主役はTOAでルークの次に好きなアリエッタです。
拙作ですが、生暖かい目で読んで下さいませ。
時系列としては、原作2年前。オリジナルイオンが亡くなったばかりです。
「イオン、様……どうして……アリエッタの事……」
ダアトにあるローレライ教団本部。
荘厳なステンドグラスに囲まれた大広間。
その大広間の隅で、一人すすり泣く少女が居た。
少女の名はアリエッタ。ローレライ教団の最高責任者である【導師イオン】の守護役筆頭
「イオン、様……アリエッタが、守護役じゃなくても、平気って、言った……!」
イオンとアリエッタ。
この2人は年齢が近い事もあり、普通の上司と部下では有り得ない程の信頼関係を築いていた。
だが、元々病弱であったイオンは数か月前。突然の病に伏せた。
イオンの療養中。導師守護役筆頭であるアリエッタですら、面会の一度すら許されなかった。
そして数ヶ月が経ち、イオンの症状が落ち着いたと伝えられ、嬉々としてイオンの下へと向かったアリエッタが耳にしたのは――――イオン本人からの守護役解任の報せだった。
「どう、して……どうして、イオン様。アリエッタ、じゃなくって、アニスをあんな目で、見た、の……?」
解任の報せに呆然としていたアリエッタが見たのは、イオンの傍に――――アリエッタが数ヶ月前までいた場所に、さも当然のように立つ、同じ導師守護役であった【アニス・タトリン】の姿。
アニスは導師守護役の末席だったが、本来であれば導師守護役など論外な人物だった。
11歳という幼さ故か、目上の者への敬意を払う事は皆無。それどころか、一定以上の地位の異性には誰だろうと構わず媚を売り、気に入らなければすぐに手の平を返す最低の人間――――それが周囲からのアニス・タトリンの評価である。
そのような人物が、何故導師守護役筆頭になど推薦されたのか。
それは【導師イオン】よりも強い支配力を持つ【大詠師モース】直々の推薦故である。
本来【大詠師】とは【導師】よりも低い地位の人物であるが、導師であるイオンが病弱故に積極的に表へは出ない事。そして政務に積極的ではない事が、イオンよりもモースの影響力が強い大きな理由だった。
だが、アリエッタが衝撃を受けた理由は、アニス・タトリンに自分の地位を奪われた事だけではない。
一番の理由は――――イオンがアニスを、心から信頼している目で見ていたからだ。
それも数年間共に過ごし、絆を育んできた筈である自分には、申し訳なさそうに一目をくれただけで。
「イオン、様、アリエッタの事、ぐすっ、いらなくなった、の……?」
分からない。
イオンが自分を捨てた理由が。
イオンがアニスに信頼を抱く理由が。
今まで自分がイオンと過ごした時間が本物であったのか。
考えれば考える程、思考の海へと沈み込むアリエッタ。
そんなアリエッタを現実に返したのは、広間の中心から聞こえてくる、聞きなれた声だった。
「この、声……ヴァン謡将、と……モース、様?」
声の主は、自分がイオンの次に信頼する人物であるヴァン・グランツだという事に気付いた。
だが、何故ヴァンがモースと2人で居るのか?
ローレライ教団内の派閥はイオンを支持する【導師派】、モースを支持する【大詠師派】、そしてどちらも支持しない【中立派】に分かれている。
そしてヴァンは、中立派の筆頭とも言える人物。
何故、中立派のヴァンと大詠師であるモースが、この誰も立ち入らない時間に大広間に?
