マイニチペダル   作:御沢

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なんとか間に合った!!

尽八はぴば!!


8月8日

「あー…あちー…何で夏って暑いのさー…」

コールドスプレーを適当に全身にぶっかけて、寮の中庭にある木の木陰で横になる。

仮にも私、一応高校3年生のJKってやつなんだけどね。はしたないとか気にしてられないレベルに暑いんだよね、マジで。

「こんなんでインターハイ、持つのかなー…」

ギラギラ輝いてる太陽を見てるだけで、3日間のインターハイで体力が持つのか不安になるな。

 

 

今年のインターハイは、8月8日から10日までの3日間。偶然にも舞台は地元・箱根。

知り尽くしてる場所だから、きっと勝負はうちに有利になる気がしないでもない。でも、油断は禁物。

油断は禁物だけど、油断しちゃいそうなくらいに暑い。暑すぎる。

ケータイのカレンダーを見て、そういえばと思いだすのはとある人物のこと。

「そっか、8日って…東堂、誕生日だっけ」

 

一応チームメイトだし、1年生の時から祝ってるから、今年も祝うつもりだけどさ…何あげたらいいのか正直わかんない。

なんて言うか、東堂ってさ…上から目線でナルシストなくせに、変なとこで謙虚って言うか、なんて言うか。

簡単に言うと、プレゼント何がいいって聞いたら、気持ちだけでいいよって言っちゃうようなタイプってこと。

この2年間も、何あげようか4人で悩んだっけ。

今年も何やら悩みそうな予感。しかも、インターハイの初日なんて、私1人で色々しなきゃ、皆疲れちゃってるし。

 

 

「むー…にしても暑いー…」

胸元パタパタしてみても、どれだけコールドスプレーやっても、汗がダラダラダラ。なんかべたべたするなー…。

木の下で目を閉じて唸ってると、上から聞こえる低い声。

「何をやっているんだ、相良」

「んー…?あぁ、福富かぁー。練習、終わったのー?」

「終わったのって…お前はマネージャーだろう。今日は午後からだと言ったのは相良、お前だぞ?」

「あー、そうだったかも。ごめん、暑さで参っちゃってる」

自分の言ったことも覚えてないとか、私、本当にやばくないか?コールドスプレーももう無くなってきたし、談話室でクーラーにでもあたろっかな。

「大丈夫か?無理はするなよ」

「大丈夫大丈夫、ありがとね、福富」

 

「あぁ。時に相良、俺も相談があるんだ」

そういって私の横に座り込む福富。あ、金髪の根元の方がちょっと黒くなっちゃってる。私は茶髪だからまだましだけど、総北の巻島くんとか福富とかは目立つよねー。

「…俺の顔に何かついてるか?」

「あ、ううん、何にもついてないよー!!ただ、髪の毛を染めた方がいいかもなーって」

「そうか…インハイ前に染直すとしよう。それで、相談なんだが、今年の東堂の誕生日なんだが、どうする?」

やっぱり福富もそのことか。インハイとかぶってるし、今年は大変そうだもんね。

「うーん…とりあえず皆はインハイに集中してよ!!誕生日のことは私にまかせといて!」

「あぁ、頼んだぞ、相良」

「オッケーオッケー!じゃ、またあとでね」

体を勢いよく起こすと、汗が宙に舞う。すごい量の汗かいてるなぁ。どうりでべたべたするわけだよね。

 

 

珍しく女子の談話室に人が居るから足を止めて聞き耳。

やましいことがあるわけじゃないけどさ、なんていうのかな、女子って少し苦手なんだよね。あ、宮原ちゃんは別だけど。

「そういえばもう少しで東堂先輩の誕生日だよねー!!」

「今年はインターハイとかぶっちゃってるよね。渡しにくいなぁ…」

「相良先輩に頼むとかは?」

「うーん、いいけど…自分で渡したいし、それに…あの先輩、なんて言うかさ…近寄りがたいっていうか…」

やっぱりそう思われてるんだよね、私って。

私が女子を苦手ってのもあるけど、きっと女子が私を苦手ってのもあると思う。

同級生はそれほどじゃないにしても、後輩ちゃんとかはやっぱりそう思っちゃうみたい。

おまけにチャリ部は結構モテる。特に東堂と新開。後輩で言ったら真波もかな。

ファンクラブの人が私の事をどう思ってるのか聞いたことはないけど、なんとなくよく思われてない気がするし。

まあ、しょうがないのかもしれないけどね。

しょうがないし、やっぱり男子の談話室にでも行こっかな。

 

 

「あ、新開じゃん。1人?珍しいね」

「香咲こそ、さっきまで寿一と木下にいなかった?」

談話室には、1人でソフトクリームを食べる新開。パワーバー以外の食べ物食べてる新開って珍しいね。

「見てたんだー。あのね、東堂の誕生日の事なんだけどさ…何がいいと思う?」

「尽八の好きなもの…鯛茶づけ…?」

「それ誕プレになるかね…」

「…ならねぇな」

でもそれくらい東堂の誕プレを考えるのって大変なんだよね。

インハイ1日目…山岳リザルトはプレゼント出来ないし…うーん、難しいなぁ。

「毎回こうだよねーっ!!新開とかは考えやすいんだけどさ…」

「尽八は、良くも悪くも完璧で謙虚でいい人だからなぁ」

「そう、それなんだよ!だから逆に困っちゃうって言うか…」

2人で視線を合わせてみても、やっぱり出てくるのはため息なんだよね。

 

 

その後も新開と談笑していると、いつの間にやら練習開始の1時は目前。

「じゃ、そろそろ行こっか」

「だな。とりあえず、誕生日の事は任せるわ」

「そうして。この敏腕マネージャーに任せなされ!」

「ヒュウ!頼もしいね!」

そんな楽しい会話をしてても…やっぱり暑い!!

