「…………ねえよ」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、別に」
アリエッタが諜報員などというガイの有り得ない推測に、反射的にそんな訳あるかと呟いてしまう。この数日の彼女の様子とその境遇を知っているルークからすれば、万に一つも無い話だ。もし本当にアリエッタがスパイで今までの行動が演技だったとすれば、アリエッタと同年代の少女全てがトラウマになる自信があると、ルークは妙な自信を持ってガイの意見を否定した。
「それでルーク。その子がこっちの方に走って行ったんだが、何か知らないか?」
「あぁ、それなら……」
アリエッタの所在を聞いてきたガイに、ここにいると伝えようとしたが、不意に誰かに服の裾を引っ張られた。
振り向くとそこに居たのは、涙目で自分を見上げながら、必死に首を横に振るアリエッタ。理由は分からないが、どうもガイには見付かりたくないらしい。自分が住む屋敷の使用人がアリエッタのような少女に何かをしたとは思いたくないが、無条件でガイの言動全てを信じる程、ルークはガイを信用していない。
何度か扉とアリエッタを交互に見た後、目を閉じてからまた息を一つ吐いた。その反応に再び肩を震わせるアリエッタだったが、ルークの取った行動はアリエッタの予想したものとは正反対だった。
「そんなガキ見てねーよ。俺はさっきまで寝てたんだからな。こんな朝早くにどうでも良い事で起こすんじゃねえ!」
「え……?」
その言葉に思わずルークを見上げると、丁度自分を見ていた彼と目が合った。
数秒間見つめ合っていた2人だったが、ルークは少し頬を赤く染めると、フン! と鼻を鳴らしながら扉へと向き直った。
「おいおい、そんな言い方は無いだろ? ルーク。俺はお前を心配して……」
「うぜぇ! 大体、何で公爵子息の俺にタメ口なんだよお前! さっさと自分の仕事に戻れよ!!」
「なっ……。 ……はいはい、分かりましたよルーク様。もし何かあったら俺を呼べよ?」
「うぜぇっつってんだろ!」
「…………」
まだ何か言いたそうにしていたガイだったが、ルークの剣幕に押されたのか、それ以上は何も言わずに扉の前から離れて行った。恐らく自分の雇い主である父にでも報告をしに行ったのだろうと予想したが、ルークにとってはどうでも良い事なので、すぐに意識から外した。ガイの事よりも優先すべき事が、今もルークの服を掴んでいるのだから。
「……それで、いつまで俺の服を掴んでんだよ。お前」
「…………」
服の裾を掴み続けるアリエッタに呆れた様子で問いかけるが、当の本人はぬいぐるみで口元を隠しながらも、ルークを真っ直ぐに見つめ続ける。
あまりにも真っ直ぐな視線に対しどうすれば良いか分からず、ヤナギでも呼ぶかと外へ向かおうとしたところで、アリエッタの方から話しかけてきた。
「……何で、助けてくれたの?」
「あ? 助けたって、何の話だよ」
「さっきの。あの金髪の男、アリエッタを捜してた。何で知らないって、嘘ついたの?」
アリエッタは不思議だった。
自分はルークに対して、何も庇われるような事をしていない。寧ろ話しかけられても碌に応えていないので、煙たがられているだろうと思っていた。
なのに、ルークはあの金髪の男――――ガイと呼ばれていたあの男よりも、自分を優先してくれた。数日前に会ったばかりの自分を。
何故そんな事をしたのか、アリエッタは何故か無性に知りたくなった。
「……別にお前を助けたとかじゃねえし。あいつは昔っから俺に馴れ馴れしいから嫌いなんだよ。嫌いな奴の言う事なんか聞きたくなかっただけだっつーの!」
「…………うそ」
「う、嘘じゃねえし!」
「…………」
ただ気に入らない相手だからというだけで、自分のような怪しい子供を庇ってくれる理由にはならない。少なくともルークにはそれくらい理解出来ている筈だと、アリエッタは多くの悪意に囲まれたダアトでの生活で養われた観察眼で理解していた。
一度は否定するルークだったが、本当の事を言うまで逃がさないとばかりに見つめてくるアリエッタに対し、やがて根負けしてえ本当の理由を話し始めた。
「昨日までのお前を見て、お前が嘘吐いたり、悪い事をしたりするような馬鹿には思えなかっただけだ! ……それにあんな泣きそうな顔で頼ってこられて、無視できる訳ねーだろ」
後半は小声で呟いていたが、アリエッタの耳にははっきりと聞こえていた。
ぶっきらぼうながらも優しいルークの言葉に、どこか緊張していた表情を緩ませる。
