それにしても、気付けば文字のフォントを変えれたり色々出来るようになってますね。使いこなせそうにないけど。
人通りの少なくなり始める夜半頃。キムラスカの大通りで、一人佇む影があった。
「…………来ない、か。まあよっぽどの馬鹿でもない限り、来るとは思わなかったけどさ」
フードを被った小柄な少年はどこか寂しげにそう呟くと、その場から立ち去ろうと踵を返し歩き始めたが、背後から近づいてくる二人分の足音に気付くと、その歩みを止めて振り返った。
「…………まさか、たった二人で来るとはね。馬鹿じゃないの?」
そう悪態を吐きながらも、その口元には僅かに笑みが浮かんでいた。
◇
「……お前が昼間のヤツか?」
少年の下にやってきた二人の人物――――ルークとアリエッタ。その片割れであるルークがアリエッタを護るように前へ出て確認の問いをかける。
だが、少年からすればルークは招かれざる人物だ。ルークからの問いに苛立ったように眉を僅かに吊り上げると、皮肉交じりに答えを返した。
「……呼んでいないアンタに答える義理は無いと思うんだけど? 僕が用があるのはそっちの元導師守護役だけなんだから、雑魚は引っ込んでなよ」
「んなっ……なんだとっ!?」
「ルークっ!」
確認をしただけでここまで辛辣に返されるとは思ってもいなかったルークは思わず少年に掴みかかろうとするが、アリエッタに服を引かれると、歯噛みをしながらも引き下がる。
だが、相手に対する第一印象は最悪だ。少しでもおかしな事をすれば間に入れるようにと、ルークは臨戦態勢を解こうとはしない。
そのルークの様子を少年は冷ややかに一瞥すると、アリエッタへと視線を向けた。
「さて、一応初めましてくらいは言っておこうか。元導師守護役のアリエッタ」
「…………は、はじめ……まして」
ルークへの辛辣な態度とは違い、アリエッタへは一応の礼儀をつくす少年。自分にも何か言われるのではと身構えていたアリエッタは、一瞬驚きながらもなんとか挨拶を返した。
そんなアリエッタの様子に、少年は一つ息を吐くと話を続ける。
「……緊張感無いねアンタ。呼んだ僕が言うのも何だけど、よくここに来れたよね。しかもたった二人でさ。罠だとは思わなかったの?」
「それは……」
「それとも……」
言葉を続けながら、徐に被っていたフードを取る少年。予想していたとは言え、その素顔を見たアリエッタは衝撃のあまり、一筋の涙を流した。
「僕の事をオリジナルのイオンかもしれない、なんて思ったりしたのかい?」
「あ……ああ……」
「だったら滑稽だね。オリジナルはとっくに死んでるし、僕も教団で本物面してるアイツもただのレプリカさ。それくらい自分でも解ってただろう?」
「――――っ!」
「アリエッタ! ――――――テメェっ!」
イオンとうり二つな少年の言葉に、膝から崩れ落ちそうになるアリエッタ。恋人を侮辱されたルークは今度こそ少年の襟首を掴みあげると怒鳴りつけた。
「お前はアリエッタを侮辱するために呼んだのか!? だったら……!」
「煩いな…………離しなよ
「――――ぇ」
少年からの思いがけない言葉に、掴んでいた手から力を抜くルーク。少年はその手をウザったそうに払い襟元を直すと言葉を続けた。
「なん、で……」
「なんで、なんて言葉が出てくるって事は、やっぱり知ってたのか。まぁ、だから呼んだんだけどさ。レプリカが付いてきたのは話が早くて助かるよ」
「ぇ……?」
ルークがレプリカだと知っているからこそ呼んだという少年の言葉に、半ば放心状態だったアリエッタが思わず声を出す。
「それって、どういう……」
「聞いてみたかったんだよね。憎んでる筈のレプリカの傍から離れない、アンタが何を考えてるのかを」
「っ!?」
「……いたんだよ。ヴァンとモースの話をアンタが盗み聞きしてたあの時あの場所に、僕も護衛としてね」
「そ、それなら何で……」
「何でヴァンやモースに言わずに、あまつさえ脱走まで見逃したかって?」
少年からの衝撃の言葉に、黙って頷くアリエッタ。ルークはアリエッタを護りながらも、口を挟むことが出来ずにただ少年を睨みつけていた。
「…………別に、大した理由なんてないよ。ただあいつらの為に動きたくなかっただけさ。実際、アンタがいなくなったって聞いた時のヴァンの顔は傑作だったね! あの苦虫を噛み潰したような無様な面はさぁ!」
「はぁ!? お、お前、ヴァン
「部下? 違うね。僕とアイツはただの共犯者さ! ヴァンへの忠誠心なんてこれっぽっちも無いし、僕をこの世界に生み出したヴァンには憎しみしかないんだよっ!」
ヴァンを嘲笑する少年に思わず問いかけるルークだったが、返ってきたのはまさかのヴァンを憎んでいるという言葉。少年の真意が解らず混乱するアリエッタとルークの二人だったが、そんな二人を気にも留めずに少年は鬱憤をまき散らしていく。
