無垢の少女と純粋な青年   作:ポコ

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お久しぶりです。
ようやくやる気が戻ってきたので、リハビリにルークの日記から。
今週は休みが多いから、もう一話くらいは投稿したいです。


閑話 ルークの日記2

 ◇ ルークの日記 ◇

 

 

 ○月×日

 

 ナタリアのヤツがいきなり屋敷に来て騒ぎまくってから数日。

 アリエッタは今まで以上に使用人としてや、それ以外の勉強にも頑張り始めた。

 ヤナギが言うにはアリエッタがナタリアに色々と言われたのは、自分が使用人として力不足だったせいじゃないかって思ってるらしく。俺と一緒に居ても恥ずかしくないくらいに強くなるって言って頑張ってるんだって。

 

 ……俺、アイツにそこまでしてもらえるような主なのか?

 ナタリアがアイツに怒鳴ってる時も、俺は母上を呼んできただけで自分では何もしてねーのに。主なら自分でなんとかするべきだったんじゃねーのか?

 それに、俺はアイツに教えられる事なんか何も知らねえし、尊敬されるような事だって何も出来てない。ファブレ家の跡継ぎって身分がなけりゃ、ちょっと剣術が巧いだけの子供だ。

 こんなんで、アイツの主だって胸を張って言えるか? ……言えるワケ無いよなぁ。何も頑張ってない俺が、今も俺なんかの為に頑張ってくれてるアイツの主だなんて。

 

 アイツは俺なんかより、母上の傍付きになった方が良いんじゃないのか?

 ……そうだよな。その方がアリエッタもやりがいがあるだろ。アイツは俺には勿体ない従者だ。母上にはアリエッタが屋敷にいる間は面倒を見ろって言われたけど、屋敷に就職したんだから俺の傍付きじゃなくても別に良いだろ。

 よし、明日になったらヤナギに相談してから母上に言ってみるか。母上に面倒を見るのを言われたのはヤナギも一緒だし。ヤナギにも相談しとかねーとな。

 

 

 

 ○月◆日

 

 ヤナギに思いっきり平手を喰らった。まだ左の頬が痛ぇ。

 そんで、泣きながら説教された。

 

 アリエッタがどれだけ俺の為に頑張ってるのか解って、こんな事を言うのかとか。

 

 誇れる事が無いなら誇れる事を作れば良いとか。

 

 アリエッタから逃げるのかとか。

 

 ……アリエッタが幸せになれるのは、ファブレ家の中じゃなくて俺の傍だけだ、とか。

 

 他にも色々、散々に言われた。

 最後に、アリエッタには絶対にこんな事を言うなって念押ししてからヤナギはどっかに行った。

 

 

 

 …………くっそ。

 

 

 

 ○月凹日

 

 昨日は結局、あれから一歩も部屋から出なかった。

 飯を持ってきてくれたアリエッタが心配してくれたけど、何でもねえって追い返した。今思い返したら、すげぇキツい言い方になっちまってたと思う。

 

 ……泣きそうになってたな。アイツ。

 

 なのに、ずっと俺を心配してくれた。

 飯を持って来る時以外でも、少しでも時間があったら俺の部屋に来た。

 来るたびに追い返したのに、それでも何回も来てくれたんだ。

 

 

 …………情けねぇよな。俺。

 

 

 ……あー、くそっ! 苛々する! こんなん俺らしくねえ!

 

 分かった! 分かったよ畜生! やってやれば良いんだろ!

 

 アリエッタの主って、胸を張って言えるようになってやるよ!

 

 

 

 ○月凸日

 

 母上に、アリエッタと一緒に勉強を教えて欲しいって頼みに行ったら、泣いて抱きしめられた。

 今まで最低限の事しか勉強してなかったからなぁ……けど、勉強だけはどうしても嫌だったんだよ。勉強っつーか、本を読むのがか?

 けど、もうそんな甘えた事は言ってられねーから。

 勉強だけじゃなく、剣術も父上から稽古をつけて貰えるように頼もう。ヴァン師匠(せんせい)が来た時以外は型の練習と基礎鍛錬しかしてなかったからな。もっと強くならねえと!

