「ってことで…大変申し訳ないです…!」
「まぁ…そういうことなら仕方ねぇって」
とある冬のハコガクチャリ部。―――私服を着た3年4人に私は頭を下げていた。
今日はクリスマス。高校生最後のクリスマスってことで、2年生がクリスマスパーティーを計画してくれましたー!ぱふぱふどんどん!
…が。しかし。今日に限って兄さんから連絡が。いつも連絡してこないのに、今日に限ってって意味わかんないよね!
でもまあ、兄さんはなんだかんだで毎年プレゼントはくれるし、断るのは失礼だし…うーん、しょうがない!
ということで、私はパーティーに遅れていくことに。うーっ、めちゃくちゃ悔しい!
「本当にごめんねー…」
「いや、いいのだ。後で来るんだろ?」
「うんっ!絶対に行く!それじゃ、また後で!」
兄さんとの約束時間があとちょっとに迫ってるから、小走りでバス停まで向かって、そこからバスでショッピングモールへGO!
兄さんはけっこー目立つ。福富の金髪とか東堂のカチューシャも目立つけど、そういうんじゃなくて、けっこー目立つ。
明るい褐色の長めの髪に切れ長の目…っていうか、客観的に見てイケメンってやつ。まあ、大学じゃモデルやってるとか聞くしそういうもんなんだろう。
それで目立つのはしょうがないと思う。姉さんも美人だし、母さんや父さんも美形政治家夫婦なんて雑誌で取り上げられてるし、遺伝なんだと思う。私はしらないけどね、うん。
おかげでうちはちょっとした有名人。皆冷たい性格してて、孤高の存在らしいけどさ…私は苦手なんだよね。
それで、孤高の存在のお兄様。
「なーんで、口説いてんのよこの野郎。真昼間から」
相手の女性は目がハート。んで兄さんは作り物の笑顔。あー、見てて嫌になっちゃうよ。
てか、ここで声かけるとか…気が乗らないわー。
あれでしょ、どうせ“えー、これが相手ー?”とか言われるんでしょどうせ!
だったらしばらく待ってやりますとも!どうせ口説く気なんてないんだろうしね!
…うん、待つっていったけどね。言ったけどね?
「…なんで私が1時間も待ってるのさ…1人でクレープとタピオカとか切ないって…」
テイクアウトでクレープとタピオカを買って、近くのベンチに腰掛けて待つこと1時間。兄さんは別の女性に話しかけられてる。
呼びつけたのはあっちなのにさ!私はむしろ被害者なのにさ!
「あーもう!話しかけてやるっての!私も早く行きたいもんね!」
ずんずんずん、って感じで兄さんのもとへと向かう。
すると1人の女の人が気づいたらしい。「え、何?」とか言ってる。そりゃこっちの台詞ですーっ!
「兄さん、何やってるの」
「ん?あぁ、香咲か。やっと話しかける気になった?クレープとタピオカ、うまそうだったな」
「は…き、気づいてたの!?」
そんなこったろうと思ったよ!性格悪いもんね、兄さん!
「はぁ?気づかねぇわけねぇっての。馬鹿か」
そうでしょうね!そうでしょうとも!
なんとか兄さんをゲット…って言い方すると語弊があるけど、まあなんとか捕まえた。手には何か持ってるから、きっとこれがプレゼント。これを貰ったらさっさと…
「あ、これはお前へのプレゼントじゃねーよ?これはさっきの女どもが押し付けて行ったやつ」
「お、押し付け…って…知り合いなの、あの人たち?」
「あー…高校の同級生?なんでか知らねーけど俺を見つけて、告ってきたんだよ」
「そうなんだ…」
偶然見つけて買って渡すって、一体どんな行動力ですか…。
あれだね、女性ってすごい人はすごいんだよね。なんか、その…うん、はい。
「それで、兄さん。私を呼びつけた理由を教えて」
「わかってるくせに。とぼけるのか」
その言葉はちょっとスルー。先を歩く兄さんを追いかけて雑貨屋に入る。
そこで兄さんは適当にアクセサリーを買って、ラッピングも一応してもらってから私に手渡す。
「ほい、今年のな」
「…ん。ありがとう」
ピンク色のラッピングなんて、兄さんらしくない…けど、毎年ちょっと楽しみだったりする。
「開けてもいい?」
「は?見てねーの?」
「うん。一応、楽しみにしとこうと思って」
「ふーん。それなりに可愛いとこあんじゃん、香咲」
急に褒められてもどう対応したらいいのやら。適当に返事をあやむやにして、袋を開けると…
「わ…イヤリングとネックレス…?」
可愛くて上品なセットのイヤリングとネックレス。てか、これって…店頭にディスプレイされてるやつだよね?つまり…
「い、一万…!?ちょ、私まだ高校生…っ!」
「春になれば大学生だし、まあいいんじゃね?」
「そういうものかな…」
「そーいうもん」
「そーいうもんか…ありがと」
付けてみると、ちょっと私にはもったいない気がしたけど…でもまあ、可愛いし気に入ったし、ありがたく付けさせてもらおっかな。
そんな時。後ろから声をかけられる。
「はい…ッ!?」
そこにいたのは黒服にスキンヘッドにサングラスの怪しげな男たち。あれだね、逃げ切ったらお金が貰える番組の鬼になれそうな人だね!
って、そういうことじゃなくって!何この人!
「何、あんたたち」
兄さんが食い気味に突っかかる。さすが元ヤン…様になってます。まあ、私も人のこと言えないけどね!
