あ、書いたようで書いてなかったのでここで言っておこう。アリエッタがファブレ家に来てから一年経ってます。つまり原作まで後一年です。後でラルフと遭遇した話の頭くらいに、アリエッタがルークと出会ってから一年~とか書き加えときます。
ファブレ家官邸の離れに位置するルークの部屋。
現当主夫妻であるクリムゾンとシュザンヌの両名に認められた者以外は、例え王族であろうと近付けないように定められたのは、立場を弁えずに接触しようとしてくる使用人を遠ざける為の処置であったが、それが今はこうして秘密裡の会合に最適な環境を違和感無く作り出せる理由になっているのだから、分からないものである。
そしてそんな会合場所であるルークの部屋には部屋の主であるルークと、その恋人で付き人でもあるアリエッタ。その二人に加えてルークの両親であるクリムゾンとシュザンヌの四名が、奇妙な来訪者を迎え入れていた。
最も歓迎していると言えるのはアリエッタのみで、ファブレ夫妻は表に出さないが最大限の警戒を。ルークに至ってはあからさまに自分は不機嫌だという表情をしていたが。
そんなルークの反応を見て、来訪者はフンッと鼻を鳴らした。
「いつまでそうやって拗ねた子供みたいな態度を取っているんだい? っと、実年齢を考えればアンタは正真正銘の子供だったね! 僕の方が大人気なかったよ公爵子息サ・マ」
仮にも王族に向かって侮辱にも等しい暴言を吐いた来訪者は、先日ルークとアリエッタに接触してきた、導師イオンのレプリカであるだろう人物、シンクだった。
あの接触から数日後。去り際にまた来ると宣言していたシンクは、街中での接触ではなく、あろう事か警備が厳重な筈のルークの部屋で過ごしていたルークとアリエッタの前に、誰にも気付かれずに現れたのだ。
あまりにも突然の侵入者に声も出ない二人だったが、ファブレ夫妻が必至の形相で部屋に訪れたのはその直後だった。
次々と変わる展開で二人が戸惑う中、夫妻の訪れを歓迎するようなシンクの発言。なんとシンクは、ルークの部屋に訪れる前にクリムゾンの執務室へも侵入し、挑発交じりにシュザンヌと一緒にルークの部屋に来るよう告げていたのだ。
その恐るべき隠密にファブレ夫妻は戦慄を禁じ得なかった。シンクがその気になれば公爵一家が僅かな時間で揃って暗殺されていたという事なのだから、当然の反応だ。
こうして三人に警戒されているシンクだったが、クリムゾンからの殺気なぞどこ吹く風でルークを挑発する余裕ぶり。ルークへの隔意はあれど敵意は見られないその態度に、害意は無いと判断したクリムゾンは一先ず殺気を収めた。最も、明らかにルークの正体を知っている発言は聞き逃せず、何時でも動く事が出来る体勢は崩さなかったが。
「んなっ……!! お、お前だって似たようなもんだろ!?」
「まぁそうだね。アンタが生み出されたのが5~6年前なら、僕の方が年下かな? 何? レプリカ仲間って事で兄さんとでも呼んであげようか? 弟より弱い兄だなんて傑作だね!」
「ぐっ……!」
「まぁ、言語能力も最低限の知識も付けて貰えなかった事には同情するけどね。それともオリジナルの性能の差かな? 僕は教団のトップのレプリカで、アンタは神童とは名ばかりの紅毛の猪のレプリカだもんねぇ!」
「は? 知識を付けて貰えなかった? それに紅毛の猪って何の事……「待て!!」……父上?」
一つ反論しようとすれば十の罵声が返ってくるシンクとの会話に辟易し始めていたルークだったが、紅い猪という意味の分からない単語に首を傾げる。レプリカについて明らかに自分以上の知識を持っているシンクに、憤りよりも疑問が上回ったルークが質問しようとするが、それをクリムゾンの一声が遮った。
鋭い目つきで自分を睨むクリムゾンに対し、シンクは獲物が餌にかかったと言わんばかりに口角を上げた。
「どうしたんだい? ファブレ公爵サマ。急に大声なんか出してさ」
「……貴様、今、何と言った?」
「何を言ったかって? そこのレプリカルークが基礎知識すら入力されてなかった事かい? それとも――――――元神童の紅毛の猪の事かな?」
「…………ッ!!」
「ち、父上? 紅毛の猪って奴知ってるんですか!? 俺のオリジナルだって…………まさか……!」
「ルーク……?」
父であるクリムゾンがこうも感情を露わにする、紅毛の猪と評される人物。オリジナルの導師イオンが崩御している事から、レプリカ情報を抜かれたオリジナルは短命になると思い込んでいたルークは、すぐにはその結論に至らなかった。けど、まさか、自分のオリジナルは……!