アリエッタは不審に思うも、モースがヴァンを大詠師派に勧誘でもするのだろうと判断する。
今から大広間を出て行くわけにもいかず、話が終わるまでもっと広間の隅の方にいよう――――そう思い移動しようとしたアリエッタだったが、2人が放った言葉に思わず足を止めてしまった。
その内容が、彼女が信じてきたもの全てを否定するとも知らず――――。
「レプリカへの教導役、ご苦労だったなヴァン」
「いえ、流石は導師イオンのレプリカとでも言うべきでしょうか。大地が水を吸うように、驚くべき速さで知識を吸収してくださいました」
「(レプ……リカ……。イオン、様が……?)」
レプリカ。
以前ヴァンから一度だけ聞かされた言葉。
遺伝子情報から、全く同じ人間を造り出す技術【フォミクリー】。
その技術によって創られた人間【レプリカ】
かつてヴァンはアリエッタに、自分の夢に協力してくれれば、いつかアリエッタの両親のレプリカを創ってくれると約束してくれ、アリエッタはその言葉を信じた。
だが――――。
「(ち、がう――――)」
アリエッタとの絆を、全て忘れたかのようなイオン。
「(違う――――)」
アニスを見つめるイオンの表情。
「(違う――――!!)」
そして――――アリエッタを見るイオンの眼。
「(イオン様は、アリエッタを、あんな目で、見ない!!)」
全てが、アリエッタの知るイオンとは程遠いものだった。
じゃあ、あれがレプリカなら、本物のイオン様はどこ?
その考えたアリエッタの耳に入ったのは、またしても信じられない――信じたくない言葉だった。
「しかし、オリジナルのイオン様にも困ったものだ。いくら死の預言が詠まれたとはいえ、もう少し保ってもらいたかったのだがな……そうすれば、あのようなオリジナル以上に虚弱なレプリカではなく、もっと丈夫なレプリカを創れた可能性もあったろうに」
「さて、それはどうでしょうかな。元から病弱なイオン様のレプリカでは、何度やってもオリジナル以上に健康にはならないでしょう」
「フン! まぁ良い。死ねばまた新しいレプリカを用意すればいいだけの事だ。まだ遺伝子情報は残っているのだろうな?」
「ええ。現在もディストが研究を続けています。ディストは完全なレプリカの完成に執心ですから、裏切る事は無いかと」
「(え――――)」
死の預言?
イオン様に詠まれた?
だから、イオン様の代わりを創った?
じゃあ、本物のイオン様は――――。
「それで、導師守護役筆頭の……アリエッタだったか? そいつは解任したのであろうな」
「ええ、レプリカ本人に解任させました。
「ああ、それで良い。それで、解任したアリエッタをどうするつもりだ?」
「あれの性格なら、近い内に私に泣きついてくるでしょう。そうすれば、私の直属兵にするだけです。精神面はともかく、戦力としては中々のものですから」
「物好きなものだなヴァン。譜術の素質があるからと、魔獣に育てられた子供を自分好みに育てるなぞ、私にはとても真似出来そうにない」
「モース様、私は少女愛好者ではありません。ただ、使える駒を1つでも増やそうと思っただけの事」
「(こ、ま……。アリ、エッタ、が……?)」
オリジナルイオンの死。
レプリカの記憶の有無。
両親のレプリカは不可能。
そして、育ての親の1人であるヴァンの本音。
全てを聞いたアリエッタの精神は限界に達し――――
「(い、おん、さま……)」
その場に音も無く倒れた。
――――――――
「ん……」
アリエッタが目覚めたのは、ヴァンとモースが立ち去ってから数十分経ってからだった。
「ここ、は……」
寝ぼけ眼で周囲を見渡すアリエッタだったが、意識が覚醒していくと同時に、自分が何故大広間に倒れていたのかを思い出していき、その表情はどんどん哀しみと怒りに染まっていった。
「……イオン様……死ん、じゃった……」
ドンッ
「……イオン様……レプリカに、なってた……」
ドンッ
「……レプリカは、イオン、様、と、全然、違った……」
ドンッ!
「……ヴァン総長、は、アリエッタに、嘘、ついてた……ッッ!!」
ドォンッ!!
1つ怨嗟を吐くと同時に床を叩いていたアリエッタの拳は、気づけば握りしめすぎた掌は血に染まっていた。
だが、そのような事は今のアリエッタにはどうでもいい事だった。
「……もう、ここには、いられない……いたく、ない……!」
アリエッタは立ち上がると、何かに憑かれたかのように、教会の出口から出て行った。
数日後、アリエッタがいなくなった事に気付いたヴァンがダアト周辺に捜索隊を派遣するが、アリエッタが見つかる事は無かった――――。
どうだったでしょう?
初めての三人称に挑戦してみたつもりだけど、中々難しいです。どうしても書きづらかったら、途中からside方式かアリエッタ視点オンリーになるかもですが、出来るだけ頑張ってこの書き方でいきます。