 

 俺もこれからは一緒に勉強するってアリエッタに言ったら、すっげぇ嬉しそうに笑ってくれた。

 母上がアリエッタに聞こえ無いような小さい声で、俺が引きこもってたこの2日は全然元気が無くて、勉強にも全然身が入ってなかったって笑って教えてくれた。

 

 …………本当に、頑張ろう。

 

 

 

 ○月Ω日

 

 久しぶりに真面目に母上の授業を受けた。

 正直文字を見てるだけで気分が悪くなったけど、その度に隣に座って勉強してるアリエッタを見て気合を入れ直してたら、いつの間にかあまり気にならなくなってた。何でだ?

 

 勉強してて分かったのは、俺が本当に何も知らなかったって事だった。屋敷の事以外では、子供でも知ってるらしい事くらいしか分からなくてすっげぇ落ち込んだ。

 

 けど、こんくらいじゃ負けねえ!

 

 

 

 ○月θ日

 

 父上に剣術の鍛錬相手を頼んだら、時間がある時なら見てやるって言ってくれた。

 けど、父上の剣術は教えられねえって。俺はもう、ヴァン師匠(せんせい)の教えてくれたアルバート流が基礎になってるから、今から別の剣術を教えたら型が滅茶苦茶になっちまって、逆に弱くなるんだと。

 父上の剣術を教えて貰えないのは残念だけど、弱くなるなら仕方ねえよな。

 

 そういや。父上と稽古をしてたら、遠くの方からガイが変な顔でこっちを見てたけど、何だったんだ? アイツ。

 

 

 

 ○月δ日

 

 最近、一緒に勉強してるせいか、アリエッタと一緒にいる時間が増えた気がする。

 まぁ、勉強の時間以外はヤナギも一緒な事が多いけどな。

 

 なんか、アリエッタと一緒にいたら、こう……安心できる? っつーか……んー……よく分かんねえけど、アリエッタがいたらいないよりも気力が沸くんだよな。

 休憩の時にもアリエッタが傍にいたら、一人で休むよりもよく休める気がするし。何でだ?

 

 

 

 ×月○日

 

 ヴァン師匠(せんせい)が、稽古の日じゃないのに屋敷に来る。

 母上が言うには、アリエッタがウチに居る事がバレたんじゃないかって事らしい。

 

 下唇を噛みしめながら震えるアリエッタを部屋まで送ろうとしたけど、今日はヤナギの部屋で一緒に寝るらしい。ヤナギと一緒なら大丈夫だろ。

 

 ……ヴァン師匠(せんせい)は、本当に悪い奴なのか?

 会えば判んのかな……。

 

 ……それにしても、何でヴァン師匠(せんせい)はアリエッタがここに居るって分かったんだ? アリエッタに会った事があるヤツなんか、屋敷の人間以外だと商人とか業者くらいしかいねーのに。

 商人が態々ヴァン師匠(せんせい)に、ファブレ家にアリエッタが使用人として働いてるなんて言うのか? 分かんねー。

 

 

 

 ×月×日

 

 ………………ヴァン師匠(せんせい)は、善い人じゃねえ。

 

 認めたくなかったけど、今日、ようやく解った。

 アリエッタが直接ヴァン師匠(せんせい)に向かってハッキリとダアトには帰らないって言った時の、あの顔だ。

 

 一瞬だったけど、俺は確かに見た。見ちまったんだ。

 

 

 ――――あれは、ゴミか何かを見る目だった。

 

 

 俺はもう、ヴァン師匠(せんせい)を信用できない。

 

 

 

 ×月△日

 

 昨日は書かなかったけど、アリエッタは無事に屋敷に残れる事になった。

 それも、ヤナギの義理の妹として。

 ヤナギは妙にアリエッタに構うなと思ってたけど、義妹になってたからなんだな。もっと早く教えてくれりゃ良かったのに……まぁ、別にアリエッタがヤナギの義妹だからどうしたって話だけどな。

 