驚愕を顔に浮かべるルークを不思議そうに見上げるアリエッタ。そんな二人を視界に入れたシンクはその瞳に僅かに憧憬の色を浮かべるが、次の瞬間にはそれが無かったかのようにルークを嘲笑した。
「まさかと思ったけど、アンタまさかオリジナルのイオンが死んでるから自分のオリジナルも死んでいる……なんて思い込んでいたのかい? 残念ながら、アンタのオリジナルはヴァンの下でピンピンしてるよ! 御大層にも六神将“鮮血のアッシュ”なんて二つ名なんて付けられて、そりゃあもう元気にヴァンの飼い犬をやってるさ!」
「アッ……シュ……?」
「やはり……!」
「あの子が……生きている……?」
オリジナルが健在。
その報せを聞いたファブレ親子は放心、悔恨、困惑と各々の反応を見せながらも、動揺を隠せずにはいられなかった。
「え……えっ……?」
そんな中、アリエッタは一人シンクから齎された情報の多さに、処理が追いつかずに混乱していた。
アッシュという名は教団にいた頃に聞いた覚えはあったが、導師守護役だったアリエッタとヴァンの子飼いであったアッシュにはまだ接点は無く。ヴァンはアリエッタを六神将に引き込んでから二人を引き合わせる予定だったのだろうが、その目論見が叶う前にアリエッタは教団から抜け出したのだった。
そんな名前しか知らない相手が、大好きなルークのオリジナルだった。レプリカに対しての忌避感はあれど、イオン以外のオリジナルの存在など考えもしなかったアリエッタは、どう反応すれば良いのか分からない。
オリジナルが帰って来たら、ルークはどうなってしまうのか? そんな考えが頭を占めたが、かと言ってオリジナルであるアッシュを排除しようなどという考えには至らない。レプリカのイオンにオリジナルの功績を全て奪い取られた恐怖を知るアリエッタが、オリジナルにいなくなればいいなんて事を言える筈がないのだから。
だからと言って、大好きなルークに居場所を返してあげてなんて事も言えない……ルークの意思で居場所を奪ったのではなく、ヴァンに利用されているだけなのだ。だから……。
「…………あれ?」
そこまで考えて、ふと疑問を覚えた。
「……アッシュがいるなら、何で、総長はルークを作ったの?」
育った環境ゆえに思考は幼いが、アリエッタの地頭は決して悪くはない。一度疑問に思うと、次々と疑問点が浮かび上がっていく。
イオンのレプリカが作られたのは、貴重な能力を持つイオンがいなくなるのが問題だからだ。では、オリジナルが存命らしいルークは何故作られた? イオン同様にオリジナルが短命だったというなら、まだ分からなくもない。だが、オリジナルが健在なのに態々レプリカを作る理由が分からない。客観的に見れば、貴重な第七音譜術師という点以外にルークを複製するメリットは無いし、その第七音譜術師も比較的貴重というだけで、少し捜せば何処にでもいる存在でしかない。現にキムラスカ王女であるナタリアも、優秀な第七音譜術師だ。
ましてや公爵子息のレプリカなど、騒動の元になるだけだ。ルークを傀儡にして公爵家を手に入れようとしている? だが、ルークは明らかにヴァンに不信感を抱いているし、そもそもヴァン自身にそのような素振りが見られない。月に一度の剣の稽古相手程度で公爵家やルークからの絶対の信を得れるなど、そんな軽薄な考えは流石に無いだろう。
そもそも何故思い通りに育てやすいレプリカではなく、ある程度成熟しているオリジナルを手元に置いているのか? レプリカはオリジナルより劣化するという事は、オリジナルにしか出来ない何かがある? だから、アッシュを手に入れる為に危険を冒してまで身代わりとしてルークを作った……?
