つまり、原作アリエッタは9歳児並の精神年齢。原作2年ちょい前開始の今作では、アリエッタは中身7歳児です。レプリカルークと精神年齢は約2歳差だよ! 実に似合いの2人。素晴らしい相性の良さです。ルーク×アリエッタは至高。
「ったく……母上も俺にどうしろってんだよ……父上も助けてくれりゃ良いのに……」
クリムゾンとシュザンヌの2人が部屋から退室――――クリムゾンはシュザンヌの決定に若干眉を顰めていたが、妻の一睨みに負け何も言えず、大人しくシュザンヌと共に部屋を立ち去り、ルーク、ヤナギ、そして未だ泣き止まないアリエッタの3人が部屋に残された。
屋敷内の人物以外では剣術の師匠であるヴァン。自称婚約者であるナタリア。そしてヤナギに会うために訪れる何名かとくらいしか交流の無いルークにとって、アリエッタのような子供との接触は人生初だった。
しかも幼いとはいえ、アリエッタは女性。昔から母であるシュザンヌに、事あるごとに“女性には相手に問題が無い限りは優しくしなさい”と教えられてきたルークにとってはアリエッタは全く以て未知の存在であり、滞在中世話をしろと言われても困惑するしか無かった。
そんなルークの心情を見抜いたのか、ヤナギは優しく微笑みながらルークに助言した。数年前からファブレ家に勤めているヤナギは、5年以上前の記憶が無いルークにとって数少ない今の自分を見てくれる存在であり、彼女の進言はルークは出来るだけ聞き入れる事にしている。尤も、ルークがヤナギを特別扱いしているのはルーク本人も無意識での事だが。
「ルーク様。いつも私と話すみたいに、普通に話しかけてあげてください」
「いつもヤナギと話すみたいにって……また煩いって言われないか?」
先にアリエッタに拒絶された時は思わず売り言葉に買い言葉で返してしまったが、人間関係に疎いルークは何気に幼い少女にハッキリと“煩い”と言われた事に少なからずショックを受けていた。
160㎝以上ある立派な体格な青年のルークが、幼い少女相手にどう接すれば分からずあたふたしている様子を見て、ヤナギは可愛らしいと感じ、思わずクスリと吹き出してしまった。その事に気付いたルークがジト目でヤナギを見つめたが、当の本人はどこ吹く風で助言を続けた。
「泣いてる女の子にあんな言い方しちゃダメです! いつも私や奥様方と話されているルーク様は、もっと優しい話し方ですよ?」
「そうかぁ……? 父上や母上には丁寧に話してるけど、ヤナギと話す時もあんなもんだろ?」
「全然違います! ほら、まずは自己紹介から! アリエッタちゃんの仲良しになるにも、お名前を知らなきゃ何も始まりません!」
「はぁ!? 俺は面倒を見ろって言われただけで、別に仲良くなんて――――」
「だーめーでーす! ずっと一緒にいるんですから、仲良しになって皆で笑ってた方が楽しいです!」
自分から幼いとは言え女性に話しかける事が恥ずかしく、妙にテンションが上がってきているヤナギを何とか止めようとするが、ヤナギの返答に思わず叫び返した。
「ずっとぉ!? 面倒を見るのはこいつが屋敷に居る間だけだろ!?」
「え? ……あ、そういえばあの時はルーク様はいなかったんでした。アリエッタちゃんは身寄りが誰もいないみたいなんです」
「…………へ? 身寄りがいないって……親もか?」
「アリエッタちゃんは一人ぼっちだって言ってただけですけど、多分。すっごい寂しい目をしてたも……してましたから」
「マジかよ……」
それを聞いたルークは、思わず頭を抱えた。
思った以上に、アリエッタは面倒な存在のようだ。
言動は荒っぽいが、元来ルークは優しい人間だ。先程まではある程度アリエッタが元気になれば家に送り返せば良いだろうと考えていたが、その親がいないとならば話は別だ。一人ぼっちだと言う少女を屋敷から放り出すという選択肢は、最初から無かった。
とにかく、今はアリエッタから詳しい情報を聞き出す事が第一だ。一人ぼっちと言っても子供の言う事だ。ただの家出の可能性もある――――勿論、親に捨てられた。もしくは死別したという悪い方の可能性もあるが。
意を決したルークは、口では「メンドくせぇ……」とボヤきながらも、先程までの困惑した様子は見られず、真っ直ぐに啜り泣くアリエッタの下へと向かう。その姿を見送るヤナギは、とても優しい笑顔だった。
「あー……えっと…………なあ」
「…………」
取りあえずアリエッタに声をかけてみるも、先程と同じく反応は無い。拒絶されないだけマシだと思うべきかもしれないが、ルークは第一歩で躓いた。
無言で立ち上がると、真っ直ぐヤナギの方へ戻るルーク。その表情は、何故か一言話しかけただけなのに疲労が目に見えていた。
「無理。あれは無理だ。つーか、何で俺がやらなきゃなんねーんだよ!? ヤナギが行った方が早いだろ!」
「ダメです。ルーク様もいつかは貴族社会に出なきゃダメなんですから、女の子一人くらい元気づけてあげれないなんて、将来困っちゃいますよ?」
