今回出てくるオリキャラのメイドは、とある漫画のキャラからです。最初はオリキャラにしようと思ったけど、キャラがブレまくる未来しか見えなかったので。俺にオリジナルは、書けない……ッ!
今回から場面転換は
――――――――
から
◇
にしました。前者だと文字数稼ぎだし、分かりにくいので。
キムラスカ・ランバルディア王国。
マルクトと並ぶ2大大国の一つ。
その貴族街に数多く並ぶ屋敷の中でも、一際大きな豪邸――――ファブレ公爵家。
その一室にあるベッドに、一人の少女が眠っていた。
「――――ぅん………………?」
その少女――――アリエッタが薄らと目を開けると、覚醒しきっていない頭で周りを見渡す。
「…………あれ……? アリエッタ、確か……」
見た覚えのない部屋に困惑しながらも、自分が何故寝ていたのかを思い出そうとしていたところで、ドアの向こう側から聞こえてくる足音に気付く。
「――――っ! え、あ、えっと……!」
足音に驚き、アリエッタは咄嗟に逃げようとしたが、見知らぬ場所からどう逃げれば良いのかを混乱した頭では判断できず。あたふたとベッドの上で慌てているうちに、足音の主が部屋の中へと入ってきた。
「失礼しま…………あれ?」
「あっ……」
入って来た人物――――メイド服を身に着けた、黄金色の髪を後ろで一つに纏めた15、6歳頃の少女は、アリエッタが起きているとは思わなかったのか。ベッドの上でシーツを頭から被ろうとしていたアリエッタと目が合うと、お互いに動きを止めて数秒間見つめ合い――――。
「あ、えっと……!」
先に我に帰ったのはアリエッタだった。
扉が開いた今のうちにここから出ようと、シーツを頭に被ったまま、まだ硬直している少女の横を急ぎ足で駆け抜けようとしたが。
「目が覚めたんだね!」
「――――――――――――~~~~ッ!?」
アリエッタが駆け抜けるよりも僅かに早く我に帰った少女が、突然恐るべき反応速度でアリエッタは捕獲――――もとい、抱き締められてしまった。
突然の衝撃に声にならない声を上げるアリエッタだったが、何故か興奮しているらしい少女は全く気付いておらず。
「もう丸一日も起きなかったから、凄く心配したんだよ! もうー!」
「や、やめて、くだ……さ……」
アリエッタの顔色が悪くなっていく事にも全く気付く様子はなく。少女の大声に気付き、他のメイド達が駆けつけて来るまで、アリエッタはされるがままになるしかなかった。
◇
「ごめんなさい……」
「…………」
騒動から数分後。
屋敷の主人にアリエッタが目覚めた事を報せに行くと他のメイド達が退室し、部屋には再びアリエッタと、彼女を抱き潰しかけた少女の2人が残された。
少女は抱き潰しかけた事を気にしているのか目に見えて落ち込んでおり、アリエッタはベッドの上でシーツに包まり、頭だけを出して少女をジト目で睨んでいた。
「あの、本当にゴメンね? 貴女が起きてくれたのが嬉しくて…………。あ! 私の名前はヤナギっていってね!」
「………………」
「…………うぅ~……」
謝りながらも少女――――ヤナギは懸命にアリエッタに話しかけるが、抱き潰し攻撃を受けたアリエッタは警戒を解く事は無く。寧ろヤナギが必死に話しかければかけるほど、それに比例するように警戒心を顕わにしていく様子は、誰が見ても野生動物のそれだった。
流石にヤナギもこのまま続けても逆効果だと気付いたのか、潤んだ瞳でアリエッタを見つめながらも話しかける事を一先ず止め、様子を見守るだけに努める事にした。
◇
「良かった。起きたのですね」
「…………」
それから数分後。メイド達を引き連れたこの屋敷の主人と思わしき妙齢の男性と女性が、アリエッタの居る部屋へやって来た。
女性の方は笑顔でアリエッタの目覚めを喜んでくれたが、男性の方は何か思うところがあるのか、険しい表情を崩す事は無かった。
「…………うぅ……」
「あら……もう、貴方! いつまでもそんな怖い顔をしてたら、この娘が恐がってるじゃありませんか!」
「……む、むぅ」
何で睨まれているのか解らず、男の視線から逃げるようにシーツを被りなおすアリエッタ。
その様子を見た女性は、アリエッタが何を怖がっているのかをすぐに見抜き、隣に立つ男の脇腹を軽く抓る。抓られた男は僅かに口元を引きつらせると、ぎこちない仕草でアリエッタに笑いかけようとし……。
「こ、こうか?」
「………………はぁ」
……その笑顔はお世辞にも爽やかとは言えず。子供が見ればまず間違いなく泣き出すような、威圧感が滲み出たものだった。
女性はやはりかというように溜息を吐き、周囲のメイド達も心なしか口元を引きつらせていた。