 

練習には当然東堂も来てるから、誕生日の話はお預け。

でも、頭の中ではそのことしか考えてないんだよね。だって本当に思いつかないんだもん。本気でやばいかも。

マネージャーの仕事をしつつ、時折ぼーっと考え事。

「うーん…プレゼントはタオル?とか、実用的なのがいいんだと思うんだよね…でも、なんて言うか、その…うーん…」

暑さでぼーっとしつつ、仕事して、考えて、ぼーっとして、ぼーっとして、ぼっとして…

 

 

―――次に目を覚ましたのは、誰かのベットの上。

ハッとして体を勢いよく起こすと、誰かの頭とぶつかったみたいで猛烈な痛み。

「イッ…!」

「イタ…ッ!!」

かなり痛いよ…!!ちょっと涙でそうなんですけど…。目をさすって前をみると、頭上に荒北。

「ごめん…!!…ってか、なんで私、ここに…?」

「ハァ!?覚えてねェの!?お前、部活中に倒れたンだヨ!!」

嘘…!?でも、確かに途中からの意識ないし…。うわー、迷惑かけちゃったなー…。

「ごめん…荒北…あのさ、折り入ってご相談が…」

一応荒北にも聞こうと思って聞いてみる。すると荒北、何やらノートを取り出す。

「これって…日本史のノート?」

「授業聞くのめんどいからァ、考えといてやった。相良、いっつも考えこむじゃナァイ?無理すんなヨ?」

そう言われて覗くと、そこには誕生日の案がたくさん。びっくりするほど書かれてて、まぁ、びっくりなこと。

「荒北…ありがとっ!」

「おうヨ!!無理すんじゃねェぞ?」

「わかったわかった!」

布団から飛び出して、ノート片手に部屋に戻る。やっぱり荒北が一番頼りになるなー…って思ったのは秘密。

 

 

そしてインハイ当日、8月8日。

ファーストリザルト取られたり、東堂と巻島くんの対決とか、3人同時1位とか、いろんな予想外の展開があったけど、なんとかカラーゼッケン2枚をゲット。

これが王者の貫録ってやつかな。

 

ホテルに戻って、まず夜ごはん。珍しく誕生日だから祝えとか言わない東堂は、きっと試合で頭がいっぱいで誕生日なんて忘れてるんだと思う。

皆が席に着いたのを確認して、福富と私が前に出る。

「まずは皆、お疲れだった。カラーゼッケン2枚…なかなかの結果だ。明日からはもっと気合を入れていくぞ」

それに対応する皆の気合のこもった声。さすが王者。王者は譲らないんだからね。

「ところで新開、荒北」

私の問いかけに、待ってましたと2人が反応。私たち3人のどうでもいい寸劇は、ハコガクチャリ部のちょっとした名物らしい。…恥ずかしいけどね!

「ん?なんだ、香咲?」

「今日さ、何か忘れてる気がするんだけどさ…わかんない?」

「相良…お前、忘れたのかヨ!?」

「うん…って、そんなはずないって!!今日は?そうっ!!」

 

『東堂尽八の誕生日っ!!』

 

私たち3人の声は見事にハモった。大成功じゃない!?

一方の東堂はキョトンとしちゃってる。…自分の誕生日でしょうが。

「東堂、ハピバ!!」

「あ…そうだったな、俺の誕生日だったな…」

「ンだヨ?忘れてたのかァ?」

「あ、あぁ、すっかり…」

「じゃあ、この鯛茶漬けは誰のためだと思うんだ、尽八よ」

「それは…」

ようやく状況が飲み込めたみたいで、みるみる笑顔になっていく東堂。そして福富が歌いだして、皆で大合唱!福富って、結構美声なんだよね、ふふふ!

 

 

その後、チャリ部一同からの誕プレ。

インハイメンバー全員おそろいのフェイスタオル。それに皆でメッセージ書いたの。

福富が黄色で、東堂が赤、荒北が青で、新開がオレンジ、泉田が緑で、真波が水色。ついでに私がピンクなんだよね。

やっぱり東堂には、毎日使うものがいいかなーって思って、皆で買いに行ったんだよね。

「東堂、誕生日おめでとう!!これからも、登れるうえにトークもきれる、さらにこの美形な森さえ眠る山神でいてね、東堂!!」

そのコメントに、東堂は自信たっぷりで答えるのだった。

 

 

「当然だ!!登れるうえにトークもきれる、さらにこの美形!天は俺に三物と才を与えた…そう、略して?そうだ!天才だ!俺の登りは森さえ眠る、スリーピングビューティーこと東堂尽八をよろしく頼むぞ!」

 

 

 


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