それは、私たちが大学2年生になるとある春のこと。
「―――…あー、うん、それでオッケー!………うん…あ、それは―――…よしっ、じゃあそれで行こう!それじゃあまたっ!」
そう言ってスマホの画面に出ている赤い電話マークを押して通話を終了。
「ふっふっふ…これで完璧っ!」
真っ暗なスマホの画面に映るのは、私のニヤニヤな顔。はしたない?ううん、今日だけはいいのさ!なぜなら今日は…
「待ってろよ荒北…最高の誕生日にしてやるんだからね!」
―――荒北靖友の誕生日だからさっ!!
洋南大学に入ってもう1年がたつらしい。いやー、時がたつのは早い!
入学式で金城と待宮と再会したのはついこの前な気がするんだけど、もう1年も前かぁ…。本当に早いね、うん。
そして今日は4月2日。
世間的にはその学年の一番早い誕生日の人の誕生日なその日は、なんと我が幼馴染にして元箱根学園のゼッケン2番のエースアシスト、現洋南大学自転車競技部のオールラウンダーの荒北靖友の誕生日でもあるのだ!
元ヤンで目つきが悪くて、おまけに言葉づかいも悪くて、初見じゃかなり怖がられちゃうけど、実際はものすごく面倒見のいい荒北には、私も含めて本当にいろんな人がお世話になってる。
と、言うことで!
私は考えたのさ!荒北のバースデーパーティーをするってことをね!
メンツはハコガクのあのメンバーはもちろん、今の洋南の金城と待宮、そして元総北の巻島くんと田所くんの大所帯。新生活開始で皆忙しいのに駆けつけるってのは、やっぱり荒北が好かれてる!ってことだよね。やっぱりすごいね、うん。
場所はハコガクの多目的ルーム。ハコガクってさ、チャリ部のOBが協力的だから、教室を使わせてくれたりするんだよね。今は春休みだから快く貸してくれてありがたかったんだよねー。
「おー、相良!やっと来よったか!」
「ごめん待宮!てか金城は…?」
今日はハコガクに皆で顔を見せに行くって事になってる。あの3人も来るって荒北に言えば、もちろん来ないわけがない。
私は自転車じゃいけないから電車で行くんだけど、それと一緒に金城と待宮も一緒に行くことになってる。ちなみに巻島くんは、田所くんの車で来るとか。いやー、免許持ってるっていいね!
一方こちらの待宮くん。気まずそうな顔で私を見ておりますが、いったい何があったんでしょうかね…?
「…金城は?」
「あー…さっきLINEがはいっとったんじゃ。駅に行く途中に荒北と会ったらしくってな、一緒にチャリで行くってゆっとんじゃ」
「えー!?それいいの!?てかよく荒北が許したね!?」
「じゃろ!?ハコガクに行くっちゅーとんのに金城の奴、“俺はあきらめない男だ!よって俺は荒北と一緒に自転車で行く!”とか意味のよー分からんもんをよこして来よったんじゃ」
「意味わかんなさすぎだよっ!でもまあいいやっ!」
「いいんかいな!」
まあ、金城だししょうがないかなー…。ていうかね、電車の時間がやばいからもうどうでもいいんだよね!
「とにかく、もう行こうっ!」
「あ、あぁ!」
2人で急いでホームに向かう。
ハコガクは箱根湯本駅が最寄り駅。最寄駅といっても、まあ30分くらい歩くんだけどね。ゆるーい坂道をひたすら。
突然開けたところにあるのが、綺麗な外観の私立箱根学園。正門を入ってすぐにながーい階段があって、その上に校舎があるから眺めがいいんだよね。
「荒北と金城は…あ、もう来てるみたい」
「ほー、速いのぉ」
「だねぇ。あ、じゃあ待宮は先に校舎に行っといて。荒北たちは部室に顔出してると思うから」
「事務室の人に聞けばええんじゃな?分かった!」
大きく手を振りながら階段を駆け上がって行く待宮を見送って、他のメンツが来ているかを確認。
駐車場には何度か見た事のある大きなワゴン車。側面には田所パン。
「田所くん…っていうか、総北も来てる、っと…。あとは黒田と泉田くんと葦木場くんは…まあ部室には顔出さないって言ってたから、もう部屋に来てるでしょ!あとは…」
そんな事を考えてると、かなりスピードの出た赤いスポーツカーが突入してきた。…え、突入!?
「うええええええ!?!?!?な、何っ!?!?!?」
急に突入してきたスポーツカーにのけぞると、それは急停車。そしてその中から出てきたのは…
「む、遅くなってすまんね」
「と、東堂!?こ、この車は!?」
「やっほー、香咲ちゃん!」
ヒラヒラ手を振っているのもまた東堂。だけどこの顔は…
「あ、お姉さん!?え、今運転してたのって…えぇ!?」
「あぁ、もちろん私よ、わ・た・し!」
きらきらして見えるお姉さんは、なんか、その…かっこいい!