「んなっ……! くそ、分かったよ!」
「はい! まずは自己紹介からです!」
アリエッタの相手をヤナギに任せようとしたが、あっという間に言い包められてしまい、再度アリエッタに向かうルーク。貴族社会で子供の相手をする事などまず無いのだが、今のルークにその事に気付く余裕は無かった。
「あー……えっと、俺はルーク・フォン・ファブレ。ファブレ公爵子息……つっても分かんねえか。父上……いや、クリムゾン……シュザンヌ……あー……くそっ! さっきお前が話してた男の人と女の人の息子だ! お前の名前は!?」
「ルーク様……」
ヤナギの助言通りにまずは自己紹介から始めたルークだったが、自分の身分を子供に分かるようにどう言えば良いのかに迷い、半ばやけくそ気味にクリムゾンの息子だと言い放った。これではさっきの二の舞かと、思わず口元を引きつらせたヤナギだったが、意外にもアリエッタは反応し、ゆっくりとルークの方を向いた。
ルーク自身も今の言い方は失敗だったっと自覚していたので、まさか反応されるとは思わず、驚きのあまり一歩後ろへ下がってしまった。
「…………息子……子供?」
「お、おう……」
「………………ルークの、パパと、ママ?」
「呼び捨てかよ……まぁガキだし仕方ねえか。ああ。それがどうかしたのかよ?」
「……………………パパ……ママ…………」
「あ……」
親の話に反応したと思えば、垂れ目がちな瞳に再び大粒の涙を溜め始めたアリエッタに、ようやく失言に気付いたルーク。両親が傍にいない少女に対し両親の話など、傷口に塩を塗るに等しい行為だと、自分の発言を後悔した。
「ぐすっ……」
「あー……えっとな…………あ」
今にも涙腺を決壊させそうなアリエッタを何とかしようと、周囲をキョロキョロと忙しなく見渡すルーク。そして後ろで二人を見守っていたヤナギと目が合った瞬間、これは名案だとばかりにアリエッタに肩を叩きながらヤナギを指で指した。
「ほら見ろ! この屋敷にいる間は、あのヤナギをお前のママ代わりにしてやるから! だから泣くなよ! な?」
「え、ええー!? なんでそんな事になるんですかルーク様ー!?」
「うっせぇ! さっきから自分は無関係みたいにしやがって! お前も母上から頼まれたんだから、それくらいしやがれ!」
「私まだお母さんなんて歳じゃないですよ~!」
「んなもん知るか! 子供が出来た時の練習って思えば良いだろ! 相手はアイツがいるだろーが!」
「こ、こここ子供!? そ、そんなまだ早いです!」
ルークの無茶振りに、慌てふためくヤナギ。
そんな2人を見て思わずきょとんとするアリエッタだったが、母親の代わりという言葉を反芻すると、顔を俯かせぽつりと呟いた。
「…………アリエッタのママは……2人だけだもん……」
「「え?」」
母親が2人いるという、新たなアリエッタの情報。
ルークとヤナギは顔を見合わせると、今度はヤナギがアリエッタに問いかけた。
「アリエッタちゃん。ママが2人って、どんな人なの?」
直接母親が今はどうしているのか聞けば、また感極まって泣いてしまうかもしれない。そう考えたヤナギは、少し遠まわしに母親の事について訊いた。
そして少しの間を空けてからのアリエッタの返答は、またも2人を困惑させた。
「…………アリエッタの本当のママは……アリエッタのお家と一緒に無くなっちゃった。ライガママは……群れで一番偉い長をやってる…………」
「「…………」」
……これは自分達だけでは手に負えないかもしれない。
アリエッタ自身について聞く度に明らかになる、あまりにも常識外の事実についてルークとヤナギが同時に感じた事は、奇しくも全く同じだった。
◇
アリエッタの境遇が予想以上に重いと感じたルークとヤナギは、その日はアリエッタを元気づけるだけに留め、早めにアリエッタの部屋を後にした。
そして翌日。ヤナギと、珍しくルークまでもが真剣な表情でアリエッタの過去を直接聞くべきだと進言されたファブレ夫妻は、ルークとヤナギを連れて、1日ぶりにアリエッタの部屋へと向かった。
ぐっすりと眠れたのか、昨日に比べていくらか顔色が戻ってきているアリエッタを見て、4人は思わず息を吐いた。正直昨日の様子を見た限りでは、衰弱していく一方かもしれないと感じていたから。
アリエッタの精神が幾分か落ち着いていると思った4人は、シュザンヌとヤナギが聞き手になり、アリエッタがこれまでどのような人生を辿って来たのかを尋ねた。
言葉はたどたどしいながらもアリエッタはしっかりと答えてくれたが、その内容は信じられないものばかりだった。
今は無きホド諸島の一つであるフェレス島出身である事。
アリエッタが産まれて間もない頃に起きたホド戦争で、島ごと家族が消えた事。
大津波で漂流し、魔物であるライガクイーンに拾われ、クイーンを母と慕っている事。
