「え…荒北、洋南大、受かったの…!?」
「ンだヨ!?その顔はヨ!?相良ァ!?」
「だって、だってさ…あ、あの…あの荒北が、まさかこんな名門に受かるとか…思わないでしょうが!!」
「おいコラ相良、殺されてェのか!!」
―――とあるよく晴れた春の日。私の盛大な叫び声が、ハコガクの寮に響き渡った。
原因はいたって単純明快。
あのチャリ部の3年インハイメンバー+私の5人のうち、一番頭が残念で、私立の三流校でも合格が難しいと思われた、あの荒北が、あの名門、洋南大学に合格したのだ。
早めのエイプリルフールかと思い、笑い飛ばしてやろうと思った私だったが、今目の前にある合格通知や、ボードにある荒北の受験番号の写真を見せられ、笑い飛ばすどころか震えて、言葉も出なくなってしまっていた。
幸い同室の東堂は外出中だったため、私が叫んでも何の問題もないようだった。
でも、そんなことは今や問題ではない。
「いやいや…まだ信じられないって。びっくりすぎだし、それにさ…」
「…なんだかんだ、小学校の頃からだナ、相良とはヨォ」
「そうだねー…気付けば小学1年生から6年、3年、3年と…12年一緒だもんね。さらに4年かー。腐れ縁ってこわーっ」
「12年って…なげーなァ」
私と荒北の腐れ縁の問題なのだ。
私が推薦合格もらったのは、洋南大学の文学部。
小学校6年間、なぜかずっと同じクラスだった私と荒北。中学校は地元の中学校に進学し、私は…うん、荒れた。
髪の毛ピンクでめっちゃメンチ切って、スカート短くてピアスしてメイクして…思い出すだけで死にたくなるわ。本当、親との仲がうまくいかなかったからって、なんであんなに荒れたんでしょうね、私ってば。
一方こちら荒北。中学校の頃は、小学校から続けていた野球の才能が開花し、2年生にしてピッチャーを任されるような人だった。でも、大事な試合の前にヒジを故障したとかで、野球はやめてしまった。
「…そういえばさ、私って何気にあんたと仲良かったよね」
「あ?…まァ、おめぇには、その…結構助けられたナ…」
なんだかんだ流れて昔の回想なう。野球やめるって電話してきた時には、今みたいに早めのエープリルフールかと思った。でも、あまりに声がシリアスだったから、笑うことができなかった。
そのあとにどうやったら私みたいになれるかって聞かれて、戸惑ったっけ。つまり、ヤンキーになるのはどうすればいいかってことだよねって思って、頭が混乱した。
そのあとの学校でも、私は学校中で怖がられてた存在だったし、荒北もだんだん荒れてしまい、なんというか、2大勢力みたいになっていった。会話もその電話きりで、1年近く会話はなかった。
私たちが次に会話したのは、受験高校を決める頃だった。
本当は別の高校に行こうと思っていたのだが、たまたま学校帰りにあった荒北が、私にぼそっと言ったんだっけ。―――“オレ、ハコガク受けるわ”
その言葉に私の心は揺れに揺れた。荒北の受験理由は野球部がないから。私は志望校より、ハコガクに行きたいのかな…って悩んだ。
さらに悩ませたのは、受験結果。荒北は見事合格。私はハコガクも志望校も合格。どっちにしようか悩みに悩んだ末―――ハコガクを選んだ。
私の理由も結構不純で、親と離れて寮生活したいからってものだった。
荒れた荒北と、ヤンキーから足を洗って清楚キャラを狙って黒髪ストレートロングになった私が仲がいいなんて、誰も想像しなかっただろう。
でも、そのキャラはあわないとすぐにわかった私は、2学期には茶髪に染め、ゆるふわパーマをかけ、本来の私へと戻った。
つまり、今の私の髪の毛を黒色にしたら、小学校の頃の私そのまんまだったりする。
その頃に仲良くなった東堂に誘われて、チャリ部のマネージャーになり、なんだかんだ充実した日々を送ってた私の目の前に、荒北は突然現れた。
「いやー、あのリーゼント…今でも思い出すだけで笑えるわー」
「う、うるせェ!」
大爆笑する私の横に居る荒北は、今ではふつーの髪型。
チャリ部に急に入部してきて、真面目に練習に励む姿は、懐かしいものを感じたっけ。
2年生になって、インターハイに福富が出たのを知って、必死に頑張ってた姿を応援したっけな。東堂の他にも新開とか福富とも仲良くなったのはその頃。それまでは、ただのチームメイトって感じだったし、クラス違ったからそもそも関わりなかったし。
そして3年になって福富といいエースとアシストになって、インハイ出て。
結局負けちゃって、悔しくて泣き喚く私の横で、一緒になって泣いてたのは記憶に新しい。
そのあとも色々あって、受験勉強して、追い出し親睦走行会して…
「結局、最低あと4年は一緒なのかー!」
「あ!?そんなにイヤかヨ!?」
「そんなことは行ってないでしょーが。なんだかんだ、あんたがいて、私の学生時代が完成してるようなもんだし。これからもよろしく頼むよ!」
「オレがアシストしてやんヨ!!」
「おっ!たっのもしーい!」
一緒に笑い合えるとか、中学校の頃は考えてなかったな。それがこんなに嬉しいなんて、もっと想像してなかった。
荒北は福富とものすごくいいコンビだったし、東堂とも新開とも仲がよくって、私とも仲良しでいてくれて。本当、荒北、あんたっていい奴だね。
結局笑い飛ばして終わったこの回想。思い出にしんみりした。
「じゃ、そろそろ部屋に帰るね。宮原ちゃんと一緒にいれるのもあとちょっとだしさ」
「じゃ、オレは不思議チャントコでも行ってくるかァ」
「真波のとこ?いいじゃん、先輩!」
「あ!?うるせぇヨ!!」
「あはは、ごめんごめん。それじゃ、また」
そう言って立ち上がってドアノブに手をかけた時、後ろから照れたような聞き慣れた声。
「相良、ありがとヨ」
「…うん、こちらこそ。ありがとね、荒北」
ドアを閉めて、壁に倒れこむ。不意に伝う一筋の涙。
「私…ハコガク来て良かったなー…っ」
楽しくて、賑やかな3年間が、もうすぐおわる。終わってしまう。
でも、それで終わりじゃない。
荒北も一緒に、私は大学に行く。楽しいキャンパスライフが待ってるはず。
期待に胸を躍らせといたほうが楽しいはず。
ポケットの中の携帯が震える。送り先は、いとこの純太。言うまでもない、王者・総北高校チャリ部の新たな主将である手嶋純太だ。
そしてもう1通。なんだかんだで仲良くなった総北高校の3年生3人のうちの1人、田所くんだ。
なんとびっくり、2人とも内容は一緒。
「え…!?嘘ーっ!?!?!?」
―――何やら新たなエースとアシストが大学で見られそうな予感。