 アリエッタは昨日はちょっとヴァン師匠(せんせい)との事で興奮して落ち着かなかったから、落ち着くために昨日と今日の授業は休みって事になった。

 最近はずっと勉強漬けだったから、二日も休みだとなんか落ち着かねー。俺は日課の鍛錬はしたけど、やっぱアリエッタがいないと変な感じだった。

 

 

 

 ×月□日

 

 アリエッタが復帰した。もう大丈夫みてーだ。

 数日ぶりにやった授業はしんどかったけど、どこか楽しかった。

 やっぱりアリエッタがいねーと、授業は面白くないよな。

 

 そんな事を考えてたら、自分でも気づかないうちにちらちらとアリエッタの方を見ちまってたみたいで、母上に本で軽く叩かれた。恥ずい……。

 

 

 

 ×月▽日

 

 今日はすっげえ事があった。

 

 久しぶりに父上に時間があったから、いつも通りに庭で鍛錬を見て貰ってたら、空からいきなりデカい鳥の魔物がライオンみたいな魔物を連れて降ってきたんだ。

 魔物なんて初めて見たから、俺は驚いて動けなかった。そしたら父上が俺の前に出て、騎士団の連中もどんどん集まって来た。

 魔物達もすげぇ気が立ってて、もう今すぐ闘いになる所だったんだよな。

 

 そんな空気の中、アリエッタがいきなり飛び出したんだ。

 

 それを見た瞬間、危ねえって思う前に体が動いてアリエッタを庇ったんだけど。その魔物はアリエッタを見たらさっきまで気が立ってたのが嘘みたいに大人しくなっちまって。

 何でだって思ってたら、俺の後ろからまたアリエッタが飛び出して。今度は止められなくてヤバいって思ったら、ライオンの魔物が普通に猫みたいにアリエッタにじゃれつき始めて。鳥の魔物もどこか嬉しそうな声で鳴きだしてさ。父上も騎士団も困ったみたいで、アリエッタが説明してくれるまで皆動けなかった。

 

 そんで、あのライオンと鳥の魔物。ライガとフレスベルグだっけか? あの二匹は、アリエッタの特に仲の良い友達らしくて、アリエッタの匂いを追って屋敷まで来たんだってよ。

 もうアリエッタのヤツが喜んで喜んで。安全な魔物だって判ったら、騎士団も父上も警戒をすぐに解いた。俺は知らなかったけど、魔物使いって数は少ないけどキムラスカにもいるらしいんだ。だから、ここまで人に懐いてるなら大丈夫だろうって。

 まぁ、魔物使いってよりは調教師みてーなもんらしいけど。アリエッタみたいに、魔獣と友達になるなんてのはまず無いってよ。

 

 とにかく、魔物二匹は安全って分かったから。明日父上がファブレ家の使役魔獣として城に申請しにいってくれるらしい。

 これで二匹と一緒にいれるって聞いたアリエッタは、何度も父上に頭を下げて礼を言ってた。友達と一緒にいれるようになったんだから、嬉しいのは当たり前だよな。

 ……友達か。ちょっと羨ましいな。

 

 

 

 ×月◇日

 

 母上が使役魔獣の許可をもぎ取って来た。

 父上が言うには、最初は断られたらしい。けど、そうなるだろうと思って付いて行った母上が叔父上を説得……? 説得をして、許可を取ったんだとか。

 ……父上が言うには、あれは説得じゃなくて命令だったらしいけど。

 

 と、とにかく。これであの二匹が屋敷にいても問題無いんならいいよな! うん!

 

 

 

 ×月■日

 

 ヤナギがあの二匹の事を、ライとフーって呼び始めた。種族名だと長いし、可愛くないからって。まぁ、俺もそっちの方が呼びやすいし。アリエッタも魔獣達も喜んでたみたいだから良いだろ。

 

 ヤナギが名前を付けたお蔭で、ライとフーも屋敷にもう馴染み始めたし。魔獣って随分人懐っこいんだなって思ったけど、父上には俺が思ってる事なんかお見通しだったみたいで、あの二匹が特別なんだって何回も念を押された。

 初めて見る魔物があの二匹だから勘違いしそうになったけど、魔物って本当は人の天敵なんだよな……いつか魔物に遭う事があったら気をつけねーと。

 

 ……それはそれとして。

 アリエッタに頼んだら、ライに乗せてもらえっかな?

