無垢の少女と純粋な青年   作:ポコ

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 久々に投稿。気付けば半年以上経ってしまいました。
 いやぁ、去年末から創作意欲がヤバいくらいに減衰してしまいまして。出来れば去年のうちに投稿したかったんですが、気分がダラダラとしてるうちに気付けば2月。やべぇ。
 そろそろ復帰しないと創作活動自体からエタると思ったので、気合入れて執筆。まだ0話しか投稿しておらず、リハビリには最適なこの作品から書いてみました。

 復活ついでにこの作品の意向表明。この作品は、全力でルークとアリエッタを幸せにすることが目標です。パーティメンバーなぞ知った事ではないです。ジェイド、ナタリアは少しは更生の余地があるかもですが、ティア、ガイ、アニス。テメーらはダメだ。イオンとアッシュの扱いは悩み中。アッシュの立場は軍港襲撃をするかしないかでかなり変わるんだけど・・・ふぅむ。

 そういえば気になってるのですが、原作でアリエッタはシンクについて何も思わなかったんでしょうかね。イオンと同じ声、同じ髪色、似た背丈なのに、オリジナルイオン大好きなアリエッタが不思議に思わなかったのが疑問なんですが……うん、このネタは本編でいつか使うか。使う機会があれば。


1話 約束

 ダアトを出てからおよそ1ヶ月――――アリエッタは魔獣も連れず、たった一人で街道を歩いていた。その顔色はとても正常とは言えず、明らかに疲労の色が濃く出ていた。

 目的地も無く、目標も無く、頼れるモノも無く――――それでもアリエッタは歩き続ける。まるで何かを探し求めるかのように。

 

「…………ママぁ……」

 

 アリエッタはダアトを出てすぐ、自身の育ての親である、ママと呼び慕う魔獣――――【ライガクイーン】の下へと身を寄せた。ダアトでの絆を全て失ったアリエッタにとって、彼女の傍だけが世界で唯一安らげる場所だったから。

 

 だが、数年間の人里での生活は、その唯一の拠り所さえも遠ざける事になった。

 

「…………会いたいよぉ………………」

 

 最初の数日は良かった。

 ライガクイーンもアリエッタを我が子のように可愛がり、アリエッタも傷ついた心を癒そうと、必死とも言えるような勢いで母親に甘えていた。

 

 違和感は次第に強くなっていった。

 

 自分がここにいてはいけないかのような違和感。

 

 その原因が一部のライガからの敵意と気づいたのは、一週間が経過した時だった。

 

 ライガクイーンが狩りへ出かけ里を留守にした時、複数のライガに襲われたのだ。

 何故自分が襲われるのか理解出来ず、ライガ達を家族だと思っているアリエッタには反撃する事も出来ず。ライガクイーンが帰ってくるまで、必死に身を護る事しか出来なかった。

 その場はライガクイーンの威圧によって収められたが、アリエッタへの敵意はますます強くなる一方だった。

 

 最初は何故自分が嫌われるのか理解できなかったアリエッタだったが、注意深く周囲を探っていると、すぐに理解できた――――出来てしまった。

 

 ――――自分から人里の匂いがするせいだと。

 

 アリエッタを襲ったのは、彼女が知らない新参のライガばかりだったのだ。人里で育った子供が、自分達の長に嫌いな匂いを染み込ませていれば、原因を排除しようとするのは当然の結果だった。

 

 その結論に達した翌日、アリエッタは母の下を離れた。母の立場を悪くしない為に、離れざるを得なかった。人間の匂いが染みついた長など、到底認められるはずがない。その事を、アリエッタはどの人間よりも理解していたから。

 ライガクイーンは物悲しそうに唸っていたが、長としての立場を理解している彼女には、アリエッタを見送る事しか出来なかった。

 

 

 里を離れ、何体かの魔獣を連れ歩くアリエッタ。

 だが、またしても彼女は悪意にさらされる事になった。

 いや、常人の目線で見れば悪意ではなく善意なのだろうが――――。

 