「この少女を見ていないか?」
そう言われて差し出された写真には…
「わーっ!かわいーっ!」
ふわふわの髪のめちゃくちゃ可愛い女の子。兄さんが小さな声で「小さい時の香咲そっくり…」って言ってるけど、私はこんなに可愛くないよ!
「この子、どうかしたんですか?」
「迷子でして…」
なるほど…迷子か…。残念ながら、私たちは見てないけど…
「あ、俺こいつ見た」
って、えええええええええ!?!?
「に、兄さん見たの!?」
「ん?あぁ。さっき1階で。香咲にそっくりな奴って思ったからな」
「そ、そうなんだ」
だから私はこんなに可愛くないんだけどね!まあ、この際は置いておこう。
「ご協力感謝します!行くぞ!」
嵐のようにやってきた黒服は、嵐のように去って行った。
「お前、これから何か約束あるの?」
今一度待ち合わせ場所に戻って、兄さんに聞かれる。
「えっと、部活の友達と待ち合わせしてる」
「部活…あぁ、剣道部」
「何でそうなるの!自転車競技部だって!何回言えば覚えてくれるの!」
もはや恒例の兄さんの部活間違え。どうやったら私が剣道部になるのさ!全く!
「あー、自転車競技部ね、はいはい。え、待ち合わせってここで?」
「うん。フードコートで待ち合わせしてる」
ふーん、と兄さんは考え込んで、吹き抜けから下を眺める。…黙っとけばイケメンなのにね。
あ、そういえば。
「兄さんは?」
「は?」
「だから、兄さんは彼女さんと待ち合わせとかないの?」
兄さんはあきれた顔で私を見てくる。私、何か言った?
「はぁ?俺はクリスマスは1人で過ごすの。バカな女どもと過ごすわけねーだろ。雰囲気で調子に乗るバカもいるだろうし」
兄さん…いい方もうちょっと考えればいいのに…。
まあでも、それは兄さんらしいかも。
「そっか…」
時計を見たら、そろそろいい時間。
「それじゃ、私はもう行くね。ありがと、プレゼント」
「ふーん。じゃあ送ってってやるよ」
ん…?今、兄さんの口から聞こえた言葉は幻聴かな…?
兄さんがあんなに優しいわけないもんね…?
「幻聴とか失礼な事思ってんだろ、てめぇ」
「んな!?こ、心を読んだ!?」
「失礼な奴だなてめぇ」
「げ、幻聴じゃないの…?え、送ってくって…?」
「だーかーら、待ち合わせ場所まで送ってってやるっていってんだよ。あぶねーし」
兄さんにそんな妹を思う優しい心があったなんて…ちょっと意外。
「場所ってここのフードコートなんだけど、それでも?」
「それでもいいよ。これでも一応“兄さん”だからな?」
ニヤリ、とした兄さん。何か変な事でも考えてるのやら…。まあでも、申し出くらい、ありがたく頂いとこうかな。
「それじゃ…お願いします」
「あ、おーい、香咲ー!」
「相良さん!」
夜のショッピングモールのフードコートに男子高校生が8人…いろんな意味で目立つね、うん。
「ん、あれが仲間?」
「そ。あれが仲間」
「…男子ばっかじゃね?」
「そりゃ…男子自転車競技部だし」
兄さんの顔は何でかわかんないけどひきつってる。…なんで?
こっちに駆けてきた新開と泉田も、兄さんを見て不思議な顔。
「香咲、この人は…?」
「えっとね、私の兄さん。相良加純っていうの。文化祭でダンスするの考えてくれたのは兄さんだよ」
「あの素晴らしいダンスを!そしてお兄様、美しい!」
「お兄様じゃねーよ」
嫌そうな顔をしつつ、まんざらでもない兄さん。本当に分かりやすい。嬉しいんだろうなー、褒めてもらえて。
何事かと走ってくるメンバーの中から聞こえる奇声。
「ぐへ!?」
声の主は―――荒北。あー、そっか…荒北、兄さんの事苦手だっけ。
「か、加純さん…!?」
「ん?え、荒北さんとこの靖友?」
「そうだよ。同じ部活なの」
そして、兄さんも荒北の事がなぜか苦手。お互いにかかわろうとしないんだよねぇ…。
「それじゃーな」
それからしばらくして、兄さんは手を振りながらその場を去っていく。
「あっ、プレゼント!ありがとう!」
「おーう」
軽い返事をしながら、ひらひらと手を振る後ろ姿を見送る。
兄さんの後ろ姿って…荒北のシルエットに、東堂の髪の長さに、新開のメッシュじゃない方の髪色…バカ3を足して2で割った感じだなー、なんてどうでもいい事を考えてみる。
兄さん…今日はありがとう。なんて、素直には言えないんだけどね。
テーブルの上にはたくさんの食べ物。これから始まる楽しいクリスマスパーティー!
「そうだ、相良!聞いてくれ!集まる前に大変な事があったんだ!」
「え、何々?」
東堂に投げかけられた話題はものすごく楽しそう!
「ものすごくかわいい女の子の迷子が居てな、一騒動あったんだ」
「え、モール内で黒服が探してた女の子?」
「なんだ、香咲知ってたのか?」
「いや、探してるって声かけられただけだけど…皆、関係してたの?」
「いやー…一瞬連れ去ってた?」
「はっ!?ちょっと、何してるのさ!?」
―――楽しい楽しいクリスマスは、まだ始まったばかり♪
アンソロ読みました!
このお話が一番好きです。
放課後ペダルの1でも、この作者さんのお話が一番好きでした。
ハコガク万歳。