こんなんじゃいつ原作に入るか分かんないよ……。
アリエッタとルークの二人が城下町でラルフと遭遇してから、早くも二か月の時が経った。
その間、特に大きな問題は起こらず、二人は知識面、戦力面共に順調に実力を伸ばしており、今ではそれぞれの師に一撃を与える事が出来る程には成長していた。
そのように順風満帆とも言える生活を送っていたが、ルークには未だに越えられない壁があり。自分が強くなればなるほどに、その壁も高くなっていくような錯覚に囚われていた。
その壁とは――――。
「くっそー! 魔神拳! 魔神拳ッ! 魔じ――――」
「ガウッ!」
「――――がっ!?」
ルークの遠距離技での猛攻を掻い潜り、強力なタックルを喰らわせたライだった。
「げほっ、げほっ……ち、畜生! まだだライ! 今度こそ……」
「ダメですよールーク様。一回でも攻撃を受けたら終わりって、前に決めたじゃないですか!」
「うっ……!」
試合の続行を求めるルークだったが、大怪我をしないように設けられたルールを持ち出されては何も言えず。ヤナギのいう事に渋々と従うしかなかった。
「ルーク……大丈夫?」
「アリエッタ……ゴメンな。いっつも格好悪いとこ見せちまって……」
自分を心配してのアリエッタの言葉は嬉しくもあるが、それ以上に恋人に自分の不甲斐無さをみせてしまっている事がルークには耐えられなかった。
そんなルークの心境を知ってか知らずか、アリエッタはルークを元気づけようとするが……。
「ワウッ!」
「え、ライ? ちょ、ちょっと待って……」
「は? お、おいライ!」
アリエッタの隣にいたライが彼女の服の袖を咥えると、ルークよりも自分を構えと言わんばかりに引っ張り始めたのだった。
露骨に視線でそう語るライに、アリエッタが抗うことなど出来る筈もなく。ルークの方をチラチラと気にしながらも、よくやったとライを褒める事を優先した。
「うん。ライは良く頑張ったね」
「わふっ!」
「ぐ、ぐぅ…………!」
頭を撫でられ、これでもかとばかりに嬉しそうに尻尾を振るライ。だが、ルークからすれば恋人が自分よりも友達を優先している現状は面白くはなく、不満気にライを睨む事しか出来なかった。
そしてその視線を、動物故に人よりも遙かに気配に敏感なライが気付かない筈も無く。
「――――――フンッ!」
「はぁっ!? こ、こいつ! 今俺の事を鼻で笑いやがったぞ! なあ見ただろヤナギ!?」
「あ、あははは……」
あろうことか自分を見て鼻で笑うライに憤慨するルークだが、アリエッタの傍にいるライに挑みかかるわけにもいかず。ヤナギに向けて鬱憤を吐き出すのだった。
このような光景だが、アリエッタとルークが恋人同士になってから半月もした頃から見られ始め、今では数日に一度は二人のアリエッタ争奪戦が起こっていた。
理由は単純。姉弟同然に育っていたアリエッタをルークに取られたライが、ルークに対してヤキモチを焼いているのだ。
最も本気で嫌い合っている訳ではなく、喧嘩友達のような間柄に収まっているのは幸いと言うべきか。
ちなみにだが、ライと違ってフーはアリエッタの姉のポジションにいた為かヤキモチを焼く様子は見られず、純粋にアリエッタの幸せを祝福してくれている様子だった。
◇
「くっそー! 最近ライのやつ、どんどん我儘になってねえか!?」
「ご、ごめんねルーク……アリエッタがライをちゃんと叱ってないから……」
「いや、アリエッタのせいじゃねえけど……次こそはあの生意気なライに一撃入れてやるからな!」
「……あんまり、痛くしないであげてね?」
ライとの特訓が終わり、月に一度の外出日として城下町を並んで歩くルークとアリエッタ。
ルークは未だにライに惨敗した事と、その後の自分を煽るような態度に憤っており、次こそはライに勝ってみせると決意を新たにしていた。
そんな負けず嫌いのルークも好きだが、アリエッタとしては近くに護衛が潜んでいるだろうとはいえ、月に一度だけの貴重な二人きりでの外出時間をこれ以上減らしたくは無かった。
「…………」
「だいだいライのヤツは俺の事を……へ?」
そう思ったアリエッタは、僅かに羞恥に頬を染めながらもルークの手に自分の指を絡める、いわゆる恋人繋ぎというものを、自分からする事にした。
普段は無邪気だが恋愛事に関しては引っ込み思案なアリエッタがこのような事をしてくれるとは思わなかったルークだったが、俯きながらも自分の手を離そうとしないアリエッタを見ると嬉しさで胸がいっぱいになり、自分も繋いだ手を離すまいと軽く力を入れた。
「………………えへへ」
握り返された事に驚きルークを見上げたアリエッタは、そっぽを向いたルークの耳が真っ赤に染まっている様子を見ると、ルークも自分と同じような気持ちでいてくれるのだと察し、幸せいっぱいの笑顔を浮かべる。
恋人のそんな様子を横目で目撃したルークは耳どころか顔全体を真紅に染め、今すぐアリエッタを抱き締めたい衝動を必死に抑え込んでいた。
(あぁー! 毎回毎回、アリエッタのやつ自分がどれだけ可愛いか分かってんのか!? そんな顔で笑われたら……あーくそっ! 俺はどうすりゃ良いんだ!?)