 旅の途中、幾人もの人間に襲撃されたのだ。正しく言えばアリエッタではなく、アリエッタの周囲にいる魔獣が。

 

 アリエッタから見ればただ友人と当てのない旅をしているだけだったが、周囲から見れば魔獣に幼い子供が攫われているようにしか見えず。アリエッタを目撃した善意の村人が、偶然村に滞在していた傭兵団に懇願したのだ。

 

 ――――魔獣に幼い少女が襲われている。助けてあげて欲しい、と。

 

 幸いと言うべきか、不幸にもと言うべきか。件の傭兵団長は善人と言える人間であり、村人の懇願を二つ返事で受け入れた彼は部下を引き連れ、即座に村を発った。

 

 当然、襲われる側のアリエッタ達としては堪ったものではない。

 人間たちの狙いが自分ではなく魔獣達だけだと気付いたアリエッタは、即座に魔獣達に迅速な離脱を指示。魔獣等はアリエッタも共に連れて行こうとしたが、傭兵団の激しい攻撃に晒され、指示通りに逃亡する事しか出来なかった。

 

 魔獣達を撃退し、アリエッタが助かった事を喜ぶ団員達。

 その光景を見て、アリエッタは唐突に理解させられた。

 

 

 自分がいたせいで、友達は襲われたのだと。

 自分という存在が、魔獣達には害悪にしかならないのだと。

 

 

 それを理解したアリエッタは、限界だった。

 自分にただ一つ残された、魔獣達との絆。それさえも奪われたも同然なのだから。

 

 傭兵団に保護されたアリエッタだったが、善意からとはいえ、友人を傷つけた一団に世話になる気になれる筈もなく。その日の深夜に彼等の下を発った。

 救助された子供が逃亡するなど予想もしていなかったのか、誰からも気付かれることはなく。

 

 

 それからのアリエッタの旅も、彼女にとっては辛いものだった。

 道中で何かあったわけでもない。寧ろ、出会う人間は殆どがアリエッタに好意的に接してくれたと言っていいだろう。彼女が飢えずに済んでいるのは、子供の一人旅は心配だからという理由で、人々が寝床や食事を用意してくれた故なのだから。

 中には一緒に暮らさないかと言ってくれた人もいた。

 温もりに飢えていたアリエッタは思わず頷きそうになったが、ギリギリで断った。

 

 ――――きっとこの人も、自分の友達を受け入れてくれない。

 

 今は距離を置いているとはいえ、魔獣達との縁を完全に切れる筈はなく、アリエッタも切るつもりはない。いずれ魔獣達がアリエッタの下へ戻ってくるのは、容易に想像出来た。その時、普通の人間はどういう対応をするか?

 ……決まっている。魔獣達(ともだち)を、排除しようとするのだ。

 そう考えると、好意を受ける訳にはいかず。一人になって数週間が経つ今も、こうして当てもない旅を続けるしか無かったのだ……一人ぼっちで。

 

 

 

 いっそ死んでしまおうかとも考えた事もあったが、アリエッタには出来なかった。

 今は亡きオリジナルのイオンとの約束があったから。

 それは、アリエッタとイオンが親しくなった時に交わした約束。

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

『ねえアリエッタ』

『なん、です? イオン……さま』

『あはははっ! そんな言いにくそうに様付けなんてしなくても、気にしなくて良いのに!』

『で、でも……ヴァン、や、モースさまに怒られる、です』

『その無理やりな敬語も何だかなぁ……まぁいっか。アリエッタはさ。最近、よく笑うようになったよね』

『そう、ですか?』

『うんうん。初めてあった時なんか、ずーっと警戒してしかめっ面してたもん。周りは全部敵だーって感じでさ!』

『むぅ……』

 

 馬鹿にされたと感じたのか、頬を膨らませるアリエッタ。そんな彼女を見て、イオンは更に大きな声で笑い転げた。それを見て、アリエッタが更に頬を膨らませる。見事な悪循環だった。