深く考え込んでいたアリエッタだったが、ふと先程まで騒がしかった周囲が静まり返っていることに気付いた。どうしたのかと思い見上げると、部屋にいた四人全員がアリエッタを凝視しており、それに驚いた彼女は思わず愛用のぬいぐるみで顔を隠した。
アリエッタが考えていた内容は所々だが彼女の口から洩れており、それを聞いた面々はまさかアリエッタがそのような事を考えているとは思わず、呆気に取られていたのだ。最も、シンクだけは早々に我に返り、愉快気にアリエッタの考えを聞いていたのだが。
アリエッタが自分達の様子に気付き考えを止めると、ファブレ親子は続々と我に返り今のアリエッタの考えについて各々の考えを巡らせ始める。特にルークについて詠まれた
そんな緊迫した空気を壊すように、愉快そうな笑い声が部屋に鳴り響く。その音の主であるシンクは、これ以上可笑しい事は無いとばかりに腹を抱えて笑っていた。
驚きから顔を隠していたアリエッタも含め、一同がシンクを困惑した表情で見つめていると、ようやく笑いの波が引いたのか、目元を拭いながらその理由を語りだす。
「あーおかしい! ヴァンの奴、ざまあないよね! ちょっと反抗されただけで所詮子供だって諦めた相手に、自分の計画の杜撰さを指摘されまくってさぁ!
そりゃそうだ! あの自分以外を見下している馬鹿は公爵子息サマを誘拐から助けた自分が疑われる訳がないって思ってんだから滑稽としか言いようがないよ! 自分が誘拐を企てた張本人だってのに! 自分で攫って自分で取り戻すとか馬っ鹿じゃないの? そんなの怪しいに決まってるよねぇ!
いや、本当にありがとうアリエッタ! お蔭であんな馬鹿の泥船に乗らずに済んだよ! いくら空っぽの人生だからって、流石に失敗確定の計画の為に無償でくれてやる気はないからさ!!」
そう叫ぶシンクの言葉に嘘は見られず。予想はしていたが唐突に暴露された真実に、益々ファブレ親子は困惑していく。だが、そんな事は知った事では無いとばかりに、シンクは心底嬉しそうな声色でクリムゾンに一つの提案をした。
「ねえ公爵サマ。これから自由にこの部屋に出入り出来る許可をくれるんなら、素敵な提案があるんだけどどうだい? あぁ、流石に来る時は変装くらいはしてあげるよ」
「は、はぁ!? この部屋って、まさか俺の部屋か!? ざけんな!!」
「アンタには聞いてないよレプリカルーク。公爵サマが決めればアンタに拒否権なんか無いんだから、黙って聞いてなよ」
「……その提案とは?」
「ち、父上!?」
自分の部屋への無制限の侵入許可という、自分にとってあまりにもな条件を飲みそうな父に驚愕するルークだったが、クリムゾンにとって……いや、ファブレ家にとって、既にシンクは絶対に放置出来る存在ではなく。害意が無いのならば、この程度の条件ならば飲み込まざるを得ない状況だった。
強く拳を握るクリムゾンの心情を見透かしたシンクは、更に口角を上げるとその提案を告げる。
「この僕が、ヴァンに対してのスパイになってあげるよ。ついでに鬱陶しいモースの情報も、知れる範囲の事は教えてやる」
「…………その申し出が本当なら有難い事だが、その情報が信頼できるという根拠は?」
「はぁ? …………チッ! ……まぁ、いきなり信用しろっていうのも無理な話か。そうだなぁ……」
自分を疑うクリムゾンの態度に心外とばかりに舌打ちをするシンクだったが、流石に自分でも怪しいと思うのか信用を得る為の方法を吟味し始める。
思考を巡らせながら何気なしに部屋を見回していると、ふと自分を睨んでいたルークと目が合った。
ルークの鬱陶しい視線に顔を顰めるシンクだったが、何かを思いつくと表情を一変させクリムゾンに向き直り、更なる交渉内容を提示した。
「じゃあ公爵サマ。まずはアンタの本当の息子の行動予定を教えてやるよ! アイツに遠征予定の日でもあれば、そこを狙って接触も出来るんじゃない?」
そう告げるシンクの口元は、悪戯を思いついた少年のように愉快そうに歪んでいた。
自分で書いててなんだが、シンク捻くれすぎぃ! なんかアリエッタに対してはツンデレで、ルークに対しては捻デレみたいになりそう。
あ、前話のアンケートは更生派がアンチ派と倍以上の票差が付いたので締め切ります。皆ティアが好きなのか、これ以上非常識なキャラはいらんって理由なのか。取り敢えずタグは整理しときます。
しかしこのアンケート機能は便利やなぁ。全員分再アンケートしたらどうなるのやら? 絶対にしないけど。ジェイドとアニス、ガイはともかく、この展開からナタリア更生とか絶対無理。
ティアの設定について
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ティアアンチ(ほぼ原作通りのティア)
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綺麗なティア(真っ当なお姉さん枠になる)