「…………ルーク、優しい」
「んなっ!? べ、別に優しくなんかねえ!」
顔を赤くして否定するルークだったが、その不器用な優しさは、アリエッタに確かに伝わっていた。
必死に自分は優しくなどないと訴えるルークを嬉しそうに見つめるアリエッタだったが、ふと自分が何故ここまで来たのかを思い出すと、先程までの上機嫌が嘘だったかのように沈んだ表情になる。
突然のアリエッタの表情の変化を不審に感じたルークは、自分がまた何か地雷を踏んでしまったのだろうかと慌て始めた。
「お、おい。どうしたんだよ! 別に何も落ち込むような事言ってないだろ!?」
「……アリエッタ、ここから出ていかなきゃ」
「…………はぁ!?」
自分がそこまで追い詰めてしまったのかと更に焦るルークだったが、あまりにも思いつめた様子のアリエッタを見ている内に何か別の理由があるんじゃないかと感じ、アリエッタに問いかけた。
「なぁ。何で出て行くんだよ。誰かに出て行くように言われたのか?」
「……」
黙って首を横に振られる。
無いとは思っていたが、誰かに追い出された訳ではないらしい。
「じゃあ何で出て行くんだよ。もしかして、ガイに何かされたのか?」
「……あの人、少し怖いけど……別に、何もされてない」
「怖いのは怖いのかよ……。じゃあ、何でだ?」
「……………………」
しばらく待つが、泣きそうな表情のまま何も話そうとしない。
「……まただんまりかよ。ったく」
「…………ダメだもん」
「ん?」
「アリエッタ、誰かと一緒にいたら、ダメだもん」
「…………はぁ?」
ようやく返ってきた返答は、自分は一人でなければいけないというものだった。
全く意味の分からない答えに困惑していると、アリエッタはぬいぐるみを強く抱きしめながら、ぼそぼそと続きを話し始めた。
「アリエッタ、嫌われてるから。だから、一緒にいたら、ダメ」
「嫌われてるって……誰かお前に嫌いだって言ったのか?」
「言ってない、けど……分かるもん。絶対、みんな、アリエッタの事キライだもん!」
「……意味分かんねえ。何でそうなるんだ……?」
自分は誰からも嫌われているかのようなアリエッタの発言に、頭を抱えてしまう。自分もあまり前向きとは思わないが、その自分と比べてもアリエッタの後ろ向き加減は酷過ぎる。
どんな環境に居ればこんな事になるんだと考えていたルークだったが、ふと前を見ると窓から外へ出ようとしていたアリエッタが目に入り、慌てて後ろからアリエッタの小柄すぎる身体を抱え上げた。
「ちょ、ちょっと待てよ! いきなり何してんだお前!」
「離して! もうイヤ! イヤな目で見られるのはイヤなの!」
「あーもう! いいから落ち着けって!」
「みんな、みんなアリエッタの事を気持ち悪いって言うもん! 優しくしてくれた人も、アリエッタのお友達の事を話したらイヤな目になった! みんなアリエッタの事キライなんだ!」
そこまで聞いて、ようやくルークは理解した。
昨日の話が原因だと。
昨日アリエッタが全て話してくれたのは、最初から出て行くつもりだったからだと。
もうアリエッタは、人を信じる事に疲れたんだと、理解出来てしまった。
そうしてアリエッタの心情を理解したルークに沸いた感情は――――どうしようもない程の苛立ちだった。
「こん、の…………っ! いい加減にしとけよクソガキ!」
「ひゃっ!?」
そう叫びながら、アリエッタを自分のベッドへと投げ捨てる。
投げ捨てられた本人は何が起きたのか分からず、ぐるぐると目を回していた。
そんな事は知った事じゃないとばかりにアリエッタを見下ろすと、苛立ちのままに次々と言葉を吐き出す。
「黙って聞いてりゃうぜぇ事ばっかり言いやがって! いつも自分の事を話したら嫌われたから、みんな自分の事を嫌いに決まってるだとか、フザケてんじゃねえぞ!」
「え? え?」
さっきまで興奮して話を聞こうともしないアリエッタだったが、ルークのあまりの剣幕に驚き、戸惑いながらも話を聞く事しか出来なかった。
「この俺を! 父上や母上を! そんな気持ち悪い奴等と一緒にすんじゃねえ!!」
「え……?」
「魔物に育てられたとか、魔物と友達だとか、何でそんな事で嫌わなきゃいけねえんだよ! そいつら頭おかしいんじゃねえか!?」
「…………」
人間も魔獣も、生き物は自分達と違うものを嫌う。
それがアリエッタの短い人生の中で心に刻みつけられた、この世界の絶対の真実だった。
なのに。
なのに。
この男の人は何なんだろう?