 ひとしきり笑った後、イオンは涙目でアリエッタの頭を撫でながら話を続けた。

 

『あー……ゴメンゴメン。あの頃のと今を比べたら思わず笑いがね』

『知らないもん!』

『敬語取れてるし……だからゴメンってば。ボクが言いたかったのはね、昔より今のアリエッタの方が生き生きしてるって事だよ』

『……生き生き?』

『うん。なんて言うか、楽しそうって言うか、見てて嬉しくなるっていうかね。アリエッタの笑顔は、僕を……いや、皆を幸せな気持ちにしてくれるんだ』

『そうなの?』

『うん』

『ふーん』

 

 自分の笑顔がそんなに魅力的なのかと疑問に思うアリエッタだが、自信満々で頷くイオンを見ていると態々否定する気にもならず。結果、生返事で返す事になったのだが。それを見て苦笑したイオンは、わしゃわしゃとアリエッタの頭を強く撫でまわした。

 

『何するのー!?』

『だって全然信じてないんだもん』

『むー!』

『じゃあ、アリエッタの笑顔がどれだけ凄いか確かめてみようか』

『……どうやって?』

『簡単だよ。アリエッタがずーっと笑顔でいてくれたら良い。それで周りの人がニコニコ笑顔になったら、アリエッタが凄いって事になるでしょ?』

『ずっと笑うなんて、しんどいからヤダ!』

『僕は寝てる時以外は殆ど笑ってるけど?』

『イオン……さま。外で笑ってる時はなんか怖いもん!』

『あっはっは! いつも一緒にいるアリエッタには分かっちゃうかー』

 

 このオリジナルイオン。導師という立場故か存外腹黒く、アリエッタに向けるもの以外の笑顔は全て作り笑いなのだ。尤も、それを見抜けるのは2つの笑顔を知っているアリエッタだけなのだが。

 しばらく笑っていたイオンだったが、ふと妙案を思いついたとばかりに両手を合わせた。

 

『じゃあ、アリエッタは出来るだけ楽しい気分でいること!』

『え?』

『だって、楽しかったら笑顔になるでしょ? だったら、いつも楽しかったらいつも笑顔になるじゃん!』

 

 満面の笑みで提案するイオン。アリエッタも成程と思ったが、自分の普段の生活を思い返しているうちに、どんどん表情が沈んでいった。

 

『いや、何で言ったはたから暗くなってるのさ』

『だって、ずっと楽しいなんてムリだもん。イオン、さまとヴァン……さま? 以外の人は、アリエッタのこと、変な目で見てくるもん! あんな人達の前で楽しくなるなんてムリなの!』

『あー……』

 

 魔獣に育てられたアリエッタは、教団の中では忌み子、腫物扱いされているのはイオンも知っていた。人間とは異端を嫌うものだと理解している彼からすれば、周りの反応は当然の事だろうとも理解している――――無論、納得はしていないが。

 教団内でも高い立場であるヴァン直々のスカウトという事で、表立って批判する輩はいないが。野生で育ったが故に生物の悪意や気配に敏感なアリエッタは、自身が疎まれている事をおぼろげだが感じていた。

 その事を思い出し涙目になるアリエッタと、どうしたものかと頭を抱えるイオン。数分間か数十分か、沈黙の時間が続いたが、イオンは考えがまとまったのか、優しくアリエッタに話し始めた。

 

『じゃあさ。楽しい事を見つけようよ』

『……見つける?』

『そ。周りが嫌な奴等ばっかりなのは僕も知ってるし、あんな奴等の前で楽しくなれるわけないのも知ってる』

『うん……』

『けどさ。嫌いな奴等のせいで、楽しくなくなるなんて勿体無いじゃん! だから、そんな馬鹿共が気にならなくなるくらい、楽しい事を見つけよう!』

 