ライガクイーンに、7年もの長い間育てられた事。
アリエッタを保護したのが、ルークの剣の師匠であり恩人でもある、ヴァン・グランツである事。
保護されてすぐ、導師イオンを紹介された事。
導師イオンにとても大事にされた事。
イオンを護る為に、僅か2年足らずで導師守護役になった事。
それからの3年間が、とても幸せだった事。
そして――――導師イオンが崩御し、レプリカと呼ばれる存在と入れ替わっている事。
その主犯が、あの大詠師モースとヴァン・グランツの2名である事。
アリエッタの両親を生き返らせるという、ヴァンの残酷すぎる嘘。
全てを信じられなくなった事。そしてダアトからの脱走。
育ての親であるライガクイーンの下に身を寄せるも、人里の匂いが染みついた故に、新参のライガからの拒絶。
友達である魔獣達への襲撃。それによる、人間社会での暮らしの困難さへの理解。
そして一人になり、絶望の中で残った、オリジナルの導師イオンとの約束。
何度も何度も嗚咽で言葉を止めたアリエッタだったが、4人は急かさず、ゆっくりと先を促し――――昼前から始めた筈の話だったが、話し終わる頃には日は完全に暮れていた。
◇
「「「「…………」」」」
話し疲れたアリエッタを休ませた後、4人はファブレ夫妻の私室に集まっていた。
部屋の空気は重く、誰も言葉を発そうとしない――――いや、発せなかった。
「…………父上」
「……何だ? ルーク」
「…………ヴァン師匠が、本当にそんな酷い事をしたんでしょうか?」
重たい空気を破ったのは、ルークの一言だった。
ヴァンに剣術を師事しているルークは、ヴァンの非道を信じられなかった……信じたくなかった。あの場でアリエッタを嘘吐きだと怒鳴り散らしてやりたかった。
だが、アリエッタのあまりにも辛そうに、絞り出すように話す姿を見ると、とても嘘と断言する事は、ルークには出来なかった。
アリエッタとヴァン。どちらを信じれば良いかルークには分からず、耐え切れずに父であるクリムゾンに答えを委ねるが……クリムゾンもまた、アリエッタの話に困惑していた。
「…………まだ、アリエッタの話を完全に信じる事は出来ん。ヴァンと出会う以前の過去も、ヴァンが教えたものだろうからな。魔獣に育てられたというのは真実だろうが……」
「貴方。私はアリエッタの話は全て真実だと思いますわ」
「シュザンヌ!?」
まだアリエッタの話に半信半疑のクリムゾンだったが、全肯定するシュザンヌに思わず叫び振り向いた。
「シュザンヌ! 何の根拠があってそのような事を!?」
「あら。信じているのは私だけじゃありませんよ? ねぇヤナギ」
「なっ……」
シュザンヌだけでなく、ヤナギもアリエッタの話を全て信じているかのような発言に驚きヤナギを見るが、見つめられたヤナギは少し落ち着かない様子ながらも、真っ直ぐにクリムゾンの眼を見て頷いた。
「は、はい! 私も、アリエッタちゃんは本当の事を言ってると思います!」
「そうよね。やっぱりヤナギは分かってるわ」
「…………理由はあるのか?」
あまりにも自信有り気に頷くヤナギとシュザンヌを見て、無碍には出来ないと感じ、アリエッタを信じる根拠を尋ねる。ルークも理由が知りたいのか、真剣な表情でシュザンヌとヤナギを見つめた。
「あら、簡単ですわ。私、ヴァンを最初から信用してませんもの」
「……何?」
ヴァンを信用していないという妻の言葉に、つい気の抜けた返事を返してしまう。
ヴァンは5年前にルークを助けてくれた恩人である。それを信用していないとは、一体どういう事だろうか?
「それはどういう……」
「それは、また後でお話しますわ。今はそれよりも――――」
「ぬ……」
シュザンヌに理由を問おうとしたクリムゾンだったが、妻の言葉に自分以上にショックを受けているルークを見ると、これ以上ルークの前でヴァンの話をする訳にはいかなかった。
「ルーク、疲れただろう。この話の続きはまた明日する。今日はもう休みなさい」
「………………はい、父上」
そう返事をすると、覚束ない足つきで部屋を後にするルーク。
それを慌ただしく追うヤナギを尻目に、クリムゾンは天井を仰いだ。
「導師イオンがレプリカ……? 導師の崩御など、
憔悴した表情で呟いたその言葉を、傍らに立つシュザンヌだけが聞いていた。
重っ……!
書いてて改めて感じたけど、アリエッタの人生が重すぎる! TOAで間違いなく一番キツい過去を歩んでるよ!
アリエッタが導師守護役になったのはオリジナルイオンの指名らしいけど、アリエッタ自身もそうとう努力したと思います。いくら導師自身の指名でも、導師を護る実力が無ければ導師守護役にはなれないだろうと。
今作のルークはヤナギとその仲間達との交流があり、シュザンヌもあんな感じなので、原作みたいにヴァンを妄信してません。依存気味って程度です。え、ガイ? もう何話かしたら出番あるよ。