ランサーとバゼットのルーン魔術講座   作:kanpan

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今週前半はオリオン座流星群のピークだったのですが天気がよくなくて見えず。orz
というわけで、星に願いを。


たいまつの火《kano》

「さあみんな準備はいいかなー?」

 

 穂群原学園の校庭では藤村大河先生が張り切っている。

 今夜は校庭で流れ星の観測会をしているのだ。秋から冬にかけて流れ星が見えるタイミングが何度かあり、この時期に見えるのはオリオン座流星群だ。

 

 藤村先生が澄んだ夜空にびしっと竹刀をかざした。

 

「士郎、望遠鏡をセットしてー」

「はいはい、藤ねえ」

 

 衛宮士郎は藤ねえから、手伝いにきてね♪ と半強制的に誘われて、天体観測の準備をしていた。天文部の部室から借りてきた天体望遠鏡を校庭に備え付ける。

 望遠鏡だと見える範囲が狭いからかえって流れ星は見えないんだけどな、と内心思う。でも藤ねえがノリノリなので黙って準備してやることにした。

 

 まわりでは時々「わあ」と誰かの歓声があがる。

 雲に邪魔されず星々が輝く秋の空を見上げていると、ときおり星の中を一瞬細い光が走っていく。あ、と思ったときにはその光はすでに消えている。そんな儚い光をなんとか見つけようと人々は天に目を凝らしている。

 そして、また一つ星が流れた。

 

 

「流れ星……?」

 

 真夜中に何気なく館の庭に出たバゼットは、ふと見上げた夜空に一瞬光が走ったのに気づいた。

 

「そういや、今日は流星が見える夜なんだぜ」

 

 バゼットに続いてランサーも庭に出てきて夜空をちらりと見上げた。

 

「珍しいですね。ではしばらくここで夜空を眺めていましょうか」

「ここじゃ明るくてよく見えねえだろ。ちょうどいい場所があるんだ。岬まで行こうぜ、バゼット」

「え、ランサー?」

 

 ランサーは少々戸惑うバゼットを促して夜の街に連れ出した。ランサーが向かったのはいつも彼が釣りをしている港の向かいにある岬だった。

 周りには人家も店もなく真っ暗だ。

 

「この時代はいつでも明かりがついているから、夜でも空が明るくて星が見づらいけどな。

 ここなら少しはマシだろ」

 

 ランサーは近くに落ちている手頃な木の枝にkano(カノ)のルーンを刻んだ。枝に小さな火がついて即席の明かりになる。kano(カノ)のルーンは松明(たいまつ)の火の象徴だ。

 

 さらにランサーとバゼットは同じルーンをもう一度唱えた。二人の視力が強化されて、いままで見えなかった夜空の小さな星の光もはっきりと捉えられるようになる。

 遠見のルーン魔術である。kano(カノ)が意味する松明(たいまつ)の火は周囲を照らして視界を広げる。転じて遠見のルーンとして使う事もできるというわけだ。

 

「なるほど。ランサー、貴方が生きていた時代ならば夜は光がなかったのだから、さぞ星の光が綺麗だったでしょう」

「ああ。というか、ソレが普通だったけどな。オレの時代には星の場所で方角を見分けたりしたもんさ」

 

 二人は草むらに寝転がって天を見上げる。町の灯りから離れたこの場所は夜空の濃紺がひときわ濃く、そこに星の光が一段ときらびやかに輝いている。

 

「ランサー、この国では1つの流れ星に3回願いをかければその願いが叶うという言い伝えがあるのだとか」

「ほう?」

「おもしろい風習ですよね」

 

 そう言ってバゼットは隣に寝転がるランサーに笑いかけた。

 

「ランサーの願いは何ですか?」

「うーん。オレはアンタに呼ばれてこの世に来ただけだ。願いって言やあ、今度こそ思いっきり命がけの戦いがしたい、ってことぐらいだな」

 

 ランサーは地面から空を見上げた格好のまましばし考えた後、バゼットの方を向いて何気ないそぶりで返事した。

 そんな気軽な答えだけれど、実のところ生前のランサーは常に誓約(ゲッシュ)に縛られて不本意な戦いを強いられ、さらに自らが愛した者たちを手にかけなくてはならない一生だったのだとバゼットは知っている。

 

「命がけの戦い、ですか。貴方らしいですね」

「バゼット、アンタはどうよ?」

 