これでは笑顔を向けられた少女も、益々怖がるのではないかとその場にいた誰もが思ったが……。
「…………ふふっ」
少女――――アリエッタは、まだ表情に硬さは残るものの、確かに笑顔を見せていた。
その事に男性本人までも驚いていたが、最もアリエッタの近くにいたヤナギだけは、彼女がようやく笑顔を見せてくれた事に安堵し、つられて嬉しそうに笑っていた。
◇
「それじゃあ自己紹介からしましょうか。この顔が恐い男の人は【クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレ】。この屋敷の一番偉い人なの。それで、私はその妻……お嫁さんのシュザンヌ。宜しくね」
「……クリムゾンだ」
「…………アリエッタ……です……」
アリエッタが笑顔を見せてくれたお蔭か、先程よりも柔らかくなった雰囲気の中、女性――――シュザンヌは、大人数だとアリエッタが落ち着かないだろうという理由で最初から部屋にいたヤナギ以外のメイド達を退室させると、改めて自己紹介から始めた。
クリムゾンも妻に続くように名乗りを上げると、アリエッタも小声で自身の名前を名乗った。
ヤナギも改めて名乗りたそうにしていたが、仕えている主の前という事で何とか自制していた。代わりにこの話の後で、アリエッタと絶対に仲良くなってみせるという意気込みを増す事になっていたが。
「アリエッタちゃん……良い名前ね。どうして貴女がここで寝てたのかは、覚えてるかしら?」
「どうして……?」
そうシュザンヌに問われ、考え込む。
確か自分は、一人で街道歩いていた筈。それがどうして、こんな豪華な部屋で見知らぬ人達に保護されていたのか。理由を思い出す為、更に思考に埋没し――――。
「…………あ……」
思い出した。
目の前に迫ってきた、馬車を。
そして――――自分がようやく死ねると、心から安堵した事を。
「………………」
「アリエッタちゃん?」
黙り込んでしまったアリエッタを心配しシュザンヌが声をかけるが、何も言わずにシーツの端を強く握りしめるだけで、何も語ろうとしなかった。
ますは状況を把握して貰おうとの質問だったが、死の恐怖を思い出させてしまったかと反省するシュザンヌ。自分では今はこれ以上話を進める事は無理だろうと思い、隣に目配せをすると、それに応えるようにクリムゾンが一歩前に進み出た。
「……あの馬車には、私とシュザンヌが乗っていた。政務が終わりキムラスカへ帰る道中で、お前……アリエッタが馬車の前にフラリと出てきたとの事だが……何故、お前のような子供が一人であのような場所に居た? 誰か他の者と共に旅をしていたのではないのか?」
「………………アリエッタ……り……です」
「……何?」
やや強い口調で問いかけると、間を開けてからボソボソと小さい声で答え始めたが、あまりに声が小さかったので聞き取れず。再度聞き直すと、夫妻にとって――――否、誰にとっても信じられない答えが返ってきた。
「アリエッタ……イオン様が死んじゃってから、ずっと一人……です」
「……待て。今、イオン様と言ったか? イオン様とはもしや、導師イオンの事か?」
「…………」
クリムゾンの問いかけに、頷きで返すアリエッタ。
――――信じられない
その場にいたアリエッタ以外の3人は、その言葉を信じる事は出来なかった。
当然だろう。
世界を支配していると言っても過言では無いローレライ教団の最高指導者が死んだなどと、妄言と受け取るのが普通だ。ましてや、屋敷に来訪した商人が、つい先日ダアトに立ち寄った時にも導師イオンに新たな
そう。子供の戯言、もしくはただの勘違いだろうと一蹴する事は簡単だ。
だが、アリエッタが着ている衣服は――――。
「……アリエッタ。お前の着ているものは……導師イオンの守護役のものではないか?」
「………………」
再度、頷きで返される。
それを見たクリムゾン達は、混乱の最中にいた。導師守護役と言えば、導師の最も近くに居る者と言って良いだろう。その導師守護役の言葉なら、妄言だと一蹴するのは早計かもしれないと考えると、次々と疑問が沸き出てきた。
導師守護役が何故あのような場所にいたのか。
導師イオンが崩御なされたのなら、今のイオンは何者なのか。
それらの疑問を解消するために再度アリエッタに問いかけようとするが、膝を抱え込み啜り泣き始めたアリエッタを見ると、これ以上彼女を追い詰めるような問いかけは出来ず。続きは明日にしようとヤナギを残し退室しようとしたところで、思わぬ来訪者が現れた。
「父上! 母上!」
「ルーク? 何故此処に……」
「二人の声がしたので…………ん?」