恋人になって二か月以上経つというのに未だに初々しい二人の様子は、ファブレ家どころか数回しか目撃されていない城下町でも癒しの代名詞として話題になっている事を、二人はまだ知らない。この事がルークの耳に入れば、羞恥のあまりに二度と街へは行かないと屋敷に引きこもる事になるだろう。
最も、寂しそうなアリエッタに根負けして引きこもる事を諦める事になるのが目に見えているが。
そんな甘酸っぱい空気を醸し出していた二人だったが、前方からどこか異様な雰囲気を放つフードの人物が歩いてきている事に気付き、警戒態勢に入った。
自分より少し低いくらいの背丈かと、フードの陰から見える緑の髪を見ながら考えるルークだったが、僅かにフードの人物から意識を逸らした瞬間、気付けば件の人物はアリエッタの目前にまで迫ってきていた。
「な!?」
「――――っ!」
怪しい人物にここまでの接近を許してしまった事に対する焦りと、自分達に気付かれずにここまで接近する事が出来る技量への驚愕を胸に、迎撃しようとする二人。
だが、そんな二人を嘲笑うかのように、フードの人物はアリエッタの耳元に顔を寄せ何かを呟くと、颯爽と人ごみの中へと消えて行った。
「……なんだったんだ、あれ? アリエッタ、アイツに何も言われ……アリエッタ!?」
結局は何もせずに立ち去った怪しい人物に首を傾げるルークだったが、アリエッタに安否を確認すると、その表情は愕然としており、顔色は真っ青になっていた。
「おいアリエッタ! どうしたんだよ! アイツに何を言われたんだ!?」
「る、ルーク……! あの、あの人の声……!」
――――――イオン様と同じ声だった。
「………………は?」
「………………」
アリエッタのその言葉に、呆然とするルーク。アリエッタも現実を受け止めきれず、護衛の騎士が異常に気づき声を掛けるまで、二人はそこに立ち尽くしていた。
◇
「“レプリカの正体を知っているんだろう?”……その男は、確かにそう言ったのだな? アリエッタ」
「は、はい……」
屋敷に帰った二人はクリムゾンに呼び出され、何が起こったのあを問われていた。
あのフードの男に囁かれた言葉は、アリエッタにとって……否。ファブレ家にとって、決して聞き逃せない言葉だった。
「そして、意味を知りたければ、今夜同じ場所で、と。人数に制限などはつけなかったのだな?」
「……はい」
あからさまに怪しい誘いだが、内容が内容だけに決して逃す事は出来ず。無視をするという選択を取る事は出来なかった。そして何よりも――――。
「……人数に制限を付けなかったとは言え、内容が内容だ。信頼できる者達だけで、少数で行くべきだろう。その信頼できるものには
……それでアリエッタ。その男の声は本当に…………」
「…………」
聞きづらい問いに言葉を濁すクリムゾンだったが、その先に何を言おうとしていたかは事情を聴いた者達からすれば明らかなものだった。
それを察したアリエッタは、何度か喋ろうとするが中々言葉を発する事が出来ず。数分の時間をかけ、絞り出すようにクリムゾンの問いに答えた。
「あ、あの声は……絶対に、い、イオン様の声……です」
「…………そうか」
予想していたとは言え、衝撃的なその言葉にクリムゾンは大きく息を吐くと、額を手で多い天井を仰いだ。
アリエッタが敬愛するイオンの声を間違えるとは到底思えず。しかし本人は既に崩御しており、成り代わっている現在のイオン――――レプリカイオンは一人でダアトからキムラスカまで来れるわけもない。そうなると、答えは一つしか存在しなかった。
「――――既にダアトは、導師イオンのレプリカを複数創っているという事か」
そうクリムゾンが告げると、周囲は静寂に包まれた。アリエッタにとって悲惨という言葉でも足りない程に残酷な事実に対し、何と言えば良いのか誰も分からなかった。
部屋が静寂に包まれ幾ばくかの時間が経つ。
それを崩したのは、最も事実に打ちのめされていたアリエッタだった。
「……みたい」
「――――え?」
誰かが上げた声の理由は疑問か驚愕か。
アリエッタが告げた言葉は、彼女の経歴と心情を知る者達からすれば、到底信じられるものではなかった。
「――――アリエッタ。イオン様のレプリカと、会いたい…………です」
うーん短い。4000字は書けよと。