 

 

 

 ×月◆日

 

 アリエッタに頼んだら、良いって言ってくれたから早速乗ってみた。

 ライのヤツが嫌がるかもって思ったけど、そんな事は全然なくて。態々頭を伏せて俺が乗りやすいようにしてくれた。本当に賢いんだなあ。

 

 その後は、しばらくライに乗って走り回った。速すぎてライの首にしがみついてないと落っこちてしまいそうだったけど、すっげー楽しかった!!

 アリエッタがライも楽しかったみたいだって教えてくれて、それも嬉しかったな。また乗せてくれっかな。

 

 

 

 ×月●日

 

 父上と初めて真剣勝負をした。

 真剣勝負っつっても、木刀での模擬戦だったけどな。それでも、あれは俺にとっては真剣勝負だった。

 何とか父上に一撃を入れたら、すっげー喜んでくれた。父上があんなに喜んでるとこなんて、初めて見たな……なんか、最近初めての事ばっかりだな。

 

 それにしても、父上はなんでいきなり俺を試すような事をしたんだ?

 俺がそう感じただけだけど、父上は俺に何かを期待してるみたいだった。何を期待してるのかは分かんなかったけど……。

 ま、期待には応えれたみてーだからいっか。いつか教えてくれっかな?

 

 

 

 ×月◎日

 

 今日から模擬戦で、父上の時間が無い時はライと戦う事になった。父上がいる時でも、対魔物の戦い方を教えるって事でライと戦う事もあるみてーだけど。

 

 ただし、ライは爪と牙を遣うのは禁止っていうハンデ付きで。

 

 あの爪と牙は喰らえば洒落にならないってのは分かるけど、俺も今まで鍛錬をしてたんだから、ハンデを貰うのは正直気に食わねえ。

 だから、ハンデ付きのライなんかすぐに倒して、ハンデなんていらねえって言うつもりだった。

 

 ――――ライに体当たりで吹っ飛ばされるまでは。

 

 父上もライの予想以上の速さに驚いてたみたいだったけど、俺はそれどころじゃなかった。

 気が付いたら攻撃を喰らってて、ライがいつの間に近付いたのかも分からなかった。

 

 その後も何回か挑んだけど、少し動きに目が慣れたくらいで見事に全敗。

 父上が言うにはライはライガの中でも規格外だって事だけど……悔しいもんは悔しいんだよ!

 

 くっそー! 絶対にいつか勝ってやっからな!!

 

 

 

 ×月☆日

 

 アリエッタの譜術の師匠として、カゲロウとルイが屋敷に在住する事になった。

 カゲロウはともかく、ルイのヤツはからかってくるから苦手なんだよなぁ……まぁ、アリエッタの師匠としては適任らしいから、俺には何も言えねーけど。

 

 

 

 

 ×月★日

 

 模擬戦で父上と良い勝負をした褒美って事で、アリエッタと一緒にフーに乗って空高くまで飛んで良い事になった。真上だったらどこまで高く飛んでもファブレ家の領地だって。父上って、こんな屁理屈を言う人だったか?

 

 空から見た世界は、俺が今まで見たどんな景色よりも凄かった。

 こんな景色を、アリエッタは何回も見てたんだよな。羨ましい。

 

 俺が屋敷から出れる年齢になったら、いつかアリエッタと一緒にこの世界を回る約束をした。

 空だけじゃなく、船にも乗ってみてーな。海の上を走るってどんな感じなんだろーな?

 今からその時が楽しみで仕方ないぜ!




久々に書いたら、ルークの口調にかなり悩みました。まぁ、それは前からか。

ルークはナタリアに虐待同然の勉強会を強制させられたことを、明確には覚えてません。せいぜい3歳児レベルの知識しかないであろう時でしたから。

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