輝くような朱色の長髪の青年――――ルークと呼ばれた彼は、啜り泣くアリエッタを一目見ると、不思議そうに首を傾げた。
「母上。誰ですか? このガ……子供は」
「まったく、この子は……。この子はアリエッタ。昨日、馬車が女の子を轢きそうになったと話したでしょう? 彼女がそうです」
「ふーん……」
母から話を聞くと、無造作にアリエッタの傍に近付き、しゃがみ込んで彼女の顔の高さに目線を合わせ、話しかけた。
「なぁ、なんでお前泣いてんだよ」
「…………」
泣いている理由が気になったのかアリエッタに問いかけるが、啜り泣くばかりで答えようとしない彼女に対し、ルークの機嫌は一気に急降下した。
「この俺が態々聞いてるのにだんまりかよ」
「……うるさい、です……」
「…………あ゛ぁ!? 何うぜぇ事言ってんだお前!」
皇族である自分が気を遣ったというのに、煩いと明確に拒否をされた。
今まで経験したことが無い反応に一瞬硬直するが、何を言われたか理解すると、今にも掴みかからんかという勢いで、アリエッタに怒鳴り返す。
「あ、あのルーク様。アリエッタちゃんは……」
「うっせぇ! こいつが――――」
「ルーク! いい加減になさい!!」
「うっ……」
慌てて仲裁しようとしたヤナギを一蹴し、なおもアリエッタに食って掛かろうとするルークだったが、シュザンヌの一喝を受けると、不満気にしながらもアリエッタから離れシュザンヌの傍へと戻った。
「いいですかルーク。貴族たるもの、女性には優しく接しなければなりません――――勿論、礼儀知らずの愚者は例外ですが。
アリエッタちゃんはまだ幼いのですから、少し素っ気なくされたからと言って怒鳴り返すなどもっての外です! ましてや止めに入ったヤナギにまで怒鳴るなど――――」
「お、奥様! 私の事は良いですから……」
「いいえ。良い機会です。ルークには婦女子の扱いというものを、紳士として徹底的に身に着けてもらわないと!」
「は、母上! 俺が悪かったですから!」
「駄目です」
怒りのシュザンヌから下される判決に嫌なものを感じ、慌てて謝罪するルークだったが、シュザンヌが意見を違える事は無く。
一抹の望みをかけて父親であるクリムゾンを見るが、目が合った途端に目を逸らされてしまった。怒れるシュザンヌの恐ろしさ、頑迷さは夫であるクリムゾンが最も理解しており、触らぬ神に祟り無しと我関さずの態度を貫き通すのだった。
父に見捨てられたと分かると、ルークは肩を落とし、母からの判決を渋々ながらも受ける事にした。これ以上駄々をこねると判決が重くなるだけだと理解しただけだが。
「あ、そうだわ!」
ルークが諦めの境地に達したと同時に、あたかも名案を思い付いたとばかりに、両手を合わせ満面の笑みを浮かべるシュザンヌ。それに反比例し、ルークの表情は沈む一方である。息子を憐れむ父の姿が、彼を更に憂鬱にさせていった。
「ルーク。私、貴方が女性に優しくなるために、良い事を思い付いたの!」
「はぁ……俺はどうすれば良いのですか?」
数か月前にやらされた事は、屋敷のメイド達と共に1週間共に働く事だった。確かあの時は、メイド達の仕事がどれだけ過酷かを知れば、メイド達に優しくなれるだろうだったか……もしかして、あれをした上でヤナギを怒鳴ってしまったのが失敗だったのかと、今更ながらに己の失敗を悔いたが、時既に遅し。
せめて今回は数日で終わる事であって欲しいと願うルークだったが、母の口から出たのは、今の自分にとって最悪とも言える提案だった。
「ルーク」
「はい」
「これからアリエッタちゃんが元気になるまで……それじゃ駄目ね。アリエッタちゃんがこの屋敷に居る間、ヤナギと一緒に面倒を見てあげなさい」
「「……はい?」」
シュザンヌが下した判決の内容に、思わず声をあげるルークとヤナギだったが、内容が変わるわけはなく。
「お願いね♪」
「は、はい! 分かりました奥様!」
「……マジかよ…………」
元からアリエッタと仲よくする気だったヤナギは笑顔で了解したが、先のアリエッタとの騒動を考えると、面倒事が起こる未来しか見えないルークは、母に聞こえないように溜息を吐いた。
三人称は登場人物が増えると難しいなぁ……所々に一人称になってる気がする。まぁどの書き方も難しいのですが。
ちなみに今回登場したヤナギは、【烈火の炎】のメインヒロイン“佐古下 柳”が元ネタです。アリエッタと同年代で、包容力があって、母ではなく友人になれそうなキャラというと、作者の好きなキャラでは柳しか思いつかなかったのです。
アリエッタがあっさりとイオンが死んだ事を話したのは、ネガティブになってるのもですが、そもそも隠すと言う意識が無いからです。