 嫌な事が気にならなくなるくらい、楽しくなろう。

 成程、それが出来ればアリエッタはいつも笑顔でいれるだろう。が、根本的な問題があった。

 

『……そんな楽しい事、どうやって見つけるの?』

『……さあ?』

『………………むーっ!!』

『痛っ! いたたたたっ! ゴメン、ゴメンってば!』

 

 肝心の楽しい事をどうやって見つけるかという質問に、提案者にも関わらず投げっぱなしにしたイオン。当然怒り心頭になったアリエッタは、全力で駄々っ子奥義のぽかぽかパンチを繰り出した。傍から見れば子供の仲睦まじいじゃれ合いにしか見えないが。

 

『だって、アリエッタが楽しいと思える事が何か分かんないじゃん! アリエッタって僕といる時以外は何してるか知らないし!』

『……イオンさまと一緒にいる時しか楽しくない』

『そう言ってくれるのは嬉しいけどさぁ。他には無いの?』

『ママと一緒にいた時は、楽しかった』

『いや、それ今は無理だよね? んー……じゃあ、宿題を出そう』

『宿題?』

『そ。僕と魔獣達以外にも、一緒にいて楽しい、幸せだって思える人を見つける事!』

『えー……』

『そんなに嫌そうな顔しないでよ。すっと僕と一緒にいるわけじゃないんだから、他にも好きな人の1人や2人くらい見つける事!』

『や、やだー!』

『拒否権は無いよ』

『うーっ!』

『唸ってもダーメ。――――――――そうしてくれないと、安心して死ねないじゃないか』

『……? イオンさま、どうかしたの?』

 

 イオンが一瞬だけ浮かべた哀しげな表情が気になったが、それを指摘するとイオンは何も無かったかのように、いつもアリエッタに向けている笑顔を見せた。

 

『何でもないよ。とにかく宿題……いや、約束だからね。アリエッタは絶対に、一緒にいて楽しい人を見つける事!』

『…………』

『返事は?』

『………………』

『へ・ん・じ・は?』

『……わかった』

『よしよし。それじゃ、アリエッタがその人を紹介してくれるのを楽しみにしてるからね』

『はーい……』

『生返事だなぁ……。いい? アリエッタ。きっと僕の他にも君を受け入れてくれる人がいるから。その人に会うまで、絶対に諦めちゃダメだからね』

『……イオンさま?』

『――――絶対だからね』

『…………うん』

 

 イオンの有無を言わせぬ雰囲気を不可解に思いながらも、イオンの懇願と言ってもいいような強い意志に対し、深く頷いた。

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 イオンと約束してから、アリエッタは周囲の人間を今まで以上に観察するようになった。一緒にいて楽しい人。自分を受け入れてくれる人を探して。

 だが、そうして見つけたのは自分を疎む人間ばかり。内心では諦めながらも、イオンとの約束だからと人間観察を続け――――――――約束を果たす前に、イオンは逝ってしまい……少女は一人になった。

 

「ママぁ……イオン様ぁ……ぐすっ……会いたいよぉ…………っ」

 

 死にたい。

 楽になりたい。

 そう思いながらもイオンとの約束を胸に、歩き続けるアリエッタ。

 精神的にも肉体的にも限界に達した少女が力尽きるのは、時間の問題だった。

 

 ――――そんな時だった。

 

「あ、危ないっ!!」

「え……?」

 

 突然の大声に、俯いていた顔を上げると……すぐ目前に馬車が迫っていた。

 

「あ……」

 

 

 

 瞬間、彼女の顔に浮かんだ感情は死への恐怖でも、馬車の御者に対する怒りでも無く――――。

 

 

 

 

「……死んだら、イオン様に会えるといいな」

 

 

 

 

 ――――これで楽になれるという安心感から出た、心からの笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 そして彼女は、意識を手放した。




ルークとの出会いまで書こうと思ったけど、予想外に回想が長くなったのでここで切りました。次はルークと出会います。多分。さて、投稿はいつになるやら……今月中に出来たら良いね!

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