「全く、八重は速すぎなんだ!」
「もう、尽八ったら!人様の前で姉を呼び捨てにして!それに、かっこいいって言いなさい!ていうか香咲ちゃん待たせない!」
お姉さんにせかされながら東堂は車の中からリドレーを出す。
「積んでたの…?」
「当たり前だな。母校に顔を出すのに自転車がないとは考えられんだろう」
「まあ、そうだね、うん」
お姉さんはいつの間にやら出ていってたみたいで、急ブレーキの後だけが地面に残ってて、なんだかちょっといたたまれなかった。…地面、大丈夫かな。
「それじゃ東堂、3時に多目的ルームに連れてきてね」
「あぁ、分かった。それじゃあまた」
私もあとで顔は出すけど、とりあえず総北組と黒田たちと待宮に会場準備は順調か聞きに行かなきゃ。それが順調そうだったら、顔を出しに行こっかな。
正面玄関から校舎内に入ると、なんだか懐かしい感じ。まあ、3年間もここで過ごしたんだもんね。当たり前か。
中棟4階にある多目的ルームに顔をのぞかせると、メンバーは勢揃い。会場もいい感じ!
「おー、やってるねー!」
「あ、相良さん!お久しぶりっす」
「黒田、お久しぶりってさー、数日後にはまた後輩なのに」
そう、黒田は今年から洋南大学に入学してくる。ちなみに総北の元キャプテンでいとこの純太もなんだよね。
「まあ、そうっすけど…とりあえず、お久しぶりです!」
「うん、久しぶり!もう会場は良いみたいだし、ちょっと早いけど皆呼んでくるね」
「オッケーです!」
運動部らしい大きな返事をする後輩3人を総北の2人と待宮がちょっとびっくりしたような顔で見る。なんかおかしくって笑っちゃう。
「相良さん?」
「あはは、何でもないの…!じゃあ、行ってくる!」
部室前で走れば、見覚えのある影。って言うか金城、ちゃっかり馴染んでるし。
「おーい、皆ー!」
「あっ、香咲!久々だなぁ!」
「久しぶり、新開、福富!」
2人に挨拶をしていると、後ろに人の気配。はっとして振り返ると…
「どーんっ!」
「わーっ!?…って、真波!久しぶり!」
「お久しぶりです、相良さん。先輩、全然来ないから寂しかったですよー」
「わー、真波が言うと嘘っぽーい。でもありがとね」
「わー、相良さんひどーい。本当ですよー?」
2年前と変わらないような彼も、もう3年生。今年のハコガクの立派な主将なんだよね。
そしてその後ろには綺麗な黒髪。
「あ、悠人くん?」
「ん?あ、香咲ちゃん。いないのかなーって探してたよ」
兄と同じように飄々としている悠人くん。初めて会ったときはまだ中学生だったのに…いやー、やっぱり時の流れは早い!
しばらく自転車部で話した後、皆をつれだって多目的ルームに向かう。
「いやー、皆変わんねぇなー!」
「そーかァ?あの不思議チャンが主将だぜェ?」
「真波は美しく、そして強いからな!まあ、俺にはまだまだ及ばんがな!」
「ウッゼ」
「ウザくはないな!」
「そのやり取り久々に聞いたなー!」
時の流れは早いけど、変わってないようで変わっていて、でもやっぱり変わってない皆を見てるのは楽しいな。なんて言うか、幸せな気持ちになるっていうか。
「じゃあ先輩、俺先にいきますねー」
「じゃあ俺もー」
後輩不思議系クライマーの2人は、軽く走りながら多目的ルームに向かう。
「待てよ真波、悠人!俺も行く!」
「ム、俺もだ!」
「待て隼人、フク!俺も行く!」
「じゃあ俺も先に行くとしよう」
皆でクラッカーを鳴らすため、残りのメンバーも走って行く。…金城、やっぱり違和感ないわ…。
荒北は呆然としてる。
「ンだよ、アイツら…」
「何だろうね…まあ、早く行こう!」
「んなこたァいわねなくても分かってっからァ!おい、行くぞ、相良ァ!」
「あっ、ち、ちょっと待って…!」
全速力で、でも私がついて行けるスピードで走る荒北。…やっぱり優しい!しかも無意識で出来ちゃうとか凄すぎるね!
そして―――
「「「「「ハッピーバースデイ!靖友っ!!!!!」」」」」
皆の声とクラッカーの音を聞いた荒北の、驚いたような、幸せそうな笑顔を見れば、やっぱりやってよかったなって思うんだよね!
「荒北、誕生日おめでと!」
「あ…おう、ありがとネ。…最高の誕生日だヨ」
「そっか!そりゃよかった!」
誕生日おめでとう、荒北靖友!これからもその面倒見のいい、実は優しい君でずっといて下さい!
東堂のお姉さんは八重ちゃん。
名前で呼んでるってサイン会情報より。
荒北さん本当にハピバ!
急いで書いたけど、なんとか間に合ってよかった…!
くわしい話は、時間があるときにでもかけたら…。