「つーか、魔物と友達だとか普通に考えてすげぇ事だろ! ライガって、ライオンみたいな格好いい魔物なんだよな?」
「う、うん……」
「マジかよ! すっげぇなぁ……もしかして、俺を乗せて走ったりとかも出来るのか?」
「うん……アリエッタもよく乗せて貰ってるし……」
「良いなそれ! くっそぉ……俺も一回で良いから乗ってみてえー!」
「…………」
さっきまで怒っていた筈なのに、いつの間にか少年のように目を輝かせながら、自分の友達の事を聞いてくる。友達の事を嫌わないでいてくれる。
それはアリエッタにとって、とてつもない衝撃だった。
イオン以外に、いる筈が無いと思っていた。
自分達を嫌わないでいてくれる人なんて、いる訳がないって。
でも――――。
『じゃあ宿題! 僕と魔獣達以外にも、一緒にいて楽しい、幸せだって思える人を見つける事!』
もしかして、この人なら――――。
「……って、あれ? 俺さっきまで怒ってたんだよな。何でこんな話になってんだ?」
「……ルーク」
「ん?」
「ルークは、アリエッタのお友達が、気になるの?」
そうルークに問いかけると、一瞬何を聞かれたか分からない様子だったが、すぐに再び目を輝かせて大きく頷いた。
「あ? あぁ、すっげぇ気になる! 魔物なんか見た事ねえし、乗れるんなら乗ってみてえ!」
「……アリエッタから、ルークを乗せてあげてって、お願いしても、良いよ」
「え、本当か!?」
「うん。アリエッタのお願いを、聞いてくれたら、お願いしてあげる」
「……お願いだぁ? 面倒な事はやらねえぞ」
「…………うぅ」
「げっ!? わ、分かった! 俺に出来る事なら聞いてやるから!」
面倒な事はやらないと言われ、もしかしたら自分のお願いは面倒な事かもしれないと思うと、また目元に涙が溜まってくる。それに気付いたルークは、慌てて言い直した。
「…………ルークは、アリエッタを、ずっと嫌いにならないでいてくれる?」
「あぁ? ……お願いって、それか?」
「……うん」
不安げな眼差しで、ルークを見上げるアリエッタ。
ルークは「またこの目かよ……」と呟きながらも、どこか楽しそうに答えた。
「……ずっとかは分かんねえけど、お前がここに居る間は相手になってやるよ」
「……ホント?」
「あーもう、うぜぇなあ……ホントだよ。ホ・ン・ト!」
うぜぇうぜぇと言いながらも口元が緩んでいるルークを見て、アリエッタも同じように口元を緩ませた。
「ルーク、ありがとう!」
「いちいち礼なんか言ってんじゃねーよ!」
「アリエッタちゃん、どこ行ったの――――――!?」
その頃、必死にアリエッタを呼ぶヤナギ筆頭のメイド軍団が屋敷中を走り回っていたが、メイドが朝食の報せに来るまでルークとアリエッタの2人がそれに気付く事はなかった。
アリエッタをルークに対して敬語にするかどうか迷いましたが、取り敢えずはタメ口。原作をやる限り、上司以外にはタメ口っぽかったので。今作では明らかに目上だと分かる人以外にはタメ口の予定。ルークの使用人になったら、人前だけ敬語になります。
アリエッタの台詞は慣れない相手や気を許してない相手に対しては、ちょっと意識して読点を多めにします。つまり、どもりが無くなったらアリエッタに信頼されたって事です。完全に敵認定した相手にもどもりませんが。後、感情が昂った時も。