「私は……、仕事で命じられて聖杯戦争に参加しているだけです。願いと言うなら早く聖杯を入手して仕事を片付けたい、といったところでしょうか」

「はははっ、お互い似たようなモンだな」

 

 バゼットの現実的な答えにランサーは思わず声をあげて笑った。隣でバゼットはちょっとむっとしている。

 

「そんなに笑わなくても」

「ははは、じゃあ早いとこ聖杯GETしようぜ」

 

 屈託なく笑うランサーだが、バゼットは真顔に戻ってぴしっとランサーに向き合う。

 

「そうですね。では、勝利の為に『我々の知名度向上』を流れ星に祈ることにします!」

「おい、結局それなのか」

 

 

 ランサーとバゼットは静かに空を眺めはじめた。バゼットは横のランサーの顔をちらりと横目で見て、気づかれないように微かに微笑む。

 

 ———ランサー、子供の頃の私は

 『もし許されるのなら、この英雄を救いたいと願ってもいいのでしょうか』

 と思っていました。まさかその貴方をこの時代に召還できるなんて。

 

 

 頭上の空を眺め続けると不意に星の光が流れていく。もういくつもの星が夜空を横切っていった。

 流れ星が光るたびにバゼットは願いを唱えようとするのだが今のところ一回も成功していない。

 

「ランサー、星が流れる間に願いを3回も言い切るのは難しいものですね」

 

 そもそも儚い流れ星に願いを託すなど夢のようなことだ。この言い伝えは結局のところ、願い事を叶えるには自力でなんとかするしかない、と気づく為の儀式のようなものかもしれない。

 バゼットが物思いにふけっていると、ランサーが地面からひらりと飛びおきた。

 

「だったらよ、流れ星を自作しちまおうぜ」

「え? 何をするつもりですか、ランサー」

 

 ランサーは大きめの石を拾ってきて、槍を取り出してその表面にがりがりとkano(カノ)のルーンを刻んだ。石は発火して赤い火の玉になった。

 そして、ランサーは火の玉を頭上に高く蹴り上げた。

 

「おらぁ、跳べ!」

 

 ランサーはいったん低く屈み込んでから反動をつけて伸び上がり、構えた槍を火の玉目がけて思いっきりフルスイングした。

 

 カキィィィィィィィィィン!!!

 

 

 クリーンヒット!

 実に小気味よい音を響かせて、火の玉は天高く打ち上がる。それはやがて新都の方に向かって赤い尾をたなびかせながら落ちていった。

 

 バゼットはすかさず願う。

 

「知名度UP !」×3

 

 ランサーは自慢げにニヤリと笑っている。

 

「どうだ言えただろ?」

「はい。それでですね、ランサー」

「なんだバゼット」

 

「この国のネット用語ではこういうのを『自演乙』と言うそうです」

「おお、アンタもだんだんわかってきたな!」

 

 

 

 穂群原学園の校庭で流れ星を見ていた人々からひときわ大きなどよめきが上がった。

 その中に、

 

「ヒロインになりたーいっ!」× 3

 

 藤村先生のお願いの声が響く。

 

「藤ねえ……」

「すごーい。今の流れ星大きかったよー、士郎!」

 

 藤村先生が竹刀で空を指している。そこには今しがた赤い光が流れていった。流れ星にしては目立ちすぎていたのだが。

 そしてそれは夜空に消えるのではなく、そのまま地上に落下した。新都の方角に火花が飛んだのが見えた。

 

「な、なんだったんだアレ?」

 

 士郎はその時たまたま天体望遠鏡を覗き込んでいた。望遠鏡に映ったのは真っ赤に焼けた石の塊だった。

 

「あれは、まさか隕石? 新都の教会の辺りに落ちたみたいだけど」

 

 

 

 新都の冬木教会。

 

 礼拝堂の壁に焼けこげた大穴が空いている。

 晩秋の夜の冷えた風が吹き込む礼拝堂の中で、言峰神父は無言でたたずんでいた。

 手には鋭く光る黒鍵の刃。

 

「犯人が見つかったら串刺しの刑だな」

 

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kano(カノ、ケーナズ)  

 

象徴:たいまつの火

英字:K

意味:たいまつの火を象徴する情熱、熱意のルーン。明るい未来や希望、新しい展開などを意味する。また、闇を照らす火であるため知恵やひらめきといった意味合いも持っている。

 

ルーン図形:

【挿絵表示】

 




kanoのルーンはドラクエのメラ的に便利そう。
Fateの中では遠見のルーンにも使われてましたね。

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