「そう言えば名前を名乗ってなかったね。僕の名前はシンク! ヴァンが付けた、6番目って意味の名前さ! 6番目に産まれたレプリカだからってね! 最高のセンスだろう!? ほら、笑いなよ! あっははははは!」
「そん、な……」
「レプリカなんて、所詮その程度の存在なんだよ! ただの代理品! 道具! 玩具なんだよ僕らはさぁ! なのに……」
そこまで話すと少年……シンクはルークを強く睨みつけながら指を指した。
「アンタ! アンタは本物のルークの代理品だ! 僕と同じヴァンの玩具の筈だっ! なのに何で! 何で! 何で何で何で何で! 何でアンタは…………ッ!」
指先を震わせ、涙を流しながらシンクはルークを強く睨みつける。
その瞳には怒り、羨望、そして……嫉妬が込められていた。
「何で呑気に幸せそうな面で、アリエッタの傍にいられるんだよッ!!」
「……ぇ」
「良いよねえアンタは! 欲しいものを何でも貰えてさぁ! 温かい使用人! 両親! 恋人! 全部全部僕には無いものばっかりだ! ――――何でだよ! 同じレプリカだろう!? 何で……!」
俯き肩を震わせ、涙で地面を濡らしながらも、シンクの糾弾は止まる事は無い。その迫力に、ルークもアリエッタも何も言う事が出来ない。
そして、感情を爆発させたシンクは、最後の言葉を言い放った。
「何でアンタばっかりが愛されているのさッッ!!!」
シンクはそう言うと、言いたい事は全て言ったとばかりに二人に背を向ける。
呆然としていたルークとアリエッタだったが、シンクが立ち去ろうとすると、ルークが慌てて彼の肩を掴んだ。
「ま、待てよシンク!」
「アンタに気安く名前を呼ばれたくないね! さっさと手を離しなよ!」
「ま、待って、シンク!」
「……っ!」
ルークの制止には耳を貸さないシンクだったが、アリエッタの言葉には露骨に反応し、足を止めた。
「…………何の用? 僕にはこれ以上言いたい事なんてないよ」
「け、けど……シンク、アリエッタの事、さっき名前で……」
「~~……っ! ……僕には名前で呼ぶ権利も無いっていうのかい?」
「そ、そうじゃなくて! シンク、アリエッタのことを呼んだ時……凄く寂しそうだったから……っ!」
「…………」
「シンクは、変。ルークには悪口ばっかりなのに、アリエッタはダアトから逃がしてくれて……でも、やっぱり意地悪で……」
最初はイオンのレプリカが自分に何を伝えたいのか知りたい。自分がイオンのレプリカに対して何を思うのかを確かめたいという思いだけで、クリムゾン達の危険だと言う意見を退けてシンクに会いにきたアリエッタ。
実際にシンクに出会い、彼の自分を見つめるの中に寂しさがある事に気付き、ルークを羨む心からの叫びを聞き、更にどう接すれば良いのか分からなくなった。
けど、ただ一つ確かな事は……。
「あ、アリエッタは……シンクの事、嫌いじゃない!」
「…………は?」
アリエッタの思いがけない言葉に、思わず振り返るシンク。
アリエッタの隣では、ルークも目を丸くして彼女を見つめていた。
「……正気? アリエッタ。アンタはレプリカが嫌いなんだろう? ……まぁ、例外もいるみたいだけど」
「レプリカは嫌い……だけど……シンクはイオン様そっくりだけど……」
「はっ! やっぱり――――」
「けど! シンクはアリエッタを助けてくれた!」
「……それは……ただの気紛れで」
「嘘っ!」
気紛れだと言うシンクの言葉を、即座に嘘だと言いかえすアリエッタ。虚を突かれ固まるシンクに対し、今度はルークが言い辛そうにしながらも言葉を続ける。
「……お前、単にアリエッタを助けたかったから助けたんじゃねえのか?」
「…………何を根拠に……」
「だってお前、俺にはボロクソに言うくせに、アリエッタにはそりゃ言い方はキツいけど……なんつーか、もっと自分を見てくれって言ってるようにしか見えねえんだよ」
「な…………っ!」
ルークの指摘に、思わず息を呑むシンク。それは明らかに図星を指された反応で――――。
「シンク……そうなの?」
「ち、違っ!」
目を丸くして問いかけてくるアリエッタに対し、後ずさるシンク。
「……シンク?」
「~~~~~~っ!! また来るっ!」
「あっ!?」
「あ、テメェ! 待ちやがれ!」
顔を真っ赤に染めながらそう言い残すと、目にも留まらぬ速さでその場から離脱するシンク。
高台を飛び下り、屋根から屋根へと跳びまわりあっという間に遠くなっていくその影を、二人は呆けながら見送る事しか出来なかった。
うーん、久々に書いたら難しい。
シンクをこのままファブレ家に在住させるルートも思い浮かんだけど、シンクの性格的に無理そうだったのでこうなりました。もっと心理描写上手くなりたい。